距離
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「あの…さあ、」


「? 」

それはちょうど竜也がウェア−を頭から抜いた瞬間。

後ろから掛かった聞き馴れない声に振り向くと、

すっかり身支度を終えた真田一馬が立って居た。

いま戸口に立っている、伊賀が出て行けば、この控え室にはもう誰も居ない。

「ああ、何だ?」

軽い笑みを浮かべて振り返った竜也を見て、一瞬だけ止まる、それから言いずらそうに、顔を歪めながら…

「さっき、サンキューな…」

ボソリと言った。

「何が?」

「あいつ(英士)の事だよ」

照れからくる気まずさか…ちょっとフテた言い方をする彼に、竜也がふっと笑った。

なんとも彼らしい仕草が…似つかわしい。

「何の事だ?」

「別に…」

「真田、」

「何だよ。」

「顔、赤いぞ。」

「!…・・部屋、熱かったからだろっ」

むっとしながら竜也を見るが、かっとなった言葉は自分の中に納めていた。

あんまりからかうとまた後で郭に怒られそうだと思いながら、

「そうか、」と着替えの続きを始める。

そんな自分に何かを言いかけて

止める。気配。

まだ真田が何か言いたそうにしてることに、やっと竜也が気付いて振り返った所で

「おい、一馬〜、行くぞー!」

と戸を開けた結人のでかい声が遮った。

「ああ、今行くー」

と返してから、自分をきょんと見つめる竜也に「じゃな。」とだけ言って出て行った。



「・・・・・。」



『あいつ本当に郭の事好きなんだな…』



思うと、ちょっと羨ましく感じて、なのにそれとは逆に笑みがこぼれた。

シゲに対しても…

風祭に対しても…

自分はまだそこまで言える程の関係は築けていない。

最も、あの二人とそんな関係になりたいか?と言うと…違う気もしたが…




外は雪だった。

試合中に降り出した雪は今はもっと強さを増して

深々と辺りに降りそそぐ。

一足先にスタジアムを出た面々が遠くでバスに乗り込もうとして居た。

白銀に染まって行く美しい町並みを見渡せば、ここが日本じゃないことすら忘れそうだった。






「なあ一馬。」
「でどーだった?」

パーキングエリアに付いたバスの中、窓の外の景色をぼんやりと見入っていた一馬に突然かかった2人の声。

隣には英士。

後ろの背もたれから顔を出す結人。

「うっせーな」と顔で睨み付けて

「別に、いーだろ。」と

再び窓の外に視界を戻せば、

「何だ、ダメだったのか〜?」

と上から結人に頭を撫でられて、「ちげーよ」とどかしてる最中に

横から

「また言わなかったんでしょ」

の一言。

「何だよ、さっきは折角人が心配してやったのに、そー言う言い種はねーだろ、」

向きになって言い返したそれを受けてクスクスと笑う二人に、

完全に拗ねた一馬が、ちっとトイレと席を立った時、丁度後ろから出て来た水野と目が合った。

「ああ…前…」

「どーも、」

譲られて、彼の前へすっと出ると、何食わぬ顔で歩き出しながら

耳の奥で大きな鼓動が響いていた。


初めは、見るからにきつそうな奴だと思って。

俺達と同等なのに、何故あんなチビなんかと一緒に居るのか不思議だった。

初めてにしてはパスの感触がいいと思ったのは。英士以来初めてで…

それがあいつ自身が時々英士と似てるからだと気付いたのは、もっとずっと後の事だったけど。


くそ真面目な所とか、

口煩い所とか

ま、その辺は英士のが全然上だけどよ。


似てる癖に

俺より人に馴染めないでいるし。

椎名は苦手らしいし。

プライド高い癖に、すぐ人にいじられ易くて見てるこっちが冷や冷や…


見てるこっちが。

気が付いたら

そうなっていた。


けど別に俺は

こいつとどーこ−なりたいなんて思っちゃいねーし。

ちょっと興味が沸いただけなのに

あいつらと来たら、好き放題言いやがって…


何か、

似てんだよ…

人には判らないかも知れないけど。

あいつと俺は。




何時の間にかそんなことをつらつら考えながら手を洗っていた、

アーケードになっているトイレの入り口を出ると、やっぱり外は真っ白。

ここが日本じゃ無かった事もすっかり忘れて

