世田谷物語2-2
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「かーさん、聞いて聞いてっ。」
「ああ、お早う。どーしたの誠二君?」
朝食前のジョギングから帰った誠二が、息をはずまして台所に駆け込んで来る。
「2丁目の寺の坊さんが、どっかの奥さんに刺されたらしいって。」
「お坊さんが!?」
包丁を止めて誠二へと振り帰る竜也。
「そうそう、帰って来たら救急車とかパトカーとか来てて…?母さん?、」
「?どーかしたんすか?」「いや…」
苦笑いでごまかしながら。…ああ、と内心溜め息の竜也。
さっそくやりやがったな…シゲのやつ…。
シゲとノリックの藤村夫妻が越して来て早4ヶ月。
「…うん、実は知り合いなんだ。その坊さん」
「マジで!?へ〜〜。」
「中学の同級生で…。」
そこまで言った時に後ろから「お早う」と声がかかる。
「おはようございます。」
「あ、父ーさん!おはよー。」とハグしに行く誠二を後ろから「誠二君、コレお願い。」と呼び止める。
「・・お〜う。」と通り過ぎて行ってしまう父を目で追いながら、竜也をゆっくり振り向くと、渋々こっちに逆戻り。
「悪いな。」「いいって、」
笑顔の攻防。
そんな2人を新聞の隙間から無言で垣間見る克朗。
『全く…。』
昔は可愛かった誠二のファザコンぶりもそろそろ問題だと思う…。
「で何?、また慰謝料でもめたのか?」朝から、居間の隅で電話にかじり付く竜也の背中に家族の視線が集まる。
「さあ、あの奥さんは通り魔の仕業って言い張ってるらしいけど?」
電話の相手はお隣、鳴海さん家の兵助さんらしい。
「あー、父さんや母さんも含めて、この近所は同期が多くてな。そこのお坊さんも実は母さんの同級生なんだ。」不審顔の子供達に言い聞かせる様に、克朗がフォーローを入れる。
その横でイライラと竜也の後ろ姿を睨む祖父桐原。
「全く、あの男には関わるなと何度言ったら判るんだっ!竜也の奴…。」
「まあ…お義父さん。」
彼は…別れても父親なんですから、と無言で告げる。
とんっと音を立てておかれた湯のみに、末っ子の将が視線を落としたのに気付いて桐原も渋々黙った。
その時。
「んな呑気な事言ってっと、今に浮気されんじゃねぇ〜?」
「亮…」
「どー見たって、未練たらたらじゃん。じゃなきゃどの女に刺されたなんて聞くかよ?」
ウインナーを齧りながらそう言った亮に、
「やめないか亮っ!」
珍しく声を荒げた父にぎょっとして、フンっと一声残してから再び食事に戻った。
「で、結局生むの?堕ろすの?・・・」「さあな。どっちにしろ慰謝料じゃねー?。」
「あいつもよくやるよなあ。あそこの奥、顔はいいけど性ー格なあ・・所で、」
あんたは平気なの?
「え?」
「こ・ど・も」
急にそんな事を言われて、一瞬握って居た受話器を耳から放すと、思わず見えない相手を睨み付ける竜也。
「当たり前だろ!!!」
「怒んなくても。聞ーただけだろ。」
「・・・・・。」
兵助は、野暮じゃ無いけど言葉がきつい。こー言う人なのだと自分に言い聞かせぐっと堪えたのは、まだ聞きたい事があったから。
「…病院、どこなんだ?」
「兄貴…」「兄貴、前っ!」
「おわっち、おー…。」さっきから何を話し掛けても上の空で、終いには空き缶を踏んでも気付かない。
竹巳がそれとなく進路を変えて無ければさっきだって壁に突っ込んで行きそうな勢いだったのだ。
通学路の途中から混ざった近藤も、今日は「・・・・・。」
あまりのマジボケに突っ込めもしない。亮の背中側で目配せする2人。
いいですか?と聞く笠井に。うなずく近藤。一呼吸おいてから、
「知ってます?三上先輩が水野に浮気されたって話。」
「おー聞いた聞いた。」
「ホントなんですか?」
ぴたっと止まる亮。
「…はあ?」
振り帰って二人を見るがしらっとそっぽ。
「それがされたらしんだわ、しかも自分トコのチームメートと。噂じゃキャプテンとか…」
「うわ、最悪ですね。」
「おい。」
「あーほら、お前も知ってだろ。サッカー部の三上。」「あ〜〜よ〜くしってけど。んな話聞ーた事もねーぜ。」
「そうか?」
ぴきぴきと血圧を上げる亮が手を下す前に、ボコボコっと竹巳と近藤に後ろから何かが当たった。
「あ、わりぃ。」
「!?」振り向けば。
カラカラと転がる2つの空き缶と。
隣の奥、翼。
それも見るからに機嫌の悪さはMAXだ。
「・・・・。」になる面々の横をすたすたと通り過ぎて行く。
「あいつが、金パの不倫相手ってか。」近藤がちらっと二人に見る。
「そうらしいね。」
答えたのは竹巳。
「そーいや。」
黒川さん家の1人息子は。直樹とか言う金パの関西弁だった。
「うわ、モロそ−じゃん。ダンナよく許してんな…。」
再び歩き出した亮も口を開く。
「そーいや隣のダンナ。もう10年ぐらい見てねーし。」
「昨日回覧板届けに来たっきりね。」
「うわ、薄っすいなあ、」色は濃いのに。
と、その瞬間、後ろの道から耳をつんざく急ブレーキの後にドスンっ!
