+inside+
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7月29日
夏休みと言えど、全国へ進んだ武蔵森には何の関係も無い。いつもの休日が繰り返されているだけ。
微妙に入る練習の時間に押されて、そうそう外出もできやしない。
最も、特にコレが最後の大会になる俺達3年は…否、俺には、返ってそれも都合が良かった。
練習と一応の受験勉強と、これでも並の中学三年を暮らしてる訳だから。…と
珍しく出た欠伸を今図書室で借りて来た本で押さえながら、3年間歩き馴れたその廊下を歩いて行けば。
「何も無いが、良かったら…」「じゃあ、お邪魔します。」
曲り角の向こうから聞こえて来たのは…嫌と言う程聞き覚えのアル、今最も会いたく無い奴ナンバー1の…。
あいつの声。
「急に押し掛けてすいません。」
「いや、礼を言うのはこっちだよ。わざわざありがとう…」
角を曲がれば、ほら、
かつて自分は見た事も無いような顔で渋沢に笑みを向ける水野竜也の姿。「よー。」
「ああ三上。」
けれどそれは三上の姿が覗いた瞬間にぱっと曇って。
そんな竜也をわざと視界に収めない様にしながら、渋沢だけに軽く挨拶して通り過ぎれば、
すれ違う。ただそれだけで苦い顔を浮かべた竜也の顔が視界の端に映っていた。
だんっ!と音を立てて、畳みに叩き付けられる今借りて来たばかりの辞典。
「…っかつく!」
何しに来たかって?今さら聞きたく無い程よく解っていた。
秘かに自分も用意しておいた彼へのプレゼントを机から出して見て、再びもっと奥に突っ込んだ。
そのままベットの上に寝転ろんで天上を眺めれば、
またやり場のない苛立ちがじわじわと沸いて来くる。
片手に貰った包みを抱く克朗に。それを嬉しそうに見上げる竜也の顔。
くそやろう…。自分に向けられたあいつの記憶を手繰れば、いつだって甦るのはあのすました坊ちゃんヅラばかり。
気にくわねえ。気にくわねぇ。
気にくわねぇ。
全くテメ−ら親子はそろいもそろってあいつが大好きと来たもんだ。
認めたくは無かった。だが。
選ばれるのはいつだって
渋沢克朗。
目と鼻の先にいるこの部屋の同じ住人。なのに、
自分では無い。
非難の瞳が自分に向けられてる時はそれでもまだ良かった。
いつからあいつが俺を見なくなったのか…。
それともそれは自分が先だっただろうか?
自分が嫌ってる頃はまだ同等だったハズ…が・・!?
ふと浮んだそんな言葉に思わず目の上に載せていた腕を外して。自分で驚く。
『おい、ふざけるなよ』と、洒落にならない本音。
認める訳には行かなかった。だが、
目をつぶっても浮ぶあの生意気で潔癖で完璧な作りの、あの顔を打ち消したくて、部活に勉強にひたすら打ち込んで来た日々は確かにそこに存在したのだ…。
「テメーはさぁ…どーあっても俺に勝たせねぇつもりらしーなぁ…」白い天上に響く低い笑い声。
冗談じゃねえ、
俺があんな奴。
誰があんな奴。
もうあんな奴なんかに手こずらされてたまっかよ!
