世田谷物語2-3
無駄に長いでし(ーー;)
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「よー。何してんだ?」

ノブに手をかけた瞬間。横からかかる声にドキっ。

「若菜さん!」

部屋の入り口だと思って居たつい2つ先の扉は、実は非常用階段で。

振り返れば、キョトンとそこから顔を出す見知った顔。

「あ、いえ。」

将が開けようとしている部屋の表示を見て、更に不思議な顔をしながら将を見る。

「・・・おめーの親父ならあっちだけど?」

「あっち?」

「外科の302。」

「あ、どうも、」

気まずそうにノブからぱっと手を放す将を見ながらぷっと吹き出し、「じゃあな、」とそのまま将の今来た道の方へ松葉杖をつきながら消えて行った。


あいつあそこで何やってたんだ?

・・・・・ま、いっか。

と外来から「須釜さんがお見えです。」の連絡を受けて急いで外科病棟をぬけだすと、遠回りしながら英士さんに電話をしに行く若菜さんだった。(チキン・ハート)




階段を登り、渡り廊下を一つ渡って行くと外科のナースステーションが見える。

受付で名前を書こうと…すると自分のすぐ上にあったのは竜也の名前では無く。

黒川の文字。

翼さん?来てくれたんだ。単純にそう思いながら、後ろに並んだ人の気配に押されて名前を書くと、待ち合い室を通り過ぎて行った。

304、303…と過ぎて行たその時。

「あ、おい。」

声がかかる。聞き馴れた声。

振り帰った視線の先には、お茶を手にどこからか待ち合い室へと帰って来た翼が立って居た。

「今日は。」

「よー、今往診中だから行かねー方がいいぜ。」

「あ、そうですか。」

「今、追い出されちまってさー。お前も飲む?」

とおそらくシゲの為に買って来て居た2つめのカンジュースを差し出される。

「どうも、」と少し照れてながらそれを受け取ると、薦められるままに隣へと座った。

この人は、将が小さな頃から両親の知り合いとして良く家に遊びに来て居た。一緒に連れて来られていた子供のナオキより、実はこの人に遊んでもらった記憶の方が鮮明に残ってる程…随分可愛がってもらったと思う。

