++++スワッピングラヴァー
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あ、渋沢先輩。

「水野?」

待ち合わせた神社の石垣の前、偶然居合わせたその人は。

文庫小説片手に私服でたたずんで居た。

「どうも。」

と言って、軽い会釈と共に隣に並ぶ。

「ああ、お前も誰かと待ち合わせか?」

「ええ、まあ。」

何て、多分言わなくてもバレてそうだが。

「・・・・。その。」

「はい?」

「三上なら、寝てたんだが。」

止まる竜也。

「本当に?」

「やっぱり、そうなのか?」

隣で笑ってはいるが、引きつった頬の竜也を見て、あちゃ…と言う苦笑いを漏らす。

「・・・。ちょっと、電話して来ます。」

と笑顔で数メートル離れて背中を向けるとケータイを掛けはじめる。

怒っていますと。書かれたその竜也の背中を渋沢が黙って見て居た。




全く。信じられない。

仲直りした次の日のデート…デートって柄じゃ無いけど…。

忘れるか普通!!!

最近、こうして、思いっきりあぐらをかいているあいつの態度に苛ついてばかりだった。

最近。会っても喋っても喧嘩ばかり。

倦怠期ってやつかな…。

だから今日はと思って来たのに。

メーターの上がって行く自分を何とか押さえて、10回を過ぎたベルを鳴らし続けるが………。

ダメだった。

何度か試すが。出ない。


すごすごと隣に戻って来た水野に渋沢が苦笑いを飛ばす。

「出ないのか?」

「はい。」

そう言った渋沢の顔をちらっと見た水野がちょっと迷った顔をしたが。

「誰、待ってるんですか?」

聞いた。気付けば彼も随分待っている。

「ああ、ちょっとな。」

友達か?藤代だったら待つ必要は無さそうだし…と。

無意識に詮索を始めた水野に。内心困ったなと言う顔の渋沢。




結局。小一時間程二人で仲良く各々の相手に待たされて。

境内の階段に座り話し込んで居た。

「最近…どうだ?」

「?風祭ですか?」

「ん…まあ、あいつもそうだが。お前とか不破とか。」

「ああ。そうですね…。」

驕ってもらった勘ジュースをどうもと受け取り。

たわいのない事から選抜の事まで話が弾む。

『この人と、あいつが同い年なんて無理がアルだろ。』

到底思えない。

なんて思いながら。電話どころか、未だにメルの一本も返してこない彼氏を考えて居た。

「水野、指細いな…」

会話が途切れた時、ぼそりと彼が言った。

嫌味でも何でも無く。

ふと目に止まった光景をサラリと声に出したのだった。

そう言えば前、三上も同じ事言ったなと思い出して。

横に居る渋沢の顔をまじまじと見た。

「…?どうかしたか?」

爽やかな笑顔。

「いえ。」

まあ何でも無い事だけど。

言い方一つとってもこうも違う物かと結局そこに辿り着くのだった。

三上って…エロいよな。

考えるとこっちが恥ずかしくなるような事。平気でやったりするんだからな。

あいつ。ホントに。

あのデビルスマイルを思い出しただけで、ちょっと赤くなったのを隠そうと空を仰いだ。



「こないな。」

途切れた会話の間に文庫に目を落としながら渋沢が言った。

「そうですね。」

ちょっと不機嫌な声を出した水野に隣でちょっと笑っていた。

ぱたんと本を閉じる音。

何か言いかけたのが気配で判ったが。ちょっと気まずいのか横を向いたまま言い淀む。

「渋沢さん?」

「水野。」

彼がこちらを向いた。やはり気まずそうな顔。

「今日、三上はこないんだ。」

「は?」

「笠井と居る。」

頭の中が。一瞬だけ真っ白に。

「何で…です?」

「今。俺が笠井と付き合ってるからな。」

ますます意味が判らないと言う顔で。険しい顔つきになる水野。

だが、その怒りをどこにぶつけていいのか判らず。余計に焦っている様子だった。

「元彼・・ですよね。」

笠井は。三上の。

そんな水野を前に、やはり渋沢も困っていた。

「今日一日だけ。こ−言う事になって。」

「じゃあ、つまり。」

「俺が待ってたのは、お前なんだが…水野。」


頭の後に鈍器が食い込んだようなショック。


「…どう言う事ですか?」

見る見る内に顔色の変わって行く竜也。

未だかつて、渋沢には向けた事のない険しい顔。

渋沢はやりにくそうだったが、いつもの調子で、落ち着いて話して居た。

「この前お前達が喧嘩した時、三上に愚痴られたんだが。俺達も最近上手く行って無い事。話したらな…。」

こういう方法も有るんじゃ無いかって。

「三上が言い出したんですか?」

いや。俺も承諾した訳だから……。


「どうして…です?あなたはっ…!!だって!いいんですか!?」


こんな事、どうして。この人が?


