one days3
楽なものを…。
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「あんた、俺の事嫌いなんだろ?」

「そう、」嫌い嫌い大嫌い。

何食わぬ顔してペットボトルを傾けて居た三上が、殆どカラ返事でそう言う。

視線は明後日のまま。見なれない景色の先を眺めて居た。

「じゃー別に付いて来なくていいから。」

ますますムッとしながら押忍の竜也。

「ああ?テメ−がな、高校見学一緒に行ってくれるダチもいねーっつーから付き合ってやってんだろーがよ。」

「誰がっ!!?」…言って無い。しかも頼んでないし。

嫌いかと聞けば当然の様に返って来る「嫌い」

そう言いながら、気付けばかれこれ一年側に居るこいつと。

そろそろはっきりさせたいと思う中学最後の夏だった。

結局、何だかんだ言いながら側に居たがるこいつと、それを許している自分が居て。後はどっちが先に言い出すか…の我慢比べの日々。


第一志望はもう決めていたけど、残った休みの使い方を考えてる内に、回り切れなかった志望範囲内の学校見学に当てたのだった。

第一志望校が、

『武蔵森』だと知ったらこいつはどんな顔をするだろうか。

少なくてもこの曖昧な関係が崩れるのは必至に思えたし。

1年前に逆戻り…いや、最悪。もっと悪くなるかも…。それは幾ら何でも三上をあなどりすぎだと分かっていても…。

何も危惧しない訳には行かなかった。

友達以下?セフレ以上?なんとも言えないこの関係だったが、失うとなればそれでもそれなりの覚悟は…必要だった。


民家が開けると、30メートル先に開いた門から中庭が見えて。三上がふと止まった。

同時に肩を掴まれる。

「だせえ。」

「は?」

このクソ暑いのに何だ、と眉をしかめる竜也に。

「見ろ。あの制服。」

「・・・・。」

文句を言おうとした竜也まで、その視線の先に写った物に言葉を失う。


「はい、終了。…帰えっぞ。」

そう言って門も入らず、くるっと後ろに背を向けると。ぎょっとする竜也の腕を引っ張った。

「ちょっ、」せっかくここまで来といて…。

「お前はいいかもしんねーけど。俺にとっては大事な」

「じゃお前、もしもの時はあの服着んの?」

「・・そ−言う問題じゃないだろ!」

「はいはい。んなこと言ってる奴に限ってそー言う問題に泣くんだよ。」

せせら笑いながらそ−言う三上を竜也は無言で睨む。


いっつもこう。

一緒に来た学校見学はこれで2校目だったが。

付いて来るまではいいのだが。なにかつっちゃあケチを付けてあーだのこーだの竜也の邪魔をする。

確かに、色んな目で見て武蔵森にかなう進学校は都内でもごく一部。

しかも内部進学の彼には外部の緊張感はイマイチ理解されて無い様だった。

「帰りたかったら1人で帰れよ。俺は行くから。」

「はあ?お前先輩に向かって何言ってんの?」

「どこに先輩がいるんだよ?」

「ここ、」

「生憎俺は先輩だと思える奴しか先輩って認めないんでね。」

「うわ、サイテ−だなお前。」

「あんたもな。」

むきになって言い返す竜也にもヘラヘラと笑って居た三上が、ふいに真顔に戻ると、

「いーからいこーぜ」と今度は真面目な顔で竜也の腕を引いた。

「・・・・。」

「言ー事聞きなさい。損はしねーから」とくしゃっと後ろから髪に指を通されて、そのまま進行方向へと連れて行かれる。


何時からか。こいつがこんな…大人びたのは。

そう思う様になったのは。

1年前まではいくら『カッコ付け』と言え、自分より子供の一面をかいま見せる彼だったのに。

気付くとすっかり手中にハマってる自分に最近はっとする事が多い。

感情的になるのは、ならされるのはむしろ自分の方。

そう言う竜也の狼狽を使ってこいつは最近上手くそれをコントロールしている様だった。




結局。

「あーーあっちぃ。」とクーラーを付けながらソファーに寝転ぶ三上を居間のドアから恨めし気に見る無言の竜也。

ほらこうしてまた。

やらなきゃいけない事も出来ずに。

セックスされて。

1日が終る。

俺はイライラ。こいつは満足。


いがみ合うくらいが丁度良かった関係の二人。

それは多分同等であったから。

それが何時の間にか、これじゃあまるで都合のいい…。


暫く戸口につっ立って虚ろに三上を見て居た竜也が顔を上げた。

「帰る。」

「あ?」

三上が振り向く前に玄関へと向かった竜也を、ここの所にしては珍しく、慌てた三上が追って来る。

「何怒ってんの?」

戸口顔を出した向こうもムッとした声。

「どーせあんたあそこ行かねんだろ。」

「さあね。」

「つーかど−言う基準であんな体育会系…」

「どこ行こうと俺の勝手だろ。これ以上人の邪魔すんなよ。」

靴を履きながら背中越しに答える。

「・・・・。」

無言になった三上に向き返ると…

「風呂くらい入ってけば?」

と普通の顔で言われた。

駅から20分の道のりを、真っ昼間の日の下無駄に往復して。背中のシャツは確かにぐっしょりだったけど。

断ろうと思いながら言い淀む竜也にちょっと眉を上げると、再び居間へと消えて行った。




30分後。

結局ぶすっとした顔でソファーに座る竜也の姿をキッチンの隅から見ながら含み笑いの三上。

いーね。坊ちゃんは簡単で。

ちょっとくすぐれば自分の思い描いた通りの反応が返って来る。

こんな面白い御人形をみすみす手放す気は、当分無かった。

「で、結局どこ行きてーの?」

「別に。」

「あそこ見に行った理由って留学?」

「・・・そうだけど。」

拗ねた子供の顔しながら、聞けばぽつりぽつりと答える。

その横顔をソファの端に座ると頬杖をつきながらから見て居た。

「だったらウチ来りャいーじゃん。」

その時振り向いた奴の顔ったら。

『お前の考えてる事位おみ通しなんだよ。』


「…行っても、いいけど。」


部屋の温度が一気に下がった気がした。一拍置いて三上が大爆笑。

「なんだよっ!」

不安気だった竜也の顔にだんだん怒気が含まれて行き、

再び帰ろうとした竜也の腕を掴むのが三上は精一杯だった。

「別に、」と言いながら腹を抱えて笑い続ける。


「つーかお前。この前置いてったんだけど。コレ」

そう言って三上TVの下から出して来たその紙は。

記入済みの進路希望用紙。

あっけにとられる竜也をもう一度自分の隣に座らせて。

「あんたそんなに俺の事好き?」

とあのやらしい笑みで聞いて来る。

「なっ…」

「しょーがねー奴。」

そう言った三上の目が笑っていなかっったのに気付いて、竜也も黙る。

心臓の音が耳の中でこだまして居た。


静寂の後、ふと視線を合わせるとどちらとも無く吐息を重ねた。


「アンタ何か俺に言う事無いの?」

唇をはなすと、とろんとした目で自分を見て来る竜也に問うが。

「…そっちこそ」


「・・・・。」


「お前が言え。」

重なる声。


二人が付き合う様になるのはもう少し後の事だった。





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つまならすぎてかえって時間のかかってしまった一品。これはパラレル?パラレルです。
短いのに…疲れた。
































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