君の事
---------------------------------------------------





「なータツボンv


まるで当り前の様に響いたその声に

思わずかぶりかけたユニホームを首にかけたまま振り向いてしまったのは

真田一馬だけではなかった。


U-15の初合宿


「何だあいつ…」

嫌がる水野にもお構い無しに堂々と肩を組んで、抱き寄せている(様に見える)

そのけったいな金パは、忘れもしないあの関西のフォワード…

藤村…だったか?


「いい加減にしろよ、」と眉を寄せながら肩にかかる腕を押し退ける

竜也に「なーええやん」といいよるその姿は、

どう見ても

優等生にからむ、不良…


だと言うのに、

向こうの端ではお構い無しに藤代と喋る渋沢に

隣の英士も涼しい顔…


大体タツボンってなんだよ…

…あの水野に向かってタツボンなんて…

馴れ馴れしい奴と…自分の事でもないのにムッとなりながら、

また苛ついているのが、どうやら(3人の中で)自分だけと言うのも気に入らず、

ついさっき自分のはす後ろのロッカーに水野が荷物を置いた時に、

隣に呼ばなかった事を後悔していた。


「…ずま、」

「一馬、」

「あ、…ああ、」


いつからそうしていたのか、はっとして元に戻ると、目の前にあった英士の顔にあたふた…

「何してるの?」

と、見ればエリマキトカゲになったままだった自分のかっこに急いで腕を通して、

「何でもねーよ」と横を向くが

「そう?」

と向き直った彼の気配が、微かに笑っていたのだった


クソ…何だよ…








「おい、タツボンだってよぉ〜」

とさっそくと言わんばかりに小馬鹿にした鳴海の笑いに

ふりむいた幾人かまで

その光景を目の当たりにした途端、みるみる眉間を険しくしたまま

固まっていた。


『なんだあいつ!?…』


どう見ても、そこには今まで自分達が見知って来た東京選抜の「水野」には不釣り合いな

度派手な関西人。


「あいつだれだ?」

と顔を見合わせて来る上原に

「あれだろ、関西のFW…」と答えながら桜庭までが片眉を寄せる始末。


別に

別に水野の事なんかしったこっちゃねーしよ…

むしろこんな面白いネタ逃す訳が…のはずが

何で、あんなに痛々しく見えてしまうのか…

『自分達以外の見知らぬ奴にいじられる水野』

と言うのが、どうも気に喰わないのだ。


赤くなって嫌がる竜也に、まるで見せびらかす様に(に見える)ますますくっつく

そのずーずーしい態度、その金パに

思わず声を失う、元東京選抜の面々…

そしてほんの一瞬、

こちらの視線に気付いた彼が、ちらっと視線をよこして

しかも何故か鳴海を見ながら、口元をにっと笑わせたのだ。

そしてまたすっと向こうへ向き直っていった…それに、


一同呆気。


「なっ…・!!!!(怒)」


声にもならず、1人わなわなとする鳴海に

つい向けてしまった憐憫の目のせいで

「あんだよっ」

と頭に一発づつ食らっても、気の毒のあまり声に出して文句を言えたのは

桜庭位だった。











何となく、嫌な予感はしてたけど

思っていた通り起ってしまった、それ。


「タツボンって…言うな!!」


もう何万回となく言い続けたそれが

やっぱり今日、再びここで炸裂するなんて


終った…


見なくても、肌に刺さる元東選の好奇の視線を、肌で感じていたのだ。

本気で嫌がる自分をよそに…いつだって…こいつはお構い無し…

もう呆れて、最近じゃ怒こる気も絶え絶えだったけど。

いつもだったら、とっくに止めに入ってくれてるハズの風祭も…今は遠い空の下。

まさしく最悪の事体と言えた…



それに

それに…

まだこいつとは、選抜以来

あのいざこざの決着も…と言っても苛立っていたのは自分1人で、

きっとこいつに取っては

何もなかったような物なのだと…


そう思うだけで

この首に回された腕の重みの虚しさに、ふと逆らう気力すら急激に萎えて行くのを感じていた。

バカバカしい…

心も通じてないのに馴れ合う以上のバカバカしさなんて、あるだろうか…



「そ、んでな…」響いた声を遮ったのは、打って変わった硬い声。

「シゲ…」

「何や?」

「もうやめろ」

「……。」

すっかり真顔になって腕の下から見上げて来る竜也の険しい顔に、

一瞬ポカンと驚きながら、

「いやや。」

と負けずに言い返していた。

ぐっと睨む竜也に、フンと笑ってみせてから

首を絞めるかの様に肘で引き寄せて、耳もとに呟く


「あいつらな…見とるで?」


頬に触れそうになったその距離に

耐え切れず、ドンと突き放せば


「何や…タツボン、まだ気にしとったん?」

とあからさまな苦笑を残して、離れて行ったのだ…


「ーーー!」


更衣室の壁を伝って行く彼の背に「どないしたん?」

と、駆け寄る吉田の姿を見ていられず、

背を向けた。



甦る、やり切れない衝動。



これだから

嫌何だよ

お前なんて








あ、…傷付いた…



何があったかはわからないけど

多分、一番最初にその竜也の変化に気付いたのは自分だと言う

自信は、あった。


陳列するロッカーから、少し離れた空き場へ荷物を移して

独り黙々と着替え始めたその背中に、

何かを言いたいのは確かだったけど…

ちらちらと竜也を気にしながら、言い淀む一馬に、

秘かに苦笑を堪えながら一言言ってやろうかと

郭が思ったのと



「なあ水野…」
「あっれー水野?どーしたの?v

と声が重なったのは同じだった。


ーー藤代!!


