同級生
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「よー、おつかれー」

選抜の帰り、蛇口の水を止めて、ちょうど流しから顔を上げた自分にかかった、

明るい声。

「ああ、お疲れ」

振り向くと、自分以上に汚れたユニホームの若菜が、そこに立っていた。

自分の横へすっと並ぶと首に掛けたタオルをするすると抜いて流し台のコンクリへポンと置く。

他のユースの2人には無い彼らしいその無造作な仕草に、その時つい目を見張ったのを、

今でも覚えている。


郭と真田と若菜。

クラブサッカー時代から、当然の様に自分も良く知った名前だった。

実際戦ったのは何度位だったか。

今となってはもう遠い記憶の中にあるけど、

その中でも、実を言えば

若菜結人とは

小学校が一緒だった。

一度も同じクラスにならなかったし

あいつも俺も、クラブの方が忙しかったから

学校で遊ぶ様な事はめったに無くて。

あの頃は、顔見知りでありながら知り合いとも言うに言えない仲だったけど、

今になってようやく…時々何となく交わすあの頃の会話が

ああ、やっぱりあの若菜だよな…と自分に思わせた。







「あ、わりぃーぬけちった」

「ちょっ…痛っ…おまえっ・・…」

全く、こんな時まで無造作何だからこいつは…と、

断わりも無しに、再びズブっと刺し入れられれば、色声より先に文句の一つも上げたくなるのは仕方の無い事。

決して、がさつとは違うのに、

時にこの朗らかな軽薄に救われもするけれど

こればっかりはどーしても繊細なABの竜也には理解出来ない、O型人間っぷり。

「ま、いーから、いーから、」
「ほら腰上げとけって、」

しかめっ面の竜也を気にする事も無く、カラカラと言い放つ姿は

色気も何もあったもんじゃ無い。


それでも、何となくこいつといると楽なのは何故なのか…


郭や真田も、やっぱり同じ事を思ったりしてるのだろうか?…


例えれば、リスかビーバーか?…

くてんと枕に顔を埋めながら事の後だと言うのに、元気にカップ面の湯を沸かす彼を見ながら

ふと思う。

可愛い顔に似合わず、男相手にもバテ無いこのスタミナは流石ボランチと言うか…

立派だ。


「で、お前さあ、結局何?あの金髪と付き合ってんの?」

「いや…」

「マジで?」

と差し出されるペットボトルを受け取ると、

ベットにうつ伏せになったままの俺の横に腰かけて

イシシと笑う。

「へーじゃ誰何だよ?」

「そーいうお前こそ、…どっちなんだ?」

「どっち?」

すこし考えてから、あっと言う顔になって

「おい、俺が一馬達に手−出す訳ねーだろ、見くびんなよ!」

とぬけぬけと言い放つと、自分の頬を軽くつまんで行く手を、片眉を上げるだけで見逃してやる。と言うか、もう腕を出すのも面倒臭くて、見送った。

「へぇーー…」

セフレとも言い切れない、チームメイトな関係。でも昔なじみの顔と言う。

「それで俺と?」

下から含み笑いで見上げれば、

むっとして、

「わりぃーかよ、お前があんましけ込んでるから景気づけてやろーと思ったんだよ。」

とふくれっつら。

「・・・・!」


呑気にしてると思えば、よく見ている事…

やっぱり伊達にユースじゃないって事かと思う自分に、思わず苦笑。


選抜合宿2日目。

誰かさんとの角質のお陰で、ストレスがたまっていたと言えばそうかも知れないけど、

まあ、そんな事を理由にする必要のある関係じゃ無いから。

こいつといるのは…楽なんだと思う。

口は悪いけど、こいつの当たりはいつも柔らかい。

この気軽な人なつこさがそれを救う…

時々、よくこれでこいつあの真田とマブで居られるもんだと思う程、

まあ天真爛漫な毒舌が炸裂する事もあるけれど、

不思議とでかいもめ事にはならない

郭がいるからか?

