静止画像
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それは突然だった。ある朝急にケータイが繋がらなくなっている事に気付いて。
あれからもう一週間の音信不通。
「何なんだあいつ…。」
ケータイ変えるなんて話は聞いて無かったし。
家の電話はいつかけても留守電。
初めの3日位はまだしも、流石の竜也のイライラもピークに達していた。
無駄だとわかっていながら授業中、手元に隠したケータイに目が行く。
秘かに通話ボタンを押してみるが、帰って来るのは「お客様のお掛けになった電話は…」
「何考えてんだよ!くそっ。」
終にしたけりゃはっきりそう言えば良いのに。
汚いやつ。
こそこそ逃げ回るなんて。
これじゃまるで…いままでの全てが否定されてる見たいだった。
あいつは…。遊び半分だったと言う事なんだろうか?
うそ…だ。
幾ら何でもそこまで…だいたい遊びであんな付き合いができるものか。
何て、そんな風にごちゃごちゃと考えに浸っていられるのは、まだ終わった訳じゃ無いと言う余裕が自分の中に有るからだと、判っていた。
それとも突然何もかも嫌になって何処かへ行ったとでも言うのか?
じゃあ何処へ行ったんだ?
なんの前ぶれも無く。
ある日突然三上は消えた。
何もかも残して。
白い建物にぴしゃりとしまった銀の校門。
公立より一週間前に夏休みに入った武蔵森は今は無人になって居た。木漏れ日に立ち尽くす竜也の頭上から蝉の声だけがこだましていて、
普段なら運動部の連中の姿が見えても良いのだが、今日は人っ子一人居ない。
何故だろう…。
門に手をかけるとガラリとそれは簡単に開いて、何故だかその時。普段なら決してそんな気にはならなかったのに。竜也は中へと一歩足を踏み入れたのだった。
中に入ってみるがやはり誰も居ない。
桜上水とは違う人手の入った綺麗な中庭。
緑がかった池を超えて行くと、緑色のネットで仕切られた巨大な練習場。ここには過去に何度も来ていたが、誰も居ないと更に広く感じられる。
こんなに広いのにここでプレー出来るのは極限られた上層の部員だけ。
この景色を見ていると、三上が何であんなにここの10番にこだわって居たのかが少し判る気がした。
ひとしきり歩いたが誰も居ない。町は静かで本当に風の音と蝉の声以外何も聞こえて来ない。
ちょうど校舎の影になった場所を見つけて、水道の横の階段に座り込む。
冷えたコンクリの感触が気持ちよくてそのままごろりと寝そべって、ふいにフェンスの向こうへと視線を飛ばした時。
制服の白いYシャツ姿の少年が横切って行くのが見えた。
その横顔が…三上?いや…判らない。
上半身を起こすと深緑のズボンが見える。やっぱり!!と身を翻すとサブバックもその場に置き去りにしてフェンス越しえと駆けて行き、ガシャンと音を立て掴み掛かると叫んだ。
「三上っ!?」
名を呼ぶが、…彼はその少し前に住宅街の角を曲って行ってしまった。
「・・・・・。」
違ったのか?
まさか見間違えるなんて。
いけない。冷静にならなければ…。と思いながら、
ここで逃したら。もしあれが三上だったら。そう思うと居ても立ってもいられず。
バックを取りに戻ると、居るか居ないか判らないその後ろ姿を追いかけたのだった。
幾重もの道がひしめき合って何処にでも有る住宅街、変わった事は何ら無かった。この辺に女でも出来たんだろうか?
それとも知り合いの家にでも居候か?
嫌な妄想だけが膨らむがとにかく今は何も判らない。
知らない家並みが続く。
確か右ヘ曲って。その先の片方は行き止まりだから、又右へ…
さっきの奴の姿はもう何処にも無かった。
・・・帰ろう。
バカバカしい。
何やってるんだ俺は。
そう思って引き返そうと来た道へ振り向いた時、すぐ後ろの角の向こうで凄まじい急ブレーキの音。そしてすぐ後にドンっと鈍い音が辺りに響いた。
ドクリと波打つ心臓。人のどよめく声が聞こえる。
・・・・・。だが、竜也は戻らなかった。
そんな訳無いと思ったから。
バカバカしい。
こんな事したってあいつが現れる訳じゃ無いんだ。
判っているのに。
「ただいま。」と言ったが台所の真里子には届いて無い様子だった。かまわず部屋へと上がってクーラーをいれると、着替えもしないままゴロンとベットに横になる。疲れた・・・。
身体が意識と一緒に柔らかな布団の弾力に吸い込まれて行く心地よさ。
これが悪い夢なら醒めてくれ。そんな事を思いながら何時の間にか意識を手放していた。
目が覚めると、下の方でふと聞き覚えのある声が聞こえた気がして。ゆっくりと起き上がると何気なく窓の下を眺めた。と、そこには。
シゲと風祭。そして高井。
「?」
そろいもそろって何の用だ?
