フォーティ−フォーティ−
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膝に肘をつきながら前屈みになって座るシゲの横で、

俺にはまだ体温が在った。

どうしてこう、手術室の前と言うのは一つも窓がないのだろう…

遠くを歩く看護婦の靴のゴムの音。

どこからかぶつかりあう金属音が響いていた。

何もかもが嘘のようで、

緊迫、そんな言葉はどこにも無かった。


俺はただ廊下の向こうの明るみを見ながら、

いつまで立っても姿を表さないあいつを…不思議に思っていた。


チームメートが一大事って時に、一人で家に帰る様な奴じゃ無い。

それにしたって、遅いじゃ無いか?

あいつらしくも無い。


白い壁は、何も語らない。

シゲは一言も喋らないままさっきから同じ体勢でかたまっているし、

俺は何でこんなに疲れているのか。

とにかく座っているのも辛い程、背中が痛かった。

冷えて行く外気が自らの温度を余計に中にこもらせて、襲うのは何故か酷い孤独ばかり。

「タツボン…」

返事はなく名を呼ぶ男にぼんやりと視線だけ向けが。背中しか見えず。

「何か、こーて来てくれへん?」

「…ああ・・分かった。」

虚ろに答えて席を立つ。余程長く座っていたのか、圧迫されたりしの筋肉が伸びようとする時の、きしむような痛み。


午前8時11分。


とぼとぼと歩いて、角を曲がった壁に付いていた時計の時間。


自販機へ向かおうとした時、トンっと何かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい!」

「!!」

「風祭!遅かった…」

しかし、間違える分けも無い程見なれたその背中が振り向いて行くうちに、それは知らない物へと変わって行った。

きょとんとして、竜也を見上げるその顔は紛れも無く…

だが。

呆然とする竜也の足下にポタポタと垂れて行くドス黒い血痕。


「すいません…人…違い・・っ。」

言いながら後ずさる竜也に気付いた彼が、慌てた様に様に自分の耳を押さえる。

「あ、ごめんなさい。漏れて来ちゃった。」

途端反対の耳から吹き出した血。上がりそうになった声に竜也は口を抑えた。

「き・君…」


違うコレは、
あいつ(風祭)なんかじゃ…


怯えた様に眉を寄せる竜也に向こうも焦って、

「すいません驚かしちゃって…気にしないで下さい、今止めて来て貰いますから。」

と、今竜也が来た廊下へと駆けて行った。


な…・んなんだ…一体。


靴の後で引き延ばされた血の後を見ていると、生々しさが甦って、努めて気に止めない様に目をそらす。

待ち合い室にもナースステーションにも誰も居ない。

けれど確かに、朝の湯の匂い。生活の匂いが伝わって来て、ここに人がいるのは確かだった。

自販機にコインを入れながら、ふと考える。

アレだけ血が出たって死なないんだから。

ちょっと脳出血した位で、あいつが死ぬ訳無い。


そうだ…

俺は何を思って…・・

あいつ?



買ったのはホットの方のコーヒー2つ。

風祭か。

そ−言えば、あいつはまだこない。

シゲが待っているのは忘れて無かったけど、

あの暗い路地に帰る前に、せっかくだれも居ない休憩室の広い椅子に腰かけて一息。



色々有ったけど。

俺はお前に…嫉妬したり。

ムカ付いたり。


なんてバカな事ばかりしてたんだろうな。


何故か今無性に会いたいと思うのは、

不安な時いつも側に居たのがあいつだったからだ。と気付く。

あいつが居ると、いつだってなんとかなりそうな気がするから。


・・・・!


そうだケータイがあった。

我に返れば、何故か今までずっと握りしめていたケータイ。

呼べば良いんだと気が付いて、開きかけた…その時。


「水野君!」

ふいに聞こえたいつもの声。

はっとして振り向けば…、





聞こえるのは自分を揺するシゲの声。

「タツボン…タツボン、」

はっとして目をあける。

「風祭は!?」

開口一番、自分の口からでた言葉に、現実が…甦る。

ここは夢の中よりずっと明るい病院のロビー。

見上げたシゲの顔は険しかった。

息を飲んで待てば、

ゆっくりと、その言葉が紡がれる…




なくしてたまるか。

お前はまだ、必要なんだ。





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水野君の顔が…倒れた将よりあまりに衝撃的だったので。書いてしまいました。
この物語はフィクション中のフィクションです(ー−;)





















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