むしろ、いつも決定的なケンカになるのは、郭と真田の方だ。


「お前達って良いよな、」

「まーなー!」

「お前影うすいけどな。」

「どこがだよ、」と今度こそ飛んで来た軽いグーを笑いながら平手で受け止める。

「お前こそ友達いねーからってひがむなよ」

「なっ、俺だって別に…」

とムッとして見上げれば、いかにも

俺は昔から知ってるもんね。と言いたげな

…いししと笑う人の悪い顔をした、ブラック結人の顔。

「俺は、狭く深い付き合い何だよ。」

「俺だってそーだぜ!」

べつに広く浅くが悪いなんて一言も言って無いのに

ちょっと自慢げに言うその子供っぽさと来たら…べっトの中とのギャップに何も言えなくなる。

て言うか、お前はど−見ても。器用に渡ってるんだから、それでいいだろうにと…


「何だお前一馬見てーな事言いやがって、」

「…真田?」

「おう、」

そう言いながらお茶を飲み干す口元がどこか嬉しそうに笑っていた。


・・・・。


「ちっと似てっかもな、あいつとお前。まあ、英士よりはお前は一馬だな」

「そうか?」

こいつは気付いてるんだろうか?

それってつまり、


その時

「あ、ヤべ、英士帰って来るぞ、」

と窓の外に視線を飛ばしていた結人の腕が竜也の背中に掛け布団の上から当たる。

「え、あ、ああ。」

急いで身を起こし服をかぶる。その間に若菜は、ベットを直して軽く窓を開け…



身支度を整えてからすっかり暗い窓の外を竜也が覗いた頃には

郭の姿はもう見えず、

変わりに、グランドの端を歩く、あの金髪の姿があった。



甦って来る胸の…


拾う神あれば

捨てる神ありか


どの道、あいつとは必ず向き合う事になる。



思惑に沈みそうになった竜也を引き戻したのは

後ろで響いた結人の声。

「げっ、やべ鍵忘れた!」

はっと我に帰り

「違うそれ左だ、左。」

「嘘付け…」言い終わらないウチにがちゃっと音がして…

間一髪。郭がノブを引いたのと、結人が鍵を外したのは殆ど同時だった。


「あ、結人。」


「よお、かえりー」

それから奥に居た竜也に気付いて郭は「・・・・。」

けれどそれ以上何も言わず。

「あいつ来てたんだ?」

と竜也の向いのベットへと荷物を降ろしていた。

「よー一馬、何だお前またかよ…」

「うるさいな!」

後ろで聞こえる悶着に時々気を配りながら、

用を済ませると

「ちょっと、そこで騒がないで2人共。」

「何だよ、えーしその言い種!」

「あ〜わりぃわりぃ〜」

消灯だからと、二人を部屋に返していた。






「まるで保護者だな。」

夜。枕を抱えながらこちらにぽつりと言った竜也に、布団に入ろうとした郭が振り向いた。

「まーね、」

それから、

「…本気じゃ無いだろうな?」

横を向いたまま竜也へと聞く。

「当然、今日が…たまたまだっただけだよ」

やっぱり、言われると恥ずかしいのか、少しどもって言った竜也に

「ならいいけど…」と背を向けようとした所で、

「あいつは真田が好きなんだろ?」

の声に、郭がこちらに向き直る。


あ…

思わず言ってしまった後で、コレは…不味かったかと

背筋が冷たくなった瞬間。


「それはいいけど、困るのは」

「?」

「一馬が君を好きだって事だよ。」


「ーーー!?」


聞き返す前に「お休み」と言われて、常用灯の明かりが消えた。

関西戦を前にまた一つ煩悶の増える竜也だった。




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コレは…コレも、果たして若水と言っていいのか謎ですが。リクを頂いて早速挑戦してみました;
やっぱりちょっとずれている…わかってる(涙;)すいません、そして有難うございました!









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