キャットファイト!
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「あ、三上先輩。」
スポーツ店を出た少し先に見覚えのアル背中を発見。
人波みを縫う様にして追い付こうと焦るが、
運悪く変わってしまった信号を渡って来る人が、どっと彼と自分の間に押し寄せて、隙間から見える背中を時折確認しながら掻き分けて行くものの。
ああ、くそ!
背丈はこの年頃の標準値は満たしているはずの自分ですら、時折彼を見失う。
と、その時。
前ばかり見ていた自分の体が、思いもよらない方向から…それもわざとらしい肘鉄で軽くドンっと押されて、
「なっ」と振り向けば、
「あ、わり。」
自分より目線一個低い茶色毛の猫目が。何くわぬ顔で隣に来ていた。
嫌って程記憶に鮮明なその顔は、腐れ幼馴染みの設楽兵助。「何の用だよ。」
「別にー。買い物。」
と言いながら明らかに自分と同じ方向へ足を運ぶ彼に負けずと並ぶ。
「三上さん元気?」
「お前に関係ないだろ。」
「ふーん、」
やばい。曲った。
隣に気を捕られた一瞬の隙に前を行っていた背中が見えなくなる。
ぎよっとして走り出したのは二人同時だった。
「…んで付いてくんだよっ」「そっちこそ。」
一歩竹巳が前に踏み出せばシャツを引っ張られ。設楽が間をぬって行こうとすれば、肘を張られ。
行き交う人の中に紛れながら秘かな牽制が始まって。
気付いた時には
「お前のせいで見失っただろ!」
「はぁ?何を?」
しらっとした顔で、ふんと笑う設楽。
三上が曲ったはずの路地はガランとしたまま。彼の姿は無く、近所の子供がチョークで遊んでいた。
こんのぉ〜〜!!!!
わなわなと拳を震わせながら、竹巳が堪える。
ゆっくりと隣で優越の笑みを浮かべる彼を視界の端に捕らえると、口を開けば飛び出てきそうな暴語に耐ええていた。
「じゃあな。」「・・・・。」
そう言って今来た道へくるっと向き直って歩き出した設楽が横を通りすぎた瞬間。
「そう言えば鳴海と。」
突然かかった笠井の声にぴたりと設楽の背中が止まる。
「誰それ?」
「付き合ってんだって?」
「何の事?」
「別に。随分趣味変わったと思って。」
「お前に関係ねーだろ。」
幾分険しくなった設楽の口調に、今度は竹巳がふんと笑う。
「彼氏いんのに三上先輩?」
「そー言うお前だって、相手にされちゃいねーっつーじゃん。」
「誰が!?」
「大体先輩は、水野竜也に御執心って話じゃねえ?」
「!!」
睨み合う二人の後ろからチャリのベル。
「・・・・。」になりながらちょっと竹巳が身を引くと二人の間をママチャリが通り過ぎて行った。
「帰らねーの?」「そっちこそ、」
帰ろうとしながら…その場を離れない竹巳にどーしても設楽の足が止まる、
お互い考えてる事は一緒のようで、無言の火花が散っていた。
『こいつにだけは抜かれてたまるか!』
…にしたって先輩、どこ行ったんだ?こんなトコに知り合いなんていたんだ。
男か、女か。
いかにも「人の勝手」にどっぷり首を突っ込みながら、
本当の所やっぱりそこは気になる二人で…。
数分後、
結局知らないその路地に肩を並べて歩く二人がいた。「あ、ここ、通り道。」
「本当だ。」
古いアパートの横にもう一本向こうの通りに抜ける細い道。
「行ってみる?」
「行けば?」
く〜〜!可愛く無い!このチビっ!
思いながら我慢の竹巳。
「つーかここ道?」
「けど、曲ったとしたらここしかなくねぇ?」
「そうだけど。」
前の家との差は幅2m弱の狭い路地に長家が続く、このへんじゃちょっとありえない古い良き町並み。
かと言って家々が古い訳じゃないから、何かのモデル地区として作られた場所らしかった。
そんなに他所者が珍しいのか、
通りかかる近所の子供や買い物袋を下げたおばさんがちらりちらりと二人を見て行く。
そのやけにささる視線に居心地の悪さを感じ、三上の事もともかく。
さっさとここを立ち去ろうとした時、突然後ろから声がかかった。
「そこ、私有地だぞ。」
ぱっと振り向けば、怪訝な顔できょとんとした、
水野竜也が立っていた。
「あ、お前達は…」竹巳と設楽の顔を見て、薄い記憶の中から何から名前を探り当てようとでもしているのだろう…
何かを言おうとして言い淀む。
それを見れば、やっぱり二人してムカ。『この。』
たとえ向こうが知らなく立って、こっちは嫌って程知ってる。憎いあんちくしょう。
しかし、口を開いた竜也の答えは違っていた。
「笠井と…設楽だっけ?…親戚?兄弟なのか?」
「は?」
流石と言うか、先に反応したのは設楽の方で。竹巳は一テンポ遅れてポカ−ンとなっていた。「なわけねーだろ。」
「お前何言ってんの?」揃う声。
嫌〜そうな設楽の顔に、怪訝な笠井の顔。
つい、(おそらくこの近所の人も思っていただろう)その疑問を口から出してしまった竜也は、
