彼岸の頃
スイマセン…ちょっと休憩;
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「タツボン、」「シゲ、3日も何所行ってたんだ?」
秋晴れの朝、通学路の横道からひょいと現れた彼に、驚くより先に口を付いた言葉。
ちょっと呆れた様な口調と一緒に、眉を潜めた顔が自分に向けられるのを見て「ちょいとな、」と笑っていた。
「色々あって大変やったん、怒らんといて、」
「色々って?」
「まあええやん。」
「実家の…事か?」
「ん〜〜?まぁ、そんな所や。」
珍しく言い淀んだシゲに、竜也の視線がちらりと向けられるが。
いつもながらもう話す気は無いと空を仰いでいた彼に、竜也もそれ以上突っ込む事は無かった。
「なら、仕方ないな。」
「…ほんまにそう思っとるん?」
「ああ、」
「何や、もう少し気にしてくれてもいいんとちゃう?」
は?
彼らしくも無い台詞。
一瞬の隙をついた違和感に竜也が思わずシゲを振り向くが…。
怪訝な顔を向ける竜也に、ただシゲは、苦笑するだけだった。
「なあ、今日どっか行かへん?」
「何所へ?」
「これから、」
「これから?」
そう言われてみれば、シゲの格好はいかにも旅先から直行しましたと言わんばかりの、見事な普段着で、
とてもじゃないけど、このまま校門をくぐれそうな格好では無かった。
「3日も休んだ上に遅刻だって多いし、そろそろ法定割るんじゃ…」
言ってる側から引っ張られ、学校とは真逆の道へと連れて行かれる。
握った手は暖かかった。それは、高校1年の秋の事。
「シゲ…?」様子がおかしい。思いながらも、態度には出さない様にいつもの自分で居る様にする。
「たまにはええやん。」
「またダブってもしらないからな。」
「あ、いったいわぁ、タツボンそりゃ言わない約束やで?」
愚痴を垂れながらも、結局素直に付いて来る竜也を連れて歩き出せば、
コンクリの塀と塀の間からやがて視界が開けて良く晴れた河原が顔を出した。
「こんな天気のいい日に勉強なんかしとったら、頭がどーかしてまうわ、」「そのセリフ、前にも聞いたぞ。」
口調は低くても、どうやらその横顔がもう不機嫌では無い事を確認しながら、缶コ−ヒーを差し出す。
「紅茶がよかった。」
「・・・。」
うっさいわ、と顔を歪めながら、土手の緑の上に座るのシゲ横に竜也も続いた。
「あいつ、どーしてるん?」「ああ…さあ、この前ハガキが来たきりだよ。」
風祭がドイツに飛んでから、もう1年。
「めずらしいな、」
「何や?」
「お前が人の事気にするなんて、」
「そか?」
そういいながらふっと笑ったその横顔を、竜也は黙ってみて居た。
「何か、あったのか?」のんびりと過ぎて行く時間。
とはまだ行かず。
ちょうど川の対岸を走る道路は、朝のラッシュアワーで賑わって居た。
竜也の問いにも答えず、暫く空を見て居たシゲがぽつりと口を開く。
「なあタツボン、別れてくれへん?」
「・・・・・。」
何の胸騒ぎも予兆も無しに告げられたその言葉に、振り向いてシゲを見たその大きな瞳を、寝転がりながらも真直ぐに見返す。
朝だからこんなに白く見えるのだろうか、
その肌も唇も、ちょっと見ない内に…いやいつも見過ぎていたせいで気付かなかったけれど、
あの日、この手からスパイクを引ったくり駆けて行った、「ぼんのたっちゃん」では、もう無かった。
苦い顔で口元だけ笑むシゲに一瞬胸がつまって、何て言おうか、迷いながら…それでも
「ていうか…付き合ってないだろ。」
「・・そやった?」
と苦笑まじりに言いながら、冗談やと呟いて、再び空に視線を戻す。
「ホンマ美人になりおって、ムカツクわぁ」
小声で漏れたその声にも竜也は笑わなかった。
この違和感は…何だと言うのか。こんな分かりやすいシグナルは何だって言うのか?
