フェイク
竜也、森へ行く。第3弾(^^;
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「けど三上もよ、よく丸くなったつーか。」

我慢してるよな。

「ああ」

それは名目上の新入生歓迎会の席の事。


「アレだろ…」

「そ…」


目配せと供にちらりと彼等が視線を飛ばした先に居たのは、

話題の一年生。

水野竜也。


「アレだけ騒がれてよく入って来る気になったよな、…対した自信だぜ。」

「…さすが、誰かさん(監督)そっくりってトコだろ?」

「あー…それね。」




まあ、んなもんか…

自分の後ろから聞こえて来る3年レギュラーの声。

聞こえながら、今度は自分の斜前のテーブルへと視線を配るが

渦中の本人は

時折くすくすと漏れる笑いを背に受けながら、

何事も無い顔で、ただ与えられた缶ジュースに静かに口付けて居た。


彼が何者なのか知ってる自分達以下の人間に取っては

厄介な奴が一人増えた…

位で暗黙を通されて居たその存在も。

始めて彼を目にする1コ上の連中に取っては、ちょっとした話題になるのも、仕方はなかったが。


パンダじゃあるめーし。


今さら対比の対象に自分の名前が使われるのは

果てしなく気分が悪かった。



『噂では聞いていたけど…』

あいつが…

それがまた余計に彼等の興味をそそったに違い無かった。




飲酒で盛り上がる周りをよそに一人ウーロン茶を握る姿は

相変わらずだと思った。


別に親しくもなんともねーけどよ。

ちょっとでも、新しい奴らの中では昔を知ってる自分が、

既に知り合いの一人になってるのは(もちろん嫌な方の)

変な気分だった。

最後に会ったのは、いつだったか。

結局、あいつの中学が決勝へ上がって来る事は無く。

最後に会ったのは…


あの選抜の日が最後だった…

・・と言うのが

余計お互いの面識を余計悪くさせて居た気が…しないでもない。


と、後ろで風の動く気配。

がらりと開いた戸口には袋を下げた別のレギュラー人が立って居た。


「おーいたいた。」

「アレだって、アレ。」

「よーー水野!」

「あれ?ビールダメなの?」



うわ…。

比例反比例。

思わず、自分と藤代の対比が頭に浮んでしまったのは気のせいだと思いたい。

まあ、嫌う人間もいれば、好いてくれる人間もいると言うのが自然の摂理だ。

それだけ初対面の他人に影響力を持つってのは良くも悪くも大物の…

や、なんでもねーけど。


しかし、

他人事にも

アレはどうかよ…

と思いつつ、


肩を組まれ、小瓶の酒を口に突っ込まれ。

ノリは体育会系。で楽しく歓迎されてしまっている奴の姿を見ながら

思わず、渋沢の姿を探してしまったのは何故なのか…


つーかよ…
いねんだけど。

何気なく周りを見渡した所で、初めて気付いたが…その姿はさっぱり見えず。

そうこうしているウチに。後ろから、ドスっと容赦ないラリアットで肩を組まれた。

「聞いて下さいよ〜〜三上先輩っ!」

「ああ!?」

そこには、大袈裟に溜め息を付くあの藤代の姿。

「は、嫌だ、絶対嫌。さわんな、消えろ。」

「キャプテンったら」

「おい、キャプテンはまだ俺だぞ〜〜」

入った野次に「あ、すいません〜。」と手を振り

「で、次期キャプテンが…」と人目もはばからず再び向き直る。

…酔っているから良い物の。

いや、良く無い奴もいるだろうに。

バカばっかりだと、肩に乗せて来るその顔を押し退けながら、

「テメ、渋沢はどーしたんだよっ」

「だから、キャプテンが帰っちゃったんですよ。」

「はあ!?」

「実家の急用だったんすよ。三上先輩に後は頼むって伝えてくれって」

なんだとあのヤロ〜…

その瞬間、視界の端で、あいつの背中が跳ねたのを、俺は見逃さなかった。


現キャプテンに肩を組まれて会釈されながら

既に顔は真っ青。


飲めねーのか?


