It's
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「・・っ…」

中腰のまま前へと二つに折られた身体。

汗で滑り始めた手がステンレスのロッカーに爪を立てながら、挿し入れられたものの痛みに耐えて居た。

「・…っぁ…・ぁっ・」

腰をゆらせばぐっと歪んだ顔と一緒に微かな悲鳴が漏れる。

誰もいない二人だけのロッカールーム。

すえた土とホコリの匂いは、今は塩化ビニールの床と空調機からもれる冷たい空気の匂いに変わって居たけど。

あの頃と同じ様にこうして繋がるこの背中を、

シゲはただ黙って眺めて居た。


「・…っお前…・・こ・な所で・・」

フイに聞こえて来た苦情に。

「ほな、何所がええ…?…何所ならええん?」


「…・・言うてみ…タツボン、」

と。

「っ…・・はっ・…あ・・」

言葉と一緒に腰を揺らせば

好きなだけ上がる細かな嗚咽。

その心地よさと来たら…軽く笑いながら。

「タツボンて、声変わり遅いと思とったら…終っとったんやな、」

それでも。とは口にしなかったが、

ひそめた声と一緒に漏れた笑いに、見えない相手を睨みながら再び襲って来る波に口を開く事は出来ず、眉を顰めていた。

腹の下に入って、上半身を支えて居たシゲの腕が下がって、脱がされかけて居たズボンの隙間から入り込むと、

立ち上がりかけて居た竜也をそっと包む。と

声無き悲鳴を上げて、竜也の身体がビクンっと跳ねた。


あの頃とは違う。

骨張った男の長く無骨な指がゆっくりと、張り詰めた自分の薄い表層の皮膚の上を辿って行く感触に、膝の震えが止まらない。

ぞくぞくと這い上がって来る痛い程の悦楽に目頭が熱くなって行った。

「っ…あぁ…・っあっ・・ん…」

耐え切れずもれる声、

後ろからぐんっと深く突かれた瞬間、脳天まで突き刺すような衝撃に息が止まる。

「・っぅ・あ…・・…」

「ああっ!」

一瞬硬直した身体が、次の瞬間ずるずるとロッカーに手をつきながら滑り落ちて行って、

何とか探り当てたロッカーの取ってを握りしめながら、崩れそうになる身体を押しとどめて居た。

「タツボン?」

突然の反応に、思わず目を見張りながら名を呼べば、

ちらりと振り向いたその顔が、目元まで頬を上気させ恨めしげにこちらを睨んで来ていた。

頬には、きっと思わず流れた涙の後。

それを見たシゲがクッと笑う。

「…ここ、いいん?」

その言葉が終らない内に、ずっと竜也の背中の上へと上体で寄り掛かり、

動いた拍子に中が擦れて、再び息を殺して苦しむ竜也の背中の上にかまわず頬を付ける。

「…ゲ・・…もい…ぞ…」

そして絶え絶えの息の下から苦情が漏れる度、震える背中の体温を感じて居た。








「よお、お疲れさん、」

ちょうど練習場の出口を出た所でタオルを首に巻いた若菜とすれ違って。

「ああ、お疲れ」お疲れと、シゲと続いて挨拶を交わす、

「おーまだ残ってたのか−?」

とタオルで額を拭う彼、

「帰んなら送ってこーか?」

と最近免許取ったばかりの結人の笑みに押されながら、

「いや、寄って行くトコ有るから」と笑顔でかわして、

後から来た真田とも軽く挨拶しながら通り過ぎて行く。



社会人サッカー1年目。

U-19。



「タツボンこれからどっか行くん?」

乗り込んだ地下鉄はすいていた。

手すりにもたれながら隣を向けば

「いや、帰るけど。」

さっきのやり取りを聞いて何気なく口にしただけだったシゲは、

きょとんとする竜也に思わず吹き出した。

「なんだよ。」

「や、お前も大人になったな思うて、」

は?と言う怪訝な顔をする竜也に

『まさか…俺まで信じてまうとは…』

不覚や…思いながら、ついさっきのセリフすら忘れてしまった彼の様子に

「何でもない」と言って、傍らから見上げて来る竜也から暗い窓の外に視線を移して居た。

「今度の同窓会でるん?」

「ああ、できれば出たいけど、用が入りそうだから…」

「さよか、またお偉いさん?」

そう言ったシゲの顔をちらっと見ながら

「いいや」…と。それから軽く眉を寄せて微笑んだ。

「ああ、…彼氏な。」

「ああ…」

「毎日会っとるんに?」

「最近かまってなかったから…」

「そか、」

言いながら再びガラスへと視線を戻したシゲの横で、竜也がクスリと笑ったのが目の端に映って…

「・・・・。」

こいつは…

付き合った相手が不味かったんだと