なのに…判らない…。
「なあ…今日何所行きたい?」「シゲ。」
「何や?」
「お前変だぞ。」
そう言った竜也をちらっと見て、「…そか?」と…
『別れてくれへん?』耳に残る言葉。
また…何処かへ行く気なのか?
否、いつもだって何も言わずに消えてるくせに。
一体何だというのか…
「彼氏と上手く行っとるん?」「か、彼氏って言うなよ…」
疑惑に沈みそうになった竜也を見て取ったかのようなタイミングで、つつく。
「まーね。お陰さまで。」
「別に俺はなんもしてへんけど?」
ははんと鼻で笑いながら、照れて焦りながらそっぽを向いた竜也を、やっかむ振りで(否、そうともいいきれないが)からかう。
「ほんまにあんなので大丈夫なん?タツボン。」
「別れても友達で居られるタイプには見えへんしな。」
「あんた友達少ないしなぁ…」
「シゲ?」
「カザは、まだ当分帰って来そうにも無いし、」
「・・・。」
黙り込む竜也を他所にシゲは続ける。
「…ほんまにあんな眉毛好きなん?」「…ああ。」
「…全く、・・…しゃーないな。」
何も言わなかったけど。
それが何なのか、竜也には判る気がした。
「それだけ、気になっとったん。」ぽつり、と出始めた…それ。
ガラにも無く照れてるから、不機嫌になって。
「あんたの事…自分で思うより・・やったんやな。」
「ほんま、最後の最後にカッコ悪いったらあらへん。」
「シゲ、お前…」震えそうになった竜也の声に、
振り向いた彼は笑って居た。
隣から自分を見下げて来る竜也の硬い頬に腕がのびる。冷たい指先が触れた。
硬い表情で自分を見る竜也を見ながら、再び…苦笑した。
「結局、最後まで手に入らんかったけど。それで良かったんやな。」
せっかく俺が最初に見つけたんに…
と愚痴りながら身を起こし、竜也と同じ視線に座る。
そして…
「葬式、多分向こう(京都)になってまうやろけど。あいつ連れてきてなぁ」と悪戯っぽく笑っていた。
それから座り込む竜也の横からすっと立って最後の言葉は
「ほなゲ−センから行こか、」
だったと告げながら、涙する竜也の横で焼香にさくさく線香を立ててたのは三上で。
『つーかそれじゃあ笑い話になっちまうんじゃねーかよ…』
と思いつつ、神妙な顔で手を合わせ。
竜也を連れながら用意された席へと戻って行く。
きちんと閉められた、武蔵森のネクタイ。
秋雨の降る肌寒い1日だった。
棺の前で号泣しているのは、たしか関西FWの吉田で…自分達の列の横でズボンの膝を掴んでいるのは井上。
他にも知った顔の面々の中、三上だけが1人他人で、
浮いてたなあ…って言う。
「夢見てさ。」「何やそれ?」
「だから今日お前は早く帰って大人しくしてた方がいいぞ、」
「てか、何でタツボンとあのタレ目が付きおうとるん!?」
「夢だろ。」
「それが問題や、本音ゆうやろ。」
と同時に足を踏まれながら、部活の買い出しにコンビニへと向かう道。
「で、何で俺死んだん?」
「・・・。さあ…」
「意味ないやん。それ何か違うんちゃう?」
三上とか言うのとラブっとる意外…。
今度は視線で射られて皆までは言わず。
角を曲がった、その時。
「シゲ、前っ!」
「で、入院中に、佐藤が見舞いに来た椎名と浮気してんのがばれて、結局、あいつらは別れてさー。今、水野は三上先輩と付き合ってんだぜー
何か、怖いよな〜…」
12時を過ぎた寮の廊下で、海の向うで療養中の彼に楽しく報告中の藤代は、暗がりの中、真後ろでカップコーヒーをすする三上に気付いていなかったと言う。
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ここまで訳が判らないものを出してしまったのは、自分でも、初めてです…(謝;;)
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