空へと続く階段。    
ほこりとすえたコンクリーの匂い。
最後の踊り場が見えて屋上への扉を開く。

ーーーーーー!?

広がる青空の下に見なれない姿。
青いラインの上履きが1年である事を告げていた。
せっかくの時間を邪魔された気分で三上は一気に不機嫌になる。

「おい。そこで何してんだテメ−?」
迷う事無く声をかけた。
その声に驚いて、
鉄冊子にもたれて空を仰いでいた黒い影がビクリとして振り返った。

「・・三上先輩!?・・・。」

「?」

ややこわばった面持ちで見つめて来る大きな三白眼に
ああ、何処かで見たなあとは思うが、知った顔では無い。

「お前、1年か?」
「はい。サッカー部の・・」
「こんな時間に何してやがった?」

「いえ、すいません。行きます・・。」

そういって早足で通り過ぎようとした彼の掴んで引き寄せて。
驚いたその顔をまじまじと覗き込む・・

『ああ、こいつ。』思わず不適な笑みが漏れた。
「名前は?」
「・・笠井です。」
「何君だって?」ともう一度わざとらしくくり返す。
「笠井竹巳です。」
「3軍だっけ?」
「2軍です。」

へえーー。

「覚えといてやるよ。」
「はい・・。」
はいだとよ・・・。
ククッと笑いながらぐっと掴んだ腕を引き寄せて、
近ずいた彼の頬を軽く三上の唇がかすめた。
涙を拭ったであろうその後に。
とたん強張っていた彼の表情が驚きにかわる。

手を離すとタタッと逃げるようにかけて行ってしまった。

くっくっく・・・・。
なる程。あんなのがいたとわねえ・・・。
そういえば最近上が騒いでいたっけ。

心の中が囁く。

ヘえ。

確かにあれは魔性だ。


音を立てて白熱灯色の焔が勢い良く上がる。

全寮制の武蔵森学園。
全国大会に押されて延びに伸びたサッカー部の短い盆休みが、明日からやっと始まる。

「キャプテン家って、もともと学区内なんっすよね。」
「ああ、歩いて帰れるよ。」
「じゃあ、俺遊びにいこっかなーー・・」
色の変わった三色花火が日焼けしてニイっと笑った藤代の顔を写し出す。
この子供の顔で頼まれると誰でも断りにくいのだが、
苦笑いの渋沢。
「いいけどお前、今年はやる事多いってぼやいてたんじゃないのか?」
「えっ、」
「どーせ一週間もしない内に又会えるだろ。」
「・・誰から聞いたんスかそんな事ー?!」
ちえ。と呟くが気分を害した訳では無さそうだ。
苦く笑っていた。
「今度ちゃんと招待するから。」
その言葉に笑みをかえす藤代。
「笠井のやつめ・・・・あれ。」
あいつさっきまでそこで線香花火・・・。
『あー・・・。そー言えばミカミ先輩も居ないよ。』
「どーした、藤代?」
「いやー、三上先輩達どこいっちゃったのかと思って。」
めずらしく俺達の誘いに乗って、それでもぶつくさいいながら花火大会に出て来た三上先輩。
ついさっきまでロケット花火で根岸先輩を走らせてたと思ってたら..。
渋沢も顔を上げて暗い校庭を見わたすが、やはり見つからず。
「・・本当だ。ま、あいつにしたら出て来ただけマシだよ。」
と・・・・。
「ねーキャプテン・・」

