僕と一緒1-----------------------------------------------------------

+欄満+





手を引かれ、くぐった桜の門の下。

ちょっと緊張で強張った顔で自分の手をぎゅっと握った小さな手を、

真理子は少し微笑みながら握り返した。

今日は1人息子の入園式。

父親は仕事で出席出来ず、真理子と竜也の2人きり。

満開の桜が風に流れて青い空へと舞って居た。

笑い声。泣き声。黄色い歓声。

他の子供達が、口々に何かを叫びながら、講堂の前で出迎える水色のスモックを着た先生達の所へ駆けて行く中、

真理子の右手にぴったりくっ付いたまま、不安げに見上げて来る幼い顔。

「ほら、たっちゃん。」

「おかーさんも一緒に行くよね。」

「ええ、一緒に行くから、」

と今にも眉の間に皺が寄りそうな顔に苦笑い。

一人っ子の中でも、
人一倍人見知りが激しくて。

性格なのか、

近くに公園が無かったせいか、父母べったりのまま大人の中でばかり育って来たせいで

竜也は中々子供の中に自分から入って行こうとはしない。


後ろから勢い良く駆けて来た男の子の肩が、とんっと竜也にぶつかって

「あっ」

と前のめりにつんのめった身体を慌てて、真理子が引っ張れば、

自分を見上げる大きな瞳がもう「帰りたい」と告げて居た。


「たっちゃん、大丈夫、ほら」

とくすっと笑いながら目線の高さにしゃがみ、視線を合わせる。

すると糸が切れた様に首に抱き着いて来た我が子に、苦笑しながら頭をぽんぽんと撫でて…

「ほら、あそこで先生達が待ってるでしょう?あそこでね、たっちゃんの名札が貰えるのよ、」

「たっちゃんの名札は何色かな〜?」

「青」

「さあ、青だと良いけど、でも青はお兄ちゃんの色だからなあ…」

真理子を覗き込む眉を寄せた顔に、にこりと笑う。

「たっちゃんはお兄ちゃんになれるかな?」

頭を撫でながらゆっくり諭すと、

ちいさな唇をぎゅっとつぐんで少しの間考えていたが、やがてコクリと頷いた。


さっきよりしっかりと手を繋いで再び歩き出す。

近所の子供は年上で皆もう幼稚園。

竜也は1人遊びが上手いのが災いし、家にいると内向的になるばかりな気がして、

本当は年中からと考えて居た幼稚園だったが、

やっぱり家は過保護すぎるわよね…と、考えた末に踏み切った3年保育。



アイボリーで統一された壁に同じ色で塗られた小さな下駄箱が並ぶ

明るい玄関。

恐る恐る足を踏み入れた竜也に、

「お早うございます。」

と頭上から降って来た声。

「おはようございます。」と一礼する真理子に向うも深々と頭を下げて。

そして横に居た竜也の前に腰を降ろした。

水色のスモッグを着た若いお姉さん。

「お名前は?」と竜也に聞く。

横にいる真理子の手をぎゅっと握りながら。

「きりはらたつやです。」

回らない口で答えれば、前に居たその人はにっこり微笑んで、

「きりはらたつやくん。ご入学おめでとうございます。」

言いながら、竜也の紺の制服の胸に、器用にひまわり型したオレンジ色名札の針を通した。

「おかーさん、青じゃないよ?」

そう言って真理子を見上げた竜也にドキッとした瞬間。

「一番上のお兄ちゃんになると、名札が青くなるんだよ。」


名札を付けてくれた先生がすかさず答えて、真理子もほっ…

真理子が竜也と接して来たのとは違う、優しいけどはきはきとした喋り方。

普段だったらすぐに拗ねて手をフリほどこうとする竜也が、それにきちんと答えていた。


微かな感動に、真理子に笑みがこぼれる。

『やっぱり、先生ね』


そしてあの甘ったれの竜っちゃんが、いっちょ前にピンと背中をはって居た姿に。

別の笑いが込み上げて居た。


実はここからは、式が終るまで母子別々。

名札を付けてくれた先生を筆頭に、奥へと並ぶ先生方が子供を出迎えながら、体育館へと誘う仕組み。

流石によく出来ている。

幾度も、幾度も真理子を振り返りながら、

「じゃ、お母さんにバイバイして、また後で会えるからね。
あのお友達と一緒に行こうか、」

と言う先生に「うん。」と返事をしながら、やっぱりまた真理子を振り返る。

そして廊下の角を曲がるまで、ずっと手を降って居た。


「・・・・・。」

はあ…と溜め息。

