「おお、貴士、お前にいいものやるわ。」

お前もそろそろ女の一人や二人おってもええ頃やしな。

「はあ?」

夏の昼下がり。久々に訪れた母方の実家で、そう言って祖父がさっき書庫で見つけたらしい古本の隙間から取り出したのは古ぼけた包み紙。

「はっ?家電焼く?」

「違う、家伝薬じゃ。」

「何だよ」

「カッパの骨粉」

・・・・・。

いらね〜〜〜!!

つーかやばいから。

じじいとうとう逝かれたか。

「いいからもっとけ」と

嫌そうな顔をした鳴海にぽんと投げてよこす。

ああ?と自分の前に投げ出された赤茶けた薬包を一応…という感じで指で摘んでポイとテーブルの上に置くと、

再びTVにへと戻る鳴海の背に声がかかる。

「判らんのか?貴志。」

「んだよ、じじ……」

「妙薬じゃぞ。」

振り向けば、縁側に寝転び左うちわでバカ笑いするじじいの姿。

まだこんなのがあったか…とかなんとかつぶやきながら、

「感想聞かせろよー」

とか怒鳴るじじいをシカトして、しぶしぶ言葉に釣られて手にしてしまった包み紙をにぎると

『ああーーうぜーー!!』とか言いながらさっさと3ブロック程先の我が家に帰ったのだった。

「何それ?」

と言う顔をした母親に「カッパ」とか答えて爆笑され。

薬包はその日のウチにベットの上のマンガのしおりになったのだった。

新学期が始まって、すっかり忘れていたその事を思い出したのは、ベットの中だった。

「み…。」

「なるみ?」

「ん?ああ悪い…」

組み敷いた下の顔が怪訝な顔で見上げていた。

「やりたくねんならもう辞めようぜ。」

「ああ〜〜…悪い悪い。」

不愉快と言わんばかりに起き上がろうとする設楽を制してから、

ふと目に入ってしまった本の隙間から覗く赤い包みに手を伸ばす。

『で、んなもんど−やって使うんだ?』

飲むのか?

あぶるのか?…

そりゃヤべ−から。大体カッパとか言って、変なドラッグだったらどーすんだよ…。

指に挟んだ赤包を隙間から抜き取ると、そのままゴロンと設楽の横に一度仰向けになおった。

?と言う顔でそんな一部始終を見ていた設楽にも言われる。

「何それ?」

渋々と言う顔で上半身を起こし、無言で包みをあける鳴海の手元を見ている。

「ちっと、それ取れ、」

とポカリのペットボトルを催促される。

「はい。」

と不満そうにそれでも一応ここは大人しく従う設楽。

味の素?

みたいなサラサラとした灰がかった白い粉。

キャップをあける鳴海の手を握った。

「なんだよ。」

「だからそれ何だよ?」

鳴海の考えなど悟ってか、変な事すんなよと視線で制して来る。

「はあ?別にーただの甘味料。」

「嘘付け。」

睨んだ設楽の顔を見てニヒヒと笑うとちょんとその鼻を摘む。止めろよと即座に手を弾かれる。

そんな設楽を鼻でせせらうと、嫌そ〜うな顔をしてまた起き上がろうとする。

ここで帰られたら始まらない。

「うっそ。ただの催淫剤」

「はあ!?・・・・・。」

じゃーな、鳴海。短い付き合いだったなと。ベットを降りる設楽の腕を掴んで引き戻す。

軽い体は簡単にベットへと翻ってしまう。不機嫌全開の設楽。

「んなもん使うんならやらせねーからな。」

「あ〜しったらちゃん。これ以上○。○ーになるのが怖いんだ〜」

音もなく鳴海の眉間にグ−が食い込む。

いってえ〜〜〜〜〜。

いつもじゃれてる相手だからこそ、油断していた。

このクソバカ力!!!