「しぶさわーー!!!聞いてくれ!!」

「根岸!?」
「先輩まだ逃げてたんすか??」
「ちげーよ!間宮が・・いいから、ちょっと・・・」

あーーあ。取られちゃったよ。
取り残された藤代は、彼方に連れ去られて行く渋沢を見てちょっとため息。

隣接する新宿区のネオンに邪魔されて
雲一つ無いのに星の見え無い空はどんよりと暗く広がる闇。

遠くに聞こえる根岸の悲鳴に
クスクスと誰かが笑う。
屋上の冊格子に肘をかけ乗り出すように校庭を眺める人影。
「相変わらず、なっさけない人だなあ〜〜」
あれでスイーパーなんて、もっとしっかりしてもらわないと・・・
何てどーでもいいと言わんばかりの口調で嘘ぶく。
「テメーの先輩様だろ?」
「三上先輩のお友達ですよ。」
笠井とは少し距離を置いた隣で暗い校庭を見下ろす三上。
「ふん。俺の下僕をバカにしてんじゃねーよ。」
「酷い人ですね、いつも仲良くしてる癖に。」
そういって笑い続ける笠井。
今まで無表情だった三上がのその言葉にふと冷笑した。
「ルームメイトのモノに手ー出す奴とどっちがヒデーんだ?」
横を向いたままの三上の顔をちらりと見るがその表情は見えない。
「嫌だな先輩・・誠二とキャプテンは別に付き合って無いんですよ・・。」
知ってるでしょう?
「黙れ。」
どっちだって同じ事だ。
「・・・妬いてるんですか?」
「テメー見てると吐き気がしてくるだけ。」
・・・・・。
ちらりと笠井が三上を向いた。
ふーーん。そうしてから相変わらず呑気に淀んだ空を仰ぐ笠井。
「よかった。俺まだ三上先輩には飽きて無いし、告白なんてされたら
 どーしようかと思っちゃいましたよ。ふふ。」
 綺麗な笑顔。
「便所ヤローが。」
「ちょっと。傷付くなーー・・。せめて魔性って言って下さいよ。」
あははは・・・。
「キャプテンって。意外にかわいいんですよ。行く時ね・・」
胸の位置に右手で輪っかを作りながら、ちょっとはにかんで嬉しそうに話す。
その様を見ているのさえおぞましくなって、フイっとまた横を向いて遠くのネオンに
気持を飛ばしていたその時。

気付けば目の前にその大きな目玉。

抱き合うような格好になって触れそうな程に近ずく顔と顔。
だんだんに焦点をあわせてきた瞳がそれを笠井だと認識したとたん
クスリともれた吐息に唇をかすめ取られた。
「やめろ。」

押し返される前に自ら引く。

険しい表情で口元を拭う三上を見てふふと小さく笑った。

それを見ていた三上がまた思いきり顔を歪める。

「お前、一度寝た位であいつの事になめた口きくんじゃねえよ。・」
「・・ぶっ殺すぞ。」

「大丈夫。キャプテンだって本気だなんて思ってませんよ」
フンと。
「お前見たいな奴にはわからねーだろーけどよ・・。ま、・・・せいぜい気をつけるんだな。」
「・・そーなったら先輩かばってくれます?」
「おお、喜んで退部を進めてやるぜ。」
「役にたってないじゃないですか。」
「冗談。最も効率的な解決法だろうが。」

端から見ればケラケラと楽しそうに話す2人。   
風が吹き抜ける。



それはゲーム。
半分遊びで半分本気の。暇つぶし。

ある日たまたま2人キリになった部室で笠井が言い出した。
「ねえ、先輩?」
「どっちが早く落とすか競争しませんか?」
「何が?」
振り向くと、とっくにウエアの上下を脱ぎ捨てて、制服では無く部屋着のTシャツにそでを通しながら背中越しに自分に話し掛ける彼の姿が有った。
「向こうが付き合ってしまったらゲームオーバーって事で。」
「だからお前何言ってんの?」
「渋沢先輩の話。」
「・・・・・・。テメーには関係ねーだろ。」
「・・・だからいいんじゃないですか。先輩。最近女と切れてヒマだって言ってたから」

「痛いじゃないですかっ。もう。・・・それに、俺も本気ですから。誠二の事。」

「・・・・・。で?」

ルールーは簡単。
相手に告った駒の持ち主が負け。
それから、
「社内恋愛(笑)禁止ね。」何ていう。
「ありえねー」と呆れて言った三上。
「だから先輩を撰んだんですよ」
ムっとして。
「どーゆう意味だ」と聞き返した。

手が伸びて、今度は三上が笠井を引き寄せて、抱く。
一瞬驚いた笠井だがそのまま力を抜いてその腕の中に身体を委ねた。
肩口に顔を埋めて甘えてみせる笠井を緩く抱き締める。
そしてやっと、三上が口を開いた。

