一千夜

one night one love−−−−−−−−−−−−−−−松虫さんに捧ぐ1−−−−−−−−−−−−













あ。

三上亮だって・・・。

通り過ぎさまに何となく目に付いた名前。

ああ、あの人か。

…部屋割りってポジション順なんだな。

その時はただそれだけだった。

武蔵森の10番で、

昔、誰かさんが追いかけて行ったあの人。

俺が彼に付いて知っているのはそんなもんだった。

選抜初日の夜。

明星から呼ばれたFWは二人、けれど今ここにいるのは設楽1人だった。

鳴海の奴ちょーしこきすぎ。

まあ、煩いのがいなくて良かったけど。初日からすったもんだはヤダからね。

かといって・・・

夕食を終えると特にやる事もなくなり、久しぶりに会った桜庭達と喋るのも良かったけど、狭い部屋に直行するのも気が引けて夕涼みにでも出ようかと。

たらたらと廊下を歩いていた。

オレンジ色の小灯を残して明かりの消えた誰もいない食堂に足音が響く。

テラスに出ると、梅雨の明けない温く湿った風が肌に張り付いた。

幾らかの風が頬を吹き抜けても、べと付いて、気持ちの良い物では無かったが、部屋に戻ろうとは思わずそのまま手すりにもたれると、暗いグランドの向こうをただ見つめていた。

何だかんだ言っても、思い思いの少年達の夜は楽しい時間だったのだが。

201号室は重かった。

『お前はやくどっかいけ。チビのトコでもママに電話でも何でもいいから消えろ。何なら帰ってくんな。』

どんなにシカトしようにも、幕一枚隔てた向こうに感じる水野の存在がどうしてもうざい。自由時間だと言うのに、この部屋の住人は何故かそろいも揃っていた。

穏やかでないのは三上だけでは無かったが。

たまりかねて、三上がカーテンを開けると向いのベットのカーテンも同時に開いた。一瞬目を丸くした水野とハタと目が会う。

「あんだよっ!!テメっ」

「別に。そっちこそ・・・。」

先にそっぽを向いた水野を視線で押して通路を捕獲する、

バンとしまったドアが3歩も歩かないうちに開いて自分とは逆の方向へ水野が駆けて行った。

ちっ。

・・・どこまでも目障りなやつ。

渋沢のトコにはどーせバカ代が来てるし、行く当ても無く取りあえず自販に行こうと………

誰もいないホールの向こうふと目をうつした先に、

小柄な背中が闇に浮んでいた。

『ヘーー・・あいつ確か・・。』

「何してんの?」

−−−!!

突然かけられた声に、遠くのネオンに意識を飛ばしていた背中がびくりと小さく跳ねた。

その様を見てクスっと……笑いをふくんだ人影に振り返ると、

彼がいた。

「…三上さん?……。ども。」

食堂の薄明かりを背に窓枠のサッシに手をかけこちらを眺める彼の姿。

殆ど初対面だと言うのに……笑うか?普通。

「よお…あんた設楽だっけ?」

何か見えんの?と

空気を読んだのか、笑いの余韻は綺麗に隠して意地悪そうな顔でニコリと笑みを浮かべる。

自信家の顔だ。

「いや、別に。」

「1人?あのデカイのは?」

「鳴海ですか?」

「そう」

「あいつ、面倒だから後から来るって…」

「ふ〜ん。」

どいつもこいつも余裕だね。

いかにもどーでもいい。という顔でさらりとそんな嫌みを言う。

・・・・・・。

この人は誰にでもこうなのか?