ベットの向こう側へとぶっ倒れた鳴海を無視して、さっさと制服にそでを通す設楽。

手探りで探し当てたテッシュを切らずにそのまま両の鼻につっこみ、なんとも間抜けなツラで鳴海が起き上がってみると。

てっきり帰る所だろうとい思っていた設楽はまだ布団の上にいた。

1.5リットル入りのペットをあぐらの真ん中に置き、さっきの粉をスルスルと白色の水へと落としている。

粉はよほど溶解度がいいのかあっと言う間に水に溶けて見えなくなった。

キャップを閉め。胸の前で2.3度振ると全部とけたのを確かめる。

絶対視界の横に入っているであろう鼻血の鳴海も無視して、設楽は始終無言でその動作を終えた。

「・・・・おい。」

と気まずさに鳴海が話し掛けた瞬間、クルッと設楽が振り向く。一瞬焦った鳴海にずいっと差し出されたペットボトル。

「飲め。」

「ああ?」

「お前が飲んで、平気だったら試してやるよ。」

まあ当然の処置だ・・・。

・・・・・。

鳴海は無言で、ペットを受け取るとおもむろにその蓋を開けだした。

「あーいいぜ。そのかわり何ともなかったらお前も飲めよ。」

ふん。と笑うが早く飲めよと設楽の視線に催促される。

「つーかさ。何なのそのテッシュ。なめてんの?」

いざと言う時に横から飛び込んで来たセリフ。振り向いた鳴海は絶句。

な・ん・だ・と・・・。テメーのせいで俺の美顔に…と一発くらわしてしてやりたい拳をぐっと堪えた。

こーなったらめちゃめちゃ陵辱してやる。

ぴくりとも動かない冷淡な猫目に見守(見張)られる中、一気にポカリを飲み干した。

起きると、もう日が落ちていた。

うつろいながら、寝返った時に目に入ったカレンダーで思い出す。

あ、ヤべ。

今日は桜庭達と祭りに行く約束をしてたのをすっかり忘れていた。

「おい。時間…」と起こそうと隣を叩こうとした腕が空を舞った。

設楽の姿がない。

あり?

見回せば、服も荷物も綺麗に無い。

んだよ。あのヤロー…感じわりぃーな。

自分だって散々よがってたくせによ。

結局、あのクスリが効いたかどうかは判らなかった。いつもやら無い事を色々やったからと言えばやったからで。

イマイチ利き目の有無はうさん臭いまま終ってしまったのだが。

別に設楽を怒らすような事までした覚えは無い。と言うか、怒ってた記憶も無い。

だいたい。あいつはそんなデリケートじゃねえっつーの。

じゃ何でいねーんだよ。

・・・・・。

いくら考えた所で、居ないものはいなく。

ま、どーせ後であうし。

や、こねーならこねーで、別にいいけど。あんな奴。

つーか……胸くそわりぃ。

何てぶつくさ思いながら、胸の葛藤を打ち消すようにパチンと電気を付けた。

下に降りて行くと誰も居なかった。

いつもだったらこの時間。母親と姉が居間でバカ笑いでもしているのだが。今日は早々と祭りにでも出かけたのか…。

ちっ、何だよ。カギもかけてねーのかよ。

わざわざ部屋までカギを取りに戻って。それでも家を出たのは珍しく約束の10分前だった。

ヤロー相手に時間厳守だなんて、まず鳴海にあり得なかった事なのだが。

やはり設楽の事が気にかかっているのだった。

家を出て100メートルもあるけば川沿いの道に出る。右に大川、左は小高い丘陵の山肌になっていて、祭りは丁度この裏側の道でおこなわれている。普段は地元の住民しか通らない道だが、今日は表通りから漏れて来た人で少々賑わっている。

