タイムズ 前編
最近当り前の様に付き合っているミカミズ、いかん、これでは…(^^;
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「たっちゃん、ちょっとお使い頼んでも良い?」「え?」
夏休みの夕方の事、部活から帰った竜也の元にひょっこり真理子が顔を出した。
今やっとソファーに座ってクーラーを浴びていた竜也の前にカゴを差し出す。
「お豆腐、買って来て欲しいんだけど。」
「やだよ。」
Yシャツの首を掴んでパタパタとしながらやる気ゼロの竜也の前に出てもう少し粘る。
「ん、でもお母さん今手、塞がっちゃって。ね、お願い。」
そう言う真理子の左手は確かにパン粉まみれ…一昨日から旅行に行ってる祖母の代わりに1人で台所を切り盛りしていた。
核家族の桐原家とは違って、水野の家を1人で家事するのに奮闘している様だった。
「…分かったよ。」
と言いながらコーラに手を伸ばし、中々席を立たない竜也だったが。
「天ぷら終わっちゃう前に帰って来てよ、」
の声に重い腰を上げた。
あー暑い。
玄関を開けるとムッとする外の空気が肌を包む。
夕闇の住宅街。小道を通って商店街へ出ると、角の焼き鳥屋から焼けた肉の匂いが流れて来てくうと腹がなった。
豆腐屋はその3軒隣に有る。
力なく握ったカゴから財布を…カゴ?
ああ、しまった。
いつもだったら財布だけ取り出して来るのに、バカ正直にこんなカゴ持って来てしまうとは…。余程惚けていたらしい。
ださ…。
大体真理子だってこんなもの使った事ないくせに、古い籐で編んだ四角い…まさに「ノビタ君」の買い物カゴだ。最近真理子が竜也に買い物を頼む時に使い始めた小道具だった。
こうなったら誰にもあわない内にさっさと帰ろうと決めて、豆腐やのがラス戸を開けた。
「すいませーーん。」
と奥にさけんだ竜也の後ろから、つんつんと誰かが背中をつつく。
ん?と振り向くと。
「み、三上…」
「よ、何してんの?」
「ちょっと買い物。」
「ふ〜〜ん。豆腐?」
背中に汗たらたらの竜也にもお構い無しにカゴにちらっと目を配ったが、別段。
思ったような冷やかしは飛んで来なかった。
「お前は?」
「あ、隣の焼き鳥。」
へー今晩は焼き鳥か…お前は塩派か?タレ派か?とどーでも良い話に花が咲きかけた時、
「はいはい。」と奥から出て来たお婆ちゃんが、「御注文は?…」と竜也を見るなり「あらまあ、」と破顔した。
「?」
昔からここへは来ているけど、この人は初めて見る。いつものおじさんとおばさんは留守なのか?
「総ちゃん、TV見たわよ、あんたスゴイじゃない。」
後ろにいた三上を押すような形になったが、2人して一瞬引きかけた。
「あ、はあ…。あの豆腐下さい。2丁。」
「ああ、お豆腐ね、はいはい。」と言いながら生け簀に手を入れたお婆さんに
「あ、木綿じゃ無くて、衣の方下さい。」
「衣?珍しいね、あんたいつも木綿やったから。」
「はあ…」
??
そうなのか?と言う顔の三上に首を横にふる。
大体めちゃめちゃ標準語のおじさんおばさんに対してこのお婆ちゃんの関西弁がもっと異質で、思わず看板を読返してしまったが。
店…間違って無いし・・・。
まあ、いいか。相手は人の良さそうなお婆ちゃんなんだから。多少惚けていようと…
と笑顔で「どうも。」袋を受け取った竜也に、「ほなおおきに、」
「納豆おまけしといたからな…さっかーやっけ?頑張ってオリンピックでてな。」
と顔を皺くしゃにして相手は笑った。
一瞬袋を落としそうになる竜也。
その後ろでもう三上は幽霊でも見ちまったとでも言う…凄い怪訝な顔で立っていた。
何とか愛想笑いで店を出た後。凍る。
「納豆だってよ。」納豆の食べられない竜也に納豆をまけたんだから…もう
「すごい人違いだったな。」
「若い奴は全部そーちゃんなんじゃねえの?」
幾ら惚けても客商売、気付かないモノなのか?
しかしサッカーまでかぶってた上に。
竜也と年が変わらなくて、TVで見てたと言うんだから…高校生?
そしてこの辺にすんでいるらしい。
「そうちゃんて誰だよ…。」
「…桐監。」「そりゃ、」そーちゃんだけど。竜也の中じゃふざけてもそう呼べるキャラでは無かった。
そんな事をつらつらと小声で話ながら豆腐屋の軒下を一歩でたその時。目の前に突っ込んで来た一台のトラック。
『ヤバイ、豆腐!』三上に引っ張られ地べたへと転がった瞬間、最初に竜也の脳裏をよぎったのはそれだった。
「あ…っつー・・・。」
と上半身を起しかけ、少し離れたところで同じ様に起き上がっている亮の無事を確認すると、
手元の豆腐…あれ?
