タイムズ 後編
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「あれ、あんたのおじさん?」

「お前に関係ない。」

空き地の土管の上に少し離れて腰掛ける二人。

手には杏の鼈甲飴。

ちらりと横を見れば、白いYシャツが夕日に照らし出された竜也の横顔。

関係ーねーも何も、もうバレてんだけど。と横をちらっと見ながら苦笑。

あの憎たらしい桐原だと言うのに、…やっぱり、その顔のせいか。

弛んでしまう緊張感。いやむしろ…

見れば見る程竜也とは違うのに、ふとした瞬間は全くそっくりだったり。

特にこうやって気まずい時、外では完璧にこなすポーカーフェイスが三上の前では何故か、おぼつかなかったり。

それは付き合う前から変わっていなかった。

きっと竜也に取って三上はキャラの相性が悪いのだ。



「何故、俺にかまう?」

ぽつりと桐原が口を開いた。

「何が?」

「毎度毎度…」

「は?」

「何のつもりで俺に付きまとうんだ!?」

「つきまとう?」

「答えろっ!!」


確かに、

三上と桐原が親しく無いであろう事は一目見た時から感じていたが。

この過剰な狼狽ぶりは何か…。

「つーか、俺。あんたの事初めて見んだけど。マジで。」
「あんたそっくりの知り合いならいっけど。あんたに会うのは初めてだぜ。」

瞬間、ばっとこちらを振り返り、何か言いたげに口を開きかけるが…激昂を飲み込むと再び横を向いた。

「・・・・。なら…このまま何も思い出さずに、二度と俺に近付くな。」

ゆっくりと紡がれる言葉。

「ああ?俺がテメーに何したってんだよ。」

強い瞳が暫く亮をじっと見つめていたが、やがて何かを諦めた様な顔を見せると、その場から立ち去ろうと土管を飛び下りた。

「あ、おいっ!」

再びその手首を掴む。

振りほどかれると思った手は、意外にもそのままで…

亮に背を向けたまま今度は微動だにしない少年桐原。彼も何かに迷っている様に見えた。

「何も覚えていないなら、今さら話す事はなにもない!」

語尾が微かに震える。怒りで…?

『未来から来ました。』なんて言えない限り、下手な嘘を付くより多くを語らないで居る方が良かった。

これが茶番でないと知らせるに良い方法はないかと模索する反面。

…んで俺がこいつにんな気使わなきゃなんねんだよ!と思いつつ。

ど−考えても、理由はその顔以外思い浮かばなかった。ぜってー騙されてる。

くそ。この吊り眉垂れ目!(自分もだったが)


「俺は、三上亮っつーんだけど。」

しぶしぶそう声を上げた三上に、初めて桐原がマトモな顔でこちらを振り向いた。

驚きは隠せない。だが、やっとその背の高さや顔の作りを目で追い始める。

さて、どーしようか…迷ってから。

「何でそんなに恨まれてんのか知らねーけど。あいつに何されたって?」

「----・・・・。」

そのセリフに絶句したまま桐原が凍り付く。そしてその顔が崩れて行くと思ったら、何故か見る見る内に頬を赤くして、眉を寄せたままそっぽを向いた。

「ーーーー!?」

「・・悪かったな…忘れてくれ。」

絞り出す様にそう言った桐原を亮はまだ離さない。

「俺、人探してんだけど。ちっと手伝ってよ。」

早くここから立ち去りたいと言わんばかりの彼に向かって、デビルスマイル。










どんっと胸板を突き放され身を離すと、激しく噴気した顔で自分を見上げて来る竜也を嘲笑する。

「安心しなよ。俺が用があんのはあんたじゃないから…」

「ど−言う意味だ?」

三上じゃないのに、恐ろしくそのセリフは三上で。

絶対あいつの先祖だ。

思うも何もパツ一で辿り着く答え。

噛まれた首筋からじわじわと痛みが伝わって来る。

道行く人がちらちらと竜也を心配そうに見て行くが、声をかける者は居なかった。

「そう睨むなよ。あんたはちっと違う」

そう言うと、怪訝な顔の竜也をよそに一人くっくと笑い出したのだった。

「実はあんたんとこの総一郎君に会いたいんだけど。」

「…総一郎!?」

「そう。」

「…会ってどうするんだ?」

親父か…なんて思ってる場合でもなく、こういう場合。こんな奴に身内を会わせたくないと思うのは、当然の立ち回り。

「話があんだけど。家知んなくてさ。」

竜也から身を離したものの。今だその肩の横に両手をつき、逃げられない様に捕えたまま。

妙に真面目な顔でそう話しかけて来る。

「嫌だ…って言ったら?」

「あんた、あいつに恨まれるぜ。」

さっきまでの薄ら笑いは消えていた。

竜也の顏を正面から見据えたまま離さない。

それは、ほとんど強迫に近い威圧感。

嫌な、何て嫌な奴。

「今日は家には居ない。どこにいるか俺も知らないね。」

竜也の顏をじっと見たまま言葉の真偽を読み取ろうとする視線に、息が詰まる。苦い汗が耳の横を伝って行った。

『こいつ、似てやがるな。』

物おじせずに、否むしろ自分を真っ二つにでもしかねない眼光でにら見上げて来る竜也に、つい、苦笑がもれる。

その様を見て身構えた竜也に、もっと笑いたくなるがそれは堪えて。

「あっそ…」

暫くしてから、軽い溜め息と同時に竜也への威圧を解き。両の手をどけ様とした瞬間。



「三上!何をしてるんだ!」

「あ、」

通りの向こうから駆けて来る、あの見知った姿と…その後ろには

何だあいつ!?