夏の7時にしても今日は明るい日だった。約束のコンビニの前まであと半分と言う所だっただろうか、

丘陵の頂上へとのびている稲荷神社の裏階段が目にはいる。

と、その中段に見なれた顔がしゃがみ込んでいたのだ。

「ああ?何やってんだ?あいつ。」

浴衣姿の設楽が段に腰掛けながら、ぼおっと流れる人並みを見ていた。

中段と言っても、なんせ空へと続く階段。設楽の所まではゆうに3階分くらいの段はある。

人波を外れて、生い茂る樹の下へと歩いて行く。がさっと鳴海の胸までそだったアシ草を掻き分けると、こけたコンクリの一段目が姿を表した。

何も見ていないような設楽の瞳がもの音に気付いて、下階に立つ鳴海ヘとゆっくり向けられる。

一瞬、驚いたように大きく目を見開いたが、次の瞬間泣きそうになった顔が何とも嬉しそうな笑みを浮かべたて立ち上がった。

驚いたのは鳴海の方。

あいつあんな顔もできんのかよ…。その見た事もない綺麗な顔にも驚いたが、

そんな前例がない為、それが悪魔の笑顔にも見えてしまう。『何企んでやがんだ、おい。』

しかしその笑顔につられてすっかり緩みそうな顔をバレない内に引き閉めると、テレを隠すようにわざとゆっくり階段を昇り始めた。

つーか。なんで俺が昇って…おめーが来いよ。

しかしまあ、それはいつもの事だ。

「おい、テメ何してんだよ」

5、6段向こうに縮まった距離の設楽に話し掛ける。

さっきの笑みは消えていて、黙ってただじっと鳴海の顔を見ている。

…まるで幽霊でも見てるみたいな顔で。

「おい。」

上がりきって。その小さい背の頭をポンと叩くが、何も言わずただ嬉しそうに鳴海を見ている。

「気色わりぃーな。おい何か変なもんでも」

あー…飲ましたっけ・・・。

まさか声が出なくなるとか…。にしちゃあこいつ何か妙じゃねーか?

やばいかも…。と思いながら考察中だった鳴海の顔を気付けば設楽がじっと覗き込んでいた。

「鳴海…。」

「…んだよテメ−!喋れんならはじめっからそう言えっつーの」

おどかしやがってと、その頭をも一度こずこうと伸ばした腕の隙間に、突然設楽が飛び込んで来た。

!???お・・・おい。

ぎゅっと胸に抱き着いて離れない。

あせる。あせる。

もし鳴海が普段人目をはばからずこんな事したら、秒殺されるのだが。

「んだよ何かあったのか、」

内心ちょっと照れて得意になりながら、仕方ねーなと言う仕種で頭を撫でてやると。

黙って懐から顔を上げた。

くっきりとした二重の下から覗く、縋るような真剣な眼差しにドキッとする。

「お、おい。いわなきゃわかんねーだろ。」

「ちっと……一緒に来てくんねー?」

「はっ?」

そういって彼が指差した先には一見山の斜面にしか見えない林の中に、ちょうど今いるこの中腹の踊り場から横へとそれる小道が見えた。緩やかなカーブを描いて階段とは違う頂上へと向かっていた。

方向からすると。境内ではなく。離れにある小さなお堂の方角だろうか。

「いいから」と、設楽の手に腕をとられうながされるままに階段をそれて行く。

桜庭達の事などすっかり忘れていた。

「・・・・・。」

さっきはうかつにも喜んだものの。設楽の態度は釈然としないものが多すぎて。

鳴海は黙って従いながらも先を行くその背中全てを信用してるわけではなかったが。

結局なによりも、何時になく熱っぽい設楽に浮き足立っていた。というのがホントの理由かもしれないが。

林が開けて視界が開ける。予想どうリついたのはお堂の横だった。その横は墓になっている。

「で、何があるって?」と辺りを見回し眉を顰めながら設楽を振りかえるが…

彼は黙ってつかつかと建物に近付くと、普段はカギがかかっている扉をひっぱった。

古ぼけた木の扉はカパリと音も無しに開く。

「こっち。」と呼ばれる

『おい、やばくねえ?……幾ら何でもこいつ罰当たるぜ、ここ塚杜だろ。』

と思いつつその声に従うのだった。

中に入ると、そこは12帖はある広い和室になっていて、

白い石の引きつめられた庭園風の小綺麗な中庭へと開かれていた。

つーか。マジで?…

どう見ても、もう使われていなさそうな外観とは裏腹に、綺麗に人手のはいったその内部に驚いた。

建物事体は古いが、真新しい畳の匂いがする。

「鳴海、」

「呼ばれて振りかえった。」

−−−!

