曖昧なグリーン
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抱え上げられた足と足の間に見える男の顔は

いつもの奴。


「…・っ…・・」

「…〜〜…・・」


どのくらいこうして居るのか

ガクガクと揺すられ続ける合間に

時々仰け反りながら上がる、自分の声にも成らない静かな嗚咽を飲み込みながら

それでも彼はそこから視線を反らそうと思わなかった。


息を切らした、少し訝し気な顔が自分を見下げて来る

こんな奴でも真面目な顔をするんだな

と思わせる以外

何度見直したって自分のタイプとは程遠いと言うのに

全く俺は、何をしているのか…


それでも、大きく突き上げられれば

素直に息を飲む身体。


それにしたって今日は…

もうどのくらいこうしているのか、

しつこいのは

こいつの性分そのものだったけど

10分?15分…?


嫌な事に身体の成長が

そのしつこい耐久力に拍車をかけている事を、否めなかった。

それなりに伸びたと思っていた自分の背も

こうして重ねると、少しの差も縮まっていなかった事を思い知らされる。


ったく…このデカブツ…

ああ、こんなウザイ奴

何で俺が付き合ってんだろ


嗚咽の裏で幾度も悪態をつきながら

相変わらず重い一刺一刺にゆすさぶられれば

頭の中が真っ白になりそうな危機を何度も乗り越えていた。


「っ…・・・…」



最近じゃ殆ど声も出さないその無味乾燥な細い身体を

同じような瞳で見返しながら

ただ幾度も、ひたすら奥へと犯して行く。

こんなにも胸から上は冷めきってると言うのに

ほんの少し自分が擦れただけで、いとも簡単に仰け反って、

その爛れを全身で感じているその様に、目を離せなかった。


揺すり続ける度に

自らに吸い付いて来る内壁を割って、押し退けて

更に奥へと打ち込む瞬間。

濡れた音が繋がった箇所から漏れて

耳を付くが、組み敷いた彼の様子が

変わる事は無かった。






気付けば高校2年の夏

始めてこいつとこんな事になったのは何時だったか、

何だかそれがもうずっと昔の事の様に思えていた。



俺は多分…ここでサッカーを辞める。

こいつは続けて行く。

何となくそれが壁になっていたのは、

どちらとも無く気付いていたはず。

元々気のあわない俺達が

ここまで続いたのも奇跡のようなもんで

たもとを別してしまえば

冷める事等、目に見えて…いた。

…いた?