雪の中一歩前に踏み出した瞬間…

うしろからドンっと押されて、4段向うの地面へと身体が投げ出され…

「真田っ!」

後ろから掛かった声が俺の腕を引っ張る。

「!!?」

そしてそのまま後ろの奴と一緒に地べたへと座り込んでいた。

「ってー」

顔をあげれば、見ず知らずの韓国人がしきりに自分に何かを訴えてる最中で。

「ぼやぼやするな!」

片言の日本語でそう捨て台詞を残して去って行く、年輩の薄毛おやじ。

何が起こったのかを知ったのは、そいつの後ろ姿を見てからだった。


「何だあいつ、自分からぶつかって来て!」

「大丈夫か?」

『!』

かっとなる自分の後ろから掛かる声。

そう言えば…

「ああ、」

そこに居たのはやっぱり水野…

「失礼な奴だな。」

去って行く男の後ろ姿を見ながら、まじかに見える眉を寄せた横顔に

思わずドキリと…心臓が鳴る。


「ああ、…悪りぃ…」


急速に喉が乾いて、喉の奥でつかえる言葉を慌てて声にする。

「大丈夫だ、」

そう言って、立上がろうと地べたに付いた指の跡に軽い血痕。

はっとして水野の顔を見るが、気付いてさえ居ないのか、服の雪を払いながら俺の方を向いた。

「どうかしたのか?」

「いや…お前指、」

「ああ、今小石があたったんだ。冷えてたから…。切れたんだな」

「見してみ…」

伏せ気味だった睫毛が指を取った俺へと向けられる。

驚いてる奴にも今はあまり構わなかった。

ちょうど人指し指の外側。

真っ赤になった手の平。冷たい手。

自分もそうだった様に、打ち付けた手の平は痛かったんじゃ無いのか…?

相手が彼だと言う事より

皮のめくれた赤い傷口が可哀相で、

昔結人がよく自分にそうしていた様に、軽くなめて見た。

英士ならバンソーコ位もってそうだな…。

そんな事を思いながら。

すっと手を放せば、


「・・・・。」

何故か、俺の取った手をもう片方の手で握ったまま、きょんとした顔で自分を見る水野。

「何だ?」

「いや…ありがと。」

「?ああ、」

それから俺の顔を見てほんの少し赤くなる。

「何だよ、」

自分は、何かおかしな事でもしただろうか、

「いや、真田って…意外と天然なんだな…」

そう言って、くっと笑った。

「はあ?誰がっ…」と、眉を寄せる俺にも気分を害した感じは無く

俺の肩にぽんと触れると「早いトコバス戻ろうぜ…」と

その時

「何やッてんの!?」


後ろからずしっと掛かる重み。

水野と俺の両方を抱え込んで、のしかかって来たのは

「藤代…」水野が言う。

降りしきる雪の中でも、ホント元気な奴。

「美人が二人揃って何の相談?」

風引くぞ。と明るく笑うと二人のパーカーを頭にかぶせて、もう一度肩を引き寄せる。

「やっぱ、寒い日は鍋と美人に限るよな〜VV

「何だよそれ。」

と言われながらも、珍しく抵抗しない二人に気を良くして異色の3人で一緒にバスへと向いだす。

いつもだったら『離せよ、重たいな』と言いたい所ぐっと口を閉ざす一馬。

なんせ…寒かったから。


眉を寄せながら、ちらっと横を見ると、同じような顔で苦笑する水野と目が合った。

クスッと苦笑する向うにつられて、自分も笑いがもれる。



おバカを1人挟んだこの距離が、一番丁度良い俺達の距離のような…何故かそんな気がした。







「なー英士」

「何?」

寝ようかどうしようか天上を見ながら、横で静かに読書する相棒に何と無しに話しかけてみる。

「一馬おっせーな」

「そう?」

「水野と一緒に出てったきり帰って来ないんだぜ?」

ちょっと意味真に盛り上げてみるが、

「ていうか、一馬受けだし…」

かわされていた。

「お前それ一馬が聞いたら絶交されるぜ〜? 」

「結人こそ…。影で『一馬は嫁で英士は姑』なんて言ってる事がばれたら不味いんじゃ無いの?」

「・・・・・。」







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真田水野を失敗…いつものことよー…(ー▽ー。。)ていうか…変な文章・・・











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