水野の混乱は痛い程分っていて、渋沢も困っていたが何とか口を開いた。

「…お前だったからな。」

苦笑い。

「!?」

それに押されて水野の剣幕もちょっと引く。

「正直。お前とちょっと話してみたかったし。…ま手は出さない約束だからな。」

「勝手な…」

そう言ったが再び竜也も前を向いて座り直した。

自分なりに気を取り直して、暫く黙っていたが。やっと口を開く。

「守られてると思うんですか?」

「多分な。」

「三上の事信用してるんですね…。」

「お前は違うのか?」

「絶対……。」破ってるだろーな。それは言えなかったが。

「俺は、笠井と約束して来たからな。」

「俺にはそんな保証も何も」

そんな事どうして自分達だけで勝手に。

「すまないな水野。本当に。けど、」

怒っているのに、泣きそうにも見える顔で水野がこちらを振り向く。

「今日は一日俺と付きあってくれないか?」



断る理由がもう無かった。

なんせ。三上が今頃あいつと居るのだから。

そしてもう一つ。

この人がもし自分の物だったら。

出会った頃。本当は、そう思った事が何度も会ったから。

隣に居る渋沢をちらっと見る。

イマイチ乗り切れない竜也に対して、渋沢はいつも通りの笑顔で接して居た。

自分の中で数少ない先輩と呼べる人。

秘かに尊敬してた人。

まさかこんな形で手に入るなんて。


「チケット、貰って来たんだ。コースも交換したから。」

「そうですね…。」

そう言って、三上と約束してた映画を見に行った。

渋沢と居るのは楽だった。

悪態もつかれないし。嫌味もわがままも言わないし。

ほんと理想のカップルな感じだな。

だが何かが物足りない。

考えてるのはあいつの事ばかり。

三上が何を考えているのか、さっぱり判らなかった。

こんな事して、これからも続けて行く気があるのか?

無いなら、はっきり……。

腹立たしかった。

映画なんて殆ど頭に入らない。一杯一杯で他人のストーリー何かに浸ってる余裕何て無い。

寧ろ耳を劈くようなボリュ−ムがうざいだけ。

「大丈夫か?」

「はい?」

隣から小声が響いた。

「顔色悪いぞ。」

「いえ、大丈夫です。」

まあ無理も無いかと苦笑われる。

少し屈んで耳もとで話す姿は後ろから寄り添ってる様に見えた。

突然。

スコ−ーンっ!

と渋沢の頭に何かがあたって。パサリと竜也の膝の上に落ちて来た。

パンフレット?

何が起きたのか判らなかった2人はそれに釘付けになる。

「あーーどーもすいませんねー。」

後ろから不作法な男が笑いまじりに謝って来た。

暗くて顔ははっきり見えなかったが。

振り向かなくてももうそれが誰だか分って居た。

ちょうど真後ろの席から、竜也の椅子の背もたれに身を低して寄り掛かって来る。

「三上?」驚いたのは渋沢の方。

「先輩聞いて下さいよ。」

その渋沢の後ろには笠井。

「随分仲のよろしい事でお二人さん。」

「朝からこの映画3回も見ちゃったんですからね。三上先輩のせいで!」

「まさか、朝からずっとここにいたのか…」

「待ってたんですよ。先輩達を。」

幾ら声を潜めても隣の人の視線が痛く。

「とにかく。出よう。」

渋沢が言ったが。

3人が会話する中、後ろの三上の気配も全シカしていた竜也の首に。

後ろから腕を回す三上を見て。

黙って顔を見合わせると2人を残してそこを後にした。





夕焼けが落ちる頃。

「で、別れたくなった?」

「別れたいならそう言えば言いだろ。」

「聞いてんだけど?」

今日待ち合わせて居たハズの神社の境内に二人並んで座って居た。

「あんたの大好きな渋沢はどうだった?って聞いてんだよ。」

「……今日。楽しみにしてたのに。」

は?

呟いた竜也を三上が覗き込む。

「お前は最悪だよ。」

「・・・・。」

傷付いてると言う横顔の竜也を見て、三上は秘かに安緒を覚える。

どことなく自分を通して渋沢を見てる様な視線を感じていたから。

「お前が決めていーんだぜ。俺かあいつか。」

「これ以上言ったら殴るぞ!」

その時。顎を伝ってこぼれ落ちた雫に三上が止まる。

肩を掴もうとした手を弾かれた。

めげずに今度は強引に引き寄せた。

言葉は無く、その頬に口付ける。

「あの二人、付き合ってなんか無いだろう」

ぽつりと竜也が口を開く。

「あ?」

藤代からメールなりっぱだったよ。1時間中。

「いや。あいつは二股だけど。」

さらっと言った三上の顔を竜也がまじまじと見る。

やっと正面から見えた顔は歪んでいても綺麗に整って居た。


「完璧な人間なんていねーんだよ。」

偉そうに言い放つと。フンと流された。

「お前より最低な奴もいないよ。」


そう言ってちょっと苦笑いしたその濡れた目元を拭ってやった。

お前がそ−言うやつだから、あいつも俺も欲しくなっちまうんだよ。

渋沢が本気だったなんて知ったら、

お前はどんな顔すんだろうな。

「何がおかしいんだよ。」

ムッとする竜也。

「別に〜。あんたさあ俺の事好き?」

「嫌い。」

そのまんま憎まれ口を叩かれない内にキスをした。

ま、逃げるっっても。もう逃がさないけどね。

背中の服を掴んで来る腕だけが暖かかった。








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古い話です。無理矢理終わらせてしまったよ…。も、何も言えん。
スワッピングとは夫婦同士で相手を一晩交換する行為を言います。



































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