レアリーラブ
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「けどよー…お前」


その時角の向こうから聞こえて来た話し声に思わず立ち止まったのは

何故か…


「あのお堅い水野よく落としたよな。」

「まーね…」


それは確かに聞き馴れた、あの声。


「でどーだった?」

「さ〜?どーだろね?」語尾にクックと混じる笑い声。



できれば耳を疑いたかったそれ

夢なら覚めれば良い…



「まーまーなんじゃねえ?」

「ふ〜ん…今度借りて良い?」

「…いーけど。たけーから」

「はあ?マジで?」


・・・…。

つーかよ

「どーすんの?これから。」


「別にぃ…、ま、飽きるまではな…」

「…んなもんかね…」

「んなもんだって…」


遠ざかって行く足音が

向こうの階段に消えて行くまで

背中の壁から離れる事は出来なかった。

6月だと言うのに梅雨の明けない冷たい空気に

かじかんだ指先が震えていた…




あんなに嫌いだった

三上亮と付き合い始めて

3ヶ月





入学早々決まった1群への昇格に

俺の世話係を言い付けられて来たのが

控えの、あいつだったのだ。



「どーも…、宜しく…」

見るからに無表情のまま、すっと差し出された手を

「どーも」…と

と、堅い顔のまま受け取って。

冗談じゃ無い。と

その顔を見るからに『世話にはならない』と向こうを張った自分の無言を

奴は静かに見返していた。


あれから1年…


悪態をつきながら

肩を組んでくるあいつを

本気で嫌な奴だと思いながら


心の奥ではそれだって

いつかどうにかなったらと思っていた。







「おい、何してんの?」

ふと気が付いて顔をあげれば、何時の間にか壁伝いに座り込んで居た自分を見下げる顔。

「三上…」

「具合?」

「いや…」そう言って緩く頭を振りながら立ち上がれば、

覗き込んで来た彼の手が頬を伝って肩口をなぞって居た。

「すげーつめてーじゃん…」

なんと言えばいいとイウノカ

何も言えないまま

顎を取られて、重ねられる吐息を飲み込んだ。

幾度目かで離れると、

怪訝な顔で自分を覗き込んでるその顔をただ呆然と見返していた。











「タツボン…、お前痩せたんとちゃう?」

え?と顔を上げた先には

自分の手首をつかみあげたシゲの顔。

「そうか?」

「何かあったん?」

と向いの席から身を乗り出し、触れそうに近付く奴をすかさず押し退けて、

「何にもないよ…」

と横にあったストローに口付ければ、

「そーいや、顔色も良く無いし…、あんたもしかして…」

ホームシック?