そんなもんか…


と思いながら

ぐっと開かれて、引き寄せられた膝に重い目蓋を開けた。





何時の頃からか

ケンカをするのもおっくうになって

最近じゃ部活の時ですら視線をあわせる事すら避けていたのに


別れもせず、上手くやってるはずのこいつと俺は

出会ったころよりずっと

遠くなっていたのが、本当の所だった。






「おい、」

「おいチビ。」

珍しく後ろからかかったここ最近なかった懐かしい呼び名に

思わず振り返りそうになって、はっとする

当然と言う様に、シカトを決め込んで行けば

「おいシカトしてんじゃね〜よ!あ〜?へーすけく〜ん?」

とでかい声が廊下に響いて

……。暫くむっと堪えるも

あのお決まりの口調で「うるせーな」と仕方なさ気に振り向けば

人を喰ったような笑みで、俺を見下す、あの顔…


ほんの一瞬だけ戻った

昔と同じその空気に

思わず笑いが漏れそうになってしまったのは何故だったのか

冷えきった心に流れ込んだ

かすかな安緒が


次の瞬間には

まるで何かを予感させる様に

不安に変わって居たのだった。


「ちっといい…?」

「何だよ?…」


ふっとガラにも無く真顔に帰ったその顔が


『終わりにしよーぜと』


と告げてる様で…





冗談じゃないと思いながら



何でこんな奴に俺が

大体頼まれて付き合ってやって来たのはどっちだつーの



だが

霞む視界に飛び込んで来るのは

昔から身体だけは人一倍だったけど

確実にあの頃とももう違う一人前に変わりつつある

骨の出る鎖骨に広い肩幅…



夏なんて、側にいるだけで暑苦しい感が否めねーし

すぐ切れて、気分屋で、いい加減でガキの癖に

何度そのツラにスパイクを食い込ませてやろうと思ったか知れないけど

最近じゃそれも随分マシになって来たと思ってたっつーのに

一体誰のお陰だと…



今度こうして

ここからこいつを見上げるのは

他の誰だと言うのか…



やばかった。

そんなつもりじゃなかったのに

声より先に目尻を伝った涙に

慌てて手の甲を押し当てた。





可愛いのは寝てる時だけと自分に言い聞かせて来た物の

ときどき

やっぱこいつはマジで自分をどーでも良いんじゃ無いかと愚痴りながら

いつだって信じていない訳じゃ無かった。

素っ気無い。

可愛げも無い

むしろムカつく

けどそんな事

自分とこいつの間では何の理由にもならない事だけは

確かだったから。

気付けば

4年…


長いのか短いのか

冷めたわけじゃないとか

今さら言い訳する気もおきはしないが



「最後にそんな顔すんのは反則なんじゃねーの?」


ガラにも無く無托に寝入っている顔に小さく呟くと

微かに湿りの残る頬を一筋なぞった。







「別れてくんねー…」

「は?」


たった今聞こえた声に耳を疑ったのは

鳴海の方。


さて、何て言おうかと…めずらしく悩みながら

風呂から返ってくれば

ベットに起き上がっていた奴に真っ向から言い放たれて

唖然…


相変わらずの涼しい顔は

さっきの甘さも余韻も

残してはおらず


「いーけど。」

とあまりの彼らしさ…

いや、あまりのその寒さに引きつった笑いが先に答えていた。


相変わらずムカつくチビ。


しかし、

「じゃあな、」となんでもない、いつもの様にすっと横を通り過ぎようとした

その肩を掴んで


「じゃあな…」


とかければ、流れた横髪の下から覗く大きな猫目が

見下げる自分を見返すと、微かに微笑んでから

そのまますり抜けていった。


「しけたツラ…」


残ったのは微かなその声と

みぞおちに

ふざけ半分、本気で打ち込まれた拳の跡


「…〜〜〜……あの、クソ…」


だが続く言葉は

背を向けた彼の向こうへと消えていた。


「サンキューな」言ってしまえば、後悔しそうで

何も言わず胸にしまった。











「な〜タツボン、」

と首に巻き付いて来る片手を、もちろんと言いたげに却下しながら

靴のヒモを結び直すが

「鳴海の前の相手って、しっとる?」

「何で?」

「いやそのチカちゃんから聞いたんやけど…」

「知る訳ないだろ」


「せやな…」

しかしお構い無しにずっしり背中に回された手が退く気配は無く

横を見れば自分と同じ位置に屈んだままイヤに考え込むシゲの横顔…


「何かな、あのお姉が男かも知れへんとか…いいだしてな」

「…別に、人の事なんか、どーでもいいだろ」

「せやけど、あの女好きがあり得んと思わへん?」

「下推はよせよ…」自分だって同じような癖にと片眉を上げた

竜也の機嫌の悪さに

「何や?…」

と身を起こすが


東京選抜じゃ、桜庭や藤代のお陰ですっかり有名だった彼等の話しを

果たしてするべきか

そんな竜也のイラ付きを、彼が知る余地もなかった…。

そして結局


誰が裏切り者の関西なんかに…

と言う彼にしては珍しい(?)

痴情な理由によって、その秘密は守られ続けたのだった。







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何がだった。だ私はアホか(涙)と突っ込みつつ。苦し紛れが見え見えな、久々の鳴設…調子でませんでした(--;)




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