すいません最後まで普通ナリ(ーー;)
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吹きすさぶ風が降り出した雨を強く頬に当てて行く、

アスファルトに打ち付ける細かな飛沫から煙る霧が

道の先を青くぼんやりと霞ませていた

春の嵐の中。



今日再び来たこの道

歩き馴れたはずのあの懐かしい姿は

名残をとどめるも

もうあの頃の息吹を残している物は何も、無かった。

人っ子一人居ないこの道を

独り進む。


何故か孤独は感じなかった。


閉じた家々の戸、立ち上る

キナ臭い土の匂い

そしてその向こうへと続く河原沿いの車道

あまりに強い風に吹かれて裏返る

木の葉の裏の白。


絶えまなく当り付けて視界をぼやかす水滴に

さしてる傘等役にも立たず

竜也は静かにそれを閉じたのだった。




「あ、タツボン?あと1時間位遅れるわ、」

「1時間!?」

「すまんて、今あいつが…」


ついさっき全部を聞かないウチに切った電話。

最近できた彼女を、時々あいつは嫁と呼ぶ


「うちの嫁が…」と


あいつに結婚なんてな…

『できるのか?』と

思うとついもれる苦笑、

じゃあ昨日のギャバクラ通いは黙っておこう…と



しかし…

何故だか交ざる

どこかはじき出されたような

冷寂と、

それが…


他の連中がシゲに向けているものとは

違っている事にも、もう気付いて居た。





「俺なー結婚するかも知れへん…」

ひょいと横に背をもたげて今の自分と同じ様に蛇口の水をかぶりながら

呟かれた言葉…

「…・・あの子と?」

「せや」

「そうか、」

「えーやろ?」

「良いと思うけど、お前が旦那になれるかどうかじゃないか?」


「ちゃうわ、」

そう言って、ふざけながら竜也の額を濡れた指ではじいた。

その一瞬

まるで苦笑する様に自分を見たあいつ顔に

最後の諦めを見たのは、単なる自分の願望だったのか…


あの時、

引き止める言葉さえ出ずに

只一度だって

何も告げず、

だが何時だって、喉元にでかかって居た

あの思いを


今度こそ本当に自分は失ったのだと…

深く、思い知っただけだった。


気が付けばいつも側にいた…何て

涙に暮れる訳でも無く

そんな甘く等なれず


ずっと側に居た距離をずっと気付いていながら

最後まで、俺は指一つすら触れないまま見送った…


俺達の間にあった物を

何と呼ぶのか、俺は知らない

嫉妬、焦炎、安緒

それを友情と割り切れる程もう、幼くも無く

だがそれを、形にかえて認める程、まだ大人にも成り切れず



せめてあの時

お前が一瞬でも俺と同じであった事を

祈るだけ。







「あらたっちゃん、お帰りなさい」

傘無かったの?

