ホスピタル

*憂雅の後編になっています。ごめんなり…(−−;
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夜闇の中、その道の先で一瞬だけ重なった2つの影。

…ああ、カップルか…と思うより早く、視覚に飛び込んで来たのはそいつの横顔だった。


思わず足が止っていたのは、何故か。


街灯からは外れた暗がりの中、

それでもその十数メートル離れたそこに立つその顔は、はっきりと見て取る事が出来て居た。


笑いながら背中をポンと叩いて逃げて行く金パを、怒った様に睨むと、

照れながら口元をマフラーに埋める、奴の姿…


「・・・・・。」


ふざけ合いながら戯れて居たカップルが、やがて近づいて来る俺に気付いて振り向いた。


脛ながらも優しく笑って居たあいつの顔が、俺を見た瞬間にすっと冷たく強張って、

それでも、さっきの余韻で薄らと頬は赤かった。

隣の金パは殆ど認識のない俺をなんの頓着も無さそうにただ見て居た。

「…よお、ぼっちゃん。」

「どうも…」

そう言っていかにも俺の顔に嫌そうに眉を顰めたあいつに、俺は嫌味の一つでかえす。

「おデート?」

「!…別に。」

ふっと鼻で笑った俺にかっと怒気を含みながら、相手にしまいと視線をそらして居た。

さえざえと、すれ違い、通り過ぎて行く。

嫌そうな顔をした金パが何か言いたそうだったが、結局黙って見過ごした。


「あいつ、誰や?」

「森の…先輩。同室の…」

「ああ、あいつな」


遠くなって行く声から、それだけ聞こえていた。




凍えそうな寒さの中。

「別に、どうだっていいけど?」

呟きながら。

そのくせに、暫く歩いた所で振り向けば、

ずいぶん遠くなった道の上に、2つの背中が並んで居た。


同じ道の上。

けして振り向く事の無いあの背中が、やがて角を曲がって消えて行った。








武蔵森学園高等部へ編入して半年。


門限まじかに駆け込んだその姿を、幸い誰にも見られず…思ったその時。

「よー…、」

と横からかかった声に思わず目を見張った。

玄関をぬけて大浴場の前を通りかかった柱の前に、奴は居た。

部屋着のまま壁に背をもたれ、首から下げたタオルが、いかにも風呂上がりを物語って居た。

たるそうに壁に寄り掛かったまま、竜也を見ると眉だけ上げて笑ったが、

眠いのか、やる気が無いのか、そういつもの毒々しさは見当たらな無かった。

「お早いお帰りで、」

「どうも、」

やる気の無い三上の口調を、返って怪しみながら近付けば、石鹸の匂いがした。

だが自分の頭一個下まで来た竜也を

同じ様に自分を見下げて来る三上を

しばし、お互いを黙って見て居た。


どの位そうしていたか、それともそれは一瞬だったのか…


「俺で悪かったなあ…」

沈黙を切る様にフンと笑う声。

「別に…」

そう言った竜也の顏は気まずそうに歪んで居た。

「どうかした?」

「いえ、別に…」

「謝ってくんねーの?」いつもみてーによ。


「……。」
「スイマセンでした…」


だが、くっと息を殺しながら悔しそうにそう言った竜也にさえ

三上の瞳は何の…感慨も浮かべなかった。

とても

あの嫌味とは思えない。その姿に。

竜也の方がよっぽど変な顔になってしまうのは、仕方が無かった。

「三上…?」

答えは無い。

「どうかしたのか?」

だが、竜也が一歩近付いた瞬間、彼は一歩引いたのだ。

「三上じゃねえ、三上先輩だっつってんだろ。」

「!?」




あの日以来、ずっと自分達が際どい均衡を保って来たのは

暗黙のウチだと、勝手に思って来て居た。


何も覚えて居ないフリをしながら、繰り返されたキス。

相変わらず犬猿の仲だと周囲に思わせておかなくては行けない理由は…、お互いわざわざ口にしなくても

嫌と言う程分かっているはずだったから。

言った事等なかったけど

それでも、黙ってベットに潜り込めば、背中に回される腕に許されていると、

思って居た…のだ。


それは自分の勝手だったのか?

否…勝手だと、分かっていたけど。



まるで、自分を侮蔑するかのような突然の彼の拒絶に、なす術も無く竜也はそこに立ち尽くして居た。

いつも、からかわれて、壁に追い詰められて上から見下ろされるのは自分の役目だったのに。

こんなに追い詰められた三上を見るのも初めてで。

どうすればいいか等…判らない。


「風邪、引くぞ。」

そう言いながら伸ばした手も、軽くはじかれる。


「俺じゃなくてもいいんじゃねーの?」

クッと笑った彼の手を、今度はぐっと険しい顔をした竜也が無理矢理握った。

その冷たい事…

心が締め付けられる程。

驚きながらも再び言葉を紡ぐ。

「何がだよ。」

「親父の変わりに、一緒におねんねするのがだよ」

「…別にお前に頼んだ事なんかっ」

「それが勝手に人の布団に潜り込む奴のセリフってか?」

そしてまた肩を震わせながら低く笑いだす。


酷い…言葉。

思いながらも、その手を離そうとは、思わなかった。

面と向かってキスの一つもした事もなかった。

好きだなんて、言った事は無い。

きっとコレからも言う事のない言葉。

それでも


「お前がそれを望んだ…からだろ」

ふいにそう言い出した竜也の声が、泣きそうに思えて

驚いて顔を上げると。

悔しそうに歪んだ顔が自分を睨んで居た。

聞くまいとして

ずっと聞きたかった言葉

今なら、聞けるかも知れない。

思ったのは2人供だった。


だが、


向き合ったその距離が近付く瞬間に、聞こえて来た足音、

ぱっと離れた二人が向き返れば…




「竜也?に…三上。何をしてるんだ!時に三上、2年の点呼の時間は過ぎてるぞっ!」


「すいません監督。」

そう言った三上を刺す視線。

しかし、何事も無かったかの様にそれをすりぬけると、

小さな立て前の挨拶を竜也に残して、

二度と振り向く事なく彼は廊下へと消えて行った。


それをただ黙って竜也がみていた。


「竜也。」

呼ばれた声に振り向けば、

自分を通して、三上を射ぬきそうに眺める彼の視線。


「話しがある。あとで部屋まで来なさい」


「・・・。」

ちらっと自分にくれられた視線に

そして小さく頷いた。






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優雅を読んでも意味不明かも知れない話…。すいません、一緒に読むとちこっとはわかるかと…思いまし(−−;



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