いけない、いけない、

親の方が過保護になっちゃ…と自分に言い聞かせ、自分も別の入り口から講堂へと急いだ。

所で、竜也の事ばかりに気を取られていたが、真理子だって幼稚園ママ初デビュー。

息子じゃ無いけど、やっぱり不安だ。

土地柄のせいか、若いと言っても周りは皆真理子より年上で、きちっとしたスーツで決めている。

ざわめく講堂の中に入ると、前の方に見える子供達の頭に安心しながら、父兄の合間をぬって、たまたま竜也が見え易かった端の方の席に座る。

3年保育は少なくて、入学式の半分を占めるのは年中さん。

暫くして「ここ開いてます?」の声に「どうぞ」と顔をあげれば

ちょうど、真理子より同じか…否少し年上そうな…

スーツのお母さん。

それも持ってるバックから仕事帰りらしいと言う事が良く判る。

「お宅は年中さん?」

「いえ、年少です」

「ああ、年少さん、」

バックから出したエルメス柄のハンカチに…

まあ…。と心の中で感嘆を漏らしながら。

はきはきとした喋りに真理子もどきどき。

「お仕事ですか?」

「ええ、そう、…流石にこない訳には行かないから。」

「両立は大変そうですね、」

「大変よ〜…」

そう言って苦笑いした顔に、真理子もやっと笑みが漏れた。


「最近越して来たんです。前は保育園だったんだけど、ここは深夜保育もやってるからお願いしたのよ。」

「この辺、保育園少ないですからね、」

「ええ、ちょっと遠すぎてね。宅児所は色々と有るし…」

宜しくね、と真理子を見て微笑みながら。もしかして新米ママさん?といい当てて、真理子を焦らせて居た。

「お子さん1人目?」

「そうなんです。奥さんは?」

「うちも一人っ子、だけど…」

と彼女が苦笑しながら言い淀んだ時、周囲のざわめきと共に園長が現れた。

顔はややタレ目の働く美人ママさんで、腰を据えた流暢な喋り方をする、どちらかと言えばマダム系な空気を纏う人。と言ってもそれは空気で、本人は大分若かったけど。

真理子の1人目の友達ママの名前は三上さんと言った。





その日の帰り道。

付けて居た紺の帽子を外すと真理子へと渡して、変わりにその手の平からアメ玉を持って行く。

口に含んで、からになったビニールを自分に差し出す小さな手を、再び握った。

「今日どうだった?」

「うん。」

「先生なんて言ってた?」

「はい。」

噛み合わないながらも理解しているらしく、真新しい黄色いカバンをごそごそやると、中から白い紙を出して真理子へと差し出した。

「ありがとう」と受け取って開けば、そこには…

水色のクレヨンで描かれた何かの…

「・・・!、たっちゃんお友達描いたのね?」

すると満べんの笑みで破顔する。その嬉しそうな事。

「今日楽しかった?」

「うん、」

「お友達で来た?」

「できたー」

そう言って、マンホールの蓋をぴょこり。…とは行かず、蓋の真ん中に着地して

「・・・・。」

「さ、早く帰って、お父さんに制服見してあげようね、」

「ん、」


竜也の幼稚園生活はこうして始まった。




「今日は年中さんのお兄さんお姉さん達が、お部屋に遊びに来ます…今から先生の…」

それは竜也がひまわり組に入って1ヶ月目の事。

やっと馴れた教室に、見なれない顔の面々がつかつかと入って来るのを、目を丸くして見て居た子供達。

それでもやがて、ぎこちないながらも次々に年中の子達に手を引いて行かれるクラスメートを他所に、

1人ピアノの横で、積み木遊びを続けていた竜也。

今まで一緒に遊んで居た子は、さっさと物珍しい彼等の所へ駆けて行き、竜也は独り未完のお城を前にして居た。

所がそこへ

「何、作ってるの?」突然、頭の上から響く声。

固めのスポンジで出来た積み木を片手に持ったまま、固まる竜也に

とにっこりと微笑んだその少年の名札には

「しぶさわかつろう」

と書かれて居た。






NEXT


TOP

----------------------------------------------------------------------
つつららと…幼稚園話、う〜ん、微妙。
言葉ずかいがつらい…(−−;)


SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