「よお・・・お出迎え?」

一瞬強張った空気に気付かぬ振りを決め込んで、沈黙を破ったのは三上。
「もう12時半だぞ。そろそろ探しに行こうかと思ってた所だ。」
「ああ、わりィわりィ。お前ずっとそこに居たわけじゃねーだろうな!?」
小馬鹿にからかうその問いには答えず、二人から視線をそらしふっと苦笑した
その姿はもういつもの克朗に見えた。
「笠井、どうしたんだ?気分でも?」
「ああ、ちっとな。」
「俺が階段から落ちそうになって腰打ったんです。大した事有りませんから…」
我ながら陳腐な嘘だと思ったが・・。そう言って笑ってみせた。
「そうか?・・。」
心配そうに視線を落とすキャプテンに竹巳は少しすまない気持ちになる。
「こいつ運んだら、俺も部屋戻っから。」
「ああそうだな。」

探しに行こうかと思ってたんだろう?
いつもは暗黙の了解で「探しに」何て野暮には来ない癖に。
それで終りなワケがねーよな。

「三上。」
「ああ?」
「時間良ければ、終わったらちょっと話しいいか?」
「・・・・ああ。自販のトコで待っててくれ」
「すまないな。」
その顔は穏やかで、圧力なんて感じさせはしなかったが、奴が視線をそらしたのを判っても角を曲ってその姿が完全に見えなくなるまで、俺は笠井の腕を引っ張って行った。
「・・・おい。」
「はい。」
「何で俺なんだ?」
「・・・・・。」
顔を見合わせる。

ばれた?

いや、だがそんな事で今さら驚いたのでは無く。
たとえ渋沢が何もかも知っていても。知った所で俺達が『仲良く』やってる間は何も言い出しては来ない。と二人して踏んでいたからだった。

だからいつも探しに来ない。
それでもこれが恋愛関係なんてモノじゃ無い事も既知の上。
だから笠井とも寝た。

ただ一つ判っている事は。かつてあそこまで怒っている克朗を見た事が無いと言う事だけだ。

最近の事をちょっと考えただけでも、殺されかねない理由が幾つか浮かび。
気付くと思惑に沈んだ俺の顔を笠井が覗き込んでいた。

「俺、一緒に行きましょうか?」

「いいから、お前は帰って寝ろよ。」

「はい。」と二つ返事をしながらドアの前で躊躇している笠井を半ば強引に部屋に押し込んだ。
「先輩、明日。」
「お前帰んの午後だろ?よってやるよ。」無事だったらな。
相手の笑いが強張っていた。
「はい。」
ドアを閉める直前。強く握られた手を握り返した。
「お休みなさい。」
無言で見送った。



「ばからし・・・。」
くっくと自分の三文芝居に自嘲がもれる。

いつの間にかゲームが、恋愛ごっこに入れ代わっていたのに気付かないわけがない。
毎日毎日俺達はアホか。腐ってると繰り返しながら。
辞めようとは思わなかった。

思えなかった。

何で渋沢が怒ってるかって?。
んなことテメ−が一番よく知ってるんじゃねーのか?
何を考えたんだ。 笠井。

もしかしたら・・・と言う予感が無かった訳じゃ無い。
それ所か、心の何処かで十中八九そうだろうと思っていたが。
それはずっと前からあえて三上が見てみぬフリをして来たものでもあった。





階段を2回分程降りると、風呂場の横より夜の出入りは少ないだろうと言う理由で、玄関横の自販へ向かう。

居た。

 彼は、ちょうど非常灯の下に有る長椅子に腰掛て。手には既に冷えたカンコーヒーを握りながら伏せ目がちな横顔は何かに挑むように一点を見つめていた。

「おい。」
はっとしてこちらを振り向いた顔はさっきより幾分穏やかで、驚いた感じは無かった。

「ああ、悪いなこんな時間に。」
「ま。どーせついでだし、構わねーけど。」

差し出されたもう一つのブラックコーヒーを受け取ると、亮はちらりと横に気をくばってから1人分開けて隣に座る。
彼はふと気配で笑ってまた視線を前に戻した。

「・・・笠井。大丈夫なのか?」
「多分な。」
「何したんだ?」
ちょっとドキっとして。
「別に。ちょっとな。」
しかしさも呆れてると言った顔をしているだけで、深くは聞いて来なかった。
ため息が聞こえる。
「なんだよっ。」
むっとして言い放つ。
「いや、何でも無いよ。」
苦笑いで返って来た。