ただいまも言わず、玄関先で靴下を脱ぎ始めた竜也に

ちょうど玄関前を通りかかって居た真理子が、驚くより先に洗面所からタオルを持って戻って来る。

「さしたけど、意味なかったから」

「そう、一番酷い時みたいだったものね」

髪から滴る雫が玄関一杯に並んだ靴を濡らさない様に、

タオルを受け取りながらそっと上がる…


家の中からは

線香の匂い

普段は決して居間では真理子が許さない

タバコの匂い。

居間のガラス戸越しには黒い背広の幾人かが並んで居た


今日は

桐原総一郎の一周忌


「シゲは遅れて来るって」

「そう、今日はお嫁さんも一緒なのよね?」

「まだ結婚して無いよ」

「こんな日に重なっちゃって悪かったわ…」

「逆だよ、あいつ御馳走食いに来るだけだから」

まあ…

そう言うと、心無し『お嫁さん』と言う単語を

嬉しそうに噛み締める母真理子を

ちらりと目の端に入れながらも無愛想にやり過ごす。







あっと言う間だった…

と言うのは本人には失礼かも知れなかったが

あんなに子煩かった父が

ある日

ある朝

ぽっくりと逝った。


胃潰瘍胃潰瘍だとばっかり思ってたら

脳卒中だってね…


それも、竜也君の日本代表入りが決まった日に


涙に暮れる親戚一同の横で

俯いたまま、微かに恥ずかしさすら覚えてしまっていたのは

何故だったか…

なんて間抜な…

思いながら

だが、鬼の様に厳しいフリして

実はかなりのバカが付く人でもあったそんな所が…

と思いかけた矢先に「憎めない人だったのに」と号泣した母に

今度こそ涙のひと粒も、持って行かれた竜也だった。







重なる時と言うのは重なる物だと

つくづく思う。いっぺんに失ったとか

そんな大袈裟な事は思っちゃ居ないけど


余りにも強く吹き付けた風に、今まで知らぬ内に頼って居た全てから

投げ出された、そんな気分にもされていた。







「よー…」

洗面所に入りながらシャツを脱ぎ掛けて居た竜也が

寸での所で腕を降ろした先には…


「三上?」


ガラスに向かって

やはり自分と同じ様に濡れた髪を直す

彼の姿。

何だかんだもめた彼も、

三上、水野と結局同じ寮部屋で2年を過ごす羽目になったお陰で

高校の先輩後輩、と言うポストに納まって居た。

「来てたのか…」

「まーな」


卒業して以来、

ここ2.3年見なれなて居なかったネクタイ姿


「就活?」

「ああ、もー終った」

「早く無いか?」

「まーな、今日は正装」


驚く自分を斜目でちらりと見てから

緩めて居たネクタイを結び直すと

どうぞと言わんばかりに場所を開けていた。


こいつも…

いつからこんなになったのか…

昔は

まだ歯磨き途中の自分を流しの端にふっとばして

何事も無かったかの様に、朝の流しを占領して居たと言うのに…


ふっと笑いを漏らした竜也に

何だ?と振り向くが、それ以上を気にとめる事も無く


「あんたフラれたんだって」と…

「誰にだよ」

「金パ」

「別に付き合ってないだろ」

「そう?そりゃよかった」


「そーいや世間じゃ、偉い噂だぜ、」
「お前が会見で顔色一つ変えずに喪辞読んだの」

「あー知ってる、…情けなくて泣きださなかっただけマシさ」

「バーカ、あれでスポンサーの売り上げも伸びただろうによ」

「…・・・」


どうでも良いお喋りの中、

珍しく良く喋る彼の視線に気付いて

シャツを脱いで居た手をとめる


見返したその顔は酷く真面目に

自分を見て居た、まだズボンのベルトを外して無くて良かったと思う。


「今日よ、見合いなんだわ…」

「は?」


「見合い?って」

「見合い」

呆気に捕られた自分に、他に何があんだよと言いたげに眉をしかめるが

「へぇー…、」と言ったきり、後の告げなくなった自分を

じっと見て居た。


お前それで良いのか?とか本気なのか?とか

とっさに浮んだそんな見当はズレの単語を必至で追い払うけど

だったら他に

何をいえと言うのか…


よかったな?


否それは…いいのか?見合いは良い物なのか?



「何マジになってんの?」

「?」

はっとなって顔を上げた自分をくっくと笑う

あの意地悪な笑い。


「嘘だよ」


「でもあんた、泣きそうだったぜ」


かっとなって「出てけよ」

と睨み付けた自分は、それでも不思議と本気で三上に怒り等感じてはいなかった。

「普通な、そー言う時は、へーどんな?位でかわしとくもんだぜ?」

そう言った奴が何所までか本気か

もう判らない訳じゃなかったが

顎にかかった冷たい指の緊張に耐えられず

「マジで…着替えるから」

と、顔も見ずに廊下へ出る様促すが

結局三上がそこからでる事は無く


自らの手が、戸へと届く前にぴしゃりと

廊下と洗面所の境を遮ったのだった。








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ぎりぎりですが間に合って良かった…(-▽-;)
一年間ありがとうございました;



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