好きなままで長く
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風祭がドイツ行きを決めて、2ヶ月。

そろそろ皆、彼の居ない生活になれて来た頃。


初めはずっとそれ所じゃなくて、

考える暇も無かったそれに、やっと気付き始めていた。


ぽっかり空いた大きな穴。

きっと、あいつが居なくなってそれを感じていない仲間は居ないだろうけど。

自分の感じているコレはきっとも誰とも違う…。


離れていても心が繋がっている分、前よりずっと近くに居る気もするし。

むしろそれが誇らしくもあったけど。


もう一緒に弁当を食べる事も無い。

歩く事も

話す事も無い。

ここにいない。

気付けば気付く程、その現実は容赦なく自分に迫って来るのだった。



U-15合宿。


ガラス戸に映るとぼとぼと1人廊下を歩く自分の姿、あいつの事を思い浮かべるのは、

こんな時だ。

『一緒に居た時は、別に考えもしなかったのにな…』

ふと漏れる苦自嘲を振り払う様に、前へ向き直る。

その時ちょうど、向こうから歩いて来たのは


シゲ…


隣には、あの2トップの吉田。

さっさと新しいパートナーも捕獲して、相変わらず明るい様子の彼に、恨み言の一つも浮んでしまいそうになる前に視線をそらしていた。



まるで、何もかもいっぺんに失った気分。



「なあ、あれ君んトコの美人さんなんとちゃう?」

「ホンマや、ようタツボン、」


「よお、」

ごく変わらない様に交わす挨拶。

もう取り乱したりはしない。

別に友達を辞めた訳でも、嫌いになった訳でも無いんだから。

けど、もう前の様には戻らないと

決めていた。

「何所行くん?」

「ちょっと自販まで。」

「あー…やっぱ?」

と顔を会わせる関西コンビ。

「?」

「今な、つりが出てこん言うて藤村が蹴ったら。ジュースまで出て来ん様になってもうたん」

「なっ、お前がやれゆーたんやないか」

「何言うとんねん。誰が自販にドロップキックきめろ言うたん」

「大体あれはな…」

何やかんやと楽しそうに掛け合う二人を見ているのも…嫌で、

ふと視線を反らすと、

「ああ、じゃあ風呂場の方回るよ。」

と、二人の会話が終らないウチに横から短く切ると、クスリと笑みを向けてから、そのまま通り過ぎて行った。







「…なあ藤村、あのままでええん?」

過ぎて行った背中を見ながらノリックがぽつりと言う。

「さあ…」

結局、あの大騒ぎにおされて、なあなあになってしまった竜也との確執。

もっとちゃんと上手く話せば話せない事も無かったけど。

「赤ん坊やあるまいし」

一から十までつべこべ口に出すのは性に会わんし、判らない様やったら、それまでの奴っちゅう事何やと。

「そー言う馴れ合いっていややねん。苦手なん…」

と渋い顔で笑う彼を、吉田が眉を顰めながら見ていた。

だから


「ええんとちゃう?」


大体今さら何を話し合うと言うのか。

向こうがすでに過ぎ去った事にしている以上。

こちらの方からほじくるなんて、言い訳しに行くのも良い所。

「不自然やろ。大体なんでノリックがそこまで気にするん?…」

まさか

「タツボンに惚れとるんやないやろな…」

言い終わらないウチに「何言うとんねん」と鼻で笑い飛ばされるが

その視線の先は少しも笑っていなかった。


「ただな…、僕は今のがなんだか不自然な気がするだけなん」

「そか?」

「けどな、考えてみ、別にこれ以上どうしようもないんやで?」

俺に何て言え言うん?

苦笑でそう言われてしまえば、

「せやな…」

とその横で黙るしか無いノリックだったが。


「あの背中見てもそう思う?」

最後に冗談まじりにそう言うと、きょとんとするシゲを真直ぐ見てから「ほな行こか」と進路へと振り向いた。


あの背中。

言われて始めてその視線の先をたどった数十メートル先のそこには、


「ーーーー!?」


肩を丸めて頭を落とし

ちょうど向こうからやって来た知り合いに背を撫でられる竜也の姿。


何が…?


「藤村?」

「おー今行く。」

振り払う様に振り向いて、一寸先で待っていた吉田にならんで再び歩き出した。



頭を垂れたあの後ろ姿。

何故かそれがあの出会った頃の小さな背中と重なっていたのだった。








「水野?」

「どうしたの」

二人と離れてどのくらいだったか、歪む視界をさんざん堪えて早足で歩いたけど

ここが限界だった。

溢れて来る涙を誰かに見られないウチにと、思いきって両手で拭ったその時

角を曲がって来たのが、彼等だったのだ。


良かったのか、悪かったのか


「どーした英士?」

「あれ水野!?…具合わりぃーの?」

風祭がぬけてから

いつの間にかこの3人や、杉原達と良く居る様になった自分。


「泣いてるの?」

言葉と一緒に背中を撫でる指が優しかった。









就寝時間を2時間過ぎた、テラスの上。

昔の自分だったら、こんなことしただろうか、

…判らないけど、風祭だったらしただろうな…

思いながら。

見上げた空はいつかと同じ様に星が散っていた。


「まだねないん?」

予感が、ないと言ったらきっと嘘になった。

でも、後ろから突然掛かった声に思わず、振り向きそうになって、慌てて止める。

「ああ…」

「俺はもう眠いわ」

聞こえて来たのは欠伸まじりの声

…?

じゃあねろよと、折角のムードを壊されてむっとしながら言い返す前に、頬に当たる缶ジュース。

肩ごしに振り返る前に後ろから抱きすくめられていた。

「!?…シゲ?」

この位の冗談は普通にしそうな奴だから、怖い。

「今日意外と寒いやろ…」

「はよ帰ってねーへん?」

背中に感じる彼の体温に自然身体が強張って…

何でこんな

シゲなんかに何で自分が緊張しているのかも判らずに。


「なあ…タツボン、」

「・・・・。」

「泣かんでな。」

どきりと跳ねる心臓。

見られて、いたのか…

「俺な、どっちかつーと。タツボンみたいなタイプはダチとして苦手や。…遊べへんし。」

「・・俺だって。」

常々思っていた事をよくもこうはっきりと…

「けどなんかこう…・・なあ、わからん?」

「何を?」

あ…

抱き締める腕が強さを増して、かっと焦りに体温が上がって行った。

「惚れとんのや」

「ーーーーー」

「後の事はよう判らん…」


くすりと笑って彼は何も言わない。

待つ時間に居たたまれなくなって

つい振り向いた肩ごしに、極普通に重なった唇。


「……」


離されると同時に息の上がる自分に、にっこり微笑んだその笑顔を睨み付けていた。

「ほな、寝よか。」

はっとして赤面する自分に


「たつボン。そっちやないで。」

と笑い混じりの声が耳たぶを掠めて行った。

「ちが…」

慌てる自分に満足そうな笑み。

「ほなそうしとく?」

「・・・・。」



「あれ?」

黙って顔をそむけた自分に、

同じ様に暫く、彼の頬も熱かった。




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古い話しです。まだコミックにもなって無いのに古い話。意味不明小説終り。







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