・・・で話って?
「簡単に言うと。」

「三上。・・笠井には気を付けろ。」

「はあ?」
「そー言う訳だからって意味じゃ無いんだが。」

「・・・ああ。」
判っていた。
言いたい事も。
こいつだからこそ、言わざるえなかったであろう事も。
 
「やっぱり、あれはお前がやったんじゃないんだな。」
「ああ。」
「つーか、当たり前。」
「そうだな。」

「けど、俺のせいではあるかもな。」
「・・・。いつからなんだ?」

「わかんね。俺が気付いたのも連休開けてからだったし。」

いつの間にか、
白い二の腕の内側にびっしり付いたスジ状のはもの傷。

死ぬ訳じゃないし。
そ−ゆう奴の気持ちは俺には判らないが。
そんな気あるよーにも見えないし。
助けられる気はしなかったから、突っ込みもしなかった。

何よりもそう。

関わりたく無かった。好きでも無いやつ囲い込んで煩らう余裕なんて無かったから。

だいたい、あいつのはストレスだろ。

そう思って割り切る事にしてた。
あいつにとって俺はそれを支える役割の人間では無い。それは事実であったから。

けど本当は、お前から逃げられなくなるのが嫌だったんだよ…。……わりぃな…。

「ま。少なくてもお前のせいではねーよ。」
ん?と言う顔をした渋沢が「わかってるさ。」と言って少し笑う。
『和ませる』なんてやり方知らないから。がらじゃないし。俺にできるのはこんなもん?
それにしても間抜けな発言ですいませんねと。

「あいつが惚れてんのは」

「お前だろ。三上。」

「あ?・・」藤代…という言葉が喉まで出かかって消える。

判っていた。

「けど俺のせーでもねーよ」腕をかっ切るのは。
「ああ。」
「俺のせいかもしんねーけど」思いつめたのは。
「それはそうかもな。」
「・・・・。」
「いや、すまない」

だったら笑うんじゃねーよ。

「俺はめんどくせーのはごめんだ。つーか。・・・他に好きな奴居るし。」

「そうか。」

静かな会話。

「あいつ俺の事何かいったのか?」
「いや、何も。」
「わかるさ。」
「じゃあお前、何であいつとヤったんだ?」
「・・・さあな。」 
 
「!?」

俺は黙って渋沢の言葉を待つ。
いや、どことなく嫌な予感に動けなかっただけかも知れなかったが。

「・・頭ではわかっていても、心を切り離すのは難しいんだ。諦めきれなかったんだな…きっと何処かで。」
彼流の回りくどい言いまわし、だがこんな時に限って頭が回るより先に答えが出る。

「すまないな・・。」

まじまじと隣を振り返ったが、渋沢は無表情で前を向いたきりだった。
誰にあやまったのか。何をあやまったのか。
そんな事もはやどうでも良い。

「お前、笠井が好きだったのか!?」

言葉を無くした俺の顔を渋沢が振り向いて。ただ笑って居た。

つまり、俺達は?

「けどな三上・・。俺はおととい誠二に返事して来たんだ。」
「また告られたのか?」
まあな。と笑う。
今年の春に玉砕したばっかじゃなかったのか?
まあ自分の事にはめっぽう鈍い渋沢の場合、そこからやっとスタート地点に立ったと言ってもいいかもしれないが。

「付き合う事にした。」
「それでいいのかよ?」

「ああ。いいんだ。俺もあいつが好きだから」

心臓が波打って居た。

「それで?」

「この際俺にも笠井と付き合えって言いたいの?」
「いやまさか、…ただ本当の所、お前はどう思ってるのかと思ってな・・」

「別に。俺は何も・・・」

「そうか。……
これは、俺の勝手な言い種かもしれないが。お前の気持ちを優先するなら・・。これ以上深くなる前に笠井から離れた方がいいんじゃ…ないか?。」

でかい杭が首の後ろにドスッと刺さったような気がした。
お前何かに言われなくても。言い知れぬ怒りが腹の底から湧いて来て、けれどそれは冷たく冷えた不安に変わって腹の底に溜まって行く。

「ああ。その通りだな。」

「三上?」
低く笑い立ち上がった俺を渋沢が呼ぶ。
これ以上ここに居る事は出来なかった。こんな形で引導を渡されるとは思いもよらず。
しかし、渋沢を足げにできる訳も無く。

「わ−ってるよ。・・・話し、それだけか?」
「ああ。」
「んじゃな。」
俺の心中をどこまで察してか複雑な顔をした渋沢に、できるだけ普通の顔で別れを告げた。

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閑話休憩

やたら古い話なのは確かです。どんどんワケが判らなくなってきて、どれが続きかファイル探すのも一苦労。

私は絵描きなので(い、一応ね)どうしたら適切な言葉で描写できるか苦しんだのがこの時期だったと思います。

もう今は諦めてますが。なるようにしかならないと(苦笑)

初めの部分は大分頑張ってますが、ここはもう手抜いてますね。何が起きてるのかはしょり過ぎで私にも意味不明な部分があります。

取りあえず、細かい文字で下手な文章を読むのは辛いので、

感覚で、何となく読んでいただければ嬉しいです。そう今頃意いうなってね……ソーリ−(殴)。

では続きを………。
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