a PETS
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ドアの開く気配にふと顔をあげると、
そこには戻って来た竜也では無く。
この家で飼われている茶色い大きなゴールデンレトリバーだった。
あーえっとこいつなんだっけ…。
馴れた仕草でドアの隙間を開けると雑誌をめくる三上の姿を見つけ一瞬止まるが、
それからそろそろと近付いて来て、服の匂いを嗅ぐと少し距離を置いてその隣へ座った。
「・・・・・・。」
ベットの背にもたれながら1人と一匹綺麗に並んだまま無言になる。
…こっちを見てる。
犬だから当然喋ったりするわけも無いが、それにしたって奇妙な圧迫感。
「…よお…お前何つったっけ。」
仕方なく雑誌から目を離すと、その頭を撫でてやろうと三上が手を伸ばした瞬間。
ーーーーー・・・。
低いうなり声。
そーっと手を引っ込めると、止む。
「ああん?」
何だこの犬。
ムカチンと来ながらホームズを怪訝な顔で見下ろすと、向こうも負けずに見返して来た。
「・・・・・。」
かわいくねぇ〜。
そ−言えばいつか、竜也がホームズは人見知りするから…と話していたのを思い出して.
「ちっ」と再び雑誌に目を戻すが。
・・・・・。やっぱり見ている。まるで三上を観察する様に凝視する。
ああ!?なんなんだこの犬!
「三上ー、コーヒーとウ−ロン茶どっちにする…」
「おい。」
戸を開けた竜也の目の前には、行儀良く並ぶ三上と…ホームズ。
「ホームズ、どーしたんだ?」
しっぽを振って近付いて来た頭を撫でてやると嬉しそうに竜也の腕を舐めて来る。
「ホームズ、今日はお客さんだから。下に…」
話し掛ける竜也の顔をきょとん見たまま動こうとしない。いつもだったらすんなり言う事を聞くのに。
不思議に思いながら階段の方へ押し出すと、渋々竜也に従いドアの所まで行くが…再び振り向いてワンっと吠え出した。
「こらホームズ!」
どうしたんだ?とたしなめながら、ホ−ムズが見てる方へと目を向けると、
怪訝な顔の…三上。
「俺はなんもしてねーぞ!」
「あ、ああ、」
と良いながら彼等を交互に見比べ、判らない…と言った竜也の様子。
「母さん、母さんちょっと。」
仕方なく、取りあえず人の協力を煽ってホームズを下に降ろすと気を取り直して戻って行く。
「ああ、悪いな。いつもはあんな事ないんだけど…」
「ふ〜ん。ま、俺は嫌われたみてーだな。」
そのちょっと拗ねてると言った口調に苦笑いしながら、側のテーブルにコップを2つ置いて竜也が三上の隣に座る。
その時、
「あ、そうか、」三上の横顔を見て居た竜也が何かを思い出した様に声をあげる。
「何?」
「ホームズお前の事覚えてたんだ。」
「?」
「ほら…」
「あ。」
それは竜也の転校騒ぎの一件。
そ−言えばあれはホームズの散歩中の出来事だった。
顔を見合わせたままぷっと笑いが漏れる。
「あったな…そんな事も。」
「は、そーだっけ?」
はんと笑いながら視線をそらした三上を、片眉を上げた竜也がからかう様に見て来る。
後ろから回した手でくしゃりと髪に指を通すとそのまま引きよせた。
首筋に巻き付いて来る腕を感じながら、そのまま床へ落ちて行く。
くてんと腕を投げ出したまま寝転ぶ竜也を後ろから抱き寄せると、微かな笑いが漏れる…。
ゆっくりこちらを振り向くと、トロンとした目でだるそうにふと笑った。
眠いのか、そのまま三上の鎖骨の上におでこを付けて目を閉じて居た。
軽い寝息が立つのを見届けてから三上も又目を閉じた。
「ん?」
目を醒ましたのはその胸の上を圧迫する重みのせい。
しかもなーんか暑苦しんだけど。
動物的な匂いに薄ら目をあけると、
「げっ!」
自分と竜也のちょうど真ん中に乗っかるホームズの姿。
・・・・・。
しかも寝ている。
そっと身体を起すと、その微かな微動にホ−ムズが目を開けた。
三上を見て、それから隣で寝ている竜也を見て、また三上を見た時にワンっと吠えそうになった口を慌てて三上が黙らせる。
「しーーっ吠えんじゃねーぞ。」
…さすがと言うか何と言うか、まるで言葉が通じてるみたいにそれだけで声を飲み込む。
それからくうと小さく鳴いてから頭を下げて、目の前にある竜也の顔をぺろりと一舐めした。
「…んっ」
