白の名目
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俺の名前は

水野竜也









「佐藤…お前それちっときつくねえ?」


たまたま、俺とシゲの間に荷物を撮りに来た高井が

何気なく聞こえてしまった会話に驚く程

「そか?…俺は思った事を言うただけやで〜?」なあ…ポチ。

ふざけた感じでちゃかしているけど

あいつの俺に対する口の聞き方は、いつだって、辛辣、


「いつまでいじけてるん?いい加減うんざりなんそのいじけ根性…」

「そんな嫌ならやめてまえばええ、何処へでも行って1人でやったらええヤロ?」


カラカラと…

明るくそんな事を言い放つ…


彼に肩を組まれたままの風祭が、困った様に俺を見上げていた



いつだって

昔から…

誉められるよりは叩かれる。

それが俺だと…気付きだしたのは何時だったか…






泣きっ面を拭いながら横を通り過ぎて行く子供に

時々

足をとめるのは

あの頃の自分と

その横顔が、重なるから




厳しかった父の、教育。


逃れる術も無く

ただ自分と言う人間と向き合って

持てる力を真っ直ぐに

辿って来ただけ

何一つ疑う事無く

ずっとそうして走り続けて来た。



期待に答える事

力を誇示しない事

けれど自分を過少評価しない事

正確な物差しを持つ事



いつのまにかそれが

傲慢と呼ばれる様になるまで

時間はかからない…



言いたいことは判ってる

けど、何が悪い?

それが現実じゃ無いか…

出来もしない奴に期待する方が、どうかしている




小さく聞こえ続けた声を幾度も打ち消しながら


打たれた頬の痛みが

今でも時々、胸を焼く。











「何やポチ、しゃーないな、」


思わず、あんまりの失敗に口を開きかけた自分を

遮ったのは、やっぱりシゲ

怒ろうとした自分の方を斜目でちらりと目配せしながら

うろたえる風祭の肩を組む

まるで俺から…守る様に


「あ…でも今のは…ゴメン水野君…」

「・・・いや…」

すぐそこまで吐き出しそうになった憤怒をこらえて、

「気にするな」と嘘ぶく俺を

視界の端でシゲが嘲笑っていた。




気付いていない訳じゃ無かった…

あいつは

俺が一歩近付こうとすると

一歩下がって

まるで俺を自分に頼らせない様に

避けて行く。


俺とは話せても、他の奴とは話せへんのか?


時折言われる言葉

いつだったか

前も、そんな様な事を言われたなと思いながら


悪いけどな、俺はそ−言う奴、嫌いなん、


言われなくてもそう、その先に続く言葉を

俺は、知っていた。


そうやってお前は自分の仲間見下して

差別しとんや無いか


頭の中にはシゲの形をした悪魔が喋る

もはやそれは

彼の声や形を借りた、

自分自身である事を

自分が一番良く判っていた。




折角見つけた相手、

出会ったと、思ったのは…

俺だけで

伸ばした手は届かない

全ては掴み損ねて

暗い空に消えて行く様に



何が?

何が悪いのか…

傲慢な奴なんて

世の中にはごまんと居るのに

ここに要る限り

俺は永久に孤独の中…


他へ行けば違ったのか…

悪いのは自分なのか…


判らない








本当は今だって

昔だって

同じ…


見上げた夕日はもう名残も残さず、辺りは冷えきって

差し出そうとした

その手をはじき落とされた

小さな俺は

笑いながら去って行くスモックの背中を唖然と見ながら

静かに、その手を引いた…



そしてまた

明るみで遊ぶ子供達を

遠巻きに、眺める日々。


俺はまだ、子供のまま…












「手に入らんから苛ついてるだけや」


目の前のシゲは何も言って無いのに

思わず聞こえた声に

声を出しそうになって

慌てて取り戻す。


「子供の我侭や」

久しぶりにその悪魔が顔を出したのは

関西選抜戦だった。


1人で顔色を変える竜也に「どないしたん?」とシゲが覗き込むが

何でも無いと、視線をそらすだけ…









大体友達を自分の物にしたいと思ってるコト事体

間違ってる

欲しいなんて

そもそも同等じゃ無い




違う……




俺はただ

嬉しかった。

俺が思う様に

お前にも思って欲しかった


ただ

それだけ……






「タツボン?」

「大丈夫なん」



両手で顔を覆ったのは、止まらない涙のせいで無く

酷い頭痛のせいだった。



知らないウチに嗚咽して居た

俺の姿に周りがどうなっているなんて事…

知りもしなかったが


「風なら、大丈夫やで…」

「タツボンみたいにヘタレてへんのやから」

きっと戻って来るて…



戻って来る…?



その声にふと顔をあげれば

そこは、

春休み明けの部室…

背中を撫でる様に回された腕の重みに

自分が、どんなコトになっていたのかやっと気付く…

頬を濡らす酷い涙を拭いながら

横から覗いて来る

シゲの顔を

きょとんと見返す…と


その顔を見て「酷い顔やな…」と笑って、居た。

よく見れば

ここには2人きりしかいなかった事に

ほっとしながら


すっかり風祭のコトと決めつけた

顔が、急に憎たらしくなって

すっと自分から身を離して居た。

「何…や?」

「…コレは、」お前のせいだ。

言うと、驚くシゲに低く一瞥をくれてから、

ゆっくりと席を立った。


「タツボン?」


だが、その呼び掛けには答えずに

するりと抜けて行った身体…


暗い部屋の戸を思いきりあければ

外には、満開の光

踏み出す竜也と引き替えに

冷たい部室の中へと

すっと甘い草の空気が入って行った。


「もう春やな…」


戸口の所に立つ後ろ姿には

見えなかったけど


そう机に肘をつきながら笑ったシゲは

どこか楽しそうだった。






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疲れて…まだ読返してません…何か訂正多そう(--;


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