ラブ・コンプレックス2
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『いつっ……!!』
ドンと言う鈍い音と一緒に勢い良く体が空へと投げ出され。目の前の視界に床のタイルがせまって…。
とっさに手すり掴もうとした手が空をまった時、ぐんっと背中から左の腕を誰かに掴まれ何とか中段でくい止まる。
ほっと息を吐く。後ろから声がした。
「大丈夫か?」
「渋沢さん。」
「危なかったな…」と言いながら上の階の階段へと視線を送っていた。
彼の見る先へ耳をすますと微かに駆けて行く足音が聞こえる。
あれか…。
誰が?何て口にはしなかったが、渋沢は困った様な顔で水野に視線を戻した。
「すいません、大丈夫です。」
「行こう」とそのまま背を押されて、促されるがまま階段を下って暫く一緒に廊下を歩きだす。
「・・・・。あんまり一人で行動しない方がいいな。」
フと口を開き、渋い顔でそう言った渋沢を水野が少し驚いた顔で見上げた。
「いえ。大丈夫ですから。」
う〜んとその台詞に苦笑いする渋沢を水野はますます嫌な予感を覚える。
まただ。
上手く行ってるとか行って無いとか。そんな事この人に話した事は無かったハズ。三上とのことならともかく。まして、大原や佐々木の事なんて話題にもならないだろうに。
なのに知ってるんだな…この人も。
まるで、職員室の申し送りだな。と心の中で思う。
常に誰かに庇護と言う名の監視をされてるあの張り付くような感覚が甦って。
彼を悪く思う訳では決して無いけど。やっぱり…と薄く笑って俯いた竜也に。
その時彼は気付いたのだ。
「…暫くは窮屈かもしれないけど。なれれば結構、ウチは放任主義だから。」
「大丈夫だよ。」
そう言って2度ポンポンと竜也の背中を叩いた。色んな意味で。好意的だったこの人を。
その時。竜也は改めて凄いと思った。
「渋沢さん…?」尊敬…と言う言葉がこの人には素直に浮ぶ。
「初めは皆な。お前だけじゃ無いよ。今だって納得してる訳じゃ無いさ。」
と言って笑う。
一字一句が当たってる訳じゃ無い。だけど何故かふと腹の中が軽くなって行くのを感じたのだ。
嬉しかった。
肌に合わない水や空気。周囲の目や下らないイザコザにうんざりして居た。それは確か。
けれどそれ以上に、外から来た者だけが感じる「私立」への歯がゆい不満や反感…それを感じる孤独。竜也がずっと腹の底に抱えいたそれを。
ここへ来て初めて彼一人だけが見抜いたのだった。
少年と呼ばれる。最もうつろい易い時間の3年と言う歳月の中、内側の人間でありながら外側との区分を明確に保ち続ける。それは容易では無いし。聡明な人間にしか出来ない事だった。
「・・・・そう、ですね。」
ちょっと照れ隠しになりながら、竜也が微笑んだ。
「頑張れよ。」
「どうも。」
何時の間にか部屋の前まで送られて来ていて。軽く握手を交わされる。
「おやすみなさい。」
「お休み。」
そう言って去って行った後ろ姿を見送りながら気分良くドアのノブを引き、部屋の中へと頭を入れた瞬間。
凍った。
「よお、お帰り。」なっ・・!!!!
一瞬部屋を間違えたかと疑った。
自分のベットの上で雑誌を広げ。たたみかけのジャージを足下に放置し。「あ、お前ちっとそれ取って、ちが。それ。」
ルームメートを顎で使う暴君三上の姿が在った。
悪夢だ。
ドアを閉めるのも考え付かず、ただ敷き居を跨ぐのを足が拒否った。「ああん!?テメ何してんだよ?蚊が入んだろーがよ!」
と間の抜けた顔で戸口に突っ立って居た竜也にも激が飛ぶ。
「何してんのか聞きたいのはこっちなんだけど。」
「ですけど。」
「・・・・。」
「はいお前。オレは誰でしょう?」
「三上…先輩?」
「そう、センパイ。」
あはは。死ね。
「で、何の用です?」
「見張り。もうめんどくせーから今日からここ住むから。どーぞよろしく。」
は?
