後の正面…
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放課後の廊下、部室の鍵を貰おうと、西側の職員玄関の通りを曲がる。
今日は快晴の青空だったから、右手には…だが、まだ4時半だと言うのに、
思い描いた夕日は既に高層ビルの向こうに沈んでいた。
随分暗くなったものだな。
いつも通っている道だから、余計にそう感じたのかも知れない。
急速に短くなって行く1日に、もう冬だと思いながら
まだ電気は付かないのか…と
見上げる天上、季節の変わり目はいつもこうだ。
気付くとストーブが出ていたね、とか。何時の間にかチャイムが早くなっていたとか…
よくよく考えてみると、自分はいつもその人の言う「何時の間にか」の瞬間に立ち会っている事が多い気がした。
…気のせいかな…思った瞬間、ぱっと頭の上で一斉に点灯した蛍光灯に苦笑い。
昔から、こうだ。
言ってしまえばサッカー部の事だって、
風祭が転校して来た
この年代のこの瞬間に立ち会ったのが、何故自分だったのだろうと思えなくも無い。
一学年遅れていれば、本間が辿った運命は自分のモノだったのかも知れない。
運命ね…いや、そんな大袈裟な言葉はいらないけど、他に言い様も無いとか…
そんな事を考えながら、隣の棟への連絡通路へと差し掛かった竜也の足がふと止まった。
両面ガラス張りの連絡路の少し手前は長めの流し台、角に給食の配膳置き場が有るせいで、こちら側に窓は無く。さらにその向かいはトイレの裏側にあたって全面綺麗に壁になっていた、日の光も入らず、運悪く蛍光灯が切れたこの十数メ−トルは、本当の暗闇になっていた。
だからだろうか…ここは、色々と曰くの付いた
その場所だったのは。
一昨年亡くなった元校長が歩いていたのを、懇意だった社会科教師が見たと言う話。向こう側とこちらが入れ代わってしまう13鏡の噂。
時々鏡に姿が映らない事があって、そうなると…
どれもよくある古典的な学校の怪談。
もちろんそんなモノを今さらどこう言う質では無かったし、毎日通っているそこにそんな事を考えた事も無い彼だったが。
何故か、その時は、そのあまりの暗さに足が止まったのだった。まあ、別に…
思いながら、でもほんの少し気味が悪いと思ったのも本当だったけど、また歩き出す。
およそ8枚程の鏡の列。
ここまで長いと、気にしないと言うのもまた不自然で
ちらっと横を見たそこに映った自分の顔に、
竜也は思わず一瞬ぎょっとした。
『うわ…』
陰影がこいせいか、目のくぼみの黒や歯の白さを強調されてたそれは、大方鼻の付いた髑髏と言う感じ。
自分の顔だからか、余計に肌寒さを感じながら、
後は鏡に映って行く自分の姿を見ていたその視界の端に。
「!?」
ちらっと入った、何か、別の光のような?
映っていた暗がりの景色の一部が明るくなった様な、そんな気がして、
とにかく、今何かが動いたのだ、位置からすると自分の少し後ろ。
怖いと言うより、確かめようという気持ちで、特に考えも無くぱっと振り向いたそこにいたのは、
「何だ…お前か、」「おうタツボン、なあ…」
ついさっきそこで別れたシゲの姿。
光ったのは、そう彼の胸元に付いた金ネックだったのだと、確認して、無意識にほっと肩を撫で下ろしていた。
「もしかして、ビビった?」
むっとして顔をあげれば、ニヒヒと自分を覗くあの笑顔。
「まさか、で何だよ?」
「俺も、部室にちょい忘れもんしてもーたん、一緒に行くわ」
「そうか…」
と並んで歩き出せば、シゲも又、さっきの自分と同じ様に鏡の方を見ていた。
「にしても気味悪いなここ、何でこんなトコ通るん?」
「一番近いだろ、」
「せやけど…」
まあ東京もんやなぁと言うつぶやきに、横を見る。
そう言えば…京都だったな…と、やっぱり、そう言ったものに囲まれて育つと習慣が身体に染み込むのだろうか…
不似合いとは思いつつ、吉凶等信じてはなかったが、別にそれをおかしいとは思わなかった。
「へぇ、お前でも気にするのか?」
すると彼は、思いも寄らぬ真面目な顔で竜也を見返したのだ。
「気にするも何も…」
何故?と言う顔でその先を言いかけながら
「あっ…」と小さな声を上げて口をつぐんだ、そして竜也をみながら、あっちゃあ〜と言うわざとらしい顔で笑みを浮かべた。
「な、何だよ、」
「別にぃ〜」
「ま、世の中知らん方がええこともあるさかい、な、」
「だから何がだよ!」
向きになった竜也に
「…せやかて、タツボンには見えんかったんやろ?」と小声で呟く。
…そして
一瞬言葉を失って口を閉ざした竜也に、一拍おいて大爆笑。
「シゲっ!!」どなる竜也の声が、誰も居ない廊下に響いていた。
「タツボン怖い顔して、もしかして妬いとるん?」「何が?」
自分の少し前を歩くシゲにブスっとしながら、答えながら…
さっきの廊下での会話を思い出し…
!