あ、止めときゃよかった…と今激しく後悔している最中だった。
「そうか、似てたから。悪かったな。」2つ分の猫目に睨まれて、思わず謝罪。
「どこが?つーかあんたん家、近いの?」
こういう場面で強いのは設楽の方、噛み付く訳でも無くひょうひょうと相手と対峙する。
「いや、違うけど。」
「ふ〜ん、遊び?」
「まあね、待ち合わせ。」
「ふ〜〜ん。」
その横で、ちらっと設楽に目をくれながら『相変わらずこいつはしたたかだよ』と思いながら澄ました顔でやり取りを聞く竹巳の姿。
「じゃあな、」
何となく、感じ悪い場の空気を読み取ったのか、竜也がさっさと立ち去ろうと二の句を告げずに歩き出した。
「・・・・。」
じゃーな。
暫く距離を置いてからそう答えると。顔を見合わせる二人。
「行く?」
「当たり前。」
しかし数分後。「お前のせいで見失ったじゃねーかよ!」今度は設楽。
「は?俺のせいじゃない。こんな時にメルをよこした奴が悪い。」
「返さなきゃいーだろがよ!!」
「煩いな、一応先輩なんだから。」
「どこのバカだ?」
「根岸先輩。階段から落ちて足挫いたんだって。」
「…次、削ってやる。」
「お前が?」
「なわけねーだろ。」
「・・・・。」鳴海(にやらせる)かよ。
『う〜わ』と思いつつ、口には出さずイライラと斜前を歩く背中を追う。
突然。ドンっと跳ね返る背中。
「あた。」そしてあと少しで長い路地が終ろうと言う所で、突然ばっと、長家の壁に張り付いた設楽に。
携帯を片手にしていた竹巳が吃驚。
これは…居たのか!?
急いで設楽の目線が追ってるその先を伺えば、
なんだ…。ナンパ中の鳴海。
「そっちじゃないだろ。」と言いながら再び画面に目を落とした瞬間。目の前の背中が消えたのだった。
あ。
あーあ。
向うで青くなりながら振り返る鳴海の姿を見ながら、アホらしくなってきたし。帰ろかな…
と後ろへ振り向いた瞬間。
「何やってんのお前?」
「み、三上先輩!」
そして少し後ろには…水野。
ちらっと彼に視線を馳せた後、真直ぐに三上に視線を戻すと軽く微笑む。
「いえ、ちょっと買い物に。」
「ふーん。」
「三上先輩は?」
「デート。」
一瞬、真顔になるのを押さえ切れなかった。
「ああ…そうですか。」
「根岸のバカからチェーンメール来た?」
「来ましたよ。」
「マジで?殺すって返した?」
「何でですか?」苦笑。
「今うざい。」
あーそーでしょうとも。笑えなかった。
しかもさっき会った水野とは微妙な感じ。
「…よお。」
「どーも。」
顔を覗かせた相手と軽く挨拶…。
けどまあ、選抜に居なかった分。設楽みたいに三上先輩との因果がばれて無いだけましか…。
「何?」
と俺達の微妙な空気にすかさず入る先輩が、一体どっちの心配をしてるのか…嫌と言う程判って、もう頭痛がした。
胸が痛むなんて可愛い物じゃなかった。水野、殺そうか?とか笑って言えるね。もう。
「さっき、会ったんですよそこで。」
「へえ?ああ、そういやお前言ってたな。」
と彼が後ろへ目配せすると。水野の口元が軽く笑っていた。
「あいつと居たんだって?マジで?」
「ああ。そこであったんですよ。」
俺と、設楽の不仲は有名で…。ニヤ付いて来る三上先輩にちょっと膨れながら、返すも。
もうわなわなとする拳を押さえるのがせい一杯。
ヤローんな事まで一々喋べってんじゃねーよ!
と水野を見れば、
「さっき。本当は双児かと思ったんだけど…流石に言えなかったよ」とはにかむ。
・・・・・。
コレだから善人は恐ろしい。
「そう、ニ卵生なんだよねー。」
「ヘェ〜、ニ卵生ねぇ…」
と横から再びはいったちゃちゃに、軽くポカポカとわき腹に拳を入れる。
その内くっくと声を上げて笑い出した三上が、水野を後ろ手で引っ張ると
「じゃあな。」
と、頷く笠井の前を通り過ぎて行った。
見送っていた笑みが強張って、やがて溜め息に変わる。
「何やってんだよ。んで、邪魔しねーの?」「うわっ」
いつの間にか横から出て来たそう言う設楽も酷い膨れっ面で。
「帰ろーぜ。」
と背中にぼすっと腕を当てられる。
帰りがけ。さっきのおばさん連中に又目が会って。今度は二人で愛想をやると、後ろで「やっぱりそーよ。」「じゃあ双児?」の声。
通り過ぎてから。「シねばばあ。」と含み笑い。
「取りあえずさー相手いる方のおごりね。」「はあ?1人身のおごりに決まってんだろ。」
「ヤダから。」
そして入ったマックで再びあのアベックに遭遇する二人であった。
「ねえ、ちっと。俺あそこの相席がいいんだけど。」「あ、俺も。」
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別名懲りない二人。おちまい。
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