話した事なんてもちろん無いし、顔を合わせたのも試合の数回。

お互い顔と人づてに聞こえて来るささやかな噂を知ってる位で、知り合いとも呼べないだろうに。

けれど不思議とその馴れ馴れしさが嫌では無かった。

ま、あれだけウザイ(鳴海)のが毎日側にいれば並み大抵の事には耐性も付くだろうけど。

温い風の中、

しばしの沈黙、

口火を切ったのは俺の方。

「そっちに、笠井って…いるじゃないすか。」

「まーね。お前幼馴染みなんだって?」

「…ええ、まあ、腐れ縁の。」

だから知ってたのか俺の事。何だ。

俺は振り返らずに、そのまま背中越しで会話を続けた。

なんでそんな事話したのか自分にも良く判らない、自分から人にぺらぺら喋るのはそう好きじゃ無いから。

ただ何となく、もう随分あっていない幼馴染みの事が頭の片隅にあったのも本当だし。

いつも煩い馬鹿がいなくて、退屈だったからなのかもしれない。

笠井竹巳。

あの猫目。

何をやっても気に食わなかった。

俺の後ばっか付いて来て、まねばっかして。

人に言わせれば顔が似てるとか、濃いのと薄いのだとか、好みが一緒とか。らしいけど、

とにかく俺は大迷惑だったっつ−−…。

それがある日突然森に行くとか言い出して。

何かと思えば、ミカミ先輩だって・・・・。誰それ?。だよな。

「あのドン臭い竹巳がまさか森に入るなんて、意外でしたけど。」

「でもあいつ、思い込んだら一途だから。」

俺とは反対。

……そう、それで噂じゃ念願叶ってこの人と付き合ってるらしいけど。

ちらりと後ろに気を配るが、

「へえ〜。」とたまに合図ちをうつ以外、三上は黙って俺の話を聞いていた。

「ま〜な。目立たねーけど、しっかりしてそーでドジるよな、あいつ。」

幼き日々の片鱗が見えちまってるよな・・とか言う。楽しそうに。

そうそう。「幼稚園の時、お昼寝中に園長ん家の子猫に玉をかまれて大絶叫して。しかも悲鳴聞いて飛んで来た副園長がばあさんで、皆の前でパンツおろされてクスリ塗られて、担任の先生にまで苦笑されて、さらに大泣き…」

「それで猫嫌いになったんですよあいつ。」自分だって猫みたいな癖に。

「まじで?」

これにはさすがの彼もカクンと腹を折ってくっくと笑っていた。

その笑い顔があまりにも屈託なくて、何故か自分の方が照れてしまった。

何を喋ってるんだ俺は。

そんな色気の無い話でひとしきり盛り上がっていたが、

笑い疲れて、フと彼を振り返ると

れ?

いない!?

いや。

ふわりと石鹸の甘い匂いが鼻に付いたかと思うと彼の姿はすぐ目の前、正確には真横にあった。

・・・・あ、風呂上がりなのか・・・。

何故かドキリとした。

その時伸びて来た腕に気付かず、俺は簡単に顎を取られる。

あ……始めて真っ向から見た彼の顔に目が逸らせなかった。

自分には無い色素の色。黒い目。黒い髪。その肌の色。濡れた髪が余計に色を放っていて。

鳴海を見てるせいで気付かなかったが、近くで見るとこの人も自分よりはずっと骨格が良い。

「遠くで見ると似てると思ったけど、全然似て無いな、お前ら。」

「当たり前じゃ無いですか。」

静かな声は少し掠れていた。

口の端を上げただけで、彼は笑わなかった。

至近距離で顔を見られる事に抵抗を覚えて顔をそらすと。

フと彼の気配に笑われた。

どのくらい近かっただろう。20、15いや、考えてる間に距離はちじまっていく気がして。

あせった。

キスしようとした。……こいつ。

いやな奴なのに。

嫌じゃ無い。

俺は・・・。

横顔に彼の視線をはっきりと感じて、自分の意志に反して心臓が勝手にハヤ打つ。

見透かされてるみたいで居心地が悪かった。

「あんたさ、鳴海と付き合ってんの?」

「まさか・・・。」誰があいつと?こんな時に、吹き出すからやめて欲しい。

「ふ〜ん。」なら良かった。

そんな風に続く気がした。

期待している自分がいる。

今ならはっきりわかる。

「これからヒマ?」

「ええ、まあ……。」

「じゃあちっと、つきあってよ。」

「・・・いいですよ。」

いいですよ。

お前の物なんか取ろうなんて思っちゃいない。

ただ俺は、興味が湧いてしまった。この人に。

いや。それでも、今正直に思えば。

いつも「先輩先輩」語っていたあいつの三上先輩に。

俺は興味があったのかもしれない。

何時の間にかどんなやつか。俺は知りたくなっていた。

お前があんまり熱心に崇拝するから。

知りたかった。

それだけだよ。

お前なんでこんな奴がいいんだ?竹巳…。

こいつは・・・俺と寝るぞ。





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続きは有りません。。。
引いて言えば、ベリベリー0に繋がっています。

































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