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「やあケースケ君。」
「おースガ。」
帰り支度をしていた東海の部屋へひょっこり顔を出した須釜は、ケースケの顔を見つけると二コっと微笑む。
手招きされて手早に荷物をまとめて出て行くと、「ちょっと話さない?」と連れ出されて…
暗闇に広がる緑の横を並んで歩いた。
幾度もくりかえし見た光景が、今日は何だか違う。
否、そう思ったのは俺だけかも知れなかったけど。
何か空気が…そうか、須釜が喋って無いからだ。と言う事に気付いて隣を見た時、
らしくも無く睫毛を伏せたあいつの横顔が飛び込んで来て、どきりとする。
「どーしたスガ?」
「ああ、ごめん、ちょっとね」
こちらを振り向く顔はいつもの笑顔。
「ケースケ君さあ」
「おー。」
「このまま帰っちゃう?」
「?…ああ、そりゃ帰るけど?」
「そうだね。」
「…また電話すっからさ。」
「最後に一勝負したかったんだけど。」
あっ、そ−言う意味かと気付いた時には。…くそ、俺はてっきり…。う〜〜ん。
だが、「そんなに俺のコト好き?やだな〜ケースケくんたらv」位
聞こえて来ると思ったら、珍しく俺の取り違えに突っ込む事も無く、
ただ笑った須釜の顔がどこか寂しそうに見えて、
戸惑う圭介。
視線を前に戻しながらポリと頬をかく。
「スガの高校ってどんな何だ?」
「うん、まー関東じゃまーまーの所ですよ。」
「何か強そうだな?」のほほんとしながら凄い須釜の様に…。と苦笑。
「それなりに。そ−言うケースケ君のトコはどうなんですか?」
「おう、俺んトコも強豪だぜ。」
「ケースケ君じゃ、あっちこっちから推薦来たでしょう?」
「そりゃ、お前だって同じだろ。」
何時からか、同じ学校だったらとか…。もっと近くに住んでたらとか、そんな事を考える様になって行って。
再び会う度にそれは強くなって行った。
この気持ちを何と呼ぶのかはまだ判らずに、ただ純粋に見上げれば微笑む彼がそこに居る事を嬉しく思う。
そんな感じ。
今だって昔だってきっと、馴れ合わないからこそ、俺達はひかれあっている様な気がしていて。
これでいいのか?と思いつつ、コレでいいのだと、
結局胸に秘めた思いを口にする事はないまま、夜のグランドの端から端へと歩いた。
「じゃあお休み。」「おーまた明日。」
それだけ言って離れて行った圭介の後ろ姿を、須釜が少し振り返って暫く見ていたのを、彼は知らない。
「今度会う時こそ決着つけたいねv、楽しみにしてますよ。」
「ああ。またな」
と面々の集まる駐車場で堅い握手をかわす二人。
「あれよかばい!」俺も俺もーと風祭に行くフリして水野へ駆けて行こうとした昭栄が、功刀に足をかけられ地面へとダイブして居た。
「おー須釜だ。」ちょうど東京選抜のバスのすぐ横で談話して居た二人を結人が見つける。
「やっぱでっけーなーこいつ、」
バスの窓から頭に手がとどきそうな高さに思わず喜ぶ結人。
「おい、ちっと一馬も見てみー。」
「ちょっと結人…一馬も…」
と二人の後ろの席からは英士の呆れ声。シートから顔を出して二人を見ると、思わず結人につられて窓際に詰めて居た一馬が、ちょっと赤くなりながら元に戻った。
「いよーポチにタツボン!」突然、東京選抜の車内に聞こえた声。
…シゲだ。…シゲさんだ。
声のする方を見れば、ちょうど隣のバスが関西選抜で、その車体の横から手を振る彼の姿。
「ほな、また東京でな」
「もー帰ってこなくてもいーんだぞ!」
叫ぶ竜也に「ああもう」と苦笑いの風祭。
「なにゆーとんねん!タツボンまだ根に持ってるんか〜?」
「タツボン?」
その時竜也の椅子の後ろでぼそっと呟かれた声に、青くなった竜也が過敏反応する。
ゆっくり、車内に視線を戻せば。声主の郭は本へと視線を伏せた後で。
思いっきりこっちを振り向いている隣の真田に、既に笑っている結人。
後部座席の鳴海なんか、嬉しそうにこっちをみながら不適な笑みでニヤ付いて居た。
っく・・・。
車内を一景してからゆっくり窓の外へと向き直った竜也に、カザが嫌な予感を感じた瞬間。すでに西園寺をとっ捕まえて、ナオキと二人でナンパがかっていたシゲの小間に、すごいコントロールでペットボトルがヒットした。
「ぃ…った!」とさすがのシゲが思わずよろけた瞬間、
「ちょっ!僕の男に何すんねん!!!!」
すかさずこちらの窓下に駆けて来た2トップの片割に、ぴっしゃっと窓を閉めた竜也。
あぁ…もう…ああ。とあわあわする風祭の横で、
窓の外できんきん声を張り上げ怒るノリックを、ふんと嘲笑する水野。「な、何やあの態度!ちょっ藤村−!!」
と彼が真っ赤になって振り向けば、ちょうどシゲとナオキの頭にげんこつが降ってる所だった。
「いってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「このクソガキ共が!!!」
「あーーどーもすんまへんね〜。」と西園寺に笑いかけると、小柄な癖に、その腕っぷしで金パ二人を引きずって行くグラさん野坂。
「吉田〜〜最後の奴は罰金やで〜〜」「いややわ!なんで僕が。大体監督の便所が長過ぎんのが……」
とにかく。長い4泊5日は終りを告げたのだった。
握った握手をゆっくり離す。「またな…。」
「うん。」
最後に小さくそう言いながら、軽く拳を合わせた。
「ねえケースケ君。」
「おー」
「今度あった時には、ちょっと話し有るかもv」
「あ、ああ。俺も!」
笑顔で去ろうとして居た須釜がその声に一瞬驚いた顔を見せて止まったが、
にっこり笑いながら一つ頷くと、今度こそ本当に背を向けて行った。
それを暫し感動に似た思いで見送る圭介だったが、やがて赤くなった頬を両手でポンポンと叩くと自分を呼ぶ声の方へ駆けて行った。
まだ冷たさの残る風の中鼻を鳴らすと、遅咲きの梅の花が香っていた。
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何となくスガケイ。ちょっとつなぎに…。
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