シークレットHe
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「水野君!」

「あっ、風祭…」


開けたドアの向こうには彼。


「久しぶり…、ゴメン電話しないで、」

「いや、ああ、久しぶり…」

昔と変わらない屈託のない笑みに、一瞬驚いた顔もすぐにつられて緩んでいた。


風祭がドイツから帰って半年。

独り暮らしを始めた竜也に、京都ヘと拠点を移していたシゲ。

学校へ行けば当り前の様に毎日会っていたあの頃とは違って、招集でもかから無いと

中々試合以外で会うのは難しい。

「遊びにこいよ、」と渡された新しい住所は独り暮しのマンションで、

自分の知らない水野や皆の変化に戸惑いながらも、相変わらずの毎日を過ごす彼だった。



「近くまで、来たものだから、」

良い所だねと誉められて、「ありがとう…」と、

ここで「まあ上がれよ」と言いたいのは、竜也もやまやまだったが、

ちらりと、奥を振り返りながら、再び気まずそうな顔で将を振りむく。

「ああ、…悪い今散らかってるんだ。」

「いいよ、ちょっとお土産渡そうと思って寄っただけだから、」

と差し出された箱は自分の好物の、レアチーズ。

こんなささいな事まで覚えていたのか?…

ささやかな感動を覚えながら、もう一度礼を言って受け取った。

「ホント悪いな、今度ゆっくり上がれよ。飯でも作るから…」

「水野君が!?自炊してるんだ?」

「え?…あ、ああ、まあな…」

ダイレクトに聞かれて思わず、苦笑い。

「あ、ごめん…」うん、楽しみにしてる、

と慌てて返した風の声と一緒に、自分の後ろからククッと笑う別の声。

一瞬ムッとなった竜也が、ドアの奥を隠す様に扉を閉めたその瞬間、

洗面所から廊下へと出て来た誰かの…面影。

何処かで見た様な背中…と思わず目が行ったその時、パタンと閉まったドアにそれは阻まれていた。


「お客さん?」

「いや、ルームメート。…実は…炊事は殆どあいつが…。」

俺だって、やれば普通にできるけど。あっちが家事嫌いだから…

とちょっと拗ねた様に弁解を付け加える竜也に

自然と笑みが漏れてしまうのは、仕方が無かった。

「あーなる程…、じゃあ二人暮しだったんだ。」

「まーな、高校の先輩」

先輩?…へえ…。

「家賃とか色々楽出し、悪くはないよ。」

じゃあ武蔵野かと、つい検索しそうになっていた所で、

鳴るケータイ。

お呼びは下の車で待たしていた功兄からだった上に、

車で来てると知って「ここ駐禁多いから、早く行った方がいいぞ!」

の竜也の声に押され、

結局その日は、多くは聞けないまま、エレベーターに飛び乗ったのだった。









「なあ、水野って誰と住んでんだ?」

そう聞いて来たのは、珍しく若菜だった。

たまたまロッカールームで隣り合わせて、否…

実はさっきまで自分が水野の隣に居たはずだったのだけど…いつの間にか自分と水野の間にユースが居たのだった。

「水野君?」

「おー、あいつよ、飯誘っても一度もこねーし。コンパこねーし(まあ一馬も英士もこねーけど)、とことん付き合い悪ぃーし、女でもいんじゃねーかって…」

「そりゃ水野君なら彼女位…」

「違う違う、実は嫁とか…」

「まさか、」

「だって家すら教えねーんだぜ?」

シャツを脱ぎながら、きっと彼もほんの雑談だったはず。

「え…、」教えて無い?

「?…何お前知ってんの?」

自分が分かりやすいのか、彼が鋭いのか、一瞬の間を取られ

「いや詳しくは、でも高校の先輩と住んでるって。」

「へぇー、先輩ねえ?」

と考えてから「…男?女?」と

「男の人…じゃない?」男女別の高校だったしと慌てて付け加え。

「ふ〜ん、」と真田と話している隣の水野をちらっと振り返る若菜に

何故かドギマギしてしまう将だった。


「てっきり彼女かと思ったんだけどな〜」


「誰に?」

その時突然後ろから降って来たその声に振り向いたのは、同時だった。

「あ、シゲさん、」

「水野が誰と住んでんのかっつー話」

「ああ…、あいつな…」言ってから、ちらっとシャツを持つ手の止まった竜也を見て

「高校の先輩やろ…」と…

「それは判ってるよっ」と膨れる若菜にカラカラと笑って去って行くのだった。


「?」

まあシゲさんなら知ってるだろうけど…

て言うか、シゲさんでも知ってる森の関係者と言う事は

自分も知ってる人かも知れない…


ふと浮んだ考えに

ますます謎が増す。

竜也が高校の先輩と言うのだから、それだけに決まっているのに

何故こんなに気になってしまうのか、将自身、自分でも説明が付かなかったが、

相手が自分の知ってる人かも知れない。と言う可能性一つで、どうもこう

…虫が騒ぐのだった。


そしてどうやらそれは、水野の周りの友人達も何故か、同じ様だった。





チャンスは、意外にも早く訪れた。

「あ、これ…」

その日の夕方、もう人もまばらになった更衣室で小さく声を上げたのは、郭。

彼が恐る恐る隣のロッカーから持ち上げたそれは、何と竜也の。

綺麗にたたまれた10番のユニホーム…

「うわ、信じらんね…!」

驚いて声を上げた結人はともかく、郭は唖然。

「ヤバイくねぇ…?」と2人の間から覗く一馬に

誰が持って帰ろうか?いや、持って帰っていいものか?