「だから…」と言いかける彼に
「あ、」小指は立てなくていいから!
と差し出されたグ−を思わず掴んでいた。
「な?何や?」
「恥ずかしいだろ!!」
と何故か赤くなる竜也に、あははと笑いながら「タツボンてば、純情〜」
さっきと同じセリフで笑うシゲの横で…くっと暗い笑みで俯く竜也だった。
『ああ、もう、違う…』
「何て、ホンマは冗談やけどな、」「え?」
ふと真面目に戻った声に顔を上げる。
目が会った瞬間、ふっと寂しそうに笑みを漏らされて、ドキリと胸が波打つ。
「シゲ…?」
思わず、掴みっぱなしになっていた手をそっと離した時、今度は向うから握り返された。あの暗がりはとっくに抜けて、ここは職員室と、用具用階段との分かれ道。
「なあタツボン、」
「心配せんでも、俺が好きなんはあんた何やで。」
何を言い出すのか。らしくもない。
「心配なんて、誰がしたんだよ、」
そんな俺の顔を横目で見て、ふっと鼻で笑う。
「ほんまに?」
「当たり前…シゲ、何度も困らすなよ、」
「困るって何で?」
「ーーー!」
「女の話聞いて赤くなったり、ちょっと揺すられただけで困るなんて言ったり、」
「何で?」「だったら何で、逃げんの?」
「逃げる?」
「そや」
と胸の位置に上げられたのは繋いだままの二人の手。
「シゲ…お前」
「何?」そう、訳が判らないと言う顔で自分を見つめる竜也に向かってまた寂しそうに笑った。
何故?
「なあタツボン、ここ覚え取る?」「ここ?」
「そ、」
後ろにはさっきの渡り廊下、左には音楽室、そして右にはまた廊下竜也のいる位置のすぐ隣には階段があった。
「ああ、お前達がふざけてて鏡割った所だろ、」
と夏前の出来事を思い出す。
「せや、」と微笑むシゲ。
何で笑う?
「それが何だよ」
「実はな、そろそろ時間なんや、」
「時間?」
「せや、だから、そん時の礼のつもりやったんやけど…」
「時間って?何がだよ」と、そろそろ本気で苛ついて来た竜也に苦笑しながら、
彼は静かに繋いだ方の腕のトレーナーをめくり上げた。
・・・・・。
そこにはみみず張れの様なきず跡に、その周りには何か、テ−プのような物の跡。
「もし、俺がここから消える事があっても、さっきのセリフは忘れんでな。こいつは…何があってもあんたの味方で居てくれる奴だと思うで…」
黙る竜也。
そして何かに思い当たった様にゆっくりと顔を上げた。それを受けてニコリと笑うシゲ。
そこにいるのはどうみても、細部まで巧妙に作られたシゲの顔なのに…
そして、
「もう、あそこ、1人で通ったらあかんで、」
唇が触れるか触れないかの所で、繋いだ手の温もりがすっと消えて行った。
横を見れば、地下用具室へ続く階段の踊り場に置かれた、ヒビの入った1枚の鏡。それは今年の合宿の日、ここでふざけてボールを蹴っていたシゲと高井が壊した物で
「アカン、俺、あの廊下だけはダメなんや…」とすたこらと逃げて行った2人の変わりに、
鍵取りのついでにと、竜也がテーピングをしたものだった。
実を言えば、初めからヒビが入っていたから、外されてそこに在ったのだけど。
まだ使える物を壊してしまったのは、やっぱり気分がよくないからと…竜也にしてみれば、ほんの出来心だったのだけど。
考えてみれば…あの時からこの通路を使うようになったような気が…しなくも無い。
その時、ふと背中に悪寒を感じて振り返った竜也が、向うの暗がりに見た物は…
凄い顔をしてこちらを睨む、もう1人の、自分の姿…ーーーーー!
驚いて、思わず引きつった竜也の顔を見ると、嬉しそうににやりと笑い、闇に溶けるように消えて行った。
立ったまま腰をぬかしそうな程の恐怖。
次の瞬間、タンっと後ろで起きた物音に心臓が止まるかと思う程身の毛がよだった。振り向けば、
ペットボトルを落としたまま固まるシゲの姿。
今度は本物らしかったが…、しかし今はそんな事に構ってる暇も無く。
「でた…」
「タツボン見た?…今の見た?出たで…タツボンがでたで!!」
と訴える彼に、息も告げないまま頷く竜也だった。
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実は、全ての準備が終ってから保存してアップするだけ、という所でフリーズして半分以上を書き直しました。
1度目の文章の方が何もかもよかったのに(大泣)…何かやだなあ…
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