「あいつから手を引かないなら、俺は降りるぜ。」
揺れた瞳を三上に気付かせないように彼の背中に手を回し、きつく抱き返した。
「・・・ごめん。もう貴方の物には手をだしませんから・・。」
誠二をいじめるのもほどほどにしてよね。・・・と
耳もとの吐息が笑う。
でも先輩。
あの時、「キャプテン、誠二の名前呼んでた。」
「それが?」
棘の含んだ声色に変わる。

「俺に抜けて欲しいならそー言えば?」
「まさか。いい加減すねないでくださいよ。」
「んっ・・」
顔を上げた瞬間深く重ねられた唇。
そのまま落ちて行く。奈落へ。
「ねえ・・・」
「だまれ。」
上半身はくっ付いたまま片手がズボンと下着の中に滑り込んで来て。
無抵抗の笠井を嬲る。
「いっ・・つ・・・・」
「あっつ・・あ・・・あ・・・!!−−−−−っっ」
そのまま恍惚とした顔を曝けて、彼のなすがままに甘声を上げていた笠井が
突然、ドンっと激しく三上を付き離した。
身体を2つに折ってそのまま地べたに座り込むと、両手で股間を押さえて踞ってしまった。
熱くなっていたはずの頬から嫌な汗が流れる。

立ち尽くす三上。

ポタポタと・・・。差し出された腕の爪先から流れる精液が笠井の頭上に降り注ぐ。

どのくらいそうしていたか、
ただ無言で足下に転がる笠井を見ていた。

しばらくしてやっと頭があがると、押さえた指の間からトランクスと地べたに染みだす
黒い血だまりが見えて。顔の下には違うシミが出来ていた。
上から見下す亮にその表情は見えなかったが。
「ああ、悪りぃ。」
見るのもめんどくさくて、彼はただ無感心にそう言い放った。すると。
汚れた手の甲でぐすぐすと顔を拭ってから。
酷く蒼白になった顔が亮を見た。何かを言おうと幽かに唇が動く。
「俺、貴方が思ってる程、セックスなんて好きじゃ・・・ない・・です。」
そう言ってから、彼は背を丸め声を上げて泣いた。

どのくらいそうしていたのか・・・・
生温い空気の中に彼の微かな余韻が混じるが、やがてそれも消え元の暗闇が戻って来た。
泣き疲れ座り込んだ笠井の前にしゃがみ冷えた頬に両手を差し伸べる、
上げた顔に涙の後は無く。
ただ濃い疲労の後が浮かんでいた。

「もどろーぜ」
「はい」

のろのろと服を着る笠井を見ながら
一服。

夏なのに奴の手はかじかんでいるのか。ズボンをはいてジッパーを上げるだけの事が随分長く感じた。

ふらつく身体が階段へ転がりそうになった所で腕を引き寄せて支えてやる
「痛いか?」
と聞いたら首を横に振った。
「嘘付くんじゃねーよ」
嫌味のつもりは無い、ただ聞きたかっただけ。

「・・・・痛くは無いです。ただちょっと」
踊り場にでた所でボそりとそう言った。
「熱いです」
やべ−じゃん。
「腫れてんのか?」
「・・わりません。」
背中に腕を回して抱き込むようにしてやると、笠井の手もまた俺の背中に縋った。
けして俺の方を見ないように、横を向いたまま無表情で言葉を辿っている顔がなかなか良くて。無意識に見入っていたその時、
「ここで良いです。」

!?

気付くと寮の入り口まで来ていて。そして、
その一言で三上は我に帰った。
いつも『じゃあな。』と言って幕を切るのは自分の役割だったからだ。
何が「いいです」だ?何チョウシこいてんだこいつと・・・
背中のシャツをグンと引っ張られる。
険しくなった空気を読んだ笠井の「そうじゃ無くて・・・」
と言う小声が聞こえた。
視線を落とすとずっとそらしていた顔と目が会って。何かを訴えるようにゆっくり反らされた視線の先を見ると。

やはり・・・というべきか、すでに消灯された正面玄関の下駄箱に寄り掛かり二人を見据える。
渋沢克朗の姿が会った。

空気が重い。

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