学校へ行こう
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その日は、穏やかに晴れ渡った春の日差しが綺麗な日だった。

何処からか香って来る若草の匂いに、自然と胸が踊る。

まだ北風の冷たさを拭い切れない南東の風が、草生きれとはちがう、もっと細く上品な花の香りや、さえざえと澄んだ日の匂いを運んで来て居た。


4つ目の電信柱、いつもの塀ブロックの家を曲がって朝の商店街へと出る。

今日に限ってまだ店は何処も開いておらず、通りは閑散と朝の静けさを保って居た。

店の奥の民家の窓から漏れる湯気。TVの音。


と、

今一瞬、過ぎて行く景色の端に映ってしまった、見て見すごせないような光景は…

おおよそこの朝の静寂とは似ても似つかぬそれに、

思わず竜也は足を止めて居た。



あいつらは!?…


店と店の間の路地に、見覚えのアル男達と、連れ込まれて半泣きで騒ぐセーラー服の姿。

男の1人には見覚があった。昔地下のゲ−センで野呂や3年をぼこった…金パのヒゲ。

名前は知らないけど、

などと、そんな事を考えながらぼんやりと立ち尽くしてしまったのは、やっぱりその朝らしくない非現実的な光景のせいだったと思う。

見てしまった以上性格的に後には引けず、

かといって拳で行く訳にも行かず、とにかく奴らの気を引くのが先か…通報のが先か…と

だが幸い。そんな心配などしてる間もなく。

先に竜也に気付いて詰め寄って来たのは、相手の方だった。


「よー兄ちゃん。」

ざっと相手は4人。

「あんたも混ざるか?」






どこからか時刻は8時を告げるニュースの声が聞こえて居た。

家を出てから1時間半。

頬に当たる冷たい指の感触に意識が浮上した。

「うわっ!」

開口一番漏れた声にも相手はびくともせずに

「起きたか…」

の一言。

目の前には不破の顔。

「大変だったな。」

は?

「一応、ざっと見せてもらったんだが、特に大きな怪我はして無い様だ。あんまり誉められた様じゃ無いがな…」

と肩を叩かれる。唐突にまくしたてるやつの顔を

俺は寝起きの頭でポカンと見つめていたに違い無い。

何を言っているのか、今一つかめないまま当たりを見渡せば、レンガの壁に、コンクリの壁。

転がるポリバケツに、割れたビールビン。

そこはさっき連れ込まれた路地に間違い無かった。

その路上にぺたんと座り込む自分。そしてその目線の位置にしゃがみ込みながら、自分を凝視する不破の姿。

「お前…朝練はどうしたんだ?」

「・・・・。」

ゆっくり背中を起こしながら、骨折が無い事を確かめる。

不思議と身体の何処にも痛みは感じなかった。

俺は…どうなったんだっけ?

「さぼったのか?不破?」

「…水野、」

「何だよ、」

全く、見つけてくれたのは良いが、手当てもせずに、まさか起きるまで永遠こうして観察でもしてるつもりだったのだろうか…わからない。

本当に全くこいつは変な奴だよ。思いながら、ちらっとその顔を伺うが…

「その、話しはまず…下着を付けてからにしてくれないか?」

「ーーーー−!!?」

奴は、顔色一つ変える事なく淡々とそう言い放ったのだ。

それは紛れも無く、人生が終るかも知れないと思った瞬間ベスト1だと言えた。

ばっと自分の身体を確認すれば、はだけたガクランの下は足の先まで、全裸だったのだ。


身支度を終えると制服の泥を払い終った俺を見て、

「じゃあ、行くか。」

と奴は俺の顔を見ながら言った。


…そうだ。

学校へ行かなくては。


だが不破は、それだけ言うとフラつく俺を置いて

まるでネジのまかれたロボットの様な正確さで回れ右をし、さっそうと表通りへ戻って行った。

俺はそれを、ショックからぬけないまま呆然と見送って居た。

あいつは、一体なんだったのか?