と小さく息が漏れる、その様子を見て居た三上がいつもの癖で竜也のおでこに掛かる前髪をそっと掻き揚げたその時、
「…っ!!」
一瞬、だが確かにその手の甲に牙があたった。
ホームズは、そっぽ。
『こいつ…バックれてやがる!』犬の癖に。
「お前今、かんだだろ、」
三上の声に何が?とでも言いたげにキョトン、と見返す。
『このヤロウ』
ちょっと睨み付けてから再び布団に潜り、今度はわざと竜也を腕の中に抱き寄せると、ホームズの方を伺う。
・・・・・。
余裕の笑み。
その様子を真顔で(多分)見て居たホ−ムズは、すくっと立つと床に降りて行く。
『あきらめた?』
それを意外な顔で見送る三上に背を向け、部屋の隅まで行くと。
助走を付けて三上の腰の上に飛び乗ってきた。
ーーーーーー!!「おいっ!ってー…」
そしてそのまま亮を踏み台にして竜也の向こう側へと行くと、壁と竜也のわずかな隙間にもそもそと入り込んでぴったりとくっついていた。
「・・・・何やってんだ?お前達。…」
寝ぼけ眼の竜也の声が聞こえる。
無言で犬と牽制しあう亮を見あげると「三上」と苦笑い混じりで半起きの肩に腕をかけ、再び布団に沈む様に促す。
ホームズから亮が見えないように自分の身体を横にして2人の視界を遮ると、再びその胸で眠りに落ちて行った。
・・・・。
その様子を伺って居た三上もフンと自分に笑いをもらすと、竜也の肩口に顔をめた。
竜也にはすっかり背中を向けられ、三上にはシカトされ、1匹取り残されたホームズは…。
暫くシーツに顔を埋めていたが、その内クークーと鼻を鳴らし出す。
「おい。」
顔は見えないが、三上の声に鳴くのを止める…。
が、静まり返るとまた鳴き出す。
「…うるせーな…。」と起き上がった亮を、今度は頼むような顔で見て来る。
「・・・・。」
「あーーかったよ。」
「ちっとこい。」
そういって渋々起き上がると服をきる亮の横へそろそろと起き上がって来る。
「ったく、…いー根性してるぜ、」
と言ってポンポンと頭を撫でる亮に今度は黙って従って居た。
「ほら、来いよ。」
部屋を出て行く亮の後を追いながら、軽く尻尾が揺れて居た。
「…三上。」
「あ?」
「この前、ホームズとどこ行ったんだ?」
「どこって、散歩、」
「お前、その時何教えた?」
「はあ?別に。……何が?」
と本気で悩む亮の横で竜也の溜め息。
「そうか…」
「何だよ」と不機嫌になりかけた亮に渋々話し出す。
「お前ん家の猫の癖が何か、うつってて。」
「ああ?ウチの猫〜?」
癖なんてねーんだけど。つーかあった事もねーのにど−やってうつんだよ。
「・・・・。」仕方なくと竜也が口を開く。
「俺の顔見ると、鼻で笑うあの癖。」
それは亮の家のもはや猫とは呼べない巨デブヒマラヤンの事。
何故か竜也の顔を見る度にフフンと鼻を鳴らす。しかもわざとらしく転がりながら前を行ったり来たり。
それを秘かに竜也は昔の三上そっくりだと思って居た。
「は?何それ」
「やっぱり知らないと思った…。」と顔をそらす竜也。
「あいつ何時も俺の事バカにして行くんだからな、」
「…。で、それのどこが似てんだよ。」
「最近何時も散歩の途中でやるんだよ、あれ。」
「そうそう、ちょうどこの家とか、」
その名は近藤。
「それからあの角の」
根岸さん。
「・・・・・・。」
おまけに、店のウインドウにグッチか香水が並んでると絶対立ち止まるし…。「・・・・。」
「あんだよ。」
「裏ビのビラ見つけると吠えるし・・・・。」
と言って亮を見る。
まさか「…見たことねーの?」
「ばか!母さんに疑われてんのは俺何だよ!!」
爆笑する亮の背中に思いっきりケリを入れるとすたこらと歩いて行く竜也だった。
「んっだよ、てーな!昨日試したやつだって、」
「まさ…そうなのか?」
「おお、さんざんよがった癖によ。」
ワナワナと拳を震わしていた竜也が突然走り出す。
「やべえ!」道路ワキのゴミ捨て場に書いてあった不燃物の文字に、慌てて亮も後を追うのだった。
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とても古いです。落ちが付かなくて出せませんでした。出しちゃったけど…。
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