自分そっくりな黒髪が駆けて来る。

「三上!!」

その途端、自分の腕の中に居た少年が弾かれた様に声を上げた。

それから止まる。

走りよって来た桐原も一瞬竜也を見て言葉を失ったが、

すぐに「きっ」と怖い顔で三上へと視線を戻した。

「何をしてるんだ?」

「ベっつにぃ〜。あんたのお友達とお話してただけ。」

そう言いながら竜也の横から手をどけ胸の位置で万歳をしてみせる。

するりとそこから抜出した竜也が亮の横へと納まる。

「そーは見えないがな。」

「まぁそ−怒るなよ。用はもう済んだから平気だって」

「彼に何をした?」

「何も。」

そう言いながら、今度は桐原の顎に手をかける。

「!!…」

「あんたに用があっただけ。」真面目な顔で。

驚きつつ、その手は払わずに睨む桐原。

「あんたが俺の事避けてっから、会わしてもらおうと思っただけ。」

「別に…避けてない。」

そう言ってちょっと彼から視線をそらす。


それを見て今度は竜也が口を開こうとした所を…

横から亮に引っ張られた。

「ちょっ…何」

「いーから、行こーぜ?」

「どこに?」

「そこら辺」

「お前…放って置く気か?」三上はともかく、片方はウチの親父だぞ!と耳もとで騒ぐ竜也を

「あーうるせー」と思いつつ引っ張って行く途中に。

急に静になった竜也の方を振り返ると、

ちょうど店のガラスに写る二人の姿に竜也が目を見張って居た。

ちっ…。せっかく気を使ってやったのによ。なんて舌打ちしながら自分もしっかり見入っていた亮。

今、人通りの隙間に見えた二人の影が、重なってたような、重なってなかった様な・・・。



暫くして再びその腕を引っ張ると、竜也も無言でついて来た。


「これからど−するんだ?」

「知るかよ。」

「・・・・あの人(三上)は誰なんだ?」

「家の親戚…多分な。」

「だろうな…」
「お前の親戚不良だったぞ。」

「お前の親父は石見てーのなんのって。」

今思えば同じ制服を着ていた二人。

不良と学級員ね・・・。

何を聞いた訳じゃないけど、何となく想像が付いて…後ろを振り返るとぱちりと目が会った竜也も、同じ事を考えてる様だった。

どちらともなくフっと笑みが漏れて…もっとも竜也の心中は微妙だったが。

(まさか親父が…なんて。)


その瞬間。
真後ろでした物凄い破裂音に、振り返る二人。


人の悲鳴と、砂煙りで何が起こったのかさえ判らなかった。ただ。

吹き飛ばされた民家のトタンが頭の上に落ちて来るのだけははっきりと覚えていた。







「あ、豆腐忘れた。」

豆腐屋のガラス戸を閉めた瞬間にそう言った竜也に三上びっくり。

「はあ?」

「!?…あ、いや。」

一瞬、口走った自分のセリフにキョトン…とする竜也。

何言ってんだ俺は。と言う顔でちらっと横を見ると、さもつっ込みたそうな三上の顔があって、慌てて前に戻した。

「お前、今日夕飯一人?」

「まーね。」

「・・ウチ来るか?」

「お前んち何?」

「天ぷら。」






戸を開けると見なれた顔が帰る所だった。

「あら、お帰りなさいたっちゃん。」

とかかる声の手前で固まる二人。

げ。

「何であんたがここに居るんだよ。」

開口一番、靴を履いていた桐原をねめつけた竜也を見事に通り越して、

「三上!?」

彼の注目は後ろへと飛ぶ。

とその時、

自分を睨みながら竜也が真理子に手渡していた籐カゴに目が行く。

見ていた。

真理子が受け取って奥へ行くまでそれを

見ていた。


「・・・・。」

「やっぱりお前も見たんだな。」


桐原を見て無言になって居た三上に横から竜也の声。

「ああ?んな訳ねーだろ。」

まで言ってはっとする三上…だった。




「母さん、あのカゴ。」

「ああ、あれお父さんの。」

「何で家に?」

「さあ、気付いたらあったのよ。」

「ふーん。」



結局、食事しながら真理子がダイニングに置き忘れたソレから視線の離れない桐原と、それをサバ目で見る亮に、笑いをこらえる竜也だった。






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こんなの三水じゃない(涙)と言うかもう三桐ね…もう何を書いているのやら。











































































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