サニ−デイズ
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「せーんぱい。」


上に上がったのは良い物の。

どーしてこう問題は次から次へと増えて行く物なのか…

勢い良く開いたドアをもう振り返る気すらしない今日この頃。


「れ?三上先輩一人すっか?」

「あー?んだテメーは。」

「渋沢せ…」「は?しりませーん。」

親しき仲にも上下有りと。

今度その渋沢先輩とやらに、じっくり話しでも付けてもらいたい物だと、忌々しいその声へと仕方なく振り向いた瞬間、

思いもしなかった顔に止まる。

これ又厄介な事に、この春から増えたもう一つの憎たらしい顔が、そこには並んでいたのだった。

「先輩、こんな所で昼寝してると風邪ひくっすよー…」

「うるせーな。」

口では言いながらも慌ててこたつから出ると、髪をかき直して、そこに座り直す。

はんてん姿は間逃れたものの、思いっきり読みかけのビニ本を横に爆睡していた、その姿を…

しかし、相変わらずそんな事は気にもとめない藤代の奥で、

先日入寮したばかりの水野竜也が、気まずそうな顔で、こちらを見ていたのだ。

「何だ、けど6時なら居るって言ってたんすよ」

「俺がしっかよ。」

机の上に顔を載せながら大きな欠伸、をしかけて思わず腕で覆ったり…。

あーめんどくせぇ。

休みの日くらい寝かせろっつーの…

再び渋沢と同じ部屋に落ち着いてしまった今年の来客の多さと来たら…

おまけに、コレだ…


「んじゃ、待たせて貰いますねー♪」

といつもそうして居た様に、何の迷いも無くいそいそとこたつに潜り込む藤代に。

「ああ〜ふざけんな。部屋が穢れる」と口だけで野次を飛ばした、

所が、その時

その声にむっとして反応したのは水野竜也で。


凍る空気。

「・・・・・。」

「水野も入ろーぜ。寒いっしょ。」

「おい、足はのばすんじゃねーぞ」

「三上先輩っ。」

汚い所ですがどーぞ…と危うく張り詰めた空気を藤代の声が救うが。

「お前それ渋沢の部屋だって知ってて言ってんだろ〜な?おい。」

その声にはっとした誠二を三上が小馬鹿に笑った、所がその横で


「失礼します。」

とぴしゃりと遮るかたい声。


「ーーーー。」


どうもテンポをずらされて、

ムッと眉を寄せようとした三上を横から誠二の肘がつついて止める程。

「三上センパ〜イ」

「ああ?」まだ何も言ってね〜だろ〜がよ。

大体あいつは何様なんだ?俺は先輩だぞ、おい。

と小声でやり合う二人を

居ずらそうな水野がちらりと見ていた。



マジやりにくい、こいつ…







嫌だったらよー、来なきゃいーと思わねェ?

「何の話だ?三上」

2人が帰った後の事。こたつに起き上がってむすっとしながらそんな事を呟いた三上に苦笑い。

「何だよ。」

「いや、何でもないよ。」『お前も人に気を使う様になったんだな』何て口が裂けても言えないと思いながら、カップを持って向かいに座る克朗。

実を言えば、来れば殆ど会話もせずに、誠二と自分の会話に時折睫毛を伏せる位の癖に

何故かここの所続いてる水野の訪問に、そろそろ疑問を持つのも仕方のない事で。

「やっこさん、そーとーお前をお気に入りみたいだぜ?」

「まさか」

「俺と計りにかけても、ここに来るって事わよーー」

「さあ、俺はお前に用がある様に見えるんだがな…」

「はあ?無理無理…」

「そんなに嫌だったら、こもってないで出かけたらどうだ?」

「あー?冗談じゃねえ。まだこちとら春休みなんだよ。」

そんな事を言いながら、その時それは確かに冗談だったのだけど。

次の日、

それは起こったのだった。




ノック2回で開いた扉に、

「今日は渋沢は帰ってこねーぞ」

と背中で断るが、「まじっすか〜?」のあの声は聞こえず。

怪訝に思って振り返れば、そこに居たのは

水野一人だった。

「何?」

一瞬だけうっとなった顔が、再び口を結び。

「…ちょっといいですか?」と真面目な顔をした。


「どーぞ。」

かつて無い、組み合わせ。


幾ら言っても容赦なく冷たい足を突っ込んで来る、藤代とは違って。

静かに布団をめくりあげると大人しく座っていた。


パタンと机に置かれたノートの音。

横から垣間見れば、パソコンのキーを打つ俺を待っている様だった。


「で、何?」

「ええ、ちょっと、」

ちょっと…?

