関西弁がもうむちゃくちゃです。西の人笑たって下さい。
---------------------------------------------・act2
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風祭が出て行ってすぐ、降り出した夕立ちが土の匂いを部屋に運んで来る。
誰も居ない部室。
二人きり向かい合って座っても、会話すら無い。
戸を閉めたシゲが戻ると、竜也はとっくに身を起こしていて、ベルトまで外されていた服のボタンも綺麗にしまっていた。
・・・・それっきり。
「何や、やめてまうの?」
と言ったシゲをちらりと見て「ああ。」と言ったきり、かたんと椅子を引くと日誌を取り出す。
もう取り付かせてはくれない様だった。
・・・ちえ。しゃーないなと、溜め息まじりにシゲもまたその向いの椅子に腰掛ける。
ここ2日、さり気なく不機嫌ではあったけど。皆には気付かれない所で日に日にそれが増して行く。初めはギャップのせいかと思ったがどうもそうでは無いらしい。顔を上げようともしない竜也を見てシゲも片眉をしかめる。
「何ぴりぴりしとるん?何かあった?」
「別に」
「あっそ。」
さっきっから出ばなを挫かれっぱなしのシゲの機嫌も流石にボーダーラインを割って来た。
もうええわ、と普段ならこんなガキ放って帰る所だが。
が、今日まだ彼にはここで引けない用があった。
ここの所、ワケも無く自分を避けてるような竜也の態度。あの日以来ずっとおかしい。
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「シゲ?」
「何やー?」
「何か用か?」
「いや、何も。」
「じゃ何してるんだ?」
「居たいからおるだけやん。何かあかんの?」
「別に。」
コレと言って読む訳では無く、床に転がっているサッカー雑誌をパラパラめくりながらヒマを持て余しているシゲと、いつまでも日誌を書き続ける竜也。時折シゲの視線を感じているが、無視を決め込む。
沈黙。
また沈黙。
降り出した夕立ちがトタンの屋根に落る音だけが、響いて居た。
「やる事無いなら帰れば?」
「お前も、いい加減それやめたらどうや。未来日記でも書く気なん?」
「!!……邪魔するなら、帰れよ」
シゲとはここの所ずっと気不味い。
「傘、忘れてもうたん。」
一言二言交わすたびにすぐ棘棘しい会話になって口を紡ぐ。
悔しいが、竜也がシゲに口で勝てた試しは無いから。
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正直言えばシゲがそろそろ限界なのもわかっていた。けど、
まだ、そう言う気分にはなれなかった。
今さら、そんな純情めいた罪悪なんてとっくに持ち合わせていないけど。
何気なく三上にはかれた陵辱の言葉が彼の感触と一緒にまだ頭の隅に残っているのだ。
「手ぇとまっとるで」
はっとして顔をあげると目の前で不適に笑うシゲの顔があった。
「何だよ。」
「たつボン。耳のしたんトコ、跡ついとる」
「まさか」
一昨日の夜が一瞬頭をよぎって、ビクリと心臓が跳ねた。
まさか…と思いつつ。冷静を装おう。この手のお遊びは殆どシゲの口癖だからだ。
「何や、ひっかからんかったわ」
竜也の顔も見ず、読んでも無い雑誌に再び目を落とす。
「何言ってんだお前…」
ふと引っ掛かる物を感じてシゲの顔を見返すと。
……嫌な感じがした。
笑っている。
だが。
「そいつとオレ。どっちがええ?」
「そいつって誰だよ」
「さあ、知らんわ」
「お前こそ椎名とどうなんだよ。」
「気になるん?」
当たり前。当たり前とは言えなかった。
竜也もそんな自分に戸惑う。
「いや、別に。」
「さよか…」
けど
「俺はよくないんや」
−−−−−痛っ!!
