そしてその手を・・
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離れたって、気持ちは変わらないと思ってた。いつでも側に居ると信じていた。
「タツボンっ」自分を呼ぶ声に、振り返る。
「ああ、シゲ。」
「何ぼーっとしとるん?」
などといいつつ、当り前の様にポンと肩へ回される腕。
「シゲ…」
「何や?…平気やって、誰もそんな目で見てへんて、」
「・・・・。」
「ええかげん、かわっとらんなぁ〜」
ムッとする俺を見ながら、カラカラと笑う笑顔。
そこまでとは言わないけど、最近じゃちょっと地元は歩きづらくなって。
暫くはシカトで通しても、こうシゲが隣に居ると2倍も3倍も目立つせいかそうは行かず、手を振るファンに(若い子ならまだしも中には…)苦笑いで返す日々。
昔良くここで話した、なつかしい平日の公園。
風祭の復帰によって戻って来た、新しいリズム。
俺の周りは、続いて行くそれぞれの道へと走り出していた。
時間にすればほんの数年なのに。アレからもう随分長い事立った気がする。
「なあタツボン、」「何…だ」
振り向きザマに軽く何かが唇に触れて、それがなんだったのか竜也が認識する前に
シゲが笑いながら離れて行った。
公園を抜けて歩き馴れた道を行く。最近壁を塗り替えた古いカフェの白壁が夕日に照らされて、浅黄色に染まって行た。
「そろそろ真面目に考えてくれへん、俺の事。」
それは幾度となく渡された言葉。
最近はもう、言い返す気力さえ無くなっていた。
「…そうだな、」「ほんま!?」
意外、と言う顔で目を見開いた奴を軽く睨み付けてから視線をそらせば、
「ほな…期待せんと待っとるわ…」
の返事。
「何だよ…それっ」
言い返すが、そんな事まで俺に言わせる気か?と目で言われて、それ以上は何も言えなかった。
高校卒業と同時にサッカーを辞めた三上は、今は都内の大学に通いながら少し離れた町で1人暮しをしている。
会わなくなって、もうどの位になるだろうか…
シーズン中は忙しいからとか、
帰ってくれば、今度は向こうがテスト中だとか、サークルだとか、
お互いが気を使い始めたのが始まり…だとか、多分そんなのは嘘で。
いつの間にか、途絶えたメール。
自分だったのか、あいつだったのか、もうそれすら思い出せない。
いっそ黙ってケータイ事変えてしまおうかと、何度考えた?
あいつはもう…別れた気で居るのかもしれない…それならと…幾度となく押し掛けた番号を消した。
昔はもっと好きだった気がする。…否、今だって…
気持ちが離れた訳じゃ無い。
『だったら何であいつは電話の一つもよこさないんだ?』
俺はそうじゃ無いけど。
あいつはそうなのかも知れない…
矢の様に過ぎて行く季節に押されて、忙しさにかまける振りをして、気付いたら、
もうこんなに遠くに来てしまっていた。
ベットに寝転んだ拍子に目に付いた小説。確か…ここに、もう随分前からサイドテーブルのそこに置き去りにしてあったのを思い出して、しおりの様にはさんであったそれを取り出せば。
去年の春に来たあいつからのハガキ。一度も行った事のない、マンションの住所が書いてあった。
電車に20分程乗って降り立った町は、あまり自分の所と変わらない。
駅前の商店街は夕暮れ時のにぎわいに満ちていて、パンの焼ける匂い。肉の焼ける匂い。
この町の何処かであいつが暮らしているのだと思うと、自然すれ違う人波の中にありもしない姿を探していた。
アポも無しに家を飛び出して、やって来たものの…
2回目の曲り角をまがって、あいつのマンションがオレンジ色の空に見えだした頃になって、
やっと、不安が襲う。
居るかどうかすら判らないのに。
留守だったら?…だったらまだましだ。もし居たら…
いきなり押し掛けてあいつはどんな顔をするだろう…
一番下はコンビニになっていて、脇のエレベーターから上へ上がる。コンクリ作りの立派な鉄筋に、清潔な感じの白い壁。
大学生の一人暮らしにしては、結構良い所だと思う。
いや、普段出入りしてるのがシゲの所だからそう思うのか?