真顔でそう言って、そして一拍後にプッと吹き出そうとしたその足を、

テーブルの下で蹴っていた。

「ったあ〜〜〜…!この…ボン、なにすんねん…」

「アホか…!」

「何や、別に恥ずかしい事や無いやろ。誰でも多少はあるんとちゃうの?」

「お前はどーなんだよ、」

「俺は無い。」

「小5で出て来たんだっけ?」

「いいや、無い。俺は無かった」

思いきりあったといわんばかりに向きになって言い返すその様に、

笑いと言うより、思わず苦笑。


そんなたわい無い会話を、久しぶりに笑った気がしていた。

日曜のファミレス。

後ろから差し込んでくる日差しを受けてじりじりと肌が焼けて行くのが判るのに

指先は相変わらず冷たいままだった。



「もう…夏やな…」

ふとつぶやかれた声に

顔をあげれば…


「で、ホンマは何なん?」

ぶすっとしながら椅子に座り直して、それでも真面目な顔でこちらを見て居た。

「…あいつの事か?」


窓際に置かれた緑の葉の隙間から、キラキラと漏れて来た小さな光の木漏れ日が、波の模様の様になってテーブルを泳いで居た。

暫しの沈黙。

だが…


「いや、上手くいってる…」

「そか…」

そう言って、ふっと笑いながらも、「なんやつまらんの」と背もたれへと身を引く

彼に笑いかける余裕等

もう…残されては居なかった。









嫌われてる事は

きっと初めから知って居た。

思いながら、それでも

からかいながら、いじめながら、時には悪態を付きながらもこの一年、

付かず離れず隣で笑っていたあいつの顔が


嘘だったなんて

思いはしなかった。



大した復讐だと思う。

計らなくても、もう俺はお前に逆らう力なんて、無い。

俺は初めからお前なんか、嫌いじゃなかったんだから…


上手くいっているなんて…

自分ですら嘲笑らってしまうけど…

それがまた嘘では無い事が何より


辛い…









寮の玄関へと入った途端

何もかもが緑色に染まって居た。

梅雨の合間の晴れ間の日差しは、強い。

火照った肌に、ヒヤリとした寮の空気が触れた…

余りの気温差にクラつきながら

それでもこの数日ずっとしけて居た憂鬱に比べたら

気分は、何歩もマシだった。


からりと晴れ渡った梅雨明けを告げる夏の空

あの日から、半月が過ぎようとして居た…


近付いて来る曲り角の向こうに人の気配を感じて

ふと甦った…あの記憶に、微かな胸騒ぎを覚えて

さっさと通り過ぎようと歩調を強めたその時…



「でどーよ、まだあきねぇの?」

「…ああ?」

あー…

「まーそろそろ飽きたかな…」

「マジで?」

「あ、けどお前には貸さねーから、安心しろ」

「はあ?…何それ…」



そこには、三上の声…


声を出すより先に

身体の方がぴったりと、その壁を背に張り付いて居た。

凍り付いた様に身体が動かなかった。


疑いながらも、

微かな期待を持ち続けて居た自分を…

思い知って



足跡が近付いて来ても

逃げようと言う気持ちには

なれず、

その人が曲がって来るであろうその角を

呆然と、見て居た…




『うるせーな、まだ使ってるつってんだろ』

内心思いながら

しつこい奴の催促を振り切って、部屋とは逆のその、角を曲がった瞬間

目に飛び込んだのは…








風邪?

貧血だってよ

何で?

チガウチガウ…

栄養失調…

はあ!?


ぽつぽつと薄い意識の中で聞こえる

誰かの声。

時々、近づく気配に瞳を開けようとするが

目蓋が重い。



そして頭の上に載せられた冷たい感触に

ようやく目を明けたのは

すっかり日も落ちてからの事だった。



側には

何となく分かっていたけど

あいつの顔。

俺の前髪をのけながら、上から「おっ」と小さな声を漏らして居た。


そしてそのまま

ぼんやりと瞳を向ける自分の髪を、撫でて居た。


その手を

握る。



言わなくてはいけない。

遊びなら、いっそはっきりそう言って欲しい。(言う訳無いけど)


別れよう…

言葉にはならなかった

ただ唇だけが微かにそう動く

だけど


言えない。


別れたくは無い。

握った手に力を込める。

その様子を黙って見て居た三上の顔が、一瞬曇って

だけどそのまま、その手を握り返して居た。




「水野…何か食えますかね?」

「ああ?…ああ、カレー、とか…」

「カレー!?…ああ、じゃあ取って来ますけど…」
「食えるんすか?」

「ああ?…俺に聞く…・・粥にしとけ」




違う…


頭の上で交わされる会話に

思わず現実に返った意識、

口元が笑ってしまうのを押さえ切れないのは仕方がなかった。

同時に

目尻を伝って行った涙は

頭痛のせいなのか…







隣で自分から取り上げた体温計を日にかざす

その人を見ながら、

ベットの上に起き上がって、渡されたスープをゆっくりと食道に通していた。

それから…

「三上…」と、


「んー?」


「この前、お前が廊下で話してたの、偶然…聞いちまったんだけど」

「廊下?…おー?」


「飽きたって?…」



言った瞬間、一瞬顔色の変わった三上に

跳ね上がる心臓


「あー…」


振り返った気まずそうな顔に、

じわじわと胸が締め付けられて行く…



「…で?何?」

「ーー…」


耐え切れず俯いた、緊張感。

だが、

「お前もやりてーの?」

「!?」

突然聞こえた声に顔をあげる

「何を?」

だから、

「つーかこの部屋TVねーじゃん。」

「TVって…?」

「だから…」

と、そこまで言いかけて、やっとぽかんとして自分を見つめる竜也の顔に…

気付いた三上。





世の中にはなあ〜

ギャルゲーっつーものが存在すんだわ〜

坊ちゃん…



そう爆笑されるのに、

3秒、かからなかった。



そして「別れるぞ!」

と叫んだ竜也の声に、ビビったのは

三上と

隣の部屋で今画面に向かおうとしていた誠二も、一緒だった…







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この寒いのにこんな寒い物を…
自分で判っているので許したって下さい…(--;


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