あいつの場合。

スかしてんのか。

本当に坊ちゃんしてるだけなのか

入り混ざってて微妙だと言う事を。最近何となく自分も分かって来ていた。




「いえ…そうでもないですよ…」

「もう結構ですから…いえ」

答えながら、今何を聞かれていたのかすらもう思い出せず。

多分コレがウーロン茶のハズだと思って手を伸ばしたグラスには、既に焼酎が入っていたり…

とにかく、この酷い吐き気を気付かれないウチにどうにかしようと

何か…助けを…と周りを見渡すも、

すでに机にうっぷす隣の同級生に、遠くで酔っぱらう誠二の姿。

ダメだ…もう。

ぐらぐらとする頭で、首にまかれた手をやんわりと外し、

「すいません」ちょっとトイレ…と竜也が言いかけた途端に、

その彼によそから声がかかる。

「お、ちっとごめんな」と呼ばれて戸口の方へ立って行った。

……!

ほっとして、席を立上がったその瞬間、別の腕にがっしり腰を掴まれて

再び、床へと逆戻り。

「つーかまえた。んじゃ今度はこっちでのもうなぁ…v」

気のイイ先輩の1年狩り。

分かっている、

だが。


腹を圧迫された瞬間、ぐっと食道へと競り上がった流動物に慌てて口を塞ぎ、その手を

振り払おうとしたその時…

振り上げた両手を前からがっしりと引っ張られたのだった。



「なー、おー妬くなよ三上、」

「あーどーもすいませんね。」

と、あからさまに怒りマーク一杯の顔で、竜也を先輩から引き剥がすと

「ったく、んな所でぶちまかす気すか?」

とネ目付け。

「三上先輩かっこいーv」と

出かけに野次った藤代に菓子の袋を投げ付ると。

ブーイングの嵐を一切無視して、部屋の外へと引っ張って行く。


「何だよ、じゃあいいよ藤代で〜」

「何だとは何すか!」


後ろで遠くなって行く喧噪を聞きながら、自分を引っ張行く三上の背中を

怒った様とも、拗ねた様ともつかない複雑な顔の竜也が見ていた。


戸を開けて、個室の中へと入れられる。


ちらっと見えた三上の顏は憮然としていた。

仕事…

と割り切っているのか。

『ったく面度くせェ…』の一つも聞こえてそうなのに

愚痴もこぼさなければ、今の竜也に嫌味も言わない気遣いも、意外だった。

「終ったら、呼んで。」

それだけ言うと、戸をしめて行った。



どの位立っていただろうか、

水の流れる音に、時々混ざる嘔吐が繰り返されて。

トイレの窓をあけると、まだ冷たい4月の風が流れ込んで来た。


やがて止む水音。

だが、暫くまっても、奴は出て来ない。


・・・寝てる?


嫌な予感を感じながら、戸を叩いてみると、

鍵の開く音。

「?」

キィっと音を立てて、覗いてみれば、

蓋を閉めた便器の上にうっぷしていた。

自分を認識すると、眉を寄せたまま薄らと目を開ける。

「よー…どーした?」

吐き気は無いのに具合悪そうだった。

軽い急性中毒か?