せっかくかけた声は、竜也がいる通りの横からやって来たそのでかい声に遮られ

見る見る内にムッとする真田…


「何でもないよ…」と小さく笑った彼を

「そっかー?…」と覗き込むも、ふ〜んまいっかと明るく背中を叩いて、

別の話題をふろうと…した、その時

「ちょっと待って、」と聞こえた小さな静止の後

その背がこちらを振り向いたのだった。


「真田、今何か…?」

「ああ…」と、驚きの余り竜也の顔を見たきりになりながら

「…そこ開いてるけど…」

と自分の一つ隣のロッカーを視線でさしながら、言えば

自分でも頬が熱くなって行くのがわかったけど

ここで躓く方がカッコ悪いしと、その視線だけは真直ぐと相手を捕らえていた。

「?」になって一馬を見ていた藤代の横で

水野が「気付いた」と言う顔になって…口を開くより先に




後ろで起きた結人の大爆笑…

まさに…冷や水の…何とやら…



「あーカズマ悪りぃ悪りぃーー!何でもねーから」

何どと言われても、

もしかしなくても、今の今までの一挙一動を全部彼等に読まれていた事を知るには十分な

リアクションで、怖々と振り向けば

隣で、静かに結人に切れてる英士の横顔が…胸に…痛かった。




しかし

「…大丈夫、ここも使えたから…」

と、ごく普通に受け流した竜也の態度だけが、それを救ったのだった。

「ありがとう…」そう言って微笑んだ顔に

「そっか…」とこちらも小さく笑う…



結人さえ入らなければ、今のは何点だっただろう…

小さく胸に落ちた温もりに、取りあえず満足しながら前へと向き直ったのだった。



ちょうどその時、すっと後ろを通って行った誰かは

何と

あの金パだった。



「よータツボン、着替え終った〜?」

「シゲ…」

驚く竜也に投げられたのは、コーラの缶

「ほな、ちっと話ええ?」

軽い感じで、けど

見返す水野の顏は真剣そのものだった。

「ああ…」





いや、っかてたけどよ…

何となくそれを見ながら

結局、自分は何がしたかったのか?

考えたけれど、

答えは出ずに

「一馬…」と自分を呼ぶ声に、その場を後にしたのだった。












寒くなろうとしている季節特有の夜の匂いの中に

時々混じる甘い香に空を仰げば

白い、花が咲いていた。


さっきから、黙って歩き続ける隣の横顔は

相変わらず…

「綺麗やな」

何が?と振り向いた顔に、ただ何も言わず笑いかければ

不思議な顔をしながら上を仰いで

「…そうだな…」と。

それは花だったのか…星だったのか…


全く

どない話せっちゅーんやろな…


内心、苦笑いのまま

ただ知っておいて欲しい事は1つなんやけど…と、


「オレな、別にあんたがサッカーしとらんでも…」

言いかけた自分に振り向いた目の大きい事…

言葉を待つその思いつめたような真剣な顔に

思わず息を飲んで…


そこで

鳴り響く竜也のケータイの音…



「・・〜〜!」

っく。



ここまできて、もう相手は聞くまい…

思いながら

やはり切る事もなく、こんな時にでも押して出る相手

それは知る限りたった1人なのだ…



だからな、

あんた結局あいつおるやん


それでも

黙って、たもとを分けた自分に向けられたあの激昂に、ほんの少しでも

好きとか嫌いとか…期待してしまった自分は…

アホやったんやろか?


いや、ちゃう

まざとった。

確かにあれは…

嫉妬に良く似た…



「今帰るとこ、そう…」

「今?ああ…1人じゃない…けど?」

「そう…だからただの同級生」


同級生〜〜!!?



陰りに沈む暇もなく

隣で、起きた恐ろしい発言に引き戻されて

思わずマジマジと竜也をふりむくが…


気にする事無く、三上の電話を切る気配は、無かった…



友達すら違うんか?

とか言う突込みもでない程…






電話を切ってふと気が付くと、

あれ…といつのまにか隣に居ないシゲの姿にくるりと辺りを見渡せば

何故か数メートル後ろにしゃがみこみ、一服ふかしながら頭を下げる

彼の姿…



「何してんだ?」

不機嫌なその声に呼ばれても、今日ばかりは

自分の労途の重みに立てないシゲだった…





「俺はお前の事親友だと思ってるから…」

ちょっと照れた竜也にそう言われたのは

もおいいです。

と言う位後になってからの事だった…。







TOP

------------------------------------------------------------------------
う〜ん…;いや…シゲは好きなんですが…


SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