つくづく思う。


ボンの水野竜也が最近見せる様になったもう一つの彼。

そしてそれを黙認する自分も…。

軽い溜め息を付いたシゲを隣で竜也がちらっと見て居た。






階段を登ると、焼けるような夏の熱風が耳の横を吹き抜けて行く。

思ったよりずっと眩しい地上の景色に目を細めながら。

「じゃあな、」

「おーお疲れさん」

手を降る背中を見送ると、勝手馴れた道を辿りだす。

ほどなく見えて来た5階建てのマンションの一室は。

実を言えば自分の家と言い切れる物はでは無くて。

ルームメートとの半同性生活が続いて居た。

お互いの生活時間の違いから、一緒に夕食を取るのは週に2,3度。

でもそれが今は、丁度いいと言えばちょうど良かった。


今日は水曜だから、あいつの方が早いかも知れない

コレは不味ったかな?などと思いながら自嘲して、

戸を開ければ。


居間の方から流れて来るTVの音。

「ただいま」

と声をかける竜也に奥から「おー」と返事があった。

ガラス戸を開けると眼鏡と家着(にしているTシャツ)でソファーに沈みながらビデオを見る、三上の姿。

「オカエリ」

レポート用紙を右手の下に置きながら、流れるビデオから何かを走り書いてる様子。

竜也の姿を見てもちらっと視線を移しただけだったが、それでも軽く口元で微笑んで居た。

構わずキッチンへと行くと、手を洗ってお湯を沸かす。

そしてそのまま黙って居間へ行くと、三上の隣へ彼と同じ様に沈んだ。

テーブルの上にあったポップコンを手に取ると、その肩へこつんと頭を寄せて、一緒にTVを覗いて見る。

「これ、ウチの教諭。」

「ヘぇ…、レポート?」

「そ、」

「サイコドクター?」

「おー、精神医学取っててよ。ただのパンキョ−(一般教養)だけどな。」

暫くそうしたまま2人で見ていて、やがてぷつんと画面を切った三上がこちらを振り向いた。


「今日、遅くねぇ?」

言いながら、竜也の肩に腕をまわし、やがて首筋に付いた鬱血の跡に気付いて、低く笑った。

「そうでもないよ。」

首筋に顔を埋めて来る彼にくすぐったそうに逃げながら、頭を抱けば。

まだ少し痛むそこを上から舌でなじられて、軽く歯を立てられる。

「っ…」

「今日は誰?」

それには答えず仰け反った竜也の髪に指を通し更に自分へと引き寄せる。

首筋から番へと、唇で辿って…

ふいに伸びた竜也の腕が眼鏡を取り去って行くのを感じて、そのまま一度顔をあわせると

深く口付けた。

「あの金パ?」

「ん…」

息を付くすき間にぼそりと聞く。

「それとも…トリオの一匹?」

渋沢?

何処か楽しそうに名前を並べて行く三上。

それとも…

片手で首筋を抱きながらもう片方をズボンの中に忍ばせて行けば

軽く胸板を竜也に押し返される。

そのまま…と思った所で、

突然ぴたりと三上が竜也を放す。

「?…何?」と、赤くなりながら、見返すその仕草だけは昔と変わらない。

「そうだ、…お前んトコのあのコーチ、首になっから。」
「今のウチに切っとけよ」

身体。

「あの人が?」

驚いた竜也の顔を返事の変わりに見返して、念を押す。

「・・・判った。」

髪を直しながら、視線をそらしてソファーへと座り直す顔には…複雑。と浮ぶ。


「おい。」

呼ばれた声に振り返れば再び重なる唇。


無垢のままの水野竜也と、残酷な性が交差するこの身体が今は何より愛しくて。

コレを教えたのは自分だと思いながらその背を掻き抱いた。


きっとコレからもこうしてお前は悪気も無く、自分さえ知らずに、自らを…犯し続ける。


…これでいい。

これだけで良い。

こうして傍にいるのなら。

トレーナー教本の後ろに重なった、まだ試し掛けのもう一つの本。

別れるなんて許さねぇ。


あの日から始まったこの虚実と偽りの日々だけが。

自分をここにつなぎ止めておくただ一つの綱。

失えない。失いたく無い。

今はただ、永遠を祈るだけ





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意味も無くホラーになってるし…。もう飽きて×2無理矢理オチを付けました。
こんな短いのに、何と半日かかっています。駄作。早めの消去を…(ーー。。
































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