けれどその反面、夜母と父が争う時には必ずでて来る名前であった事も、良く覚えて居た。


今度の事に関しても、周囲では真しやかに囁かれるこの人の噂…。もし…それが本当なら。

今まで、思っても口にした事は無かったけど。これ以上将には言わずに居られなかった。

ずっと抑えて来た葛藤。

横を見れば、どこか遠くを見ながら何かを考えている目の翼。

一度息を飲むと、将は思いきってそれを言葉に出した。

「あのー。」

「何?」

「翼さん…じゃないですよね?」

真面目な顔でぐっと向き合った将にキョトンとした翼が内心驚きながらも…。

プッと吹き出す。

「何で?何言ってんのお前?」

「あ、いえっ、その…」

途端かっとなって頬を赤らめた将を見て、ニヤっと笑うと更に続ける。

「さー?。どーだろね。だったらどーすんの?」

苦笑するようなふんっとした態度で言い捨てる様に言うと、将を試すかの様に横を向く。

その態度に俯きながら「すいません。」

「ま、いっけどね。疑われるような前科も有るわけだし。」

「いえ、それは別にもう…」

思った通り、恥ずかしさから一度は怯んだ将だったが、それで折れるような彼じゃ無い。

惚けてるようで結構厄介な相手だ。

それを横目で確認してから翼が先を続けた。

「けどさ、それは親父とそいつの問題なんだから。お前に関係なくねぇ?…」

「関係ない?…じゃあそのせいでバラバラにされた家族はどうなるんですか!?」

良く有るもっともな意見に。だが翼は低く笑っただけで動じなかった。

「当人同士にしか判らない事情ってのもあんじゃん。そーいう痛みは無視されちゃう訳?」

「そーじゃ有りませんけど…。」人を裏切った事には変わらないし。何よりそんなのは勝手すぎる…。

言いたいのをぐっと堪えて…。

第一言える言葉が見当たらない。こー言うタイプの人に僕ら(不倫された方)の気持ちを解れと言うのは無理なんだろうか…。

否、分かっててやっているから。この人にはかける言葉等見つからないのだ。

いよいよ考えこんでしまった将の姿を見ながら、一瞬影を落とした翼の顔だったが…彼が顔を上げない内に、再び元に戻った。

「ま、俺じゃねーから安心しろよ。…それに、んな事してる奴には必ずバチが当たるもんだよ。」

と何かを思い出す様に上目遣いに天上を見ながら言うと。

それから将を見てニッと笑った。つられて将も苦笑する。

「すいません失礼な事。」

でも俺は、翼さんの事好きだから。

「ふ〜ん、生意気な奴。」と笑いながら頭を上からぐりぐり撫でられてはっとする。


「翼さん?」
「なに?」
「もう、いいんで。」
「は?」
「頭、いいです。背、縮むんで。」
「あっはっは。んなわけないだろ。バーカ」

いえ、縮むんで。

こっちもまた笑顔の攻防だった。






「よーネギーー。見舞いに来てやったぜーー。」

「(げっ)みか…渋沢!!」



ん?聞こえた声に思わず振り向くと、シゲの隣の部屋に入って行く亮と竹巳の姿。

「あ、兄貴だ。」

「?ホントだ。」と翼もちらっと見るが、特に興味も無いらしく再び雑誌に目を戻していた。…が



「根岸先輩、これお見舞いです。」

と差し出す。桃の入ったのバスケ。

「おー竹巳サンキューなー!」と喜ぶもつかの間、

「んじゃーこれと交換なー?」

「こ、交換ってミ…渋沢?。」

「はいコレもこーかんこ。」

「いやそれはちょっと…」

「こーかんこ。はい、こーかん。」

「ヤだから、いや、ヤだから。あ、おいっ!それ、それは違うだろ!」

亮の持って来た紙袋に次々消えて行く根岸の見舞い品。

「あーーーお前何しにきたんだっ!!!!いやーーー。やめて、やめてくれぇーー」



「おい、お前の兄貴、病人からカツ上げしてっぞ?」

いやでも聞こえて来る亮の声と根岸の悲鳴にとうとう翼がこらえ切れずに笑いだすと、封が切れた様に待ち合い室から次々クスクスと、一気にもれる笑い声。

「・・・・。」ああ。と俯く将。

とその時。

「ちょっと、亮君。」

「ああ?」


その声は。「お母さん!」

「あ、将。」

何時来ていたのか…。303号室のドアの前に首だけ中を覗きながら立って居た竜也がこちらを振り向居た。

翼を見つけると微妙な顔で会釈をし、再び亮の方へ戻る。

「そんな大声出して…」

「ああ、うっさい。お前に関係ねーだろーがよっ!」

言いながら、根岸と巨砲の入った包みをひっぱりあう亮。

「亮君、もういい加減に…」

「何や、ポチやないか!翼も、来てくれとったん。」

「!」
突然後ろから響いた声に竜也が止まる。


「お父さん!」「よお。」

「久しぶりやな〜」

竜也の後ろを通り過ぎると、将と翼の待つ場所へと歩いて行き、将を挟んで二人の隣に座るシゲ。楽しそうに話し出した3人を見る竜也の瞳が一瞬揺れて。そしてまた元に戻ったのに気付いたのは…。