それがノートの中身の数式がどーのこーので有る様にとさえ、祈りながら。

渋りながらも、沈黙に押されてやっと顔を上げるが…

そこにあったのは

困ったような奴の顔。


「何だよ…」

「先輩…?」

「あーー?」

「目の下ゴミ付いてますよ…しかも」

三重になってるし。

「ーーー!」

鏡で見れば本当に、でっかいホクロになってるテシールの切れ端を慌てて取り。

ここに藤代が居なかったのが幸いだと思いながらも

視線を落として、何とも言えない顔をしている奴に

「ど〜〜も」と礼を言うが。

三重になってる目蓋は中々直らず…おまけに

絨毯の跡まで、発見…


「また寝てたんですか?」

「わりぃーかよ。」

爆笑されるのと、このだんまりと、どっちがマシかなんて考えてる内に、

見られた気まずさに、イライラと沸いて来る憾の虫。

その時

自分の手の反対側から伸びて来た何かを、考えも無しに払った瞬間、

パンと言う軽い音に、重い感触。

はっとして振り向けば

頬に付いてたゴミを取ろうとした奴の腕だったのだ。

吃驚した顔で、まるで非難の目を向ける奴に、内心不味いと思いながらも、

もう後には引けず。

「さわんじゃねーよ」

と、負けないくらい嫌そうな顔で、冷たく返していた。

一瞬、

傷付いた様に見えたのは、気のせいか…?

手をこたつの中に戻すと、俺から視線を反らし黙っていた。

沈黙。

また沈黙。


自分のせいだから焦るのか、

「あーおい、」

「で、何の用だよ?」

ちらりと俺を見上げる頬は硬くなっていた。


「何だよ。」はっきり言えと、それは、自分が痺れを切らしたのは同時だった。


語尾を強めた瞬間、

「何でも無い。」

「!」

席を立たれそうになって、思わず掴んだのは自分の方。


あー… ったくよお…思いながら、


でたのは

「茶−でも飲めば?」

「…・・」その時、俺を見下ろした怪訝な顔が

堪え切れずにくっくと笑い出したのだった。

「ーーーーーーー!(怒)」



「じゃあお構いなく、」と座ると、怒る自分を尻目に、ポットから自分でお湯をくんで、2人分を作っていた。

笑う顔をは意外にも軟らかい。


へぇー…


「一応、仲直りしとこうと思って…」

ぽつりと漏らす。

「何それ」

「将来的に…」

視線を浮かせながら言う仕草。

けれど、「どうぞ」と自分に差し出したお茶と一緒にこちらを向き直った頬に、

のびる三上の指、

ちょんと触れて元に戻ったそれに、竜也がはっとしたのは数秒後だった。

「おい、ゴミついてっぜ?」

爆笑する三上に、ムカッときた竜也が、付け替えそうと腕を伸ばすが、それは掴まれて

気が付けば、至近距離。

「あんたすげーボンボンな。」

くっと笑う顔に嫌でも赤くなる頬。


「そんなに俺と仲直りしてーの?」

「…一応、先輩だし。」

ぷいとそっぽをむいた顔に、更に含み笑い。

「ふ〜ん、じゃあどーして貰おうかな…」

と意地悪く見下げるが

所がそれに

本気で、泣きそうな視線を向ける竜也。


「・・・・ああ?」

あ、「じょーだんだから」


仕方なく離そうとしたその時。


何かが目の前でこぼれて行った。



驚いて拭う指が、震えていた。


「何?」

「…何でも。」


その時、こいつが毎日ここへ来る理由に。

何で、気付かなかったのか

始めて辿り着いたのだった。


1年の所でも、他の2年のトコでも無く、渋沢の部屋に来なければならなかった理由。


「3年?」

何かがあった。判るのはそれだけだったけど、

思わず自分が漏らした声に。

奴は、うなずいたのだ。


まあ、こんだけ目立てば目を付けられないのは奇跡に近いだろーけどよ。

入寮2週間と言う早さは普通じゃねーだろ。


「何されたの?」

答えるはずも無く。ただ俯いていた。


「・・・・。」


仕方なく。何を言える訳も無く、ポンポンと上から頭を撫でれば

肩を落として泣いて…いた。


あの水野竜也が…

こんなに普通の奴だったなんて、


「あー判った。…なんとかすっから。」


抱き寄せた頭。髪からはふと甘い匂いがした。








「うわー三上先輩。痛そうっすねー…」

数日後。

入学早々、1群控えから1群で活躍するタツヤを、控えに上がったシップだらけの三上が

ベンチからぶっちょうツラで見ている横で。

申し訳なさそうに頭をかく藤代。

「テメー知ってやがったな…」

『あいつはな、ボンじゃ無くて、悪魔だ。』

「おい渋沢聞いてっか〜?」

ちょうどボールを取りに来た彼までとっ捕まえて語ろうとするも。

「先輩。」

後ろからかけて来た竜也に、すとんとベンチに逆戻り。


暫し渋沢と話してから、こちらに軽く視線を向けると再びグランドへかけて行く10番。


「・・・。」

「ま、まあいいじゃないすか。結局先輩付き合ってんでしょう?」

「おめーな。彼氏に先輩ぼこらして。ポジションゲットする奴がマトモだと思うか?」

「けど正直、あの人達が退学になったのなんて、自業自得っすよ。よく高校まで野放しで…」

「それだけじゃ、ねえ」首を振る三上に、溜め息の藤代。

「…先輩、じゃあ何で付き合ってんスか?」


「怖ぇーからに決まってんだろ。」


「三上先輩…」なんつーヘタレ具合なんだと引きながらも

結局一緒に寝てる癖にとか、思ったり。

あーでも水野は前も中学の先輩部から追い出てるんだよな…

…佐藤の奴で。


竜也をフォーローしながらも、

時々部屋で寄り添う2人を見かける度に、

それが甦る、誠二だった。







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お疲れ様でした。長くなってしまいましたね;何かもう…失敗なりよ…;;











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