このトドがなんだって?
「いいか。テメ−が下らねえもめ事起こす度におとがめ受けんのはこっちなんだぜ!!」
な〜〜んでテメーのパパにテメ−の事で俺が説教されなきゃなんね〜んだ?
しかもテメーのポジションこれからかっさらいます。って奴のお世話だぜ?
「やってられっかよっ。クソが。」
へらへらと薄笑いを受かべて竜也を侮蔑したかと思うと、今度はマジ切れモードでそんな事をまくしたてる。
酔っている?
説明を求め様とそちらへ向いた竜也からルームメートが顔をそらす。
「今日から一週間泊まっから。」死んでも死なねえ様に監視してやるから感謝しろ!
三上は。切れていた。それだけは竜也にもはっきり判った。
何があったか知らないが、ここ3日殆ど毎日監督室へ呼び出されていたのは知っていたから。
何があったか何て、一目瞭然だったが。
「一週間!?」
声を上げたのはルームメートも一緒だった。
「テメ−近付くんじゃねーぞ!」
「そっちこそ!!」
初め、「お前は床で寝ろ」とか言い出したが、急に入った水野の部屋は予備の布団が置いておらず。
無理矢理。そこまでしてやるか?と言う位無理矢理。
同じベットで寝る羽目になった。
『こいつ…信じられない。』どー言う神経してるんだ!?と寝つけないでいる竜也の背中越しでグーグー寝息をたてる三上をちらりと確認する。
毛布だけ分けてベットの端と端で背中を向けう2人。
特ににはしっこの竜也は寝返りをうったら速攻で終わる
「・・・・。」それだけで肩がこった。
どーせ酔いがさめれば、すぐに帰るだろう。
そう踏んで居た。
「おっす。入るぞー。おい水野ミカ…ミ?」早朝、野次馬と見回りを兼ねた近藤が部屋のドアを勢いよく開け。
また閉めた。
パンっ。と軽い音が中から響く。
「ってなにす…」
「にしてんだ…テメ」
「それはこっちのセリフだろ!!!」
「あーうっせえどけどけおら。」
狭いベットの上寝返りをうっただけでも、竜也の上に覆いかぶさった三上の腕が抱いている様に見えたのだった。
微かに聞こえた近藤の声。『ああ、朝か…』と
目をあけると。
そこは自分の部屋では無かった。
ん?自分の顎の下で寝息をたてる栗毛の頭。
知らないジャンプーの匂い。
笠井?…じゃねーな。あいつの部屋でもねーし。
あー?誰だっけ?
とちょっと体を放した隙にパチリと相手が目を開けた。
はた。
と目が合う。
あまりの至近距離に言葉より先に手が出て居た。
軽く揺すられて目を開けると、目の前の相手に焦点が合う前にぱちんとおでこに何かが飛んで来た。痛っ…なっ。え?
何んだ?
