寒い夜だけは
----------------------------------------------------------------




あいつと付き合う様になってから

今日で5回目の…デート。

すっかり暗くなった道を送ってもらいながら、楽しそうに語るその横顔を見て居た。



「…っで、あのヤローがよ」

学校の話、映画の話、部活の話…たわい無い会話をしながら子供の様に笑う。

その仕草が、とても好きで。

その度に

こんな無防備に笑う程こいつは俺に気を許してるんだと言う事に、

どこか照れくさくて。自然、頬が熱くなった。

まさかこいつとこんな風に並んで歩く日が来るなんて、思いもしなかったと思いながら…



1月の凍った大気の中で、そこだけが熱かった。

暗くて本当に良かったと思う。

空には満点の星。




「ああ、それ知ってる、」

何気なく相槌を打った途端、振り向いたあいつの空気が、止まった。

「・・・・。」

突然言葉を切って真面目な顔で俺を覗き込む。

「?…何?」

何だよ。

何か不味い事でも言っただろうか?と…不安が胸をよぎる。

不安そうに眉を歪めて自分を見る竜也を、もっと怪訝な顔で覗き込む三上。

そこうしている内に、すっと自分に向かって伸びた腕。

ヒヤリとした感触が頬に触れる…


「お前熱あんじゃねぇ?」

「!…え、ああ、無いと思うけど。」

「顔あけーよ。」

言いながら真直ぐに自分を見つめて来る三上に、もっと焦って、

勝手な体温がどんどん上がる。

近付いた顔に、ドキンとなる心臓。


「な、なんだよ、」

照れ隠しから険しくなってしまう声を自分で後悔しながら、せっかく心配そうに自分を見ている三上から視線をそらしてしまう。


「・・・・。」





やっベ−風邪引かしたかな?

突然食い入ってしまった自分に戸惑う竜也に気付きはしたが、かまう間も無く。

そんな声が頭をよぎった。

わざと遠い道を選んで送ってる…振りの帰り道。

(本当は持って帰りたくて未練がましいだけだったから)

幾ら自分がこの辺の地理に疎いと教えてあっても、

流石にこれは、こいつももう気付いてしまっただろうか?


時々途切れがちになって来た返事に、ふと横を見れば、

夜目にもはっきりと赤いその頬に、一瞬釘付けになる。

突然目を見開いた自分を、驚きながらきょとんとした顔で見上げて来る奴から…目が離せなかった。


水野竜也。水野竜也って言えばそう。

あの糞生意気な、すましたツラがトレードマークの…

この角を曲がった所…そうここで、1年前、小芝いしながら近付いて来た俺に、

『何か用ですか?』

と言ったこいつの冷たい顔を今でも良く覚えている。



衝動にかられながら、それでもまともそうな言葉を選んで口にする。

『本当に風邪だったらヤべーしよ…』

思わず伸びてしまった手の甲が触れた頬は、想像以上に柔らかく熱っぽかった。

『あ、ヤべーかも…』

しかし見過ぎたせいか、戸惑っていた声にやがて軽い怒気が混ざり、そっぽを向かれてしまう。


・・・ムカっと来たのは。多分自分へと。

こ−言う駆け引きは得意な方だと思って来たのに、

くそ。

思う様に出来ない自分の手順に腹が立つ。


だが、思いながらその横顔をちらっと伺うと、

奴はさっきよりずっと暗い顔になりがらマフラーに顔を埋めていた。

ああ?

…泣きそう?に見えなくも無いのは気のせいか…


そんなに嫌かよ、俺が触ったのが?


いや…

思わず卑屈になりそうな自分を立て直して、

もう一度覗いてみれば、

頬はやっぱりまだ赤かった。





ちょっとしたはずみで、そっぽを向いてしまった自分に、

あれ以来、隣の三上はうんともすんとも無い。

いままでの空気が嘘みたいに冷え出して。気まずい思いと一緒に心の底も冷やして行く。

何を…どう言おうか、考えながら、引かない頬のほてりを恨んだ。

1ヶ月ちょい付き合って、

手すら繋いだ事も無い。

初めは大事にされてるんだと感じていたし、そう思う様にして来たけど、

正直言って、最近は時々判らない…。

そう言うタイプには見えなかったのに、三上は意外と…奥…なんだろうか?

…いや、それはないと。聞こえて来る確かな噂で知っていたから。

逆に不安が募って。


告られたのは自分のなのに、もしかしたら、既に立場は変わっているんだろうか。


だがそう沈んで行く自分にふと気付いて、

否、冗談じゃ無い。
自分らしくも無い。

と顔を上げたその時、ぐんっと腕を引っ張られる。


「!?」


「今日こっちから行こうぜ、」

そう言って、さっきといく場も変わらない優しい顔で微笑んだ三上の顔を見ながら


気分は、絶望的。


あえて自分が教えなかった、最短の近道へと足を進める三上。


「この道、知ってたのか?」

「…まーな、」

肩ごしに見えた顔は軽い苦笑。

「じゃあなんで…」

思わず口にしてから、はっとして、何でも無いと言い詰まる。



何で今日に限って…

何でいままで言わなかったんだってか?


2分もしない内にあいつの家が見えた頃、突然後ろからぐんっと引っ張られた。

いや、俺の背中のパーカーを掴んだまま奴が止まったのだ。


「…どうした?」

振り返ると、奴は何故か、何処か詰まった顔で俺を見ていた。

「?」

「今日、ここで良いから…」

といってもそこは道のど真ん中。

「…何で?」

思わず、右目が痙攣しそうになりながら、平静を装うが、

初めは険しい顔だと思っていたものが、良く見れば、困惑した様子で何かに詰まっている表情だった事が判る。

だが彼は何も言わず、ゆっくりと自分のマフラーを外していた、



終りにしたく無いなら、その方法は分かっている。
俺だってもう子供じゃ無い。

だが…



自分を見つめてると言うより強い瞳が睨んでると言った感じの竜也に、ちょっと引きながらも


「んだよ。」

と苦笑しながらその後頭部をぽんと自分の方に引き寄せた瞬間。

目の前が暗くなって

軽い音と、何かが触れて離れて行く感触。

気がつく前に、その腰に腕をまわして引き寄せていた。

「み、…かみ?」

至近距離で驚くそいつにくっと笑うと、かっと赤くなりながらやがて覚悟を決めた様に瞳を閉じた

竜也のそこに、静かに触れた。

触れるだけのキスをして、

少しづつ深くなる。

耳を犯す濡れた音と

相手の甘い香にすっかり何もかも忘れて、抱き締める腕に力を込めていた。





じゃあな。

どのくらい、そうしていたのか…

と息を切らしたままの相手の額に、自分のデコをコツンとぶつければ、

さっきまで無垢に赤面していた誰かさんが、フと悪戯っぽく眉をひそめて笑っていた。

そして、身を放すと、

そのまま「じゃあな。」と一度微笑んでから

あっと言う間に身を翻して駆けて行った。


「・・・・。」


その背中を満足気に暫く見つめながら

今頃、きっとえらい顔をしてるだろうと想像して、つい笑いが漏れる三上だったが、


まさかあれで本当にりんご病を染されてたとはまだ知らなかった。






TOP

-----------------------------------------------------------------------
竜也が乙女に(?;)なってしまいました…そして甘い…・・
今頃になって書いてみた、こんな話。

























SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