あいつの家の事はそう知った訳じゃ無いが、中学から全寮制の私立に入ってた位なんだから、
『あいつだってボンじゃないか…!?』
急に思い当たった言葉に、昔あいつが散々人を小馬鹿にした台詞が浮んで、ムッとしてから…苦笑が漏れた。
思い出せるのは懐かしい口調…
ふ〜〜ん。坊ちゃんでもんなもん食うんだ?
・・お前の分だよ。
は?…あ、いんねーから。ふざけんな。
何となく手に取った豆腐プリンを意味も無く押し付けあって、
何でケンカになったのかもう忘れたけど。
辺りの壁と同化するような、白いドア。表札は出ていなかった。けれど、戸の脇にかかっている傘は確かに見覚えの有る物で、
2度息を飲んでから、チャイムを鳴らした。
もう一度。
・・・・・。
やはり留守だった。こんな時間じゃまだバイトも終って無いだろうし、消沈?と言うより…ほっとしながら、後ろの手すりへとそのままぺタンと背中を付いた。そのまま少し身を仰け反らせれば、
5階の空気が頬にあたって行く。ちょうど左手に大きな夕日が見えていた。
バイトと、授業と、資格の勉強。淡々と流れて行く毎日に、もう時間の感覚まで薄らいで行く様だった。
目的の有る奴に取っちゃ4年なんてあっと言う間だ。
同じ事を繰り返す日々に、何もかもが味気を失って行く。
取りあえず寝て。時々遊んで。また寝て働いて。
時々TVに映るあいつの姿を見ながら、いつ会おうかと…
そう言えば最近ロクに声も聞いて無いと思いながら、…結局代わり映えのない日々の中、あいつに話せるような事も無くて、ケータイを置く。
たまたま目に付いた週刊誌の端切れに、名前も知らない女タレントとあいつの小さな生地。
へぇ〜…。
どんな女か見てやろうと面白半分に手に取ったその時、
その違和感はなんだったのか、
その時始めて俺は。…何時の間にかあいつと住む世界が違っていた事に…気付いたのだった。
じゃあ、俺は何の為に?
答えは何所にも無い。
違う道を。それでも背中合わせに進んで行たもりだったのに、
気付けば、俺達は、すっかり二つに別れた後だったのだ。
ああ、冗談じゃねえ。何でもっと早く気付かなかったのかと笑いたくなる気分。
自分から電話する事ばかり考えていたが、じゃあ、あいつは一体何やってんだ?は…。
やってられっかよ。
俺はテメ−の為に生きてる訳じゃねんだよ。
その…はずなのだと。
だが、あの温もりを信じる事が出来なくなる事が、こんなに辛い事なんて、思いもしなかった。
その日は珍しく、恐ろしい程の夕焼けが家も壁もアスファルトも白と言う白すべてをぬり尽くす様に、辺りをオレンジ色に染めていた。微かに紫色の混ざる青い空気が空を覆っていて、
見えて来た自分の家のマンションを何気なく見上げたその時。
自殺?おい、しかも。
自分家の前の囲いから身を乗り出す誰かの影。
おい、ふざけんなっ、もう半歩でいいから隣ん家でやりやがれ!心の中で叫びながら(相変わらず最低人間振りを発揮しながら)
しかし、近付いてみればその影は、
あと、どの位待っていようか、あてもなくぼんやりとそんな子供のような事を考えて居たのは。
こんな空気のせいだったかも知れない。
赤かった西の空が次第に青と混ざって行って、風が冷たくなり出す。
それでも、ここから動こうと言う気にはなれなかった。
鍵をなくした子供の様に、あいつの帰りを待っていた。
居たかった。
俯いている内に、眠気が交じって来たのか、茫漠としだした意識の中、風が動いたのも判らなかった。
突然、肩にかかった腕に驚いて…顔をあげれば、
「…三上…」
息を切らしたあいつの顔が、目の前に会った。
喜ぼうか、驚こうか、何から言おうか、迷っている内にポンっと頭を叩かれて、
「入れよ、」
とぼそっと言われる。
不機嫌な声が、照れ隠しなんだとその顔を見なくても判って。
思わず笑いと一緒に、ポタリと落ちた雫がコンクリに染みて行った。
自分でも驚いて、いそいで目頭を拭う。
ドアを開けて、何かを言おうと丁度振り向いた三上が、開きかけた口を思わず閉じていた。
玄関が閉まるなり、重ねられた唇に息の根を捕らわれる。「・・んっ…・・」
腰に回された腕にきつく抱かれて、その首を抱き返した。
言葉も無いままただ深く舌を絡めあって、
