イノセント
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「なあ〜〜藤村!」

「まーたノリックかいな、何や?」

ふっと今自分の真後ろで風を切っていった声に竜也の背中が止まる。


『藤村』

良く見知った人の知らない名前。

シゲが母方の性であるのは知っていた。

いつかベットの中で聞いたから。

睦言の合間に。


父親の事。

母親の事。

家を出た日の事。

今思えば、シゲがそんな事を他人に話すなんて考えられない方が大きいけど。

もちろん。きっと肝心な所は上手く省かれてたに違い無いが。

あの頃はそれさえ何処かで、当たり前に感じていた。


そんな時があったのだ。


振り向けば、通り過ぎて行った2つの背中が遠くに見えた。

今は交わす言葉も無いあいつを見送る。

今思えば、なんて希少な時間だったのだと思う自分に、緩く苦笑を漏らす。


もう、何とも無いと思っていたのにな。

独占欲の強さは、遺伝かもしれない。

そんな事が頭をよぎった。

そして、それ以上に。


寂しい…のかもしれなかった。

別れを選んだのは自分の方なのに。

楽しそうに喋るその横顔が。

ノリックと呼ばれた傍らの彼と昔の自分に重なって…苦笑い。



ああ、あそこにいるのはもう俺じゃ無いのだと。

不思議な気分だった。

違うユニフォーム。

違う名前。

違うメンバー。

自分が知っている佐藤成樹の面影はもうどこにも無い。

お見事。

いつの間にか、もう歩く道は違って居たのか。


似通った所のあった2人。

それももう昔の事。


ついこの間まで一番近くに居たはずが。今はもう他人。

何の記憶も失わないまま。

元に戻りたいとか、そんな事思いはしない。だが。


まだ…何もかも忘れた分けじゃ無いのに。


苛立ちを拒む事はしなかった。

寂しいと認める事の出来ない心が許した。それがせめてもの抵抗。


そんなものだったと。思いたくは…思えなかった。

どんなに形を変えても、好きだったのだと思い知る。








潰れたコーラの勘を片手に。

「タツボン?」

「何だよ。」まだ何か用かよ。

…もしかして、妬いとるん?

別れ際、怒ってすたこら帰ろうとした竜也に向かって彼は言った。

頭上には満潮の月。

嫌な奴だ。

フン。「まさか?」

険しい笑顔で返すと。

「ふ〜ん。」

と再び顔をぐいっと近付けられて引くタツヤ。

「んだよ。」

「あんたやっぱし、かわええなあ…。」

にっこりと眼前で微笑まれて竜也は固まった。

ポンポンと頭を撫でられて。

「さわんなっ!」

と怒鳴っても。

「相変わらず遅いわ。」と笑われる。

こ・ん・の・ヤ・ロっ。

「お前あの小さいのいるだろ。」

「ちいさ…ああノリックなー!何やそれでやいてもーたん?」

「ちがっっ!」

「ほな、おおきに。」

殴ろうかと思ったその時、ふとまともに戻ったシゲの顔を見る。


「もう忘れられとると思ったわ」

「・・・まさか。」

「さよか。」

その言葉にシゲもちょっと満足げに笑って居た。

「タツボン。」

「何?」

「ほな、お休みさん。」

「ああ。」

横を向いたままの竜也にかまわず、シゲが続ける。


「あのまゆ毛と別れたら、いつでも帰ってき。」

「−−−!!!」

誰がっ…。

振り返った時はもう数メートル先のブロック塀を飛び越えている後ろ姿だった。



全く。

お前にはいつもかなわないと。…口調とは裏腹に笑みがこぼれる。

何時だって本当に勝手なのは自分の方なのに。


いつだってお前は変わらないのだから…。

もう恋では無いけれど。

いつだって…







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これは…シゲタツっぽい三水。や、シゲタツです。(−−;)
ベリーベリーのシゲを救おう企画。成功したかは謎ですが。自分の為に書いてしまいました。ノー;;


























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