『冬恋』

「松下コーチ、上水のコーチ続けてくれるのかな?」
 
バスの中、気付けばチビの背中に誰かの影を追っていた。
今日から町にまった(ちょっと嘘。)4拍5日のナショナルトレセン。
が。
だるい。
朝から的わり付くあの鮮烈な記憶。
桜庭達との喋りすら面倒で、誰も居ない後部座席に一人陣取ると
賑わう車内の喧噪をただ憮然と眺めていた。
目についたのはすぐ側で良く喋る風祭将と椎名翼。

小柄だという事以外、何もかも・・・・
何一つ似ていないのに。夕べの記憶を無理矢理重ねてしまう自分が居た。
『あいつの髪はな、そんな黒くも硬くもねーんだよ。翼にさんとかつけねーし。
 ネコっ毛で、色素うすくて柔らかくって・・・顔も猫顔で。
 ・・うなじももっとほせーだろ。・・・・・んな寸胴な訳もねーだろ? 
 大体何でそんな肌黒いんだてめーわ。・・・あーもう全然役だたねえ!(妄想に)
 ・・・・クソガキ・・・・。』

思い返した所で、バタバタとくっついた二人に甘い思い出など殆ど無い
と言うのに。
気づけば、けんかとセックスばかりの日々。
なのに。
今は、蘇るどんな記憶も甘いのだ。
付き合って数カ月、あれだけ毎日躰を重ねてくれば、
鳴海自身、そろそろ飽きが来てもいいと思うのだが。
症状は悪化の一途を辿っていた。

「全国9地区のデータだって。」

ふーーん。
今も昔も好み顔には変わらないハズの椎名も、
今はキリンに見えて。
「末期かよ。」
と心の中で呟く。
つーか藤代。うるせんだよ!声がっ。

頭に走る鈍痛の種は、そう。夕べの出来事。

「福岡?どこそれ?」
「しらねーー。」
「上の方?下の方?」
「九州」
「・・・それはねーよ」
「うるせーな。」
「海とかあんの?」
「知らねーつってんだろ。山だろ、山。」

例えば、それが韓国だろうが女の家だろうが。設楽はめったな事じゃ鳴海のする事に
興味を示さない。・・・・少なくても。
口に出すのは珍しい。
自分が束縛する方の性分だから。
そのそっけなさにはいつも不満が残って、
疑ったり、悪態をついたり、・・・所が。
結局。ボロが(浮気が)出るのは鳴海の方で、どうやらこいつは
『こーゆう奴』なんだと諦めがついたのは結構最近の話しだった。
そして、
それこそムラっ気の鳴海と設楽が続いている理由なのかも知れなかった。
そこにどんな関係があったかなんて、二人に知る予知は無かったが・・。

まだ夜には満たない日の落ちた薄暗い部室で。
明星のエンブレムの入ったYシャツだけを背中に羽織り、
後は何も付けていない姿の設楽が、鳴海の上に向き合う形で誇って居た。
蒸気して目元を赤くした眸が気だるい顔で自分を見下げて来る。
フィ−ルドにいる時は予想も付かない設楽のもう一つの顔。
いけしゃあしゃあと、人のゴールを横からかっさらって行くあの姿から、
誰がこれを想像出来よう・・・。
口にした事は一度もないが。素直にこの少年を『綺麗だ。』と思う瞬間なのだ。
視線をしっかりと絡ましたまま胸の突起を口内に含む。
「ん・・っ・・」
白い肌が弓なりに仰け反り。意図も簡単に彼の手によって落城する躰。
クチゅクチゅと音を立てて吸い付く。そして
ガリっ・・・っと。犬歯を立てると。
「ああっ・・・・っ」涙が流れた。
何度かイッてるせいか緩滿な動きで両手が鳴海の頭を胸に抱く。
そして、そのまま腰を浮かせようと・・・
「おい。」
鳴海に阻まれた。腰を掴んで引き戻される。抜けかけて居た鳴海をもう一度
深く飲み込む。さっきまでの残骸のお陰で痛みは無かったが、
濡れた感触がリアルに下から伝わって来るのに、自然と頬が赤くなる。
「なん・・・っ・・?」
「今日は抜かずにどこまでいけるか試そうぜ。」

・・・・・。
「いいけど。」

意外。不覚にも一瞬歓喜した心。しかし。 
その胸に甘える様に頬を寄せて居た鳴海が、顔を上げる。
驚いては無かった。設楽はたまにこんな時もあるから。
褐色の眸が、めったに人に向ける事の無い悪戯っ子の様な目で鳴海を見つめて居た。
そしてそのまま
訝しがる鳴海の上に落ちて来て、コツンと額がぶつかった・・。
「なんだよ」
気配がクスリと笑う。
「別に。・・事故って帰って来なくなったらもうできないし。」

・・・餞別だよ。

嬉しいはずが・・。違和感。『嫌な言葉だな。おい。』

「あ、ふーーん。置いてかれるのが寂しいんだ!?」
嘘だった。この冷血漢が合宿位でそんな事思っちゃ居ないのは解っている。
ただ、たった今心をよぎった冷たい予感を打ち消したかった。

『全然。』
望んだその声は聞こえなかった。
返事が無い。
驚く間も無く、唇が重なった。 
初めて、設楽が仕掛ける。やっぱり自分とは違う、何て思う。
何度も角度を変えて、舌を絡めて、なのに何処か躊躇を感じて・・・
鳴海からククっと笑いが漏れる。物足りないとばかりに口膣の
奥深くまで彼の舌が入り込み、あっという間・・・暴かれて行く。

結局、何時間そうしていたとか。何回目だったのか何て覚えちゃいない。
気付いたら、設楽が気絶してました。
って言う感じだった。
 星が、出ていた。まだ空気は凍てついてて、空は澄んで居る。
何だかんだ言っても、結局いつも俺が少し遠回りしてこいつを送って行くはめに
なっていた。

「鳴海−・・・。」
「んー?」
「合宿・・頑張れよな。」
はあーーーーーー!!?
「何だよ気色悪りぃな!!マジで事故ったらどーすんだよ。」

今日は何時もと全く立場が逆転してた。嫌そうな顔で奴の顔を見・・・
その時。
横顔に、涙。!?
一瞬の事。喉が詰まってそれ以上言葉が出なかった・・。だが。
「嫌な奴」
ぼそりと言って、開き向いた顔にそんな物は後すら無かった。
見間違いか?。半分はマフラーで隠れているが、そうだったのだろう。

「じゃあな、」そう言って一軒の家の門に飛び込む
振り返った顔は珍しく笑って居た。思わず照れてしまった鳴海は。
外から伸ばした腕で行こうとする腕を引っ張った。ガシャンと閉まった門が
二人の間を阻む。
両腕を回して引き寄せ、その頬に触れるだけのキスをした。
何も言わずにするりと腕をすり抜けて行く設楽。振り返る事も無く
玄関が閉まる。

鳴海は気付いた・・・。そう、はっきり。
濡れていた頬に。

何故?
知りたくは無い。
自分の思い過ごしだと思いたかったから。
あんな設楽は・・・初めて見た。
あのヤロー・・何であんな風に笑いやがったんだ?
まるでそれが
『今生の別れでも有るまいし・・・。』
何だってゆーんだよ・・・。

フイに飛び込んできた風祭の声に我に帰った。
頭を切り替える。
『例えお前が逃げても、そんな事は俺がゆるさねえからな。』
堅く誓う。

窓からはJビレッジが覗いた。  

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