berybery bulack5-2
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水野君?

みずの君?

「ああ、風祭」

「これなんだけど……。大丈夫?」

気付くとすぐにぼーっと意味も無く校庭の端を眺めている竜也を、

やや上目使いに風祭りが覗き込む。

「具合悪い?」

「いや、大丈夫だ。」

で何だっけ?

「・・・・・。」

その発言に口が塞がらなかったのは風祭だけじゃ無かった。なんせ今日3回目の質問…。

少し向うに居た下級生までもがちらっと竜也を振り返る。

水野君が…水野君じゃ無い。

「タツボン。ホンマ今日帰った方がいいんとちゃうかー?」

シゲにまで言われる。

あの夜から3日。週末には明星との試合を控えていると言うのに・・・。

「何かあったのかなあ?」

といかにも、この人は知ってるだろうと言いたげにシゲの顔を見るが。

「さてなあ。…何やろ?」

とどこか虚ろに呟くと。竜也の方にすたこら駈けて行った。

「何だ、本当に喧嘩した訳じゃなかったんだなー。あいつら。」

見た目には相変わらずのシゲとタツヤ。

「高井君。」

「水野この前からどーしちまったんだ?ぜってー変だよな。」

「う〜ん。」



「じゃあ、紅白に別れて…」といいかけると同時に後ろからどすっと重みが覆いかぶさった。

「シゲ。」呆れ声。

肩にかかるしなやかな腕の感触と、彼のコロンの香に一瞬にして胸の絞まる思い。

・・・全く。人の気も知らないでと睨み付けるが、

「何の用だ?ふざけてる暇なんてないだろう。」

「まあそんな怖い顔せんと。」

悪戯っぽく笑う。そして

「あの三上とかっちゅう奴と何かあったん?」と小声で耳もとに囁いた。

止まる水野。

「別に。」

「さよか〜。」

「何だよ。」

「別に。」と言いながらその顔を覗き込む。

「シゲ、見学は向こうだろ。」

にこっと笑いながら睨み付けると。

「おーこわっ。」

と声を上げて離れて行くシゲに後ろから軽くケリを入れた。

「おらおらーしっかりやらんと、キャプテンがお怒りやで〜〜!!」

「お前になっ!」

余程ヒマなのか、通りすがりに下級生にまたちょっかいを出す。

「全く…」


「全く嫌な奴やな。」離れ様にそう囁いて行った。

三上に?俺に?

なんて…言われなくても三上の事だと判っていたが。


その後ろ姿を竜也は無言で見送っていた。

「お前は気丈だな。」

苦笑いまじりにそう小さく呟く。

『だからあんな奴違うって言って……言って無いか。』

もう自嘲しか出て来なかった。

何時からだろうか…。

シゲと気まづくなったのはそのせいでは無かったけど。

大嫌いだったのに。

…いや、大いに嫌われて居たが。

嫌いだったし。……?


俺はあいつの事・・・・心底嫌った事なんてあった…のか?


突然閃いた問いに体の芯が凍って。遠くで笑いあうチームメートの姿が霞んで行く。

何時だって、断ろうと思えば断れた誘いを受け入れたのは自分で。

何時だって、あいつさえ振り向けば俺は・・・。

どこかでずっとそう思っていた自分に気が付く。

自分からはいつも何もしないで待ってるだけ。

…違う。

あんな奴。待っていたくなんて無かっただけだ。


苛立ちはもう苛立ちでは無かった。

ちょっとからかわれたのをいい気になって、期待し始めてた自分の情けなさに。

ど−しようも無い…悔しさと…絶望感。

悲しい?それは判らなかった。ただ女の様に泣ければ少しは楽だったかも知れないと思う。


「水野ーーー始めるぞー!」

突然耳に飛び込んで来たのは明るい高井の声。

「ああ。」

振り返った彼はいつもの竜也の顏だった。

沈んでる暇なんて無かった。沈んだら上がって来られなくなる予感がしたから。

気付けば気付く程暗い水の底へと沈んで行く気分。

忘れよう。あいつの事は。

もうこんな思いはごめんだった。

前を向いて進むだけで今は精一杯のはずなんだから。










「案外、つまんねー奴だったな。」

「は?」

突然聞こえてきた声に近藤が横を見ると。

走りながら空を見上げて呟く三上。

「今なんか言ったか?」

「つまんねーつったんだよ。」

「…だから何が?また女か?……って、おわっち。」

走りながらどかっと蹴られて列の外へとこける近藤。

「テメっなにすん…」

「そこ!何してるんだ?」

「あ、すいません。」

コーチの声に慌てて戻ると、再び何食わぬ顔で走る三上の横に並ぶ。

「ひっでーなー」

とスパイクの後の付いたウエアーをパンパンと払う近藤には目もくれずに、相変わらず一人遠くへと視線を飛ばす三上。

「お前変。」

くるっとこちらを見た三上に「来るか!」と身構えたが、何も無かった。

ちらっと近藤を見るとまた前を見て走り出す。

・・・やべー。ホントに変だこいつ。

心ここにあらずと思いきや、練習中はまるで別人。


「うおっ、三上先輩気合い入ってっすねーーー!!!」

と藤代(犬)が喜んで後を駆けて行く始末。

ああ。もうホント俺にもわかんね。

とその微妙な変化に首を横に振るのは近藤一人だった。



結構、有りかなと思ってた。脈。

思った通り。

あの時見た、あいつの強がった顔は決して見間違いでは無かったはず。

してやったりだった。

だが7月の日差しが思考力を奪う中、それだけが何処か心の奥で凍り付いていた。

思い知れば良い。

自分の都合の良さを。

恵まれきって育ったあいつにはいい薬だ。

そう思っていた。

思う様にして居た。

必要とされなくなる痛みを少しは思いしっただろう…?

