プライベートデビル
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あれ?


夕方のマック。

窓際に腰掛ける設楽からは見えにくかったけど、今階段を上がって来た連中の中に、確かにそれは見えた気がしたのだ。

デカイ図体の制服の中に、ちらっと見えた見覚えのある小柄な頭。

気のせいかな?と思いつつ、ポテトを摘みながら目線は彼を追っていた。

隣には鳴海。前には桜庭、はす向いには上原が居た。

「オメ、何してんだよ。」

とぼんっと後頭部を叩かれて、

「なんだよ、」

と鳴海を見れば、顎で上原を指す。

どうやら自分に振って来た上原をまんまとシカトしていたらしく、「おい大丈夫かー」と苦笑されていた。

「ああわりぃ…んで何?」といつもの調子で返した途端、でかい笑い声が耳を劈いて、

思わず顔を顰めて声の方を振り向けば、

いつの間にか側に来ていたさっきの連中で、よく見ればそれは明星の附属高校の制服だった。


あっと思った瞬間、


ふざけ過ぎた1人がよろめいて、鳴海の肩に思いっきりぶつかった…



「ってーな!」

「ああ!?」

一目でガラの悪い連中が全員でこちらを振り返る。

威圧感にピリっと場の空気に緊張が走った。

「!…んだよ、鳴海じゃねーか!」

「世良田さん?」

よお、暫く。から始まって。

「お前、最近全然顔みせねーと思ったら、あいつと別れてたって〜!?」

ゲラゲラと上がる笑い声の向こう…

「真面目にサッカーとかやっちゃってんの?」

「わりーかよ。」

見覚のある、あの後ろ姿。

…やっぱり。

二人の横で設楽が目にしたのはさっきの黒髪。そのやり取りを見守る二つの人影に隠れて後ろを向いてる

が、多分それは間違い無かった。

「吉野!?」

思わず二人の声を遮って声をかける設楽。

が、返事は無い。

小さく「ああ?」と言いながら、連中も設楽の視線の方を軽く振り向くと、

振り返らなかったその小さな背中に声をかけた。

「おい。」

それから設楽にもう一度確認。

「吉野って吉野政好?」

「はぃ…」

「おい、マーシー。知り合いが呼んでるぜ。」

「・・・・。」

中々振り返らない背中に淡い疑問を覚えながらも、懐かしい顔が覗くのを期待しながら待った。

「ああ、設楽…久しぶり。」

「久し…!」

おずおずと振り返った彼に、その場の桜庭も上原も誰もが目を見張った。

一言で言うなら、文化系の黒設楽と行った所。顔がそっくりって訳じゃ無いし。かもし出す雰囲気も違ったけど。

確かに系統は一緒、背の高さが同じのせいか、そんな単語がしっくり来て居た。

だが、ではなく。

一同を驚かしたのは…


「あ〜、そっか、お宅も明星?」

「吉野まーだ引きずってんだわ。すいませんねぇ〜〜」

止まった場の空気に、笑いまじりにひらひらと響く声。

吉野と呼ばれた彼の頭を片手で軽くかいぐりしながら連中がどっと低い笑いを漏らせば、

かろうじて設楽を見ながら唇の箸を上げて居たその子が、とうとう俯いた。

きっちり着込んだベストのその下は、

スカートとその下へ続く生足、そして…紺のハイソ姿。


彼に…悪いと思いながら驚きを隠せなかった。

紙コップを握ったままになっている桜庭や上原の前で、

「お前…」

愕然としていた設楽がやがて怒気を含めた声と共に立上がろうとした瞬間。

見えない所でぐっと鳴海に腕を掴まれる。

見れば、それがどうした?とでも言いたげな無表情を連中達に向けて居た。

「かわいーだろ、マーシーです。」世良田の声。

彼女でも自慢するかの様に肩を組まれても吉野が嫌がる様子も無い。ただ俯くだけ。

「はあ?男じゃないっすか。」

「あ、うっせー。…っと」

鳴海に軽いケリを入れようとしていたその時、

後ろから響いた「来たぜ。」の声に振り返り、そして

「んじゃなー、また顔出せよ。あの女連れてさーー。」

「ヘーへー」と空返事した鳴海に軽くゲンコツしながら去って行った。




彼等の頭が階段の中へと完全に消えて行ってから暫く。

店内にはまた元の活気が戻っていた。

何となく、会話のない4人。


だんまりになっていた桜庭がふと口を付く。

「いじめ?」

「だよな。」

「なんかヤバそーだけど、お前のダチ?」

だが鳴海は珍しくノーリアクションで「ちっとな。」と言ったきり。