全く。これじゃ安眠も出来やしない。アレから戸口の前に居た近藤を三上が締め上げに入り。この忙しい時間に流しに行くのも一苦労。
朝練にはぎりぎり間に合ったが。ほとほと疲れきっていた…。
こんなのが一週間も…。いや、さすがにあいつだってもう来ないだろうけど。
そんな事をつべこべと考えながら。2限目の休み時間に教科書で隠しながら大きな欠伸。「寝て無いの?おはよ。」
佐々木だった。
「…おはよ。」
無愛想に返した竜也にも気遅れせず、たまたま留守だった前の奴の椅子に腰掛けて来た。
何か用かよ。と無言で見返す竜也にふっと笑みを漏らし。
「君が一人で居ると目立つだろ。」と言う。
は?「ど−言う意味だよ。」
「只でさえ目立ってるんだから、少しは風景ってもんに溶け込まないと。」
確かに佐々木が来てから刺さる視線の数が引いた感じ。それは正論だった。しかし。
こいつは毎度毎度本当に気に障る。
三上とは全く別の意味でやりにくい相手。
「別にお前の世話にはならねーよ。」
ふんと跳ね返す。
「全く、少しは協調性ってもんを身につけないと。」
水野の悪態にも彼は根気よく笑顔で接する。…嫌味な奴。
「そんなんじゃ友達も出来ないだろ。」
「だから無理して俺の所にこなくって良いんだぜ、アンタもな。」
そういった水野の顔を佐々木がきょとんと見て、それから吹き出した。
「な…んだよ!?」
「君、本当にボンボンなんだな。」
険しくなった水野の表情をよそに肩を震わせて笑うと、その時ちょうど鳴り響いたチャイムと共に席を立って行った。
本当、嫌なやつ。
最近気付いたのは、自分が本当に嫌いなのは森のやり方と言うり、佐々木のやり方なじゃないかと言う事。
コンコンっとわざと音を立てて教科書をそろえる。
その様子を、廊下側の後席から薄笑いの大原がじっと見ていたのだった。
「何だかんだ言って、三上って面倒見いいよな」そう言ったのは根岸。
三上が出張中(水野の部屋に)なのを良い事にのびのびと部屋で過ごす近藤。
「そ〜〜か〜〜?」
「だろ〜〜やすんど。」
「あっ、三上。」「げっ、三上。」
それぞれが違う理由で焦る。
「やすとだから。つーか根岸でいいから。」
「ねえちょっと、やすんどいる?」
極普通に後ろから顔を出したのは中西。
「お前ら、昨日まで根岸だったくせに!!!」
「何言ってんのやすんど。」
「そーそーやすんど。」
「〜〜〜〜〜!!!」
あーあー。うっせーのが始まったよ。
と一人涼しいか顔でベットに寝転んで居た近藤のケツにも三上のケリが入る。
「ふ〜ん。じゃこっちには誰が来てんの?」「誰って?」
「だから水野の合部屋の奴って誰?」
しんとなる部屋。
中西また余計な事を…と関わりたく無いから、やっぱりベットの上で雑誌をめくる近藤が思う。
はあ?と言う顔で中西を見居た三上を見て中西再び突っ込む。
「昨日お前どこで寝たの?」
「べっト。」
答えながら三上も気付いて居た。それは今急に能面を装った顔で判る。
一緒に寝たとは一言も言ってない。言って無い。が。
「そりゃそーだな…。」
と流した中西とは裏腹に
「マジで!!?」と
もうウザイ位素で突っ込んでしまった根岸が、大変な目に会ったのは言う間でも無かった。
「じゃあ、俺呼ばれてるから。」と言って、着替えと洗面一式を持って出て行こうとしたルームメートに声をかける。
「塚田?」
「一週間したら帰って来るから。」
「ま、まあ大丈夫だろ。」と苦笑顔で竜也に言い残す。
マジかよ?
「じゃあな」と閉まるドアを竜也は唖然と見送るしか無かった。
まさか…本気で一週間居るつもりなのか?
「よっ。」
と塚田と廊下ですれ違っているあいつの声が聞こえる。
教室に行けば、相変わらず友達に成り済ました佐々木と顔をあわせる毎日。日に日に竜也の苛立ちはつのったが。
幸か不幸かクラスメートはそう言った位置付けの元で竜也を受け入れ始めて居たのだった。
「同じ班にしといたから。」
「何が?」
「体育祭の係り」
しといたから?
だがもう反論する気も失せて、「そうかよ。」と吐き捨てて窓の外へと視界を返る。
「俺とお前と。大原と佐藤だから。」
佐々木を見るが下を向いて何かの日誌を付けて居た。
こいつが親切でやってる訳じゃ無いのは嫌と言う程承知して居たが。
本当に何を考えているのかさっぱり判らない。
ただハッキリしているのは、こいつが自分を心底嫌っていると言う事だけだった。
NEXT
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オリキャらさあ…。水谷いい加減にしろと…私も分ってるんですが、ええ痛い程。
森の2年生。書き込むとどーしても必要になってしまいます。
早く笠井や藤代がでてこないかな・・・。と自分で思う。
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