周りを見渡してみても、竜也が想像するような白い残骸もカゴも見当たらない。
どこまで飛んだ?
「…大丈夫か?」「ああ、お前こそどーよ?」
と不機嫌な声で答えながら、自分の前で顔を覗き込む竜也の顔に視線を向け…
「いや、俺は。」
ん?
顔は確かに竜也なのだが。
そのこげ茶い髪の色。もっとミルクをまぜたような明るい発色だったハズ…。
昨日?は会ったし。今日変えたんだろうか?
幾分きつい眼差しで三上を見るその顔も、彼の記憶と何かが違っていた。
「・・・・・。」
来ている服も、確かに今さっきと変わらない学生服なのに。
どこか古めかしく見える。
買い物カゴを片手に持ちながら、足は素足にローファー。
不審に思う亮がもっとはっきり竜也の顔を見ようと表を上げると…。
「三上っ!?」
とあからさまに気まずそうな顔をして、差し出そうとしていた手を引っ込めたのだ。
はあ!??
おい、んだこの態度は。
「いきなり飛び出して、何考えてるんだ。」
あっけに取られた亮に自分の顔を見られるのが嫌なのかフイッと視線をそらし、そう不機嫌にまくしたてる。
「ああ!?テメ−がぼーーーっとしてたんだろーがよ!」
「なっ、俺が何時!!」
睨み付けて来るその眼光に一瞬誰かさんが重なって、
瞬きの亮。
何?今のショックで頭打った?マジで。
こいつ、誰?
顔は竜也なのに。これじゃ間違い無く桐原総一郎だった。
「これ。」
とそのまま三上に買い物カゴを押し付ける。
「はあ?何だよ。おめーのだろ?」
「違うのか?お前の方から飛んで来たからそうだと思っただけだ。」
と腹立たしげに言うと、再びムッとなった彼はそのままカゴを持ってすたこら去って行こうとする。
「!?おいっ。っこいくんだよ?」
「交番だ。」
おいおい。自分の豆腐と納豆持ってかよ…。
「・・・・。」
眉を顰めながらも、もやもやとした疑問に絶え切れず。
仕方なく三上はその後をついて行くことにしたのだった。
こんなに空き地が多かっただろうか、それにしたって世田谷には珍しい農家みたいな庭の家が多いのなんのって、
何となく感じていた違和感を。
もしかしたらそうかも知れないと思い始めて行たその時。
辺りを見回しながら歩いていた亮の数メートル先で、竜也顔の少年がピタリと止まって振り返る。
「何の用だ?」
「別に…。」
これを聞いたらやばいかも知れないと思いながら、口をつく言葉。
「つーか、あんた誰?」
ぎょっとなった相手が怒りを露に口を開きかけ、だが真面目な顔で聞いて来る亮に押し黙る。
弓なりの細い眉はきつく顰めたまま、
「……お前も一緒に届けた方が良さそうだな(交番に)、…それとも病院か…?」
「ああん!?ざけんな!いーからおメーの名前言やいーんだよ!」
こいつ、本当なのか?と言う顔を浮かべた後、
「俺は…」彼が言いかけた途端、後ろの角を曲って来た羽織姿の初老の男が少年を見て目を見開いた。
「総一郎!!」
響く怒調に少年の言葉は途切れ、彼は弾かれた様に降り返った。「伯父さん。」
「お前…、今ちょうど先生がいらしてお帰りになった所だ。」
「・・・・」
「お前また、黙って塾をさぼったそうじゃ無いか…」
「…すいません。どーしても抜けられなかった大事な用が…」
「また、サッカーか?」
一段静かになった口調が逆に恐ろしかった。
「恥をかかせおって!」パーーンっ!と威勢良く頬を張られてよろめく少年。
亮、唖然。
「これ以上約束が守れないなら、サッカーは禁止だ、」耳まで真っ赤になった頬を抑えながら、その言葉にきっと伯父を見上げた彼が物言う前に、畳み掛けられる言葉。
「誰がお前の家の養育費や治療費を出してやってると思ってるんだ?」
「お金はちゃんと俺が返します。」
「玉蹴り遊びでか?」と鼻でせせら笑う。
「バカな事を言うな、お前にはちゃんとした教育をさせて、然るべき所へ上げてやる準備が私には有るんだ。お前に少しでも感謝の念があるなら、私の言う事をきちんと聞いて、今やるべき事をするのが礼儀ってもんじゃ無いのか?」
亮、唖然、ぼ−ぜん。
「総一郎。…お前は長男だ、自分がどれだけの責任を背負ってるかよく考えて行動しなさい。」
「いいかね?」唇を噛み締めたまま前を見据えていた少年。
隠し切れない激昂に瞳が揺れていた。
その様子を見取ってか、伯父と呼ばれた男は小さく溜め息をつくと立ち尽くす少年の横をすっと通り過ぎて行った。
すれ違った亮の事をちらっと見ていたが何も言わずに、カラコロと引きずる下駄の音が遠ざかって行く。
マジで総一郎かよ…。
自分に背を向けたまま首をうなだれてる背中を見つめながら、何をど−しようか迷っていたが…ふいに少年が肘で顔を拭う仕草を見せ、そのまま歩き出そうとしたので、思わず呼び止めた。