しかし置いておく訳にもいかず

困った3人の視界が自然と向いたのは

誰も居なくなった部屋の済みで、ちょうど今日の分のリハのストレッチを終えていた彼だった。


「風祭、コレ…」

「何郭く…」


「水野君、…命より大事にしてたのに。」

「マジで!?」

「あいつ今日やたら急いでたからなあ」

それはともかく、

「家知ってるのお前だけだし、頼んでも良い?」と渡されて。


「もちろん、じゃあ今日寄って帰るよ。ありがと…」

とその言葉に何か言いかけた結人の首根っこを英士が引っ張ると

「君が謝る理由はないでしょ」と、

彼らしい礼を残して背を向けたのだった。




マンションに付いたのは、夜の9時。


1度目のチャイムを鳴らすが、返事は無かった。

少しおいて2度目…

やはり留守なのだろうか…

やや周りが気になった物の、後で気付いたら本人も大変だろうから…と

「水野君ー?」

遠慮しつつも呼んでみる。…が


急いで居たそうだから…何処かへ出かけたのかも知れない、

だが、

帰ろうとしたその時の微かな物音。

それからドアの向こうで、鍵を開ける音、チェーンを外す音、そして…


「風祭…?」

「あ、水野君、良かった。」

しかし出て来た彼は

春先だと言うのに、ワイシャツ一枚を羽織っただけの上半身に、珍しく乱れた髪を梳きながら、

怪訝な顔でドアから顔を出して居た。

「ごめん寝てた?」

「いや…で、どうしたんだ?」

「ユニホーム忘れてあったよ。」

「!っ」と息を飲む音、

そして

「悪い!ありがとな…」とドアを大きく開くと、両手でそれを受け取った。

その時、

はだけたシャツの胸の中に見えてしまった、

無数の鬱血の後。


「・・・・。」

「風祭?」

「あ、…ごめんこんな遅くに、水野君…」

問答無用で固まる将の目線の先を追った水野も、…少し遅れて絶句。

「なっ…・・・」

「む、虫刺され?」

「そう、」

な分けない。なわけないだろ…

イイ年してそんな言い訳は無いだろうと思いながらも、

「あー、大丈夫だよ、功兄も時々そー言う跡付けて帰ってく…・・」

超逆効果。と書いてある竜也の顏に

今、自分が何を喋っていたのか、やっと理解し。赤面。

「ごめん!水野く…」

それにつられて唖然として居た竜也だったが、一呼吸おいてから、

「ああ、風祭…?」と。

「大丈夫だから、そのかわり…その誰にも」

「もちろん、」

「ああ、」と苦笑い。

「でもその…誰と付き合ってるの?」

だがそれには、ひたすらう〜んと苦笑いするだけで

答えてはくれなかった。

「じゃあ、風邪引くからまた来週な、」

「うん、お休み…」

それからいつまでも頬の赤い風祭をからかってから、静かに戸を締めて居た。





結局、同居人もきくの忘れたな…

思いだした所で、そう言えば、「誰と付き合ってるのか?」なんて

随分直球な事を聞いてしまったと、後悔…

でも何となく、あの時自分は、誰と住んでるのか?と聞こうとしたはずが

何故あんな事を口走ったのか…


でも…もしそれが本当なら

水野君は同居じゃ無くて、同棲してるわけだから

…今までの疑問もつじつまもあってしまうのだ。

(それも男と…)


----!


まさかね。

思いあたった結論は

残酷だったり、希望だったり…



と、財布を出そうとカバンを開けた所で固まる。

水野の君の…定期。

一体どうして?

あのユニホームに挟んであったのか?

とにかく戻らなくては、と思い直して今来た道を走った。


悪いな…と思いながらも、またピンポンを押した…瞬間。

今度は、まるであらかじめそこに居たかのような早さで戸が開いたのだった。

「おいケータイ忘れ」

「水野クン定期…き・・…」

思いきり目があった後…パタンと閉じるドア。


「あ、風祭!」

「…水野くん、」

ドアの前で凍っている彼を発見したのは、たった今下の階からケータイを取りに帰った竜也で。

「これでしょう?」

「そう、悪いな、帰り送ってもらったから気付かなかったんだ。」

「良かった。じゃあ、お休み」

「ああ、お休み、」

息を切らして、自分に笑いかける竜也がまるでさっきとは別人に見えて

また頬が熱くならないウチに急いで挨拶を交わし、背中を向けた。


……でも本当良く似てたな、あの人。三上先輩に。




幾度も帰りの電車の中で判読しながら思う。

そんな訳ないか…。と自分に言い聞かせて苦笑。


それから数日して、

同じ様に近くを通りかかったから…と言う理由で朝っぱらから上がり込んだ藤代によって。

事の真相がばれるまで、

彼が三上の存在を信じる事は無かった。







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