「お義母さん。」

「ああ竹巳君。」何?と視線を戻す竜也に、苦笑顔で近付くと

「これ、おつり。」

と実は竜也に貰っていた桃の代金の余りを差し出した。

「いいよ、何か食べて来れば?」

「いいの?じゃ、ありがと。」

と言う。それから二人で暫く、

「じゃーな、又来てやっからな〜〜」

「もーいいから、プラダは置いてってよ!」

一杯になった亮の紙袋を引っ張りあう2人を見て。

「ぁぁ…情けない…。」

と下を向く竜也の横で、竹巳が笑って居た。

「そーいえば根岸君、どーして入院?」

「忘れ物して廊下走ってる時に、1年のかけてたワックスに滑って…」

腰を強打。

「へー・・大変だったな。」

すました顔で笑いたいのを堪える竜也。

「おい竹巳、行くぞっ」

ようやくしがみつく根岸を振り切ったのか、そう言った亮の方へ目を向けると、

「あっ!!」

そろう竹巳と竜也の声。

亮の後ろのベットの上には見るからにアッパーをくらいましたと言う格好で伸びてる根岸の姿。

びょ、病人を…

なんて人だ。

なんて奴なんだ。

「あんだよ。」

同じ表情で自分をじーーっと見る2人の視線。

「家計を助けてやってる俺に何か文句有るんですか〜〜?」

呆れた竜也が口を開きかけた時、後ろを通った看護婦の気配にとっさに竜也が戸を閉めた。

「・・・・」

「帰ろうか…」と、竜也。

はい、どーぞと。持って帰るのが面倒臭いのか、亮に手渡された紙袋をブすっとしながら受け取ると、

亮と竹巳から少し離れた所へつかつかと歩いて行き、話し込むシゲの背中に声をかけた。

「じゃあ、」

「ん?おおー。もー帰るん?ほな、」

と言って席を立とうとしたシゲを制して、いいから…と。

「そか?」と言いながらも立上がると翼や将には軽く背を向ける様に竜也を囲み、

「今日、ありがとな。来てくれるとは思わんかったわ。」

「こっちこそ…付き合わせて・・・」

と小声で話す。

まるでシゲが竜也を慰めている様に見えたのは。…違ったのだろうか…。

ポンポンと背中を叩かれて送りだされて来た竜也が戻ってくる。

その様子を黙って見て居る亮を、…又その横で竹巳が黙って見て居た。









「ねーコレ何?…ねえって。」
「おいっ。」

「あ、ごめん。亮君。」帰ってたのか…。

「だからコレ何、」

「ああ、それレモネード。」

「レモネ〜ド!?ふ〜ん。」

夕食の支度をする竜也の後ろで、汗だくになって帰って来た制服の亮が、冷蔵庫から取り出した麦茶のポットに入った黄色い液体に眉を顰めつつ。「これでもいーか。」とコップに注いで居た。

水で薄めて飲んだ途端、

流しに居た竜也を横へ突き飛ばし、それを吐き出すハメに。

すっぱーーーーーー。

「っ、んだよコレ!!」

「ああ!…それシロップ入って無いから、溶かして飲んで。」

怒る亮をぼんやりとした顔で眺めてから、思い出した様にそう言うと再びまな板へと戻る。

「んなもん、ただのレモン汁じゃねーかよ。」

全く・・・・。

最近。竜也の様子がおかしいのは、多分皆が気付いている事だった。

何かを考えてる様にぼっとしたり。溜め息も多くなったし。あまり笑わなくなった。

一言で言えば、元気が無い。

その時、その様をちらりと見ながら…亮はふと思い付いた言葉を何と無しにかけただけだった。

「そんなに嫌なら堕ろせば?」

---------!

弾かれた様に振り向いた竜也に、亮もぎょっとする…。


・・・マジで?


明らかに怒りを浮かべた顔は、けれど泣きそうにも見えて。

暫くひどく攻めるような視線で亮を見つめていたが、やがて何も言わず再び背を向けた。

しかし包丁の音は聞こえず、その肩が震えている様に見えて、

後ろからそっと近付くと、竜也の隣のステンレスの台に寄り掛かりその肩をこちらに向かせる。

ゆっくりと伏せられていた目蓋があがると亮を見た。

4ヶ月前のあの日の光景が甦る。


今度はおびえず真直ぐに亮を見返した竜也が口を開いた。

「誰の子か知りたい?」

「…まーね。」

自分は一体どんな顔をしていたのか、顔には出していないつもりだったけど…。

「……。」長い間の後。

「お父さんに…。」

と言った竜也を、何故か言葉と同時に抱き寄せて居た。

亮の背を抱き返す手が無いのもあの時と同じだった。

けれど、逆らわないのもまた同じ。


あそこへ戻れたら…。何もかも白紙に戻せるだろうか?

だが、何故かそんな気はみじんも起きなかった、何故か。


窓から差し込んで来る強烈なオレンジ色の夕日が、まるで時を止めてる様に綺麗で、

だから彼が何時からそこに居たのか2人供気付いていなかった。


「タダイマ。」


聞き馴れたその声に凍り付いたのは2人一緒。

ゆっくり振り向けば、すでに冷えた瞳の克朗がキッチンの戸口に立って居た。






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とうとう妊◯までさせてしまいました。もはや犯罪者の気分です;;;。


































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