世田谷2-1-番外編
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はいカットっ。


ピリッと張り詰めて居た静寂が、どよっと和む瞬間。

すっと自分の上にのしかかって居た三上が離れて行くのを待ってから、セットの流し台の上に仰向けに寝かされて居た竜也も、手をかそうかと思った時には自分で起き上がっていた。

「おつかれ。」

「おつかれさま…。」

三上に軽い会釈と挨拶をかわすと、するっと場を抜けて行く後ろ姿を見送る。


「水野竜也役」の桐原竜也は。俳優桐原総一郎と、女優水野真理子(本名桐原真理子)を両親に持つ言わゆる2世で。

役柄と似たりよったりのサラブレッド。

七光りがどうとか言うタイプの一家でも無く。純粋に俳優業が板に付いている芸能一家と言う感じだ。

まあ…この世界じゃ別に珍しい事じゃないが。

某事務所のアイドルグループとして売り出し中の自分とは…やっぱりこう世界が違うっつーか。

普段はごく普通の少年で、お堅いわけでも無いし…むしろ、役柄よりは物腰の柔らかい美少年と言った感じ。

芸歴の浅い自分達とも何ら変わり無い素振りを見せてるはずが…。ひとたびスタートがかかると信じられない変貌を遂げる。

「まあ、まさにアレが役者っつーんだろーな。」と秘かに思いながら。

しかも自分が組敷く役になると、もっと違う。あの緊張感。激しいシーンじゃなかったのに、首筋を汗が伝って居た。

つくづく、自分達とは住んでる世界が違うんだと思わされることもしばしばだった。

今の所新人共演者の中でそれに気付いているのは自分位らしかったが。

遠くで竜也の首に腕をまわしてふざける、同じグループの藤代を見ながら思う。


「あっ、」

と言う声が上がって、藤代がこっちを向いた。

ん?

殆ど引きずる様にして竜也を連れてこっちに向かって来る。

「三上君、ちょっと、ちょっと来なさ-い。」

んで先生なんだよ。

「何〜?」

「いいから、早く早く。」

「あんだよ、」と言いながら渋々立上がって側に行くと、

「キスマーク。」

と竜也の首筋を指してわざとひそめた声で大袈裟に言う。

首筋を押さえながら苦笑いの竜也。

「あ?しょーがねーだろ。指示だもん。」

「マジで?」いちいち竜也に振る。すると、

「いや…。」

はあ?

「マジで!!??マジすか?…ちょっと三上。みーかーみーくーん。」

「指示だって。指示。おい、てめっ、きけよ。」

笑いながら、人をホモ呼ばわりの奴にケリを入れる。

ガキじゃ有るまいし。んな事でふざけてんじゃねーよ!

しかも桐原まで…。

ふざけて笑う二人の顔が無性に憎たらしく見えた。

俺はドラマ向いてねぇからとか口では言いながら、桐原竜也の演技に気持ちだけは遜色ない様にと、負けないつもりで頑張っていた。いや飲まれそうで頑張るざる得なかった。

常に一杯一杯。常に今自分の持ってる力のギリギリで演技してる俺の何がお前に判んだよっ。

あーーあったま来るっ!!

自分の気迫を笑われたような気がして。酷く不愉快だった。

「本当につけちゃダメじゃないすか、三上センパーイ。」

・・・・。

それは、だから。付け終わってから自分でも。アレはフリって意味の指示だったって事に、気付いたわけで…。

その位、桐原竜也と絡むと言うのは正直余裕なんて無いのだ。

大体、平気な顔でキスしといて、今さら何がキスマークだ。

と竜也を拗ねた顔で睨み付ければ、

俺の顔見て、ぷっと吹き出したのだ。

このヤローーーーー!!

