ジレンマ
水野森へ行く4
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「おい、坊ちゃんのお通りだぜ」

歩いて行った廊下の先で、その一言に、前を歩いていた上級生が自分を振り返って、道を開けた。

ニヤニヤと自分を見下ろす一番端の男を、ちらっと睨み付けながら

「どうも」とツンと通り過ぎれば

「おーこわ」の声。


嫌な奴。

この春から先輩と呼ぶ羽目になった三上亮は。

思う以上に

嫌な先輩と化していた。


選抜の時から変わらない嫌味な性格も、自分の家の誰かさんのせいだと後ろめたさがあるせいか、

かわすにもかわしづらい

嫌な相手。

人には何でも言って来るくせに、ちょっと言い返せばすぐ傷つくし。

大体被害者の自分が、なんであんな奴に気を使ってやらなきゃならないのか…

最近ではあの顔を見るのも億劫で。


「あれでも、面倒見は良いはずなんだがな…」

「どうでしょう、相手にもよるんですよ。」

むっとしながらそう言った竜也に渋沢も苦笑するばかり。

その仲の悪さには流石の彼もお手上げだった。 






「先輩大丈夫ですよ。」

それは年の暮れのコンパの席の事だった。

今まさに同じテーブルで、スナックをつまんでいる水野と三上を何度も振り向く渋沢を

藤代が苦笑まじりに笑う。

「あ、ああ。」言いながらも

「何だかんだ言って三上先輩は本当に嫌いだったら、自分から側に行ったりしないっすよ。」

「そうだな…」

言いながら、誰があいつらを同じテーブルに配置したんだと…

「センパイ。」

「ああ、うん。」

しかし今度はニコニコと自分を見上げて来る笑顔に「・・・・。」

「藤代…お前、酔ってるな?」

「センパイ、誠二っすよ、」

ね…、としなだれ掛かって来る彼に、

周りを見渡してから、こっそり腕を回した。





ここだけ会話ないし…

宴もたわなけになっている周りを見渡しながら、

ただ黙々と菓子をつまむ、このテーブル。

別に席が決められてる分けでも無いのに、何でこんな事になってるのか、

『けど今退いたら、三上に殺されんだろうなぁ…』

思いながらちらっと同席の二人の様子を伺うが、

相変わらず、無言で視線を合わせない水野と三上。

が、その時

「おいやすんど。」

くっ…「やすとだから三上、根岸でいいから…」

「おまえちっと、中西んとこ行って来い。」

「?」マジで?とその顔を見上げるが、

「いいから、行ってこい。」

「おー、判った…」

大丈夫か?渋沢に頼まれてる手前、気になりながらも、席を立って行った。


何だかんだ言って、結局三上の奴。

結局自分から水野のトコに居るんだよな…








あの、渋沢先輩が!?

何と無しに周りを見回した景色の中に、目に映ったあまりの光景に動けなかった。

「藤代と…」

誰に見られるとも知れないこんな所で…いや、誰も気にしていないのも信じられないけど

キスしていた。


見てはいけないんだろうか、だが、見ずにいられず

首に回った藤代の腕に隠されていたけど、幾度も触れてはなれて。

深くなって行くのは、藤代の背を抱く渋沢の腕を見れば、一目瞭然だった。

いつも明るいあの彼が、息を上げて赤らんでるその姿に

手の中の紙コップが滑り落ちたのも気付かなかった。


そんな…と言うショック。

なのに、熱くなって行く頬を止められなかった。


「何見てんの?」

耳もとで響いた声にはっと現実へ引き戻される。

気付けばニっと意地の悪い笑みを浮かべる三上が、自分の肩口で笑っていた。

「な…」

「これだから、坊ちゃんは。こ−言う時は黙って気−使うもんだろうがよ…なあ?」
「しかも…」

「何だよ。」

「失恋?」

そう言って、首を出してる方とは反対側から手が伸びて来て、頬を掠めて行った。

自分でも気付かなかった涙の跡を、


「別に…」

「ふ〜ん」

言いながらうなじに落ちた生暖かい感触に、肌が栗毛立つ。

「なっ…」

気付けば後ろからすっかり抱き締められるカッコで、奴の両腕が自分の腹へと回っていた。


まさか…

なぜこんな時に鼓動が早打つのか。

驚いて、驚きと、焦りと…混ざりながら、自分の肩口に顔を埋める彼を振り向こうとした途端。


くっくともれる笑い声。

「しかも、感じてんの?」

「ーーーー!」

かっとなって触るなっと文句と一緒に出た肘鉄は、寸前の所で声と一緒に押さえられていた。

塞がれた息の根。


−−−。


剥がそうにもはがせず、

やっと剥がれた時には、息が上がっていた。

自分を無表情で見下ろす三上の視線にはっとして、

顔をそらす。


怒るより先に、恥ずかしさに言葉を失って、恐る恐る顔をあげれば

ちょうど真正面で、ぽかんとこちらを見ていた藤代が

にししと笑ったのだ。

その横で視線をそらす渋沢の姿。

なっ…

口元を拭いながら、恐ろしいやるせなさが身体を覆って、逆らうのさえ忘れていた。


冗談じゃ無い。

俺が好きなのは

お前の…


冗談じゃ無い。


涙が滲みそうになって下を向いたその時

後ろから、声。


「このまましていい?」

!?

「あいつに見してやれよ。」

「何考えて…」

「気が変わるかもしんねーぜ?」

「三上っ!」


そう言って、半泣きのまま振り向いた時の、あいつの顔は…

自嘲気味に軽く微笑む、つらそうな…顔、


思わず言葉を失って、その顔を見ていた。

不思議と涙が目の奥に引いて行くのが判る。


やがて何も言わぬまま、また前へ振り返り、

だが、竜也がその腕を振り払う事は無かった。


自分のうなじに頬を付けたままの彼をの温度を、

その日が終るまで、じっと感じていた。







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時間の関係で読返していません;どうかなってるか怖いけど…取りあえず後で修正を;








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