トワイモワ-------------------------------------------------------





「三上先輩。」

振り向けばまたあの女。

「あんだよ。」


…またこいつかよ。

めんどくせえ。

このブス!


内心、思いながら。

開け放たれた教室の後ろのドアの前。すっと立っていたのは、薄茶色のショートヘアに薄いフレーム眼鏡の女。

横を通り過ぎながら、自分をしげしげと見て行く男子達に、時折ちらりと反応しては眉を顰め、こちらに視線を戻していた。

「今日のOB会…」

「今掃除中なんだけど?」

「じゃ、また後で来ますから…今日こそ。ちゃんと出て貰わないと困るんで。」

「・・・あ〜わーってるよ。」


出る訳も無いと思いながら返す生返事に、向こうも少し困った顔で言葉につまっていた。


「三上先輩…。」

「ああ?…」まだ何か用かと振り向けば。

「…そのセーター、違反ですよ…」

思わず眉間に皺のよった俺の顔を無表情で見返すと、それだけ言って去って行った。


「・・・・っ」あのブス。



「あれ、水野さん。」

廊下の向こうから聞こえて来るクラスメートの声。


良いのは顔だけ。

無愛想で、小姑で、先輩に媚びへつらう術すら知らない。

黙っていれば、騙されて言い寄る男も多いらしいが、

どうせ長くは続かない。

アレは女じゃ無い。


と思う矢先に、

「タツボンやないかーー!なあいい加減俺と付き合わへん?」

とぶちきれる水野に遠慮なしに抱き着いてる金髪に、俺は思わず握っていた黒板消しを投げていた。

「何するんや−!っぶないわ。」


全く。

どいつも、こいつも…

気にくわねぇ…



その日。掃除の終った教室で、独り窓を眺めていた。

どーせ近藤だからと上履きのまま前の机に足を載せて、椅子に深く沈む。

ちらっと視線を下した先、目に入ったのは、昇降口の前で数人の陸部に捕まる水野の姿。

自分を迎えにこようとでもしたんだろうか、丁度出て来た彼等と鉢合わせして…

まあきっとそんな具合だ。

他人相手ならヘラヘラしやがって。

思う。

何度も断って、こちらにこようとする度、話が変わって…そんな感じでまごついてる様子が。ここからだと良く見えた。

確かあそこの元部長があいつを気に入ってたとか言う噂…


ま、どーでもいい。

くだらねぇ。


大きな欠伸を持っていたマンガで思わず隠しながら、窓から見えているんだからこないのは判っているのに、

いつまで立っても戸口に現われないその姿に、イラ付いていた。


・・・・・。


入って来た頃から「生意気」は持病で。

ただそのちょっと整った顔が一目を引いては居たけど。

少なくても良い意味で目立つ女じゃ無かった。

おまけに仕事は完璧で、男には興味もくれないフリ…

そのくせ

あの眼鏡がコンタクトになったのは、渋沢が部長になった頃だったか。

『所がそいつに男が居ると知った時のあいつの顔と来たら…』

思い出してクックと独り笑い。


あーーくだらねぇ。

・・…。

それにしたって、遅い。


いつも見てーにさっさと断ればいいのだ。

私は硬派ですって顔してよ。

「だったらそんな短いスカートちゃらちゃらちゃらちゃらさせてんじゃねーよっ。」

「犯すぞ!」


『ああ!?』突然外から響き渡った大声。

眠りかけていた意識が引き戻されたと同時に、胸の上の雑誌が床へと滑り落ちる。

な、なんだ!?と急いで窓の外を覗くが、水野の姿は見当たらず、

ついさっきまで彼女と楽しげに話していた男が一人。校舎に向かって憤怒していた。

「???」

ああ…

またやりやがったな…

思う。

言い寄る男の数だけ敵を増やしてやがる。

いつまで立っても、断わり方は上達しないらしい…

派手な音を立てて、転がっていたサッカーボールを壁に叩きつける音を聞きながら、もう一度足を組み直して椅子に座り直した所へちょうど。


ガタンとなる教室の扉。

息をつきながら飛び込んで来たのは、水野竜也。


「よお…」

「どうも…すいません、遅くなって…」

すこし頬が赤い。

「ああ、遅すぎ。もー行く気ねーから。」

「こうして…来たんだからいいじゃないですか。」語尾が荒かった。

卑猥な罵り声から走って逃げて来たばかりの心中は、まだ怒りと差恥で一杯と言った所なのだろう。

息を整えながら近付いて来る彼女を視界の端に見ながら、机から足を下げて一応座り直す。

「…またやりやがったの?」

「別に…あんまりしつこかったから。」

「あんたも付いてねーな。ああいう男ばっかり次から次へと…」

ククッと笑う声にも同じない。

「・・・時間遅れるんで。」

「つーか、今あんた昇降口通れねーじゃん。」

「道なんて、幾らでもありますから。」

「・・・・。」

「来て下さい。」

嫌な顔で振り向いた三上にも、平静をよそおった顔。

だがその瞳の奥にいつもの余裕はなかった。それに気付いた三上がふいにクッと低く笑う。

「なんです…」

言い終わらない内に、すっと伸びた手が眼鏡のフレームを摘んで、耳から抜いて行く。

現れたのは、そこら辺のグラビアではちょっとかなわない、鮮烈な顔立。

「行ってもいーけど?」


「それは、マネージャーさん次第かなぁ?」