思わず手がでてぺしぺしとその頭を叩くが

「あー…ごめん。ごめん。」と攻撃を腕で押さえながら直も笑い続ける竜也。

「辞めて下さい。やめて下さい。訴えますよ。はい、三上さんっ!」

まだやるか、そのごっこ口調。

今度は仲裁に入った藤代の頭をぺしぺしべしっ

「おお、弁護士呼んどけー」

とそこで再び再会の合図…。




待っているのは。この回最大の濡れ場シーン・・・・。


マじかよ。

ちっと待てよ。

と思いつつ、



今の今までお茶ら気てた癖に、横では真面目な顔でズボンを脱ぎながら監督と話すタツヤの姿。

「よろしくお願いします。」

「お願いしま−す。」

とかかる声に再び張り詰める現場の空気。

助監督の指示を仰ぎながら、ステンレスの上に再び寝転ぶ竜也。今度は黄色いエプロンの下は生足だ。

「じゃあ、始めこの位置から撮るからこっから前に出てね、」と

俺はその上から、決められた角度までゆっくりと覆いかぶさる。

幾度か立てた膝の位置を確認して、両手を竜也の横につく。

ふと視線をその顔に戻すと。彼の瞳はもうシーンに入っていた。


頭の後ろでカッチンが落とされる。


「ーーーーーーーーっ!!!!!」

弓なりに大きく仰け反った身体。


まさかとは思ったが、自分が身を進めると同時に上がる…嬌声。

一瞬気後れして、本当に、俺が入ってるんじゃ無いかと…

いや、そうだ入れてんだよ、俺は。と我に返りながら彼の放つ空気に飲み込まれて行く。

セリフの為に囁耳元に唇をよせると、本当に上気した頬の熱が伝わって来る。

何を言われなくても自然と身体が動いていた。


>目の前で痛みに歪められた顔、目の端から流れる涙。反り返って目の前に曝け出された喉元に軽く噛み付く。


本当に、俺はこいつとセックスしてる見たいだった。

「あ・・…ん・・ああぁーーーー!!!」


演技の為にやってるんじゃ無い。演じているけど。これもこいつの一部なんだ。

背中に本当に立てられる爪を感じながら、そんな気がしてならなかった。



カット。カットカット。



後ろから背中をポンポンと叩かれてはっとする。

はっとして前を見れば、涙で頬を濡らしながらキョトンとした顔で桐原竜也が俺を覗き込んでいた。

その上から本気で彼の腰を押さえ付けてる自分。

気付けば水を打った様にシーンとなっているスタッフ達。

「あ・・・」

やべ…。

「あ、すいません、」

慌てて身を起すと桐原竜也も起き上がって頬を拭い髪を整える。

その間誰しも無言。

「OKだから、次進むよ。」

誰も笑わない。

いや、笑えない事を俺がしたのか?

何かの弁明を求める様に竜也の顏を見るが、間が悪かったのか「お願いします。」と真顔で返されただけだった。

良いのか悪いのかも無いまま、(いや、いいからOKなんだろうが…)