角を曲がった瞬間、あいつが目に見えて無表情を装ったのがはっきりと解った。まるで竜也等始めからそこに存在しないかの様に通り過ぎて…それもごく自然に。
通り過ぎて行った。
あいつ。
ショックに顔が歪むのを自分でも止められない。
過ぎて行く背中を見送って、パタンと部屋のドアが閉まるまで目が離せなかった。
「水野…」
「あ、はい。」
せっかく今日ここまで来た決心が鈍りかけて慌てて顔を上げれば。
苦笑いの渋沢。
「大丈夫か?」
「ええ…。すいません、こんな愚痴に付き合わせてばっかりで。」
少し視線を下げながら自嘲気味にそう言う竜也を、克朗が困った様に微笑ながら見ていた。
「いや、悪いな大したこと出来なくて」
無言で頭を振る竜也。
いつもの冷静な司令塔の彼からじゃ想像も付かないような、か弱い仕草でふふっと笑った顔は、思わず抱き寄せそうになる手をぐっとこらえてしまう程、優しくあどけなかった。
コレが自分に向けられてでは無い事を本当に残念に思う。
全く三上の奴…。
軽い溜め息と共に。「じゃあ、行こうか。」
とせめても竜也の背に軽く手を添えるのだった。
嫌われてる事位、覚悟の上だったが、
数カ月前よりいっそう悪化した三上の態度に受けたダメージは、思いの他深かった。
それでも告ったら何かが変わるかも知れない…とどこかで期待していた自分の甘さにつくづく呆れて、
同時に「俺の何がそんなに気に食わないと言うんだ!」と叫びたい程の苛立ちにも襲われるのだった。
気付けばついうわの空になっていた自分の前に藤代の顔。
「みーずの!」
「!?…何だ?」「おー。ど−したの?ぼーっとしちゃって。」と笑う。
「ああ、悪い。」
渋沢克朗の誕生日と言う名目で盛り上がる飲み会。
お約束通り竜也とは線対称の位置に座った三上が見える。
「水野の何番?」
今さっき引いたゲームの棒きれ。
「何…ああ2番だけど?」
聞いた途端、嬉しそうな顔。
「はい。んじゃあ宜しくなー!」とドアに向かって刺される指。
「お前と7番が買い出し係りだからv」
襲われんなよ〜vと耳もとで囁く冗談が笑えない。
ああ、その方が今よりずっとましだ。何て言える相手…
ちょうど目が会った三上もカンチュウハイ片手に止まっていた。
少し前だったら、ニヤニヤと嫌味の一つや二つを言われながら歩いていたに違い無い道のりを。黙って歩く二人。
悪態もなし。
さっきからちらちらと自分の方を垣間見ている竜也には気づかぬ振りを決め込み。
「み…」「そこ右。」
「ああ、」
何か言おうとした竜也と自分の声が重なった。
コンビニまでの近道に使う、細い道。
「何?」
「え?」
「今の。」
「…いや、別に。」
「あっそ、」
こいつ、言わせない様にしてる?
だとしたらそれは、
竜也の気持ちはとっくに気付いてる上での
『全否定?…って事か…』
回って来たアルコールにぐらぐらとする頭でやっとそこまで行き着いて、俯きながら自嘲が漏れた。
さっきから大人しい竜也に、何だ?と思いつつ。横を見れば、とっさに手を掴む。
こいつ、マジで?
・・・ああ、酔ってんのな。
答えが出ると急におかしくなって笑いを堪える。
たった今素で、電柱に激突しそうになった竜也をこちら側に引っ張り寄せれば、
「あっ、ちょっ。」
自分が今、何をしてたかにも気付いて無かったようで、やや非難めいた瞳が三上を振り返るが、
だが、目が会った瞬間。そのまま止まった。
見つめて来るから、見つめ返せば、
どこか陶酔したような子犬の瞳。
へぇ…まじ酔ってんだ。
初めて自分に向けられた虚勢以外のこいつの弱味。まるで縋り付くような…
次に気が付いた時、口付けて居たのは自分の方だった。目の前では驚いたでかいタレ目が見開かれていて…押し返されないのをいい事にそのまま続けていれば、
暫くしておずおずと背中に回った手を感じて、肩を掴んでいた腕をずらして背中事抱き寄せると、
首に回り付くしなやかな腕の感触。
誰も居ない道の真ん中で、そのまま暫く舌を絡めていた。
やがてすぐ前の街灯の下に人影を感じるとどちらともなくぱっと離れ、
再び無言で歩きだす。三上と竜也。
次の日の朝、痛む頭を押さえながら何とか体を起こすと、近くにまだ畳の上で転がって居る三上を発見し。「・・・・。」
夢か…と思いかけたその時、
「よお、お早う。起きた?」
振り向けば、朝も早いと言うのに元気な藤代が。
「監督来る前に帰った方がいいし。送ろっか?」
「ああ、うん。…いや自分で帰れるから。」
「そっかぁ…?」
と顔を覗き込まれて、竜也が眉を寄せる。
「なんだよ…」
「やっぱおぼえてねぇ?」
「何を?」
「いや〜…」
「昨日三上先輩におぶられてコンビニから帰って来たの。」
「!!」
固まった竜也に、
やっぱ本気で酔ってたんだ。と苦笑して。
とんとんと自分の胸の真ん中を指で指す彼の仕草に…
竜也が恐る恐る自分のシャツの中を覗けば。
点々と散る虫さされ?の後。
「・・・・・。」思わず漏れそうになる含み笑いをばらさない様に、わざと真面目な顔で藤代に向き合うと。
席を外してもらう様に頼んで、
それからもう一度、側にあったお茶を飲みながら
今だ畳にうつ伏せになったまま、寝た振りを続ける三上と向き合うのだった。
NEXT
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甘いのが。書きたくて…
すいません眠くてオチが付かなかった;
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