「おい、」
「ーー。」
「…お前んちもすげーな。」
「余計なお世話だっ!」
背を向けたまま走ろうとした少年の腕をその時三上はとっさに掴んでいた。
「離せっ!」
「なっ…」
振り解かれるとは思わなかった。背丈や体つきは竜也と変わらないのに、しっかりとした骨格に、強い筋力。
・・・。すげー完璧昔の子感有り有りなんだけど。
振り解かれた手にあっけをとられた亮だったが、振り向いた拍子に涙を拭った後の頬を見られた向こうも、一瞬動きを止めていた。
「そのカゴ、やっぱ俺んだわ。思い出した。」
「・・・嘘を付け。」
「嘘じゃねーよ。」
「お前は信用出来ん。」
「なんで?」
三上も、気付いて無い訳じゃ無かった。
さっきから自分を見る彼の目や態度、何より「三上」と自分を呼んだ事。
まさかこの少年桐原が三上亮を知ってるとは思えない。
だとしたら、思い当たるのは1人だった。
三上の両親はサッカーとは縁も所縁も無い企業エリートだったが、
そ−言えば遠縁に1人だけ居たのを思い出す。
けど、確か素行の悪が祟って早くに事故で他界したとか…森への入学が決まった時親戚の叔母に聞かされたのを頭のはしっこで覚えていた。
ふ〜〜ん、まさか桐監とまで接触があったとはね…因果だ…なんて思ったり。
「・・・・。」豆腐も見当たらなければ、振り向くと三上の姿まで消えていた。
なによりも、
見なれたはずの商店街の景色が、そこには…無かった。
角からパン屋、弁当、本屋、マック。曲ってギャバクラのハズが…
タバコ、ガラス、カステラ、金魚、…曲ると農家!?
どーなってるんだ?
当然アスファルトだと思っていた地べたは茶色い…
マジかよ・・・。
頭でも打って、夢でも見ているのかも知れない…と記憶を探っていたその時、
目の前のタバコ屋に見えたその姿にほっとするより先に、とっさに声をかけていた。
「三上!!」
振り返った白いYシャツは紛れも無く彼で。駆け寄って来る竜也にやや顔を顰めたが、
「ああ?」
といつもの口調で返した。
「大丈夫だったのか、良かった…ここ」
そう話しかけて行くうちに、三上の顔が嫌なものでも見る様に歪んでいるのに気付いて、竜也は言葉を切る。
・・違う?
眉の形も目の端も同じだけど。
何かが違う。
あいつはこんな目をしていただろうか?
「何だテメ−?何か用?」
タバコ屋の店台にちゃりんと放る様に小銭を投げると、無言で差し出されるタバコを取り。その場で開けながら竜也へと向き直る。
「つーか、何その色?」
「・・・。」
火をつけ終わったマッチをぴんと指で弾いて地べたへ飛ばすと、竜也の髪の毛を指で摘んで流す。
「こんな事して、とうとう勘当でもされたわけ?」
喉の奥でくっくと笑う。三上の笑い方。
だが…違う。
「失礼ですけど…お名前は。」
「はあ?」
真面目な顔でそう言った竜也を笑おうとしたが、ふと怪訝な顔に打って変わると、
黙ってその顔を覗いて来る。
すっと伸びた手が竜也の頬にかかる髪を掻き揚げると、耳もとで火がついたままのタバコがちりちりと言った。
「お前誰だ?名前は」
「…あんたこそ?」
「?テメ−さっき俺の名前呼んだじゃねーかよ、」
「知り合いに似てたんで…。悪かったな」
「あんた桐原だろ…」
!・・・・。
「・・・まあね。」多少戸惑いながらも、ここがどこだかもう判っていたから、
後々面倒にならない様にと彼に従って置く事にした竜也。
へぇ〜〜。と竜也の上から下までじろりと見回し。
「あいつに弟が居たとは知らなかったぜ。いや、双児か?」と一人ゴチする。
三上に似ているけど、三上とは違う。声の低さも、笑う時の顔つきも、そのとても良いとは言えない素行の仕草も。まるであいつの悪魔的な所を全面にだしたような…。
背の高さもやや高い。
「で、あんた俺を誰と間違えたって?この顔の三上なんてこの辺じゃそーはいねーんだけど?」
「・・・・。友達。」
「何つ−友達だって?」
「!!」
タバコ屋の横の家板にダンっと押し付けられる。
一瞬驚いた顔をしてから、すぐに下から彼を睨みつけてくる竜也に、薄く笑うミカミ。
「あんたの兄ちゃん?従兄弟?…に実はちょっと世話になっててさ、ヒマなんだったらちっとツラかしてよ。」
「悪いけど…」
二の句は告げなかった。
首筋に寄せられた唇が強くその腱に歯を立てたのだった。
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最近調子でません、酷い文章でスイマセン;何か笛が…(涙
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