ポタポタと垂れる雫。

頭からづぶ濡れの設楽がたたずんでいた。

「お前…まさか。」

真夏だと言うのに。一瞬にして凍り付いた心が…動けない。

……そだろ。

指先が、かじかむ。

絶望感がつま先からゆっくりと心臓へ這い上がって来た。

嘘だと……言ってくれ……。

「ごめん」

辛そうな笑顔で笑っていた。言葉を返せない鳴海を見ている内にフとその顔が歪んで。

涙があふれ出す。

「けど、間に合って良かったな……」

掠れ声でそう言った。小さな体を掻き抱く。

言葉もなく。抱き合った。きつく。

自分を抱き締めたまま顔を上げない鳴海の背中を摩る。

「俺、お前の事……好きだったよ。ムカツク奴だったけど。」

 泣いた顔が、それでもちょっと悔しそうに告白する。

「あつくるしーから泣くんじゃねーよ。」

最後なんだから。

と静かな声で叱咤を飛ばす。

「…誰が泣くかよ。」

と耳もとで聞こえた、もうべったべたの強がりに苦笑する。

しばらくして、そっと肩を掴んで顔を上げた鳴海は本当に泣いてなかった。

だが設楽にはその顔がもっと何より辛そうに見えた。

「わすれんなよ。」

「あたりめー」

「お前は死ぬんじゃねーぞ。」

「もっと当たりめーだろーが。」

その答えにふと設楽が笑った。

静かに唇が重る。

濡れた着物を肩から抜いて行く。

すでに死人の様に冷えきった全身を暖める様に、ゆっくりと手を這わせ体温を分け与える、

その跡を追うように首筋から順に唇をすべらせて、馴染んだ肌を惜しむ………。

今はまだ、悲しくはなかった。

畳の上に寝転ぶと、そのワラの匂いが初めてこう言う関係になった日を思いおこさせる。

もう会えないなんて、まだ考えられないのに。

「サンキューな。」

最後に言われた。

「おう。」

「これでやっと……」

最後の方は聞き取れなかった。腕の中の影が急激に薄くなる。

と思ったら、

透けているのは自分の手の方で。

・・・・漠然とした不安に包まれて、名を呼ぼうとするが、

そのまま、白くぼやける視界の端にあいつの笑顔だけが焼き付いていた。

「み、」

「おいっ…おお!」

「大丈夫か!?」

初めに見えたのは。点滴のチューブ。では無く。

上原。桜庭。そして…花瓶を持った設楽の姿。

「おい、テメー今俺に何した。」

開口一番がそれ。

「は?なにもしてねーよ。」

といいながら、隠しもせずにドンと花瓶を脇に置く。

言い終らない内に右上頭部に凄い鈍痛が走った。

テんメ〜〜〜・・・・。

「な、効いただろ?」

としらっとした顔で上原にぬかす。

どうやら病院では無く、自分家の居間のソファーの様だ。

「お前が揺すっても殴ってもおきねーって電話きてよー。」

来てみたら、本当におきねーし。しかもすげー冷たくなってっし。マジびびったぜ〜。

「もうちょっとで、救急車ものだったよな。」

「あ〜冗談じゃねー。今すぐ呼べ。つーか警察呼べ。今、鈍器で頭に暴行されました。」

あほかと言う顔になった桜庭の隣で、苦笑いの上原。

「後ちょっとで冗談にならなかったんだぜ、鳴海。」

そんな二人の横で、設楽だけが黙って鳴海を見ていた。

「お〜〜い。バカは生きとるか!?」

玄関ででかい声がした。

「あ〜誰も家いなかったから、お前のじーちゃん呼んだんだわ」

「ありゃ、家伝薬の方じゃ無かったわ。」

スパニッシュフライ?

それは戦後の混乱期、祖父がバイトしていた鉄工所で知り合った。ロシア人に貰ったと言う……

カッパをはるかに凌ぐ。

「劇薬じゃ。ま、一応媚薬とも言われとるんだが。死人も出てたから使わんかった。」

一応効くにはきいたじゃろう……と

か−−−−−!!!

この後に及んでゲラゲラと笑うじじいを絞め殺してやろうかと、身を起こした瞬間。

あいたっ!!

