デビル・ヒズ
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「なあタツボン。」


ある日の夕方。

「何だ?」

さっき風祭達と一緒に帰ったとばかり思っていたシゲがそこに居た事に、少しばかりの驚きを見せながら竜也が顔を上げた。

パタンと日記を閉じて、不可解な視線をこちらに向けた竜也の前に、

ニコリと意味ありげに笑ったシゲが座る。

「そろそろホンマの事教えてくれてもいいんとちゃう?」

単刀直入に無表情が告げた言葉。

「何が?」

何の事だ?と言いかけた竜也に「それは効かない」と彼の視線が告げて居た。

「・・・。」

「ここんとこ、3日にいっぺんは出かけてるやろ」

「そうか?…。」

「一応聞くけど、どこいっとるん?」

「お前には関係ないだろ。」

一応…

また一抹にひっかかるシゲ特有のやらしい(意地の悪い)言い回しだと…思った。

「あそ、」

いかにも聞かなくても知っていると言いたげな、わざとらしい態度。

もちろん、嫌な事にそれがホントか嘘か見抜けない竜也では無く。

じりじりと下から嫌な予感に手足の自由が奪われて行くのが判った。

「あんた、ホンマにそれでいいん?」

頬杖をついたシゲが薄い笑みをたたえたまま、真面目な顔で前に座る竜也を覗き込む。

「…何の事だ?」

「タツボンがええんなら、別にええけど。」

溜め息まじりに「お前何言ってるんだ!?」と呆れた顔を作った竜也を、

じっと見つめ返してから…



「ほな、しゃあないな。」



小さく呟くと、少し困った様な顔を浮かべ席を立った。

その瞬間、一足先に空気を読み取った竜也も同時に席を立つ。

強張った顔でシゲを見据える竜也に、

「そんな怖い顔せんと、差別やわ。」とちゃかす口調で一歩近付く。

一歩引く竜也。


どうして、こいつが!?

胸に浮ぶ焦り。


「これでも、受けた仕事はきっちりこなす主義なんや。かんにんな、」

「な・・」

そう言ったシゲの顔からはいつもの明るさは消えて居た。

不安そうに顰められて居た眉は、火でも噴きそうな程シゲを睨み付けながら後ずさる。


「あんた狭すぎるんやって、あいつが…」

『あいつが…。』

「今日行く前に広げとけ頼まれとんのや。」


最後のセリフを聞く前に、竜也の背中は部室の壁にぶつかっていた。

言葉等無い。

そのセリフを聞くと同時に抵抗を失う身体。

動きを止めた竜也の前にゆっくりと立ちはだかると、

精淡な顔立が普段では見せた事も無い微かな怯えを覗かせたのを見て、シゲは苦笑い…


「・・・何で、俺にしとかなかったん?」

お前が抗えば、いつでも引き上げてやったのに…

吐息と供に呟くと、その強張る肩口に顔を埋めていった。







「・・っ・・」

目に写る部室の天上がぼやけて、目の端にたまった水滴が流れて行く度にまたはっきりと写る。

ぼんやりと写した瞳はただ開かれて、何も写していない様にも見えた。

ただ机の上で大きく開かれた足の関節が時折きしきしと痛んだ。

シゲは無言で。

一本、

ニ本と

そこに入れる個数を増やして居く。

時間が無いからと、舐めて濡らすとひくりと跳ねた身体から細かな声が上がった。

かつて聞き覚えのない竜也のその声に、沸き上がる感覚をぐっとこらえる。

「……っ・・」

手早に一本目を何とか飲み込ませると竜也が小さく息を付いた。

「狭いゆうてもしゃーないわな、女やないんやから。」

低い声でぼそりと呟きながら、

今やっと納めたばかりのそこにもう一つを宛てがうが…一つをやっと飲み込んだ入り口には到底入る余裕など無く。

「・・・・。」

昂揚した頬で、虚ろな視線をさまよわす竜也をちらっと見てから、微かな躊躇。

…これは痛いやろうな…。

思いながら。

一呼吸置いてから、堅いプラスチックシリコンの筒をそこにねじ込んだ。

「!!ーーーーーーーーーーーーーーーー!」

大きく仰け反った背中がだんっと音を立てて台の上に打ち付けられる。

だが声は上がらない。

一瞬にして裂けて広がったそこから、一拍置いて赤い血筋が流れを作った。

そこから漏れた血と体液を指で拭ってから、時計と竜也の顔を交互に見ながら言う。

「…もう一本あるで。きばりや。」

その声に指をくわえて居た竜也がちらっと視線をこちらによこしたが、

何も言わずまた天上へと戻して居た。

その少し上で誇張して居た竜也には決して触れない様に気を付けながら、2本をちょっと奥へ差し込むと。

走る激痛に逃げようとする身体。

きつく寄せられた眉が痛々しかった。



本当は座っている事もつらそうな背中を向けたまま、無言で身支度をする竜也を見て居た。

中には3本の杭を打たれたまま。

いつもの…涼しいとは到底言えなかったが、机に腰かけ堅い表情で作業をこなす彼。

くぐらしたタバコの煙りが上へ上がって行くのをちょっと目で追う。

「ほないこか。」

「タバコ、止めろよ。」

振りむいた彼の顔はいつもの水野だった。

おぼつかない足下を除けば、彼は完璧。


いつから…

そないになってたん?

ふいにそんな言葉が胸を付く。

らしくない感傷に自嘲しながら思う。


彼の歩調に会わせながら、道を歩く。

歩きながら一歩一歩呼吸を合わせているのが目に見えて分かって居た。

「・・・・・。」

「タツボン、」

「何だ?」

軽い口調でこちらを振り向く顔は、いつもと変わらない。


「あいつ、そんなにでかいん?」

真顔で聞いたシゲの足がかかとで踏まれた。

「いっ…!何すんねん!?」

「あ、悪ぃ。」

見れば眉を釣り上げながらフンと笑む竜也の顔。

「こんの…人の大事な足に…。素朴な疑問やないか!?」

「じゃあな、又明日。」

「何や?いつまでたっても冗談の…・・・」

シゲの前へと歩き出して居た竜也が止まる。



その視線の先には。

「よぉ。」

街灯の下、壁にもたれた三上の姿。

「ごくろーさん。」

「何や…こりゃごてーねいに、おで迎え?」

「まーね。」

そう言いながら、突然人形の様に凍り付いて居まった竜也の腕を引っ張った。

シゲに背中を向けたままその隣へとよろ付きながら素直に納まる身体。

それを見て一瞬険しい顔になりかけたシゲの気配を悟った三上が薄く笑う。

ほんの一瞬。

それを冷たい瞳で見据えたシゲだったが、次の瞬間、クっと笑いを漏らして、


「ほな又な、タツボン。」


振り向く事のない竜也に明るくそう言い残したまま背中を向けた。





テメーにだけは絶対わたさねえ。どちらともなく

竜也には届く事無く呟かれた言葉。








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変な、変な話(ーー;)何か、イマイチでしたね。一応三水のシリーズです。
前の話と同じ人達ですが話は繋がってたり無かったり…。












































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