首をひねりながら再び通学路へと戻る。






商店街をぬけると、再び住宅街へ。


今走れば、1時間目には間に合うな…

だが…腰の鈍痛がそう言う事を聞いてくれそうにも無く。

仕方なく、休み時間に付く事を祈って歩き出した。


しかし…それにしても今日に限ってやけに学校が遠く感じるのは

錯角だろうか?

道を間違えたか?

いや、それはあり得ない。

ではやっぱり錯角なのだ。

とそんな事をつべこべ考えながら角をまがった瞬間。

どんっと言う音と一緒に、今度は誰かとぶつかった。


「ああ?ってーな!」

そこには

「またテメ−か!…」

久々に見たあのブレザー姿の…三上。

「・・どうも。」

竜也の顔に顰めようとした眉毛が、何かを思い付いた様にふと上がる。

!?

…嫌な予感。

「よお、さっきは大変だったな。」

そう言って意地の悪いあの笑みで笑った。


「ーーーーー!」


何故?そう思う前に、身体が引く。

やっぱり。

きっとこれは、夢だ。


声も無く、ただ思いきり怪訝な顔を見せた竜也が、足早に通り過ぎようとしたが、

その袖をぐっと掴まれる。

「皆な知ってるぜ」

「…何の事だ…?」

コレは夢だ。挑発に乗ってはいけない。

学校に、行かなくては。

「お前に何があったか、」

振り払っても、奴の腕は離れなかった。

近付いた耳もとで真面目な顔で言う。


「洗ってやろうか?」



ああ、俺はただ学校に、行きたいだけなのに。


何で、こんな奴とこんな所に…






幾ら湿度を含んでも、タイルだけはいつも冷たい。

半裸の自分に比べて、後ろの三上はブレザーとネクタイを取っただけの格好。

後ろに差し込まれた指に声を上げ無い様、硬く拳を握った。

指の腹が奥へと肉癖を辿る感触に、伏せられた睫毛が震えて居た。

シャワーのヘッドは壁に掛けたまま、肩口で砕かれたお湯が背筋へと滝の様になって流れて行った。

はあはあと浅くなる呼吸。

「…・・っ…・ぅ」

指の数が3本へと増えた痛みに、思わず歯の隙間から漏れた声。

ぐぶっと奥まで入って来て、内壁をめい一杯広げる。

「ぁっ…・・・」

シャワーのヘッドへと三上の手がのびる。

その時始めて背中へと密着した奴の身体から、湯気に溶けた香水の匂いが香った。


そして次の衝動を堪える為にしっかりとタイルに手を付いて、瞳を閉じた。


「っーーーーーー−!!!!」

水圧を最大にされた湯が、勢い良く広げられた自分のそこへと叩き付けられる。

「…・ーーぁっ…・」

吐き気とは違うもっと違う息苦しさが竜也を襲う。

体中で最も弱いそこに奥まで突き刺さる刺激は、もはやこれは痛み。

中腰だった身体がガクンと崩れたのを、三上の腕が間一髪で支え。

再びタイルへと戻される。

「何?…きもちいの?」

「〜〜…〜〜…・」

竜也は答えない。

答えの変わりにただその身体だけが如実な反応を返して居た。

中を広げて居た指に腸壁を摩られると、目の前が霞んで行く。

「ただの洗浄だつってんのに、やらしいな…おい。」

快感か、それとも苦痛なのか、それすらもう判らずに、視界も何もかもが真っ白になっていく意識の端で。

三上の声がかすかに聞こえていた。






目が覚めて始めに飛び込んで来たのは、時計だった。

時間は11時30分。

起き上がると、そこはベットの上で、

濡れた自分のガクランが壁に掛けてあった。

見なれたような見なれない部屋。

部屋の主は留守で、新しいタバコの吸い殻だけがテーブルに残って居た。

あいつの部屋か…

しかもどうやら、自分を置いて一足先に行ったらしいのだ。

あそこへ。


くそ。

まさかあいつこの為に俺を足留めしたのか?