自分を見上げながら唇の端を上げて行く三上に、

凍り付いた様に黙った水野の手から、やがて鞄が滑り落ちた。




水野竜也が桐原監督の娘だと、

知っているのは極一部。

俺がそれを知ったのは偶然で、向こうにすればそれはとんでもない不祥事だった。

うちの学校は、職員の身内の入学は認めて居ないから。

知れればどちらかの退学か移転が決まる。

どちらかと言えばそれは…

校内でも賛否両論が飛びかう彼に射り矢がささるのは、目に見えていた。

前理事の意向の元、異例の若さで役員就任した桐原総一郎を、快く思って居ない古株は多い。





初めて抱いた時は処女だった。

俺はあいつを強迫した事なんて一度も無い。

あの日から、あいつ自身が俺を見張り。そうして、ほのめかす俺の陳腐で傲慢な要求に答える事によって、出そうになる芽を摘んで行くのだった。





机に肩ひじを付いて、見物する俺の目の前で、スカートの中に入れた手が下着を下げて行く。

今日は薄紫のベルベット調の生地。

まずは左足から抜く。あんまり屈むと後ろ側から見えるのが嫌みたいで、膝の辺りで止めて、そこから足を曲げて抜いていた。

このアングルは、何時見ても意外と好きだと思う。

片手の中になるべく小さく丸めた下着の片方を持って、残りの足をゆっくり抜く。

小さく縮まったその布切れをカバンの中に押し込んでしまえば、

まだ何もかもきちんと着そろったただの制服姿。

堅い表情で、顔を上げる。乱れた髪をかきあげる時に俺と目が合って、慌てて顔をそらしていた。

馴れた物を装っていても、…悔しそうに噛み締めた唇は見逃さなかった。


「スカート上げてよ。」


ベストから脱ごうとしていた奴に、判っていながら、命令を下す。

「・・・待って。」

一瞬手を止めた竜也だったが、小さくそう言うと急いでそれを頭から抜いていた。

ブレザーはコレだから不便だ。



「三上先輩。」名前を呼ばれるだけでムッと来るような、そんな女だった。

取っ付きにくい堅い言い口調。口から出るのは必要最低限の挨拶か、皮肉ばかり。

はっきり言って、あんなの可愛がっていた年上は、渋沢位だ。

違う意味で興味を持ってる奴は何人も居たけど。


それが今、自分の目の前に居る。

そう初めの頃に感じた優越も、今ではすっかり薄れていた。


セックスなんて以外とつまらない物だと、気付いてしまっていたからかも知れない。



裾より少し上のプリーツを両手で握ったまま、その手は止まっていた。

俺の視線を感じて、タイミングを掴み損ねたのだ。

俯きながら、息を飲んでいる。

ほんの1.5メートル先と言うのは目の前より嫌なプレッシャーだろう…

知っていてわざと見つめる。

「時間、ねーんじゃねーの?」

その声に一度躊躇した握りこぶしが、静かにスカートの前だけを胸の高さへと持ち上げた。


「・・・・・。」


…何だかんだ言いながら。

身体は正直に反応したが、そんな事表には出さない。

「良い格好だね、水野さん、」

俯いたまま、さっさと放せば良い手はスカートを掴んだまま。一歩も動けなくなっていた。

両の頬から流れる涙が床へと落ちて行く。


俺は何をしてるんだ?

憎たらしい奴だと思って来たのに、

こんな姿が…俺は本当に見たかったのか?


最近何もかもが、下らなく見えるようになったのはコレのせいだったのかもしれない…と

気付く。


「もーいいぜ。」

そう言って席を立った三上に、竜也がぼんやりと顔を上げた。

固まっていた指の関節をゆっくりのばすとスカートを元にのばし、皺を払う。

急いで涙を拭ってから、サブバックを持ってこちらを向いた亮に向き合う。

つり眉にタレ目の白い頬。

「いいんですか?」

いつもの顔を作ろうとして語尾が震えていた。

至近距離まで近付いて、頭の後ろへ手の平を回すと、驚いた様に目を見開いて視線のやり場に困っている。



自分のすぐ真上から見下ろして来る三上の顔。行為以外でこんなにまじかに見るのは初めてだった。

自分には無い色素の色。

自分が渇いた人種なら、彼は濡れた人種。

意地の悪さに呆れたり。全く違うのに似てる趣味にショックを受けたり…

思い出しても良い事なんて出て来ないのに。どうして惹かれたのかは、今となってはもう判らない。

ただ…惹かれてしまった。

「おいで。」

声と一緒に頭を引き寄せられて。

戸惑っている暇等無かった。

「三上…先輩?」

言いながら流れて来る涙が自分の物だとは思えなかった。


終りにする気なのだ。


言われなくても伝わったその一言が、胸にささる。

髪を撫でる温りを残酷だと思った。

恨むのは、こんな風にしか側に居られなかった自分。



暫くしてその胸から顔をあげれば、自然と重なる唇。



従順などいらない。俺はお前を手に入れたい。







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いつもの様に突っ込み所は満載ですが、大目に見て頂けると嬉しいです(-_-#)



























































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