自分はそんなに寝ていたんだろうか。いつもだったら母さんが起しに来るのだが、今日は起きなかったらしい。
窓を開けようとしたがそうこうしてる内に距離があいてしまったので、だまって3人の後ろ姿を見送って居た。
何となく高井の力無い背中から何か会ったのだろうかと思いながら…。
ふと目線を戻した時、家の前に立たずむ2番目の客の姿が会った。
黒髪にエンブレムの入った白いYシャツ。あ、夏服のズボンは紺だったのを思い出す。
三上・・・・。
彼は暫く黙って家の前に立つとこちらの窓を眺めていたが、ちょうどその時庭の水やりに出て来た真里子に見つかって、一礼すると中に招き入れられていた。
来る。と思って待ったが一行に竜也が呼ばれる気配は無い。
腹にすえかねた気持ちを幾度も飲み込むと、深呼吸してからそっと階段を降りて行った。
−−−?
嗅ぎなれない匂い。
座敷きの方で真里子と三上の話声が聞こえる。なんで母さんと?
けれどその説明の必要は無かった。畳の部屋に一歩踏み入れた途端、全てを思い出す事になったから。
嗅ぎなれないと思ったのは線香の匂いで。その先に有るのは紛れも無い、自分の位牌。
「たっちゃんのお友達?」「ええ、まあ…。」
「えっとお名前は?」
「三上です。」
「三上さん、武蔵森の方なのね。もしかして…」
「はい。桐原監督にはお世話になっています。」
「まあ、こちらこそ。…じゃあ、大変でしょう?」
そういって疲れ切った顔で微笑んだ母の顔が胸に突き刺さる様だった。
「じゃあ…ごゆっくり。」
そう言って一礼すると席を立った母は、廊下へ出て竜也のすぐ横で止まるとエプロンの端を持ち上げて目頭を拭って行った。
見送ってから。ゆっくり視線を三上へと戻す。
その距離はたったの畳み2帖。だが、もはやそれは永遠の距離。
何を語る訳じゃ無く三上はただ黙って、位牌と向き合っているだけだった。
もう会えないのだと知りながら竜也もゆっくりとその隣に腰を降ろした。
今なら、はっきりと思い出せる。ケンカ別れ…したんだった。
つまらない事で。
こんな事になるのなら…
ならなくたってもっと大事にするべきだったのだ。
別れる気なんて無いくせに。
いつも傷付けあってばかりで。本当の事はまだ1つも伝えて無かったのに。
泣いてるつもりは無かったのに、顎を伝って落ちる雫がズボンの膝を濡らしていた。
まだこんなにも自分には温度が残っていると言うのに、もう2度と分け合う事は無いのだと思うと…耐えられなかった。
「…ムカツクやろーだぜ。」
ぼそっと聞こえた声に横を振り向く。もちろん見えて無いと知りながら。
「最後まで意地はりやがって…。」
「・・・・・・。」
「けどま、いーんじゃね。お前らしくて。」
そのとき見た奴の横顔は死んでも忘れないと思った。(死んでるけど)
口元は笑っていたが、誰も居ないのに墓前から顔を背ける様に少し俯いて、悔しそうに目を閉じていた。
『愛してる。今でもずっと』
言葉には出して無いのに、聞こえる声。届かないはずの声が胸を刺す。
それは水野竜也が没して2年目の夏。もう一度彼が目を閉じた時、もう2度と目覚める事は無かった。
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記念すべきキリリク第一号でした。なのにこんなので申し訳ないです;あう。
一応私なりの切な系何ですが、やっぱり世間とズレてる様で…(汗)す、すいません(><;)
こんなものでよろしければチャラ様へvvカウントゲットありがとうございました!!
コレに懲りずまたいらしてくださいねー(笑)
お待ちしております!!
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