悩んでる暇は無い。

自分だって…早く。

学校へ行かねば。


半乾きの制服をハンガーから引ったくると、松葉寮を飛び出して、元来た道を駆け抜けた。

朝来た商店街を逆そうし…


そう、どおりでおかしいと思ったら、俺は朝から学校から逆走していたのだ。


と、いつものゲ−センの前を通ったところで、突然あいつの声。

「タツボン!」

「!」

恐る恐る振り返る。

「シゲ、」

「何や、寝坊か?」

ゲ−センの奥から椅子に腰かけたまま銜えタバコの彼がひらひらと手を振って居た。

「ま…な」

何もしらなそうなその態度にほっとする。

「お前こそ何やってるんだ?またさぼりか?」

「や…、タツボンが中々来ーへんから、ここでまっとったんや。」

血の気が一気に全部引く。

ニコニコとしながら席を立ってこちらへと出て来るシゲに思わず後ずさり。


まさかこいつも。

俺の邪魔をしようと言うのか?


「な、どーせ今日は5時間やし。諦めてどっか遊びにいかへん?」

「いや、あいにく部活もあるしな。」

「!、タツボンそないな身体で出る気なん?」

「ーーー!」

駆け出そうとした時は、既にがっちりと後ろから抱き締められて居た。

「は・な・せ・よっ!」

それでもそのままシゲを引きずって前へ進もうとするが、何故かびくともしない。

後ろでシゲの苦笑が聞こえた。

「…ほな、一回させてくれたら、俺が行ける様してやってもええで?」

してやるだと?

「どーいう意味だ?」

「さあな」

「ふざけんな」

学校へ行くのはこの俺の当然の権利だぞ。

誰にも犯されてたまるものか!


だが。

ゲ−センから垣間見た時計は12時を過ぎ様として居た。

まずい…





ゲ−センの奥の事務室のソファーの上。

下だけ脱ぐとシゲを前に体育座り。

そのまま抱きかかって来る彼を受け止めた。

「何や、あいつ、洗うだけゆーた癖に犯りおったな!」

竜也の中へと差し込んだ指を抜きながら、愚痴る。

『何でお前が知ってるんだ!!?』

だがそれはすでにもう愚問であることは嫌と言う程分かって居た。

何故ならこれは夢だから。

「早くしろよ。」

それだけ言ってそっぽを向く。

「な、タツボン…、股だけ広げとけばええってもんやないやろ!」

「いいから、犯れっ」

「何やそれ…」

不服そうに眉を顰めたが、むっとそながらそのまま黙って、身を進めて来て居た。







1時30分。


間に合った。

ここから桜上水まで10分足らず。

起きたら、やはり隣にシゲは居なかった。

今度こそ、どうしたって辿り着いてやる!

運良く誰にもあわずに昇降口へと駆け込む。

階段を駆け上がり、途中、授業中だと言うのに、やぱり何故か廊下にスタンばっていた風祭をシカトし、

そして…

懐かしいそのクラスの戸を開けた。









「水野君、」

「みずのくんっ」

「ああ、風祭。」

顔をあげると、もう西日が教室に差し込んで居た。

「俺は…どのくらい寝てた?」

「え?ああ、さあごめん。俺も今来た所だから…」

「そうか、」

「部活行こう。」

「ああ」

全く、変な夢だったな。

思いながら、

5時間目までの記憶がちゃんと残ってる事にほっとする。

どうやら寝たのは6限の一時間だけらしい…


「よおポチ。」

「あ、シゲさん。」

「よお…タツボン。」

「ああ、シ…」

その時、物凄い恨めしそうな顔をされたのは気のせいか?

「何だよ」と返す自分に

「何でも…」と欠伸をしながら再び歩き出す。


「ま、夢やしな…」


隣を歩く竜也をちらりと見ながら、決して聞こえ無い様に小さく呟いた。






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ちょっと飛んでる話…。読み返す気になれない;










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