再び詰めのシーンへと突入する。

冷静さを欠いていたせいで、どーみても位置が違うのに竜也を押し倒してしまい。流しの中にはめるわ(彼を)。めくんなくて良いのにエプロンめくろうとするわ、

俺はもうしっちゃかめっちゃかで・・・・。

自分でやっといて「大丈夫すか?」と竜也を流しの中から救出すると。

「あ、だいじょぶです。」

と向こうが、恥ずいのか照れ笑いを押し殺して居た。

そりゃそうだろ、すでにスタンばってるカメラさんまで「え?何やってるの?」と言う感じで顔を上げる。


ああ、俺最悪なんだけど。




それは最後のカットで起こった。


片手をぐしゃぐしゃになったエプロンの中に忍ばせ、た…時、ちょっとスイマセン、

と竜也が突然三上を押し退けて起き上がった。

「はい、どーした?」

と声をかける監督の方へ飛んで行くと、

「ちっと、いいですか。空気…」

その後は良く聞こえなかったが、彼が皆まで言う前に監督が休憩を出して居た。

どっとざわめく周囲の中で、自分の中だけが凍って居た。

『俺のせい?』

ど−考えたって気分が悪くなって飛んで行ったとしか思えない。今の様子。

そりゃ、コレだけ長い間男に組みひかれて…しかも喘いでれば。

俺だったら…病気にでもなりそうだ…。


だが。分かっていても、やっぱり…悔しい。



そろそろと引き上げようとすると、スタジオの隅に座り込む藤代と笠井の姿が有った。今日とっくにアウトした筈…。

俺の顔を見るなり、ニっと笑って小さく拍手した。

「?」

側に寄って行くと「お疲れー」「お疲れさま−」

と椅子を薦められる。

…見てたのか…と内心がっくし来た俺の背中を藤代がぽんぽんと叩いた。

「先輩、すげかった。」

「うん。吃驚した。」


「……。おー俺も吃驚した。」

4人グループの中で、ここに呼ばれているのは俺達3人。

偶然にも、プライベートで同じ学校の先輩後輩と言う事もあって、俺達は仲が良かった。

まーこいつらは余程じゃ無きゃ悪い事はいわねーだろ。…それに素で気付いて無いかもしんねーし。

「帰らねーの?」

「おー。ちょっと見てこーってたっくんが。」

「明日何時から?」

「明日ーーは10時から、」

「お前は?」

「俺は午後。」

「やべーじゃん。」

「そーだから、終わったらご飯食べ行きましょうーって。そっから俺仕事行こかなって。」

「ああ、んじゃそーしよ。」そ−言う気分じゃ無かったが、続きを取るには希望が必要だった。

よっぽど追い詰められてんな…俺。


「もーまったくもー」

と二人の後ろで口をとがらして居たマネージャーが俺に苦笑しながら手を振った。

コントドラマに、いやそーじゃ無くても、この異色の濡れ場シーンがあっちこっちで注目されているのは当たり前で。

二人が残して貰えた(マネージャーに)のもその一貫なんだろう…。



15分程して桐原竜也は戻って来た。

スタッフに深々と頭を下げ持ち場につく。


「すいません…。」

正面に立った俺にも小さく謝った。

顔を洗ったのか、髪のはしが少し濡れている。キリッとした顔で見据えられるとまた妙な感覚が襲って来る。


>片手をぐしゃぐしゃになったエプロンの中に忍ばせ、

下着のすぐ下の内股に腕をつけると。彼は細かく震えて居た。


大きな声と共に上がる現場。

「お疲れ様でしたーー。」

笑みの浮ぶスタッフの中で、俺と…桐原竜也の顏にも笑みは無かった。


今は明け方の5時。



始めて見たのは世田谷物語の元番組「ホイッスル」の顔合わせの時。

出演者全員が実名の、俺達には有り難い企画番組だった。

コレがあの若手トップ俳優桐原竜也か…。意外と地味だなと思った。

水野竜也の役だって、端から見る限りじゃ、なんで世間がそんなに奴を賛美するのか判らなかった。

自分達の演技をカメラでチェックするまでわ…。


朝のカフェ。寝て無いにも関わらずわき相相と盛り上がる二人の前で、俺は無言でコーヒーをすすって居た。

俺は…良くなってるのか、悪くなってるのか。

共演者に逃げられるって。ど−言う事態だよな。

出来なくて呆れられるならともかく…そんなに嫌かよ…。

それってアイドルとしてどーよ。あっちゃいけねーんじゃねーの?ま、確かにオレは濃い系だけど?

「はぁ。」

と小さく溜め息を付いた亮の様子を見て居たマネージャーが口を開く。

「亮君今日、あそこまでNGでなかったの知ってた…?」

「−ーー!?」

一拍おいて。

あ、そっか。

「…私が言うのもなんだけど…。男の子相手によくやったわね。」

それは褒め言葉だったが…。

「男?ああ…、」そーいや。組み敷いてるこっちだって男相手じゃ無いか…。

と今気付く。何故か、そんな事考えもしなかった。

良く判らないが、桐原といると男対男と言うより役者対役者で。

変な話、演じさせられてしまう引力があるのだ。そう…つい。

「明日も、アルからね…」

「明日…?」

「良い役に付いたわね。」

声をひそめて言う。

「中々居ない相手じゃない?今の内に上がるだけ上がっておきなさい。」











「お疲れさま。」

朝の5時だと言うのに、ほんの疲れも化粧崩れも見せない竜也のマネージャー水野孝子は。

彼の母方の叔母に当たる敏腕マネージャーだった。

ニコリと笑うその顔に「お疲れさまー。」と軽く口元に笑みを浮かべて返すと、車の後部座席に崩れる様に乗り込んだ。

「今日はこっち。疲れたから。」

「そうね、お疲れ、」

と言ってバックミラーに写った竜也の様子を伺うと、出しかけて居た煙草をしまってギアを入れた。

そのまま車は走り出す。

幾つ目かの信号で止まった時、孝子が口を開いた。

「珍しいわね。…何か気になる事でもあったの?」

「え?」

それはカットの後まで仕事を残すなんて、の「珍しいわね。」

「三上君役の…何君だっけ、あの子?」

ぐったりと肩ひじついた腕に頭をもたげて居た竜也が顔を向けてミラーから孝子を見る。

「三上だよ。」

「そう、あの子やりにくい?」

「ちょっとね。…何か。」

(俺の)…境界線の中に入り込んで来る感じ。

「相性は悪く無いと思ったのに…」

「そう?」

「あの子、マシな方じゃない。」

「まあ、熱心だけどね…」

そう言いながら不愉快そうに窓の外に視線をそらした竜也を見てとって。

「あら?」と言う顔をしながら、それ以上孝子も聞くのはやめた。


「ねえ、一つだけ良い?」

「・・・。」

「今日、どーしたの?」

あの時竜也は後を追った孝子さえ楽屋に入れずに部屋にこもったのだ。

「…何でも無いよ。」

心配から怪訝な顔を向けようとした孝子に、

態度で言いたく無いとかもし出す。


「そう。」


と言いながら向き直った孝子だったが…。

内心。

気付いて居た。



何だかんだ言ってタッちゃんは、まだまだ若いしね。

バレないように、含み笑い。








わかる人だけ分かってちょ(−▽−;) 完。







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ちょっと、書いてみたかっただけのタレント話。皆の実年齢は高校生です。
性格が妙なのは役者だから…。細かい所は読み飛ばし希望・・・。






































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