横の設楽はどこか険しい顔でトレーを見ながら、思考に沈んで居た。



顔を見合わせる二人。

「・・・・・。」






「まー、スカート位じゃな…」

「う〜〜ん」

「自分で履いてるって可能性だって」

「それはねーよ。」上原の否定。

ちらっと後ろを振り向けば、遠くに、今さっき別れた設楽と鳴海の背中がまだ見えた。

「・・・・久々に会ったダチがスカートってどうよ…」しかもまだ14で

「お前どーする?」

「どーするって…まあ。」

空を仰ぎながら。

へこむんじゃねぇ?…

だよな。

「色んな意味で」

暗くなっていく景色の向こう、隣とちらっと視線を合わせながら再び前を向いた。







心の中とは裏腹に。紫色に澄んだ綺麗な夕張空。

「じゃな。」

と短い挨拶をかわして桜庭達と別れた以外、

何を話してたのか何も覚えていなかった。


少し離れた後ろには鳴海の足音。


「あいつら知ってんだろ。」突然かかった声。

「ああ…」

「じゃあ関わんな。」

「−−−・・。」

肩を落としながらつかつかと前を歩いて居た茶色い頭が急に止まって…

立ち止まった奴にそのまま近付く。

「あいつお前のなんなの?」

「・・・小六ん時、塾一緒だった奴。」

「そんだけ?…じゃかかわんな。」

鼻で笑う。

世良田の噂を聞いた事の無い奴は、多分居ないから。

鳴海のその言葉にも態度にも設楽は黙って後ろを向いて居た。

別に怒った様子も無く。ただ…

「もし…あーなってんのが、俺だったらお前どーする?」

風が向き抜ける。

頭をもたげて少しだけこちらを振り向いた彼の頬を、茶色いネコっ毛が流れて行った。

「一年前だったら写真に取って黒板貼った。」

「・・・・。」

じろっと振り返った猫目は真顔。

「けど、今だったら。」

近付いて、何も言わない自分の肩下の頭をくしゃっと掴む。

「刺し違えてんかもな…あいつらと」

いつに無く、ガラにも無く、真面目な返答。

その顔をじっと見て居た設楽だったが、

だがそこから、それさえも不服と視線をそらした瞬間。

「っ!…」ぐっと髪を掴んで居た鳴海の手に力が入って、上を向かされる。

目をあければ、怖いか顔で見下げて来る鳴海の顔。

「お前守れんのは俺だけなんだぜ。…考えろ!」

低い声で、その怒りは設楽では無く、世良田に…そして自分自身に向けられて居た事は一目瞭然だった。

そのまま軽く唇をかすめられ、設楽が講議する前にとんっと胸を押された、

「じゃあな。」

そう言って自分に背を向けた鳴海を、

少し眉を寄せながら黙って見送ってから、自分も再び歩みを進めるのだった。










コンクリの目地を伝って足下に流れて来た黒い血液に、慌ててローファーを上げる。

地下駐車場の一角でぶっ倒れた男の上着から、金品を剥ぎ取る連中を前に世良田が低く笑って居た。

「ねぇ。」

「あ?」

後ろの壁に寄り掛かりそれを興味無さげに見て居た吉野が、ふと口を開いた。

中性的な声に、細い手足。彼を知らない者なら、その性別を男と疑う者はいないだろう…と言う位良く演じきられた虚飾。

「さっきの奴、何て言うの?」

「ああ、鳴海?」

「鳴海?」

「何、お前あんなのがタイプかよ?」

と肩を抱こうとした手からするりと抜けて、

「ふ〜〜ん。」

と口の箸を上げて笑った。

それにはちっと舌打ちしながら、

「おめーの方こそあのちっこいのとなんだって?」

「まぁね。」

ふんと笑う。

「…へぇ〜。いいの?数少ないお友達に。」

先っぽに血の付いた板を、足で割りながら。ちらっと吉野を垣間見る。

その冷たい笑みに…

「・・もしかしてあいつが例の話の奴?」

「どーかな。」

そう言いながら、手元に入って来たメルの着信へと視線を落とし。

「次の奴、来たよ。」と声をかける。

その言葉に奥の連中が顔を上げ、動かなくなった男の頭をもう一度踏み付けてから、世良田と吉野へと戻って来た。


「ま、その内紹介するさ。」

そう言った吉野に、世良田が「へぇー」と低い笑みで返して居た。




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世良田→せらた。




















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