崩れて行きそうになる竜也を許さずに、ドアに押し付けたまま。幾度も幾度も吐息を重ねた。
「ぁ…っ・・…」
靴も脱がぬまま廊下へと倒されて、初めて竜也が三上の肩を軽く引いた。
「ん?」
最後にちゅっと音を立てて離れれば、
既に濡れて色付いた瞳がぼんやりと三上を見上げていた。
途端跳ね上がった自分の体温に、久々に自我が効かなくなってその服をぬがしにかかった所で、再び竜也に遮られる。
何だ?…大体こいつだって…
ズボンの上から探れば、やっぱり
既に堅くなり始めた竜也を探り当てて。力を入れてそこを掴みあげれば、息を飲みながら首筋仰け反らせる。
目頭まで赤くして三上を睨み付けてくるその顔を、くっと笑いながら…
だが、また止められる。
抵抗、と言う訳でも無いのに、自分の腕を軽く掴んだままの竜也に眉をしかめれば、
どう言おうか迷ってると言う顔になりながら。
「奥で…」
と上がる息の下で答えていた。
「・・っ……・・くつ…・」進み入った三上が思わず息をつまらせる程、彼の中はきつかった。
まだ三分の一も入っていないと言うのに、少しでも身を進めると、
うつ伏せになってシーツに顔を埋めながら、声にならない悲鳴を上げる。
そしてその度に三上を拒む様に内壁がきつくしまって彼を締め付けていた。
「きつい?」
そう訪ねる三上の声も心持ち高い。
中はすっかり溶けていて、三上を渇望しているのに、身体が言う事を聞かない。
「・・つい…・・」
「なに?」
熱い。
少しだけこちらに向けられた顔がそう言ったのを確かに三上は聞いた気がした。
とにかく埒があかないと、少し考えて、そして決める。
「ちっと…我慢な。」
その台詞に呼吸を合わせた竜也の波間をぬって、一気に最奥へと切り込んだ。
ー−−ーーー!!!
仰け反る身体。同時に上がった激しい悲鳴も何とかシーツに押さえれれて行く。
確かに…熱い。
奥へ進めば進む程。
まるであらかじめ湯でも仕込んでおいたのかと思う程の体液が溢れて来て。
細かく震える竜也の内癖を何とか耐えてやり過ごそうと。
頬を伝って行く汗に三上も息を飲む。
もう少年時代とは違う。もうすぐ成人しようとする身体は、今の自分よりはまだあどけなくも、
しっかり男の物なのに。
相変わらずなだらかな肌に、綺麗な双丘の形を保っていた。
「一年、誰ともしてねーの?」
「・・・たり・前…・だろ・・っ」
その言葉に、薄笑みを浮かべた三上が、動き出す。
明日の予定も、朝の事も、幾ら思った所で意味は無かった。
ただ熱を。
久々に聞いたその泣き声が耳に焼き付いていた。
「・・・・・。」目がさめると、夜が開けていた。
電気もつけなかったから、カーテンも閉めて無くて、
まだ色の付いて無い空から青白い光が差し込んでいた。
点々とシーツに散る血痕。
隣には、処女さながらにぐったりと眠りに入る竜也の姿。
取りあえず、起きたら何所から話そうか…などと考えながら…。タバコを捕ろうと寝返りを打った時。
「卒業したら…」
後ろから声。
「あ?」
振り向いても、伏せられた睫毛に一瞬寝言かと思った。が。
暫く観察しているとやがて大きな瞳が現れた。
「卒業したら?」
「引っ越すから。」
「…ああ、何所に?」
構わずくわえタバコに火をつける。
「・・・・ここ。」
「ああ、」
「あのカーテン、取り替えて良い?」
「は?ダメ。」つーかなぁアレは俺が…
「悪趣味だろ。ついてたのか?」
そこまで言って奴は俺の顔色を察したのか、急に押し黙った。
どうやら嫌味では無く。素だったらしい。
余計…ムカツク。
「・・・・・。」
強張った顔に、フンと皮肉に鼻で笑ってやると苦笑いしていた。
「ま、いーけど。離れてるとヤベーし。何かお前。」
「!それはお前…」
むっとして黙ってから、布団をかけ直すと「それは起きてから話す。」と眼を閉じていた。
お前って、マジ微妙な…
思いながら、自分もまた毛布に潜り込むと、向こう側を向く背中を抱き寄せてから眼を閉じた。
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原作をパロろうとして失敗。しかも、長い…
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