あの雨の日。あいつに会ったのは偶然だった。

その時は考えもしなかったのに。

皮肉にもそれが転がり込んで来た報復のチャンスとなった。

せーせーしたはずが何処か晴れない気分。

何となく。

来るかもしれないと思っていた。

何しに?とか聞かれても多分三上にも答えれれなかったが。

それだけの土台は作ったつもりだったのだ。

…別に来て欲しいなんて思っちゃいねーけど。

けど、結局あいつは来なかった。

ま、それで引き下がっちまうことはそれだけの奴だったって事だな。


「あのさー。お前全部独り言口にでてんの判ってる?」


突然かかった声に目の前に焦点をあわすと。根岸中西…大森。

今のは。てめーか?中西。

空揚げをほおばりながら真正面の中西だけが三上に目を合わせていた。

「いやー。ど−しよか迷ったんだけど。…聞かれた方がマズイかなと思って…」

と奴の見る方向へ横に視線をずらすと。

「げっ!」

真顔でうどんの乗ったトレイを自分にぶつけんばかりの笠井が立っていた。

そのまま無言で隣に座る。

「三上先輩って。水野の事が好きなんですか?」

「は?」

「三上先輩って…み

あわてて手前にあった根岸のスプーンを口に突っ込む。

「ちょっっ!!きたないなっっ」

と怒りながら取り出す笠井にもっとショックの根岸。

「俺、まだ別れた覚え無いんですけど。」

「・・・・。」

猫目と言われようと、怒っている時の三白眼に逆らえるやつは居ない。

「・・・・先輩は、ど−したいんですか?」

暫くの沈黙の後、前を向きながら笠井が言った。

どーしたいって、別に?

「恋愛中のトコ悪いんですけど」

「ああ?」

今日はまたすごい嫌味だなおい。

つーかしてないから。

「別れるなら。今しか無いと思って下さい。」

「----!?」

言外に俺だっているんです。と言われた気がした。

「いいですよ。別に。そ−言う約束だったし。」

杭を打たれる。



「俺めんどくせーの苦手何だよねー。」

ちょうど去年の今頃、告って来たこいつに俺はそう言った。

初めてって訳じゃ無かったから、いつもの様にあしらったつもりが、

「それでもいいです。」

とこいつは真顔で食い下がってきたのだった。

は?鈍いんじゃねーの。断られてんだっつーの。そう思ったが、

困惑する俺の顔を見ながらにっこり笑ったこいつを見て。

戸惑った。

やけに肝の座った1年だな。と。推薦組とは言えそこら辺の奴とはちょっと違っていた。

色の白さや、ルックスのせいもあったかもしれないが…。

面白そうだなと思いかけていた。

「先輩の邪魔にはなりませんから。」

ふ〜ん。

「お前、名前何だっけ?」


から始まったのだった。

笠井は、その期待を裏切らなかった。

俺がコンパ行っても。他の誰かとどうにかなっても。止めたり怒ったりしなかったし。

いつも黙って、側に居た。水の様に。

かといって甘えて来る事も忘れなかったし。時には喧嘩もしたが。俺の行く末に口を出す事は決してなかった。

セフレっていう言葉は似つかわしく無くて。

事あるごとに愛人ですからとか自分で言っていた。

アホか…と思ったが。それはその通りかもしれなかった。

彼はただ黙って待っていたのだ。三上の気持ちが自分へと振り向くのを。

そして例え叶わなくても自分だけは好きで居ると決めていた。

どれだけの孤独がそこにあっただろうか…

今の今までそんな事考えもしなかったと。

…初めて気付く。



だからそれは、その笠井がはじめて自分に突き付けた本音だった。

黙りこくってしまった笠井を三上が見る。

穏やかな涼しい横顔だった。

それが本心なのか。自分との約束の果てなのか三上にも判らない程だった。

今までなら、判らなかっただろう…だが。

ふっと笑った三上の気配に笠井がこちらをちらっと見る。

「…変な顔」

「は?・・・・あ〜?」

「先輩が気負う事なんて無いですよ。いままでだってそーだったんだから。」

あ?おい。それは嫌味か。俺に気付いて欲しかったって言う嫌味じゃねーのか?おい。

「本当、素は鈍いんだから。」

ゴンっと後ろから一発笠井の頭に拳が入って。飲みかけていたうどんを吐き出した。

「痛いな。」

気付けばいささか静かになった食堂の中。睨み合う半切れの二人。


「笠井って…凄いな…。」

呟いた近藤に根岸がうな付いた。



「俺か、水野か選んで下さい。」

「そりゃ約束がちがうんじゃね〜の?」

「判っています。」

だがそれを責められる三上はいなかった。

笠井を手放す事を考えた事が無かった。


・・・・・・・。


「…おめーに決まってんだろ。」

再び食事に戻りながら、三上がそう言ったのを。

笠井は暫く黙って見ていた。

「もう、戻れませんからね。」

照れた様にそう言ってから、同じ様にトレイへと向き直る。

ちらっとみた笠井の横顔は、ちょっと赤くなった頬が嬉しそうだった。






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続く…。





































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