突然。ぐんっと体が前に引っ張られる。見れば、両の手首をがっちりシゲの手が掴んでいて。
目の前には彼の顔。
「何すんだよ。」
「何がいけんのや?」
・・・・・。きつい目で睨んで来る竜也を見てシゲがせせら笑う。
「3日もあわんかったんやて、やる事なんてきまっとるやろ。」
「今、気分じゃ無い。」
そういって腰を引こうとする竜也をシゲが許さない。
「俺は今したいん」
顔を歪め、だがそれ以上竜也は逆らわなかった。
「・・・・。わかったから、放せよ。」と
ふと力を抜いたシゲの指からもその手は逃げなかった。
ただちょっと非難めいた視線をシゲにくれてから。手首についたくっきりと紅い指の跡にちらりと竜也が目を配る。
「ああ、すまんな。」
低い優しい口調だった。
同じようにその視線の跡を追ったシゲが今掴んでいた手首を今度は優しくなぞる。
「いや、それより帰ろう。今日うち上の叔母が休みだからお前ん家………」
そのまま机板の角を挟んで上体を抱き寄せられる。
ずしりと首筋に埋められたシゲの頭。ふわりと嗅ぎ慣れた彼の匂いと体温を感じる。
背中にまわった彼の大きな手の平が暖かい。
シゲ?
「なあ、あんたもう俺にあきたん?」
「……まさか。」
「たつぼん、俺ん事見捨てんといて……」
どれもこれもいつもの彼のおふざけ。だが低い声がそうは告げて無かった。
「バカな事いうなよ。」
「ほな良かった。」
耳もとにかかる吐息にヒクリと竜也の頚椎が動いたのがわかって、それにシゲがフと微笑む。
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・・・・・。暫く好きなように抱きつかせていた竜也だが、切なさを振払うように軽く息を付くと
シゲの背中に片手をまわしポンと軽く叩く。
「ほら、もういこうぜ。」
苦笑まじりの竜也の声が聞こえる。
「ぬれるのいややろ、めんどいわ。」
子供のようにごねながら、竜也の首筋に口付けそのまま斜め後ろへと滑らせていく。そして、その場所に強く吸いついた。
「ちょっと……シゲ!」
鏡を見ても気付かなかったのだろう。首のくぼみの裏に付いたキスマークに。
「なあ、ええ?もう耐えきれんのや。」
少しの躊躇。
顔を上げたシゲの真面目な顔に見つめられると嫌と…言いかけたものの。ちょっと頬を赤らめながら言葉を飲み込む。
「たつや」
目をそらした竜也を呼び戻し、そのつがいに手を添えると。普段は鋭い切れ長の瞳が黙ってシゲを向き、
それから静かに閉じられた。
差し出されるそれにふかく口付ける。
腰にまわした左手で体ごと引き寄せ抱き締めると。竜也の腕もシゲの首にまわった。
離れてまた絡む。
笑うシゲの、目の奥に揺れる冷たい色に竜也はまだ気付かなかった。
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気分は最悪だった。
すっかり日の落ちた商店街を一人早足で通りぬける。
が、一歩踏み出すたびに体の奥で鈍い痛みがこだまする。
くそっ。
気を抜くと悔し涙が溢れそうで、黙々と前へ、と進んだ。
小振りにこそなれど、止まない雨に。握りしめた傘は何の役にもたっておらず。
頭からずぶぬれの竜也を、まばらに行き交う人影がたまに目線で追っていった。
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まさか、あいつに。
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飼い犬に手をかまれるとはまさにこの事だと思った。
舐めていたわけじゃ無い。だけど。何処かで、自分が優位にたってる自信があったのかもしれない。
いや、あった。
そしてそれは事実であったに違いないのだ。……そうこうしてな。
だけどあんなのは、
もう。恋人なんかじゃ無い。
と思った。つくずく自分の安穏としたおめでたさに嫌気がさしたが、今はそれを責める余裕等無かった。
身勝手なのもわかっていたが。
雨に混じって、体温のある雫が頬を伝うのがわかった。
視界がぼやける事にすら苛ついて。人が通り過ぎるのを確認すると、思いきり腕の項で拭った。時
「おい、」
「おい、おい。」
!!
どっかで聞いた。いやもう嫌って言うほど聞き慣れてしまった声がした。それが今呼び止められたのは自分だと告げる。
ツタヤの軒下で雨宿りする、いや今出て来た所に運悪く自分が通りかかったと言った方が正しいのか、
三上の姿があった。
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