これ以上ここに居てもしょうが無いだろうと見て取って、

腕を持ち上げ立つ様に促すが、首を横に振られる。

仕方なく。

背中をさすると、ぼんやりと俺の方に視線を向けた。

「・・・・。」

目が会っても、見ているのか、居ないのか…


「久しぶり…」


聞こえた声は幻聴では無かった。

ぼそっと奴が言う。

「ど〜も…」

その時生意気そうに笑った顔も、今は真っ青だった。

「坊ちゃんにはビール一杯が限界なのになぁ?…」

すると、表情は変わらないのに

無言で自分の腹を指で刺して来た。


「寒い。」


思わず青筋が立ちそうになった物の、

違った事に気付いて、その顔を覗き込むと、微かに指先が震えていた。


あー…何で俺がこんな事、

思いながらもふと、あの頃、目に見える程の空気の壁になっていた

こいつと自分の間にあるべき緊迫感が、

こんなに薄んでいる事が不思議だった。


「取りあえず、帰ろーぜ。無理でもよ。」

そう言って険しい顔を浮かべるやつの片腕を背中へと担ぎ上げ、何とか個室から出る。


結局、部屋まではおぶって帰る事になり、

俺に部屋番号を告げると、奴は呑気に眠りについていた。

途中ですれ違った誰かが

行き交い様に振り向いたのを、

その時は気にもとめなかった。




その次の日の朝。


食堂へ入るなり、自分からそらされた幾つかの視線を感じて、

眉を顰めながら、いつもの席へと付く。

「よー、」

「ああ三上、お早う」

「あ、お早うございまーっす」

…・・。

とやっぱり背中に視線。

「三上、昨日は悪かったな。大変だったって?」

「ああ、いや、」

何なんだ?渋沢に言ってやろうと思ってた文句の一つも忘れて

明後日の方に犯人を探すが…

「先輩、三上先輩…」

「あんだよ…」

袖を引っ張られ、藤代に戻された。


「昨日、トイレの個室からぐったりした水野と出て来たって。本当ですか?」


思わず、開けていた納豆の辛子を向いの大森のサラダへと吹っ飛ばす。

「は?」

小声ではあったが、隣に居た渋沢には丸聞こえで、奴も箸が止まっていた。

「あいつが酔い潰れてたから、吐かしてたんだよっ」

変な言い方するなと、一発殴るが


「お早うございます。」


とその時、すっと何喰わぬ顔で隣に現れた水野に、食堂がざわめくのを止められなかった。

「あ…よ…」

固まる自分の隣に、「いいですか?」とちゃっかり座ると、周囲の喧噪等なにも気にせず食事をし出す。

はっと気付くと

隣の2人まで自分が振り向くと同時に前に首を返してした。


「…・・・」


偶然なのか、何を考えているのか…


不愉快だが、否定し続ければそのウチと、再び箸をもどしていた。

しかし。

それは起きた。

「よー水野、昨日はごめんなー!」

「俺も飲んでっとくせでさぁー。いつもは渋沢が止めてくれんだけど、な。」

欠伸をしながら起きて来た、諸悪の張本人の現キャプテン。藤代。


御兄弟だったんですね。

とぶすっとする竜也にをも「おお、にてんだろ!俺のがちっと慎ましいけどな」

思わず、まじまじと奴の顔を振り返ってしまったのは、隣の隣に居た実弟まで一緒だった。

「んで、水野は三上と付き合ってんだって?」


「・・・さてね。」


と含み笑いで、前を向いた竜也の顏を眺めてから、やがて

「何だ、変な噂が立ってから心配したけど、平気そうだな」

とぽんぽんと頭を撫でて去って行った。


恐る恐る、隣を振り返るが「何ですか?」と何喰わぬ顔で返され。

反対側を振り向くと、今度は真面目な顔に吃驚と浮かべている二人。

「おい、ちげーからな、」

言ってみるが。

「ああ、三上。」

「分かってますよー」

とトレイを持って移動して行く。

・・・・・…。


飲み終ったお茶をトレイに置けたのは人気が引いてから、やっとの事だった。

「あっちが見られてたってよ…」

向いに人が居なくなったのを見計らって

ぽつりと聞こえて来た声に、竜也が視線だけを向ける。

「そ−言えば、すれ違ってたかもしんねぇ…」

「ま、噂は聞けても親父も部屋の中までは覗けないよ。」


「盗聴されんなよ、」

「まさか、」


それから先に席を立ったのは三上の方。

同時にテーブルの下で握られた手も静かに離れて行った。





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前に似たような話しがあったな…と思いつつ。思い出せず…





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