という音。
「あーごめんごめん。」
「テ…ッメ−わざとやりやがったな。わざとだろっ!」
「なわけ無いじゃ無い。やだな若菜さんたら。」
それは、向いの若菜さん家の御主人が、須釜さん家のBMWに今月3回目のあて逃げに遭ってる音だった。
「このヤロ…今日って今日は許さねぇーぞ!!」
「それより大丈夫なの?明後日の試合。ごめん俺コレからミ−ティング入っちゃって、救急車呼んでおくからお大事にねーv」
「おーーーー待ちやがれっ!…このっ…あ、痛っ…っく!」
始終笑顔を振りまくと爽やかに去って行く須釜。
「親父ーー大丈夫か!?」
音を聞き付けてかけて来る息子の一馬君と、その後から奥さんの英士さん。
「だから、アレだけ試合前は山口さんと飲みに行かないでって言ったでしょ。」
とやや呆れ口調で一馬と一緒に結人さんに肩をかす。
「つーかよだって、…あて…あ痛っ…〜〜」
「山口さん家の奥さん、何人行方不明になったと思ってるの?」
朝のホームルームには間に合わず、遅れて来た一馬は将の横の席に付くなり溜息の連発。
「おじさん大丈夫だった?」
声をひそめて話し掛けて来た将に「何でお前が…」と言いかけるが…。今日はそんな元気も無いらしく
「ああ。…馴れてっから。」
と答えただけだった。
放課後。
「若菜君ー」
と後ろから駆けて来た声にムッとなって…立ち止まらずに歩き続けるが、足音はかまわず寄って来て隣に並んだ。
「病院行くんでしょ?俺もなんだ。そこまで一緒に行かない?」
くりくりとした目で真直ぐ見上げる将に半ば疲れながら、「勝手にしろよ。」と言い放つ。
正直言って苦手なタイプの転入生。
割と1人を好む一馬に、そうとは知らずかやたら話し掛けて来るのがウザイ。
気を使ってるのがばればれでむしろこっちが疲れる…否、ムカツク。
別に友達が居ないとかいらない訳じゃ無い。俺はそー言うキャラなんだっつーの。
「おじさん、大変だったね・・・」「全くな。」
「犯人つかまった?」
「いや。けどいつも同じ車に跳ねらてる気がするとは言ってたな・・・。」
「白のベンツだっけ?」
「いや黒のBMW。」
ちなみに白のベンツは英士さんの車だ。
本当にうといのか、軽い嫌がらせなのか…。今一測れないまま隣を見れば、
将は暗い顔で、何やらぶつくさ黒のBMWの家を模索中だった。
・・・・・・。
そーいや何でこいつも病院なんだ?
…ま、いっか。
もう一度ため息をつくと、それから病院への道を黙って歩いた。
「あれ、お前ん家のおばさんじゃねー?」
それは結人さんの見舞いを済ませた二人が外科病棟のロビーで休んでいた時のこと。ちょうど二人が座る椅子の真正面の廊下を…昨日左隣の奥さんに刺されて入院した藤村の坊さんと、並んで病棟の奥へと歩いて行くその後ろ姿は、間違い無く竜也。
「お母さんっ・…」とお父さん…。
凍り付いた様に2人を目で追う将。
何気なく声に出した一馬も、不味いものを見ちまったか?と黙りこくる。
2人の姿は見る見る内に遠くなって、廊下の角を曲ってしまった。
「ーーごめん、俺ちょっと。」「あ、おいっ」
居たたまれなくなった将が弾かれた様に席を立って二人の後を駆けて行く。「・・・。いかねー方がいんじゃねーのか?」
と1人呟きながらふと視線をそらした先には、
「あ、」
外来に亮と竹巳の姿。
二人は病室の並ぶ廊下を2回程曲がって、さらに奥へ歩いて行く。
『後はもう、ナースステーションかICU位しか残ってないのに。』
お母さん…まさか。いやまさか。
でも…。
しかし将に取っては実父と実母のこの組み合わせは微妙だが。
不倫は…不倫だよ。と自分に言い聞かせ。距離を起きながら確実に後を追って行く…と思ったら
「え?」
いない。
角を曲ったそこは20メートルも行けば突き当たり。
曲り角も無い。
それじゃ、二人はこの一角の何処かに?
別にやましい事とは限らないのに。なのに…
心臓が口から飛び出そうなくらい脈打って居た。
初めのドアのノブに手をかける。
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スガマが殺人鬼に…(ーー;)何台も車持っているのでBMは結人轢き用なのだ…。
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