とじじいが叫んだ。

「危ないじゃ無いですか。俺まで殺されそうになったんすよ。」

見れば設楽がじじいの腹のぜい肉を無表情のまま思いっきりつねりあげていた。

コレには鳴海も桜庭も上原も、引いた。

つーか。お前が相手だってバラしてんだけど。

…じじい唖然。だが。

「…あれ、あんた〜設楽さんちのボーズか?」

一度もあったはずのない設楽の顔を見て、そんな事を言い出した。

「…そーですけど。」

「ねーちゃん美人やな〜。よう似とる。」

死ね。

もうただの変態じじいをこれ以上他人にさらしておくのは、さすがの鳴海も無理があった。

おごれとか、女まわせとか、ぶつぶつ言う桜庭を強引に玄関へ引っ張って行き、

「じゃ〜な〜と、2人に手を振る」

何故か、設楽は残っていた。

数分後、祖母に引きずられて帰った祖父…とおもったら今度はババあまで居座った。

「本当だ、ホントに似てるわねえ。」

と設楽の顔を見て言う。

「幾つ?…ああ、貴志の同級生。じゃ14ねえ……だからか。」

と今度は祖父と二人でだべり始めた。

取りあえず、生きていた孫には興味無いらしい。

「戦死したこの人のお兄さんがね、貴方のお祖父さんの弟さんの親友だったのよ。」

昔よく、5人で遊んでね……。

どーでもいい昔話は本当にもうどーにかして欲しかったが、アイスノンで頭を冷やしながらうんざりとソファーにそっくり返る。

へーそーなんすか。

とばばあの相づちに付き合ってる設楽もとっくに棒読みだ。

つーか。こいつ何でいんだ。

説教は勘弁しろよな〜。くそ。

と思いながら

ちらっとその様子を伺う。

「戦争が終ったら、2人しか残って無くてねー。貴方のお祖父さん結婚しちゃうし。しょうがないからこの人と……。」

「ああ、沼で亡くなったってきいてます。」

フイに飛び込んできた設楽の声に…夢の記憶が蘇った。

まっさかな〜。

「これでやっと……お前に会いにいける」

消えかけた最後の言葉が今度は克明に思い出せた。

やべーヤっちまった。

設楽の横顔を見ながら最初に思ったのはそっちの方だったが…。

「ちょーっとなにしてんの〜?」

と母親より先に帰宅した姉が。じじばばと懇談しはじめる。

アイスノンの鳴海をちらちらっと見ながら笑いを堪えていたのがむかついて、

背中に一発いれてから、灰皿が飛んで来る前にニ階へと逃げた。

鳴海が立つのを見兼ねて、一緒に立って来た設楽が部屋の入り口の所に立つ。

背後に気配を感じて、彼に背を向け着替えながら鳴海は話し掛ける。

「で、テメーは何とも無いのかよ。」

「……さっきちょっと吐いたから。」

その言葉に、鳴海の動作が一瞬止まる。

「そりゃ、悪かったな。」

「お前こそ、なんともねーの?」

返ってくる思わぬ返事に振り返った。

「ああ、とくにわな〜。」

あんなの飲ませなきゃよかったと思ってさ……。

ぼそっと囁かれた言葉に耳を疑ったが……

設楽は真面目な顔でこちらを見ていた。

ふとそらされる。視線。

「じゃ、帰るわ」

・・・おい。・・・今のは。感動もんなんすけど。

あいつが、俺をいたわるなんて地球が終るまで無いと思っていたから。

照れたのか、顔色は変えぬままフイッと背を向ける設楽の腕を慌てて引っ張った。

小さくキスをする。

めずらしく逆らわれなかった。

「じゃな。」

「お〜。」

おい。お前死ぬんじゃねーぞ。

階段を降りかけていた設楽にぼそっと言ったが、聞こえてしまったらしい。

「それはこっちのセリフ。」

ぴしゃっと帰って来た。

・・・・柄にも無くあんなくそチビに幸せを噛み締めている夜だった。

設楽と入れ替えに上がって来た姉が顔にファブリ−ズをかけるまでわ。

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